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第十四章 まずはコレをどうにかしないと

第347話 甘い考えで王都へ出て来る人が多いのかも…

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 田舎から出て来た三人組が、傷だらけになってやっとの思いでウサギを狩っていたけど。
 他の三組は危なげなくウサギを倒していたよ。
 他の連中も、三人組と似たり寄ったりでならず者みたいだったけど。
 他のグループは五人組だったので、二人多い分余裕があった事と。
 最初に苦戦した三人組の戦い方を見て、反面教師に出来た事が良かったみたい。

 特に、『カザミドリ会』の五人は普段からつるんでるようで息が合っていたの。
 三人でウサギの気を引いて、残りの二人がウサギの死角から攻撃すると言う作戦がハマっていたよ。

「何だ、ウサギなんて簡単に倒せるじゃねえか。
 五人で毎日五体も倒せれば結構な稼ぎになるな。」

「ああ、泡姫の勧誘なんて王都で一日中声を掛けてても。
 一人も引っ掛からねえこともしょっちゅうだからな。
 一人引っ掛けて風呂屋から貰う紹介料が銀貨十枚だから。
 ウサギの一匹でも狩った方が確実に稼げる分だけましじゃねえか。」

「ウサギ狩ってりゃ、ギルド同士のシマ争いに巻き込まれる心配もねえしな。
 町中まちなかで賭場を開帳するより、こっちの方が危ない目に遭うこと無いんじゃねえか?」

 『カザミドリ会』の五人の中からそんな会話が聞こえて来たよ。
 風呂屋の泡姫の勧誘は完全歩合制で、一日中勧誘しても稼ぎが無いこともしばしばなんだって。
 そんな不確かな仕事、何で続けているかな…。
 こいつ等は今までも強請ゆすりとかはしてないみたいだし、鍛えれば案外まともな冒険者になりそうだよ。

 ウサギ狩り研修初日はこうして終わったのだけど…。
 目の前で繰り広げられるウサギの惨殺劇を目にして、おいらが手懐けたウサギが怯えていたよ。
 一匹狩られる毎に次は自分の番ではないかと恐れていたみたいで…。
「ウキュ、ウキュ」って鳴き声を上げながら頭をおいらに擦り付けてた。
 おいらを見詰めるつぶらな瞳は、「殺さないで。」って訴えているみたいだったよ。


「よーし、全てのグループがウサギを狩り終えたみたいだな。
 そしたら、自分達が狩ったウサギを荷車に乗せるんだ。
 王都の中まで荷車を引いて帰るぞ。
 狩っただけじゃ、稼ぎにならんからな。
 町まで持って帰って、お金に換えて、そこで狩りが終るんだ。」

 何とか、ウサギを狩って一息ついていた連中に父ちゃんがそう指示したの。
 これが結構大変なんだ、ウサギって巨大なヒグマくらいの大きさがあるからね。
 おいらは、『積載庫』があるから何匹でも狩って帰れるけど。
 普通の冒険者だと、一人でウサギを移動させるのは十中八九無理なんだ。

 父ちゃんは、狩ったその場で捌いて、毛皮とお肉だけを持ちかえっていたけど。
 その辺の冒険者では、ウサギを捌く技術なんて持っていないからね。
 因みに、ジロチョー親分のギルド『ドッチカイ』では必須の技術だったらしいよ。
 マスターするまで厳しく躾けられたって、父ちゃんが言ってたよ。

 狩ったウサギを荷車に乗せる光景を眺めていたら。
 三人組はやっとの思いで一匹を荷車に乗せてたけど、五人組だと楽そうだった。
 ただ、一番効率が良さそうなのは、三人で組んで狩ることかな。
 父ちゃんが最初に言った通り、一人当たり一匹狩るのが理想だけど。
 荷車の大きさとの兼ね合いで、五人組で五匹狩ると乗せるのが難しそうだよ。
 もっと大きな荷車を借りると、荷車自体が重くなって引くのが大変そうだし、借料も高くなりそうだもの。
 三人でウサギ一匹を楽に持ち上げられるくらいに体を鍛えて、三人組で一日三匹ウサギを狩れたら凄い稼ぎになるよ。

 その日は、ウサギを王都へ持って行って肉屋に卸してウサギ狩り研修は終了。
 肉屋に売った代金は、荷車の借料なんかの諸経費を差し引いて研修終了後に全員均等に配る予定なんだ。
 事前に渡した注意事項に書いてあったけど、きっとちゃんと読んだ人はいないだろうね。

 おいらは、そこで分かれたの。後は夕食を食べさせるだけだからね。

       **********

 冒険者研修二日目。
 早朝、おいらは研修の様子を見るために町の中央広場を訪れたんだ。
 研修期間中は毎朝朝食前に町の清掃をしてもらうことになっているの。

「何で、夜明け前からたたき起こされて、広場の掃除なんかしないといけねえんだ。
 しかも、こんな看板を首からぶら下げさせられて、晒し者みてえじゃねえか。」

「何を異なことを言っているのですか。
 冒険者ギルドの掲示板には、町の掃除とか、ドブ攫いとかの依頼も掲示されているはずですよ。
 たいていの冒険者は無視していますが、ウサギも満足に狩れない人にはケガの心配もない安全な仕事です。
 これも、立派な冒険者研修でしょう。」

 おいらが着いた早々、そんな会話が交わされていたよ。
 不平を漏らしていたのは、前日のウサギ狩りで初っ端腕の筋肉を噛み千切られて満身創痍になっていた男だった。
 それに対して、管理局のお姉さんは皮肉たっぷりに答えていたよ。

 因みに、男が晒し者みたいだと言っていたのは。
 朝の掃除の時は、首から吊り下げる形の看板を着けさせているの。
 そこには、『冒険者研修実施中。私は法を順守し、他人に迷惑かけないことを誓います。』と書いてあるんだ。
 町の人に対する冒険者への心証を少しでも良くするためにね。

 おいらが視察に来たことに気付いたお姉さんが。

「あっ、陛下、おはようございます。
 ほら、みんな、陛下にご挨拶なさい。」

「「「「「おはようごぜえやす!」」」」」

 お姉さんに促されて、冒険者達からどっかのならず者の親分にするような威勢の良い声が上がったよ。 
 おいらは、少し引いちゃったけど、まだ素直に挨拶をする人は良かったみたい。

「けっ、何が挨拶だよ。
 朝っぱらから、やれ町の掃除をしろ、やら礼儀正しい挨拶をしろって。
 挙げ句、こんな変な看板までぶら下げさせられて。
 へらへらと町の連中に愛想なんて振りまいてたら、舐められちまうじゃねえか。
 冒険者ってのは、舐められたら負けなんだろ。」

 例の田舎者三人組は、おいらに挨拶をしようとはせず、不満を口にしていたよ。
 何処にででもいるんだね。
 「冒険者に必要なのは、強いことではなく、強そうに見えることだ。」って、ならず者みたいな考えをしている奴が。
 おいらが撲滅しようとしているエセ冒険者の典型みたいな連中だね。
 
「ほう、まだそんな口を利きますか。
 ウサギですら、二度、三度と打ちのめされれば従順になるのに。
 あなた達は、ウサギ以下の脳ミソしか持っていなのですか?」
 
 三人組からの暴言を耳にした指導役のお姉さんは、それを口にした男の鳩尾にキツイ一撃を入れてたよ。
 前日もやられていたのに、ホント、懲りないね。

「うごっ…。」

 前日よりもキツイ一撃だったのか、男は口から泡を吹いて気を失っちゃったよ。

「さて、一人減っちゃいましたね。
 取り敢えずこの愚か者はバツとして朝食抜きにしましょうか。
 そちらのお二人はどうします?
 この愚か者の様になりたいですか?」

 お姉さんが残った二人に凄んで見せると。

「すみません。
 二度と逆らいませんから、勘弁してください。
 ちゃんと挨拶もしますし、掃除も真面目にします。
 こいつにも逆らわないように言っておきます。
 女王陛下、おはようございます。」

 仲間が瞬殺されるのを見て絶対に敵わないと分かったのだろうね。
 二人は平身低頭して許しを乞い、おいらにも挨拶をしてくれたよ。

 結局、お姉さんの指導に逆らった男は、逃げないように縄で縛って掃除が終わるまで広場の隅に放置されてたよ。
 何時の間に用意したのか、首からぶら下げた看板が取り換えられてた。
 そこには『私は、研修をサボって制裁を受けた愚か者です』って書かれてたよ。

 早朝だから人は少なかったけど、広場にいた人は足を止めて、晒し者になった男をみて嘲笑していたよ。
 冒険者は舐められたら負けなんて言ってたけど、これでもう負け確定だね。

 見る限り、田舎者三人組の他は真面目に掃除をしている様子だったし。
 三人組のうち、残りの二人も真面目に掃除をし始めたので、おいらは広場を後にしたよ。
 こうして、毎朝、町の掃除をしていれば、冒険者も少しは印象が良くなるだろうね。

        **********

 その日の午後、おいらは再び『冒険者管理局』の事務所に様子を窺いに行ったんだ。
 二日目は、どんな人が冒険者の登録を申請しに来るか興味があったから。

 おいらが、受付のお姉さんとおしゃべりをしていると。

「すみません、外の看板を見たのですが…。
 冒険者って、女でもなれるのですか?」

 二人組の若いお姉さんが入り口の扉から顔を覗かせ、不安気に尋ねてきたの。

「はい、女性も大歓迎ですよ。
 詳しくご説明いたしますので、どうぞ中にお入りください。」

 受付のお姉さんは、二人の不安を払拭させるように愛想良く招き入れたんだ。 

「お二人は、王都の住民ではないのですか?」

 事務所に入って来た二人に受付のお姉さんが尋ねると。

「はい、王都から駅馬車で二日ほどの田舎からやって来ました。
 今、この建物の前に駅馬車で着いたところです。
 田舎では仕事が無いものですから、思い切って王都へ出て来たのですが。
 紹介状もないし、どうやって仕事を探そうかと思っていたら、外の看板が目につきまして。
 正直、冒険者って、ならず者みたいな印象しかないのですけど。
 どうやら、ここはお役所みたいなので、私たちが想像している冒険者とは違うのかと思って…。」

 一人が代表するように質問に答えてくれたの。
 この二人、農村の出身らしく、故郷では農家の嫁になるくらいしか選択肢が無いと言うの。
 それが嫌で故郷を飛び出して来たらしいけど、働くアテは無いみたいなんだ。
 きっと、こんな人が『風呂屋』の泡姫さんの勧誘に引っ掛かったり、ギルドに拉致されたりするんだろうね。
 ダメだよ、大きな町へ行けば何とかなるなんて軽い気持ちで出て来たら…。

「そうですか。
 お二人は、すぐにこちらに来られて正解ですね。
 若い女性が、この町でアテも無く歩いていたら危険な目に遭いますよ。
 現に私が、酷い目に遭いました。」

 どうやら、受付のお姉さんも同じような境遇だったようで。
 二人に助言するように自分の悲惨な経験を話し始めちゃったよ、冒険者登録の説明もそっちのけで…。
 仕事を探して街を歩いていたら、冒険者に囲まれてギルドの監禁部屋に拉致られたって。
 所々、おいらには聞こえないように耳打ちしながら、自分がどんな酷い目に遭わされたかを話してたよ。
 受付のお姉さん、『風呂屋』の泡姫くらいしか仕事が無くて、途方に暮れていたところを拉致されたらしいね。

「どうしよう、王都がそんにに危険なところだとは思わなかった…。
 拉致監禁されて奴隷にされるのも嫌だし、泡姫になるのも嫌だわ。」

「王都には大店が沢山あるって聞くし。
 仕事なんて幾らでもあると思ってた。
 勤め先の御曹司を捕まえて左団扇って訳にはいかないのね。」

 甘い、甘い、激アマだよ。
 大店に勤めるには信用のおける人の紹介状が必要だなんてことは、幼女のおいらだって知ってるよ。
 こんな甘い気持ちで出て来る人が多いなら、悪い連中に引っ掛かるお姉さんが多いのも頷けるね。

「では、冒険者など、いかがでしょうか。
 この国の新しい女王様が、本来の冒険者を育成しようと創設したのがここ『冒険者管理局』なのです。」

 受付のお姉さんの悲惨な経験談を聞かされて、それこそ途方にくれた様子の二人に受付のお姉さんが勧めたの。

「本来の冒険者?
 冒険者ってのは、弱い者を強請ったり、お店に『みかじめ料』を強要するもんじゃないの?
 お国が関与するなら、真っ当なモノのような気はするけど…。
 真っ当な冒険者ってのが想像できない。」

 一般的な冒険者の印象って、そこまで地に落ちていたんだ…。父ちゃんが聞いたら泣いちゃいそうだよ。

「冒険者ってのは、読んで字の如く危険を冒して稼ぐ商売だよ。
 危険な魔物を倒して褒賞金をもらうとか、そこそこの魔物を狩って素材を採って来るとか。
 危険な山中に踏み入れて、貴重な鉱物や草木を採集して来るなんてのも冒険者の仕事だよ。
 実力が付けば、危険を伴うだけいっぱい稼げるよ。」

 二人の持っている先入観があんまりだったもんだから、つい、おいらが口を挟んじゃったよ。

「へえ、冒険者って、そんなことをしている人もいるんだ。
 私、ならず者の別称かと思っていたわ。」

「でも、私、危険な魔物なんて倒せないし…。
 危険な山の中なんて入れないわ。
 蛇とか、キモい虫とかいそうじゃない。」

 いや、いや、蛇とか、キモい虫だったら農村でも普通にいるでしょう。草原にだって普通にいるんだもん。
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