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第十四章 まずはコレをどうにかしないと

第350話 こいつ、ホント、懲りないね…

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 さて、冒険者研修を開始して四日目、おいらは午後の研修を視察するために研修施設を訪れたんだ。
 いよいよアレが始まるんで、どんな様子か確認したかったからね。
 今回は、ちゃんと宰相に行き先を伝えて来たし、ルッコラ姉ちゃんを護衛につけて来たよ。

 研修施設の門を潜ると、受付開始二日目以降にやって来た研修生達が、ウサギ狩りに出る準備をしていたの。
 荷車の前に集まっている研修生の中に、見覚えのある五人組のお姉さんを見つけたんで、おいらは声を掛けてみることにしたんだ。
 おいらが、コッソリ王宮を抜け出して冒険者管理局の事務所を視察に行った時に会ったお姉さん達だよ。

「こんにちは。どう、冒険者研修には不満は無いかい?」

「あっ、陛下、こんにちは。
 はい、食事も美味しいですし、宿泊施設もキレイでとても助かっています。
 手持ちのお金が乏しかったので、この研修に参加できてラッキーでした。」

 いや、いや、そう言うことではなく、研修内容に不満は無いかと尋ねてたつもりなんだけど。
 やっぱり、タダ飯、タダ宿の方がキャッチーだったのか…。
 それじゃ、お姉さんも『カザミドリ会』の連中と変わらないじゃない。

 おいらが質問の仕方を変えようかと思っていると。

「研修も最初、ウサギを前にした時はチビリそうでしたが。
 一匹目を倒したら、自信がついて怖くなくなりました。
 今日はこれから、一人でウサギを狩るんですよ。
 私、頑張っちゃいます。」

 別のお姉さんが、おいらの求める答えを返してくれたよ。
 とても、楽しそうに話してくれたから、満足してくれてるみたいだね。

 すると、また別のお姉さんが相槌を打ちながら。

「ホント、そう。
 最初はあんな大きなウサギを女の子五人で倒せってどんな無茶振りかと思いましたが。
 落ち着いて五人で連携を取れば、ウサギなんて簡単に倒せるって分かりました。
 私、体を動かすのって得意なので、冒険者って意外と向いているかも知れません。」

 そう言って、冒険者という仕事に関心を示してくれたよ。
 研修を最後まで終えた時にも、そう言ってもらえると嬉しいね。

 おいらは、五人組のお姉さん達に頑張ってと声援を送って目的の場所に移動することにしたんだ。
 その途中でルッコラ姉ちゃんがこそっとおいらに話しかけて来たよ。

「女王様、あの五人には『生命の欠片』を与えていないのですよね。
 レベルゼロで良くウサギを狩れたもんだと、感心しちまうぜ。」って。 

 ルッコラ姉ちゃんは『生命の欠片』でレベル上げしてからウサギ狩りを経験したものだから。
 もし、レベルゼロだったら倒すのが難しかったんじゃないかと思ったみたい。

「駆け出しの冒険者でも、五人掛かりならウサギを狩れると言われてるから。
 無理ってことは無いと思うよ。
 むしろ、協調性の欠片もない冒険者より、あのお姉さん達の方が簡単に狩れるんじゃないかな。
 『落ち着いて連携を取れば』と言ってたから、コツを掴んだようだもの。」

 ウサギ狩りに限らないけど、魔物って何人かで連携すれば効率的に狩れるんだ。
 恐らく、男とか、女とかの基礎体力より、上手く連携する方が大切なんだと思う。
 冒険者って基本考えなしだし、協調性が無いから、何人いてもバラバラに攻撃しちゃって手数が増えるだけなの。
 連携さえ取れればウサギ狩りくらい、駆け出し冒険者でももっと少ない人数で出来ると思ってるんだ。

 おいらが、ルッコラ姉ちゃんにそんな話をすると。

「女王様の話は頷けるよ。
 でもな、これから一人でウサギ狩りをするって言ってたぜ。
 女手一つで、ウサギが狩れるものか?
 私らみたいに、レベルを分けてもらえた訳でもないのに。」

「その辺は抜かりは無いよ。
 一人で狩ると言っても、何もガチンコで戦う訳じゃないから。
 父ちゃんが罠を使って効率的に狩る方法を教えてくれるの。
 罠も人数分用意してあるしね。」

 レベルゼロの人間が取っ組み合いでウサギに勝てる訳ないじゃない。
 ジロチョー親分の『ドッチカイ』では、ウサギは罠を使って狩るのが当たり前だったみたいだけど。
 冒険者が堕落しちゃって、先人の知恵が失われちゃってるらしいよ。
 連中、単純だからタコ殴りで狩ろうとするの。
 挙げ句、返り討ちに遭ってボロボロにされてりゃ世話ないね。

       **********

 そんな、会話をしながら歩いているとすぐに目的地に着いたよ。

「これから、トレントを狩るだぁ?
 テメエら、俺達を殺すつもりか! 
 たった三人でトレントなんて狩れる訳が無いだろうが。」

 トレントの林の前で、研修生の一人が管理局のお姉さんに噛みついていたよ。
 そう、ウサギ狩りが単独でこなせるようなったら、次はトレント狩りをしてもらうことになっているの。
 それが研修四日目からになっているんで、どんな様子か見に来たんだよ。

 多少無茶振りな点もあるかなとは思ってたけど、やっぱり不満を漏らす人が居たね。

「だから、危なくなったら助けに入ると言ってるでしょう。
 それに、こちらの指導通りこなしていれば、ケガなどしないはずです。」

「ふざけるな! 何がケガなどしないだ!
 俺はこの通りボロボロだぞ、あちこち怪我だらけだ。
 昨日だって、俺はもう少しでウサギに殺されかかったんだぞ。
 ギリギリまで助けに入らないで、何が危なくなったら助けに入るだ。」

 お姉さんに食ってかかった男は、本当にボロボロの格好をして傷だらけだったよ。
 田舎から出て来た三人組のならず者のリーダー格で、研修初日から文句ばっかり言っている奴だった。
 因みに、他の二人はケガらしい、ケガはしてないんだけど。

 おいらは、近くにいた『カザミドリ会』のニイチャンに尋ねてみたよ。

「どう? 研修は? 真面目にやってる?」

 おいらの問い掛けに返って来た声はというと。

「女王様、こんちは。また、視察ですか。
 美味いメシを腹いっぱい食わせてもらって、フカフカの寝床でぐっすり寝て。
 おかげで、元気、いっぱいでさぁ。」

「そうそう、俺達、昨日、単独でウサギを狩ったんですぜ。
 局長の旦那が、ウサギを罠にかけるコツを丁寧に教えてくれたんで楽に狩れやした。」

「あんなに楽にウサギが狩れるなんて知りやせんでした。
 これなら、やべえシノギより稼げるんじゃねえかと話してたんでやす。
 やべえシノギから足を洗って、堅気の冒険者になろうかってね。」

「堅気じゃねえから冒険者って言うのに、堅気の冒険者ってのも変な話ですけどね。」

 『カザミドリ会』の五人はおいらの思惑通り、良い方向へ誘導されていたよ。
 冒険者の仕事ってちょっと工夫すれば結構稼げるから、それを教えてあげれば堅気に戻る連中もいると思ったんだ。

「みんな、ケガ一つしてないようだけど。
 何で、あの男だけ、あんなにボロボロなの?」

「ああ、あいつですか。
 あいつ、初日から文句ばっかりたれていて、全然指導役の話を聞いてないんでさぁ。
 昨日も、局長の説明を聞かずに駄弁ってましてね。
 局長、ご立腹だったんでしょうね。あいつにいの一番に実演させたんでやす。
 説明は聞いてなかった、他の連中の実演を見て学ぶ間も無かっただわで。
 罠の使い方をしくじって、ウサギに蹂躙されたんでさぁ。」

 あわや命を落とすかって所でお姉さんに助けられたそうなんだ。
 あいつ、初日から態度が悪かったんで、ギリギリまで助けて貰えなかったんじゃないか。
 『カザミドリ会』の連中はそんな風に言ってた。
 それを見て焦った残りの二人は、必死に周りの人に罠の使い方を尋ねてたそうだよ。
 それで何とかケガをせずに、二人は単独でウサギが狩れたみたい。

 あいつ、初日から鉄拳制裁を受けていたのにまだ懲りないんだ…。

       **********

 しばらく、様子を窺っていると。

「おい、そんなにカッカするなよ。
 昨日だって、指導役の話をちゃんと聞いていればケガをしねえで済んだじゃねえか。
 きっと、トレントだって、ケガをしねえ倒し方を教えてもらえるよ。」

 指導役のお姉さんに噛みついてる男を仲間が宥めたんだ。
 そう言って宥めた仲間は、前日のウサギ狩りで指導通りに罠を使い無傷で狩りが出来たためか。
 管理局の指導を見直したようで、言われた通りに実行すればトレント狩りも出来るのではと思い始めている様子だよ。 

「バカ野郎、テメエら何腑抜けたことを言ってんだ。
 俺達は、こんな事をしに王都へ出て来た訳じゃねえだろが。
 額に汗して畑を耕すなんてバカバカしい、弱いモンを強請って楽に生きようぜ。
 そう言って村を出て来たんじゃねえかよ。」

 やっぱり、そんなロクでもないことを考えて王都へやって来たんだね…。

「でもよ、実際問題、俺達、弱くね?
 俺達、多分ここに居る中で一番弱いと思うぞ。
 やっぱり、隣近所、みんな顔見知りなんてちっぽけな村で幾ら喧嘩が強いといっても。
 王都くらいのでっかい町じゃ、俺達より強ええ奴がいっぱいいるみてえだぜ。
 オメエだって、ここの姐さん達に手も足も出ねえじゃねえか。
 ここは、ウサギでも狩って生きてくか、村に帰って畑を耕した方が良いじゃないか。」

 お姉さんに噛みついていた男は納得できないようだけど、仲間の一人は自分達が弱者だって気付いたみたい。
 どのくらいの人が居る村かは知らないけど、そこで腕っ節を自慢しててもたかが知れているよ。 

 こんなのなんて言ったっけ、『水溜りのミジンコ、井戸の広さを知る』? …なんか違うか。
 いずれにしても、現実を直視するのは良いことだよね。

「ああ、俺もそう思うぜ。
 だけど、俺達、村の連中に『こんなことしてられるか』って啖呵を切って出て来ちまったからな。
 どの面下げて帰れるかって話だな。
 ここは、真面目に研修を受けて地道に冒険者をして生きた方が良いんじゃねぇ?」

 もう一人も日和ったもんだから、嚙みついていた男も何も言えなくなっちゃったよ。
 こういう連中って群れてブイブイ言わせてるけど、その実、つるまないと何も出来ない根性無しが多いからね。

 噛み付いていた男は納得はしてない様子だけど、やっとトレント狩り実習に入れるみたい。
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