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第十四章 まずはコレをどうにかしないと

第351話 冒険者研修にトレント狩りを入れてみたよ

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 何かとお騒がせな、田舎から出て来たならず者の三人組。
 噛み付いて来た男が他二人の仲間の説得(?)により引き下がったので、やっとトレント狩り研修に入ることになったよ。

 指導役のお姉さん、言い掛かりにウンザリしていた様子だけど。
 気を取り直すと、全員をトレントの間合いの寸前まで先導していたよ。
 もう少し前へ出るとトレントの攻撃範囲に入るって位置で足を止めると。

「皆さんの目の前にあるのがトレントの林です。
 ここには、『シュガートレント』をはじめレベル四のトレントが三種類生息しています。
 かなり危険な魔物ですが、連携を密にして狩れば五人で狩ることも可能ですし。
 一本狩れば、最低でも銀貨二千枚の稼ぎになります。
 五人で狩れれば、一人当たり銀貨四百枚ですから良い稼ぎになりますね。
 最初に私たち指導役がお手本を見せるのでよく見ていてくださいね。」

 お姉さんがそう告げると、指導役のお姉さん五人が集まってトレント狩り実演の準備を始めたの。
 その様子を眺めていたら隣にいたオランがおいらの腕を突いてきたよ。

 振り向くと。

「マロン、幾ら何でもこれは無茶振りではないのか。
 レベルゼロの者がたった五人でトレントを狩るなんて聞いたことが無いのじゃ。」

 オランが非難するような目でおいらを見詰め、そんな感想を漏らしてたよ。
 トレント狩りを研修の課題に提案したのはおいらだけど、父ちゃんがそれを認めたんだから大丈夫だと思うよ。

 それにね、父ちゃんの話しじゃ。

「そうかな?
 父ちゃんの話だとジロチョー親分の『ドッチカイ』じゃ普通だったらしいよ。
 父ちゃんもレベルゼロの時、仲間と一緒にトレントを狩ったと言ってたもん。」

 もっとも、おいらが物心ついた時は父ちゃんは一人で活動していたから、トレント狩りをしているところを見たことは無かったけどね。

「そうなのか?
 レベルゼロの者がトレントを狩るには二十人掛かりになると、良く耳にするのじゃが。
 やはり、それは鍛錬なんぞしない冒険者もどきが狩ろうとするからなのじゃろうか。
 そう言えば、マロンは前に言っておったのじゃ。
 冒険者が少人数でトレント狩るために、新米冒険者をトレントのイケニエにすると。
 まさか、お父上に限って、その様な振る舞いはせぬのじゃろうな。」

「しない、しない、仲間を大事にするジロチョー親分が、そんなアコギな真似はしないって。
 レベルゼロの人でも、ちゃんと五人で連携すればトレントを狩れるらしいよ。」

 おいらとオランがそんな会話を交わしていると。
 指導役のお姉さん五人がトレントに向かって近づくと、最初に三人がトレントの攻撃範囲に入り込んだの。
 トレント狩りの指導は、お姉さん達のレベルに依存すること無く、初心者でも倒せるようにと配慮してもらったよ。

 すると、三人を目掛けて槍のように尖ったトレントの枝が攻撃した来たんだ。
 迎え撃つのは三人の中でも前へ出ていた二人。
 前方から襲って来た八本の枝を、二人で左右の担当に分かれてそれぞれの四本ずつを相手していたよ。
 最初は、襲い来る4本の枝の内三本を弾いて、一本を確実にへし折っていたよ。

 八本の攻撃用の枝の内二本を失ったトレントの二撃目は、残る六本の枝の内二本を後ろから回り込むように攻撃するモノだったよ。
 前方から迫り来る四本の枝は前衛の二人が二本づつ相手して、後方からの二本を三人目が担当してた。

 この時、トレントは三人に対する攻撃で手一杯で、本体は無防備な状態だったの。
 そこに残る二人が素早く近付いて、剣で斬り付け始めたの。

 トレントは攻撃を受けてる本体を護るべく、攻撃対象を変えようとするんだけど…。
 攻撃用の枝を伐り落とそうとする三人の執拗な攻撃に対処するしか無く、本体を護るために枝を振り分けることが出来なかったの。
 そうこうする間にも、本体に対する二人の攻撃は間断なく続き、やがてトレントは伐り倒されたんだ。

「はい、この通り、巧みに連携すれば少人数でもトレントは倒せます。
 トレント狩りのキモは役割分担をきちんと決めて、それを確実にこなすことです。
 前衛三人が左右と後方からの枝の攻撃を引き付け、その間に残りの二人が本体を攻撃します。」

 トレントを倒し終わると、指導役のお姉さんがトレントの狩り方のポイント説明し始めたの。
 この言葉に後に、細かい注意事項が幾つも上げられてたよ。

 その後、各グループが実際にトレント狩りに挑んだわけだけど。

      **********

 冒険者研修を始めて最初のトレント狩り実習に挑んだのは十八人。
 タロウが連れて来た『タクトー会』の若い衆十人、『カザミドリ会』の五人、それにさっきの三人組だね。
 『タクトー会』の若い衆は五人ずつ二組に分かれて、トレント狩りに挑んでた。

 そして、五人のグループ三組の実習が終ったところで。

「いやぁ、びびったっす。まさか、あんな方向から攻撃して来るとは。
 管理局の姐さんが助けてくれなければ、ケガをするとこでやんした。
 助けてもらえて感謝です。
 姐さん達はみんな強いでやんすね。」

「そんなに感謝してくださらなくても良いですよ。
 研修生にケガをさせないように指導するのが、私達の仕事ですので。
 あなた方のグループは一番連携が取れていて、上手くトレントに対応していましたね。
 あと四日、実習が有りますので、その間に私達の助けなしでも狩れるようになりますよ。
 頑張ってくださいね。」

 三組目にトレントに挑んだ『カザミドリ会』のメンバーの一人が、指導役のお姉さんとそんな会話を交わしていたよ。
 『カザミドリ会』のニイチャンが感謝していた通り、指導役のお姉さん達は研修生の実習中目を光らせていて危なくなったら助けに入っているの。 
 流石に、一日目から模範演技通りにトレント狩りをすることが出来なくて、どのグループも苦戦を強いられてお姉さんに助けられてたよ。

 でも、『カザミドリ会』の五人はギルドの大部屋で共同生活をしていて気心が知れているのが功を奏したみたい。
 上手く役割分担をして、結構良い所までトレントを追い込んだんだ。
 ただ、トレントの枝ってトリッキーな動きをするからね、意表を突かれて危ない目に遭ってたの。
 そこを、お姉さんに助けてもらったんだ。
 その後は、体勢を立て直してトレント狩りに成功していたよ。
 お姉さんの助力は得たものの、自分達でトレントを倒した事に驚き、そして喜んでいたよ。

 『タクトー会』の二組は、『カザミドリ会』の連中よりも足並みが乱れてて、苦戦していたけど。
 危なくなるとお姉さんが助けに入って、最終的にはトレント狩りに成功していた。

 この研修、どんなに苦戦しても、どれだけお姉さんが助力することになっても、『狩り』は成功させることにしたの。
 冒険者連中に『成功体験』をさせることで、やればできるんだと思わせるためにね。

 加えて、例えお姉さんの助力はあっても、成果は全て冒険者に分配することにしてるんだ。
 相応のお金が分配されれば、連中もやる気を出してくれるだろうから。
 最初の注意書きをよく読んでないもんだから、連中は終了時にお金が分配されることに気付いてない様子だけど。
 研修を終えた時に、思わぬ大金が分配されてきっと喜ぶだろうね。

 そうすることで、一人でも多くの冒険者が、後ろ指差されるような稼業から足を洗って、更生してくれればと思うんだ。

      **********

 そして、トレント狩り研修初日、最期に挑むのは田舎から出て来た三人組。
 流石に三人で挑むのは無理があるので、指導役のお姉さん二人がメンバーに加わることになったよ。

 その打ち合わせの中で。

「では、あなた方三人に前衛として、トレントの攻撃枝と戦っていただきます。
 私達二人は、その隙にトレント本体に攻撃して打ち倒しますので。
 トレントの攻撃枝を引き付け、出来る限り伐り払ってください。
 くれぐれも、本体を攻撃している私達に攻撃枝が来ないようにしてくださいね。」

 お姉さんはそう説明すると、三人組にそれぞれの役割分担を自主的に決めるように指示したの。
 すると。

「ようし、オメエら二人、最前線な。
 俺はオメエらの背中について、後から狙ってくる枝を何とかするから。
 前から来る枝はオメエらに任せるぜ。」

 何時も文句ばかり言っている男が、相談することなく役割を割り振るとそれで打ち合わせを終りにしちゃったの。
 いや、もう少し細かい打ち合わせをしなくて良いのとか、背後をカバーする役が一番難しいのにあんた出来るのとか…。
 色々ツッコミどころがあったのだけど、どうやら三人組の中ではその男が兄貴分のようで他の二人に有無を言わせなかったの。

「もう打ち合わせは終わりですか?
 準備が整ったのなら実習を始めますが…、本当によろしいのですか?」

 余りにもあっさりした打ち合わせに、指導役のお姉さんが呆れてしまい。
 本当にそれで良いのかと念押ししたんだけど。

「かまわねえよ、どうせ危なくなったらオメエらが助けて来るんだろう。
 前から向かってくる木の枝を打ち払うくらいに、何をそんなに相談することがあるって。」

 このニイチャン、いつも自分だけ痛い目に遭っているのに、何で懲りないのかね。
 どうやら、このニイチャン、自分の位置の重要性が分かってないみたい。
 トリッキーな動きで前二人の死角を突く攻撃は、後ろに付いた人が全部カバーしないといけないのに…。
 
 忠告に耳を貸すつもりも無いと判断した指導役のお姉さんは、諦めて実習を始めることにしたんだ。

 お姉さんが実習開始を指示すると、三人組は前に二人、後に一人の位置取りでトレントの間合いに踏み込んだんだ。
 トレントの攻撃に備えて、剣を構えた姿勢で慎重に歩く前の二人。
 一方、その後に続く男は集中力に欠いた感じで、剣も手にぶら下げてて構えもしてなかったよ。

 トレントの攻撃範囲に足を踏み入れると、当然、八本の槍のような枝が三人に向けて攻撃してきたんだけど。

「ギャアアアーーーー!」

「はあ?」

 いきなり、後に位置取る男の絶叫が響き渡り、その場にいる全ての人が呆気にとられちゃったよ。

 何があったかって?

 それはトレントの攻撃範囲に入って初っ端のこと。
 枝の一本がトリッキーな動きをして、前衛二人の死角を突くように背後から襲って来たの。
 ただそれは傍から見ると十分に捉えらる動きで、少し後ろに引いた位置の男からは視認できるはずだったんだ。
 鼻なんかほじってなければ…。

 何を思ったか後衛にいた男は、緊張感なくボウッと突っ立ってたの、…鼻をほじりながら。
 トレントとの戦いが、既に始まっているにもかかわらずね。

 おいらもビックリしたよ。
 少しだけ注意を払っていれば当然躱せる程度の攻撃だったから、まさかやられるとは…。

 指導員のお姉ちゃんも呆気に取られちゃって、助けに入るのが出遅れてたよ。
 ハッと、我に返ったように助けに入る指導役のお姉さん。
 後衛の男のもとに駆け寄ると、その肩に深々と突き刺さった枝を伐り落としたの。

 そして。

「二人は、枝の攻撃を防ぐのに集中して。
 背後からの攻撃は私が漏らすこと無く防ぐので、前からの攻撃を確実に防ぐのよ。」

 前衛の二人に指示を出しつつ、お姉さんは負傷した男をトレントの攻撃範囲外に突き飛ばしてたよ。
 と同時に、獲物を捕らえようと地面からウネウネと這い出して来た根っこを伐り払ってた。
 トレントって、攻撃枝に獲物を捕らえた感触があると、逃がさないようにすぐ根っこが這い出して来るんだ。
 だから、負傷した男をそこに這いつくばらせておく訳にはいかなかったの。

 手荒に突き飛ばされて、おいらの足元に転げた後衛役の男。
 その肩には大穴が空いて、血がどくどくと流れてたよ。凄く痛そうだった。

 おいらは、『妖精の泉』の水を肩の傷に掛けながら尋ねてみたよ。

「ニイチャン、何でボウッと突っ立ってたの?
 トレントって何処から攻撃して来るのか分かんないんだよ。
 もっと、神経を研ぎ澄まして、周囲を警戒してないとダメでしょう。」

 すると、苦悶の表情を浮かべたニイチャンは言ったの。

「何だよ、あの位置が一番楽できるんじゃねえのかよ。
 前の二人が打ち漏らした枝を適当に掃ってりゃ良いじゃねえのか。
 一番安全で楽なところにいたつもりなのに。
 何で、俺がこんな目に遭わねえといけねえんだ。」

 どうやら、こいつ、あのポジションが一番楽だと思っていたみたい。
 最前衛の二人に比べ手数は少ないかも知れないけど、変則的な攻撃に対処するって一番難しい仕事なのにね。
 こいつ、それが分かってないから、運動量が少ないあの位置が一番楽だと思ったみたい。
 だからあんな風にボウッとしてたんだね。本来なら一番気を張ってないといけないのに…。
  
 自業自得、全く同情の余地が無いね。
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