338 / 848
第十四章 まずはコレをどうにかしないと
第338話 ここでも大人気だったよ
しおりを挟む
朝の訓練が終って寛いでいるところを、突然草原に放り出されたスフレ姉ちゃん。
ラフな部屋着姿で地べたに座り込んでた。
スキルの実を食べている最中だったらしく、姫リンゴもどきをシャリシャリと齧ってたの。
「スフレ姉ちゃん、ちょっと手伝って欲しいの。
この人達、促成でレベルを上げたんだ。
だから、成長した身体能力を有効活用できるように訓練したいの。
強面のならず者に凄まれた時、たじろがないように度胸も付けて欲しいしね。」
おいらがお願いすると。
スフレ姉ちゃんは「何で私が?」みたいな顔をし…。
「私、騎士団の中でも強い方ではありませんよ。
むしろ、一番気弱で何時でもオドオドしてるものですから。
余所者の冒険者から舐められちゃって…。」
うん、知ってるよ。
最近の辺境の町って街が栄えてきたから、他所から流れてくる冒険者がいるんだよね。
辺境町の冒険者はみんな更生しているけど、余所者は事情を知らないから素行が悪いの。
悪さをしては騎士団にとっちめられてるけど。
スフレ姉ちゃん、見た目は幼いし、いかにも気弱って雰囲気だから。
悪さをしてる余所者冒険者から舐められちゃうんだよね。
スフレ姉ちゃんが、冒険者の悪事を注意すると逆ギレして突っかかられてるの。
でも、そんな不良冒険者の摘発実績が一番多いのもスフレ姉ちゃんなんだ。
突っかかって来た不良冒険者を、ことごとく返り討ちにして捕えているから。
謙遜しているけど、スフレ姉ちゃんはハテノ男爵領騎士団有数の実力者なんだ。
「そこが良いんだよ。
凄く気弱そうなスフレ姉ちゃんでも、凶暴な相手を打ちのめせるって教えられるじゃない。
それに、最初にやって見せて欲しいのは、スフレ姉ちゃんの得意な事だよ。」
「ふぇ? 私が得意なこと?」
そんな疑問を口にしたスフレ姉ちゃんに、おいらはして欲しいことを耳打ちしたの。
訓練の内容を知ったスフレ姉ちゃんは、「ああ、それなら。」と言って引き受けてくれたよ。
**********
「みんな、聞いて。
このお姉ちゃんは、おいらが住んでた町で騎士をしているスフレ姉ちゃん。
隣にいるのは、スフレ姉ちゃんが騎乗しているウサギの『うさちゃん』だよ。
『うさちゃん』、可愛いでしょう?」
おいらがスフレ姉ちゃん達を紹介すると共にそう問い掛けると。
「可愛いです。
そんな大きなウサギ初めて見ました。
スフレさんは、いつもそのウサギに乗って移動しているんですか?
羨ましいです。」
さっき、『うさちゃん』を見て歓声を上げていたお姉さんの一人がそう答えてくれたの。
「はい、『うさちゃん』はとっても人懐っこくて良い子なのですよ。
いつも、私を乗せて運んでくれるんです。」
「「「「いいなー!」」」」
スフレ姉ちゃんがそう答えると羨望の眼差しが注がれていたよ。
そんな、お姉さん達に、おいらは言ったんだ。
「じゃあ、これから、自分の乗るウサギを捕まえに行こう。
度胸を付けるのに格好の訓練になるよ。
ウサギって、レベルゼロの冒険者なら四人掛かりで倒す狂暴な魔物だから。
お姉ちゃん達はレベル二十だから、一人で一匹捕まえるのも楽勝だよ。」
「「「「えっ?」」」」
ここに居るお姉さん達は、目の前の『うさちゃん』を動物のウサギが大きくなったものと思ってたみたい。
人懐っこくスフレ姉ちゃんにスリスリしている『うさちゃん』を魔物だとは思わなかったみたい。
「なあ、女王様。
訓練というのは自分の乗るウサギは自分で捕まえろってことか?
普通の冒険が四人掛かりで倒すものを、たった一人で?
それは、酷い無茶振りじゃないかい。」
ルッコラ姉ちゃんが非難がましい目でおいらを睨んで言ったの。
「平気、平気、スフレ姉ちゃんだって気が弱くて臆病なのに。
レベル十の時に、『うさちゃん』を一人で捕まえたんだよ。
みんな、レベル二十なんだから楽勝だよ。
最初にスフレ姉ちゃんがお手本を見せるから。
みんな、それをマネしてね。」
おいらは、これからスフレ姉ちゃんが実際にウサギを捕獲をして見せてくれると伝えたの。
おいらの言葉に頷くとスフレ姉ちゃんは、足元の小石を一つ拾い上げ『うさちゃん』に跨ったよ。
スフレ姉ちゃんって小柄だから、『うさちゃん』に乗らないと、背の高い草が邪魔でウサギの巣穴が探せないからね。
そして。
「みなさん、可愛いウサギさんをお友達にしに行きましょうね。
最初は、血走った目で襲って来ますけど。
落ち着いて対処すれば、全然怖くないですからね。」
お姉さんに対してそう告げると、草原の中に向かって『うさちゃん』を前進させたの。
お姉さん達も、それの後について草原の中に足を踏み入れた。
もちろん、おいらも後を追ったよ。
ウサギは草原の至る所にいるから、巣穴はすぐに見つかったよ。
スフレ姉ちゃんは『うさちゃん』から降りると。
「これがウサギの巣穴です。
今からウサギを巣穴から誘き出すので。
皆さん、ちょっと後ろにさがってください。」
安全のためお姉さん達を遠巻きに差せると、スフレ姉ちゃんは小石を巣穴に向けて放り投げたの。
すると、ほどなくして…。
「ウキューーーー!」
目を血走らせたウサギが怒声と共に巣穴から飛び出してきたんだ。
鋭い前歯を露わにして、闘争本能剥き出しでね。
「「「「「キャアーーー!」」」」
『うさちゃん』のような可愛さは微塵もなく、殺気を帯びたウサギにお姉ちゃん達から悲鳴が上がってたよ。
「ゴメンなさいね、石があたって痛かったよね。
少し大人しくしてちょうだいね。」
スフレ姉ちゃんも、毎日トレント狩りをしてたら場慣れしたみたい。
獰猛なウサギに襲い掛かられても、呑気に構えていたよ。
襲い掛かって来たウサギを冷静に躱すと。
「ウキュ!」
ウサギの頭に手をかけると、力任せに地面に押さえつけたの。
ウサギは地面に押さえ付けられて、悲鳴を上げていたよ。
何とか拘束を逃れようともがくウサギだけど。
圧倒的なレベル差があるスフレ姉ちゃんから逃れることは出来ず…。
「ウキュ、ウキュ、ウキュ…。」
終には、命乞いするような情けない鳴き声を発するようになったの。
「はーい、皆さん、ここで油断しちゃダメですよ。
可愛い姿をしていても、相手は獰猛な魔物です。
手を放すとすぐに襲い掛かって来ますからね。」
そう説明しながら、ウサギから手を放したスフレ姉ちゃん。
すると。
「ウキューーーー!」
スフレ姉ちゃんの言葉通り、ウサギは再度襲い掛かって来たよ。
「はい、はい、大人しくしましょうね。
良い子にしていれば人参をあげますからね。」
そう言って再びウサギを地面に押さえ付けるスフレ姉ちゃん。
「ウキュ、ウキュ、ウキュ…。」
再び、無様に命乞いをするウサギ。
それを何度か繰り返すと、やがて…。
「ウキュ、ウキュ、ウキュ…。」
地面に拘束されたウサギは、抵抗を止め、ゴロンとお腹を見せたんだ。
「急所のお腹を上にして見せる仕草は、降参の意思表示です。
ここまで来れば絶対服従で、もう襲ってくる心配はありません。
こうやって、優しく撫でてあげましょう。」
スフレ姉ちゃんがお腹を撫でてあげると。
「ウキュ! ウキュ!」
今度は気持ちよさそうな鳴き声を上げ始めたよ。
やがて、スフレ姉ちゃんがお腹を撫でるのを止めて立ち上がると。
ウサギも起き上がって、頭をスフレ姉ちゃんにこすりつけて媚びを売ってたよ。
もう、殺気なんか微塵も感じられなかったよ。
「うわっ、凄い、本当に懐いちゃった。
あんな小さなスフレさんに出来るなら、私も出来るかも。」
おいらの思惑通りになった。
まだ幼さの残るスフレ姉ちゃんがお手本を見せたので、自分でも出来るかも思ってくれたよ。
**********
で、一人目。
スフレ姉ちゃんが探してきた巣穴に小石を投げ込むと、ウサギが飛び出して来て。
最初にチャレンジしたお姉さんに襲い掛かったの。
「キャアー、やっぱり怖い!
なにその、凶悪な前歯。」
自分の体よりはるかに巨大なウサギに迫られて、悲鳴を上げてたよ。
まあ、最初は仕方ないね、熊よりも大きな魔物が血走った目で襲ってくるんだから。
「目を瞑っちゃダメ! とにかく避けて!
噛み付かれたら、首を食いちぎられるよ!」
スフレ姉ちゃんの『首を食いちぎられる』という言葉に反応して、必死にウサギを躱したお姉さん。
中々、ウサギに立ち向かう勇気が出なかった様子だけど。
二度、三度とウサギの突進を躱すうちに、冷静になったみたい。
落ち着けばウサギの突進を躱すのは難しくないと気付いた様子で、何度目かの突進を避けると。
「こら、大人しくしなさい!」
躾けをするような声を掛けながら、ウサギの頭に手を掛けると一気に地面に叩きつけたの。
「ウキュ!」
ちょっと、スフレ姉ちゃんより手荒になったみたいで、苦悶の鳴き声を上げるとバタバタ暴れたんだ。
ウサギは体を左右に振って、お姉さんの拘束を逃れようとするけど。
「私って、こんなに力が強かったかしら。
ウサギさんがこんなにのたうち回っているのに、簡単に押さえ付けらるわ。
あっ、もしかして、これがレベルが上がったって言うことなのかしら。」
このお姉さん、やっと自分がレベルが上がったことを認識できたみたい。
実際のところ、凄い速度で突進してくるウサギを何度も躱すなんて、普通じゃ出来ないことなんだけどね。
レベルアップの恩恵はそこからあったのだけど。
ジタバタもがくウサギは、拘束を解くことは出来ず。
「ウキュ、ウキュ、ウキュ…。」
やがて、スフレ姉ちゃんがお手本を見せた時のウサギ同様に命乞いを始めたよ。
その後も、スフレ姉ちゃんの時と同じ。
拘束を解くとウサギは懲りずに襲い掛かって来て、お姉さんが再び拘束する。
それを何度か繰り返すと、最期はゴロンとお腹を見せて服従のポーズをとったの。
「やったー! ウサギさんゲット!」
お姉さんは、歓喜の声を上げながらウサギのお腹を撫で回していたよ。
一人目がウサギの捕獲に成功すると、みんなこぞってウサギの捕獲に挑戦したよ。
きっと、嬉しそうにウサギを撫でる一人目のお姉さんが羨ましかったんだろうね。
「信じられません。
私のような、気の小さい者でもあんな獰猛なウサギを飼い慣らせるなんて。
これが、レベルが上がると言うことなのですか。
驚きました、昨日までの自分ではないようです。
陛下のおっしゃられる通り、ウサギに比べれば冒険者など怖くないです。」
そんな言葉を口にしたのは、最期にウサギを手懐けた一番気弱そうなお姉さん。
昨日から冒険者をあしらう自信が無いと言っていたお姉さんだった。
どうやら、おいらが冒険者なんか怖くないと言った意味を理解してくれたみたい。
一噛みで首を食いちぎるような獰猛なウサギと対峙した今なら、適当に剣を振り回すだけの冒険者なんて目じゃないよね。
「女王様、流石だな。
ウサギみたいな可愛いペットを餌に、みんなに戦う度胸を付けさせるなんてよ。
わたしも、こんなでっかいウサギを素手で制圧できるなんて、自分の力に驚いたぜ。」
自分で捕えたウサギを従えて、ルッコラ姉ちゃんがそんなことを言ってたよ。
全員がウサギを捕えると、一匹ずつアルトがビリビリを掛けて害虫駆除をしてくれたよ。
野生のウサギは、ノミ、シラミ、ダニって嫌な害虫がいっぱいで、病気持ちもいるみたいだからね。
全部のウサギに『妖精の泉』の水も飲ませてた。
**********
全員がウサギを捕え害虫駆除が済むと、各自ウサギに騎乗してもらったの。
絶対服従のポーズを見せただけあって、どのウサギも素直にお姉さんを乗せたくれたよ。
おいらは、最初にスフレ姉ちゃんが捕らえたウサギに跨ると。
「全員乗ったかな?
じゃあ、ウサギの試乗を兼ねて、次の訓練場所に行くよ。
冒険者ってのは、敵わないと見ると数に任せて襲撃してくる奴もいるからね。
次は、一人で多数のならず者を相手にする訓練をするよ。」
お姉さん達にそう号令を掛けたの。
次の目的地は、『うさちゃん』に乗ってスフレ姉ちゃんが案内してくれることになってるの。
毎日、朝昼晩と三度も訓練に訪れている森にね。
もちろん、アレを狩りに行くよ。
ラフな部屋着姿で地べたに座り込んでた。
スキルの実を食べている最中だったらしく、姫リンゴもどきをシャリシャリと齧ってたの。
「スフレ姉ちゃん、ちょっと手伝って欲しいの。
この人達、促成でレベルを上げたんだ。
だから、成長した身体能力を有効活用できるように訓練したいの。
強面のならず者に凄まれた時、たじろがないように度胸も付けて欲しいしね。」
おいらがお願いすると。
スフレ姉ちゃんは「何で私が?」みたいな顔をし…。
「私、騎士団の中でも強い方ではありませんよ。
むしろ、一番気弱で何時でもオドオドしてるものですから。
余所者の冒険者から舐められちゃって…。」
うん、知ってるよ。
最近の辺境の町って街が栄えてきたから、他所から流れてくる冒険者がいるんだよね。
辺境町の冒険者はみんな更生しているけど、余所者は事情を知らないから素行が悪いの。
悪さをしては騎士団にとっちめられてるけど。
スフレ姉ちゃん、見た目は幼いし、いかにも気弱って雰囲気だから。
悪さをしてる余所者冒険者から舐められちゃうんだよね。
スフレ姉ちゃんが、冒険者の悪事を注意すると逆ギレして突っかかられてるの。
でも、そんな不良冒険者の摘発実績が一番多いのもスフレ姉ちゃんなんだ。
突っかかって来た不良冒険者を、ことごとく返り討ちにして捕えているから。
謙遜しているけど、スフレ姉ちゃんはハテノ男爵領騎士団有数の実力者なんだ。
「そこが良いんだよ。
凄く気弱そうなスフレ姉ちゃんでも、凶暴な相手を打ちのめせるって教えられるじゃない。
それに、最初にやって見せて欲しいのは、スフレ姉ちゃんの得意な事だよ。」
「ふぇ? 私が得意なこと?」
そんな疑問を口にしたスフレ姉ちゃんに、おいらはして欲しいことを耳打ちしたの。
訓練の内容を知ったスフレ姉ちゃんは、「ああ、それなら。」と言って引き受けてくれたよ。
**********
「みんな、聞いて。
このお姉ちゃんは、おいらが住んでた町で騎士をしているスフレ姉ちゃん。
隣にいるのは、スフレ姉ちゃんが騎乗しているウサギの『うさちゃん』だよ。
『うさちゃん』、可愛いでしょう?」
おいらがスフレ姉ちゃん達を紹介すると共にそう問い掛けると。
「可愛いです。
そんな大きなウサギ初めて見ました。
スフレさんは、いつもそのウサギに乗って移動しているんですか?
羨ましいです。」
さっき、『うさちゃん』を見て歓声を上げていたお姉さんの一人がそう答えてくれたの。
「はい、『うさちゃん』はとっても人懐っこくて良い子なのですよ。
いつも、私を乗せて運んでくれるんです。」
「「「「いいなー!」」」」
スフレ姉ちゃんがそう答えると羨望の眼差しが注がれていたよ。
そんな、お姉さん達に、おいらは言ったんだ。
「じゃあ、これから、自分の乗るウサギを捕まえに行こう。
度胸を付けるのに格好の訓練になるよ。
ウサギって、レベルゼロの冒険者なら四人掛かりで倒す狂暴な魔物だから。
お姉ちゃん達はレベル二十だから、一人で一匹捕まえるのも楽勝だよ。」
「「「「えっ?」」」」
ここに居るお姉さん達は、目の前の『うさちゃん』を動物のウサギが大きくなったものと思ってたみたい。
人懐っこくスフレ姉ちゃんにスリスリしている『うさちゃん』を魔物だとは思わなかったみたい。
「なあ、女王様。
訓練というのは自分の乗るウサギは自分で捕まえろってことか?
普通の冒険が四人掛かりで倒すものを、たった一人で?
それは、酷い無茶振りじゃないかい。」
ルッコラ姉ちゃんが非難がましい目でおいらを睨んで言ったの。
「平気、平気、スフレ姉ちゃんだって気が弱くて臆病なのに。
レベル十の時に、『うさちゃん』を一人で捕まえたんだよ。
みんな、レベル二十なんだから楽勝だよ。
最初にスフレ姉ちゃんがお手本を見せるから。
みんな、それをマネしてね。」
おいらは、これからスフレ姉ちゃんが実際にウサギを捕獲をして見せてくれると伝えたの。
おいらの言葉に頷くとスフレ姉ちゃんは、足元の小石を一つ拾い上げ『うさちゃん』に跨ったよ。
スフレ姉ちゃんって小柄だから、『うさちゃん』に乗らないと、背の高い草が邪魔でウサギの巣穴が探せないからね。
そして。
「みなさん、可愛いウサギさんをお友達にしに行きましょうね。
最初は、血走った目で襲って来ますけど。
落ち着いて対処すれば、全然怖くないですからね。」
お姉さんに対してそう告げると、草原の中に向かって『うさちゃん』を前進させたの。
お姉さん達も、それの後について草原の中に足を踏み入れた。
もちろん、おいらも後を追ったよ。
ウサギは草原の至る所にいるから、巣穴はすぐに見つかったよ。
スフレ姉ちゃんは『うさちゃん』から降りると。
「これがウサギの巣穴です。
今からウサギを巣穴から誘き出すので。
皆さん、ちょっと後ろにさがってください。」
安全のためお姉さん達を遠巻きに差せると、スフレ姉ちゃんは小石を巣穴に向けて放り投げたの。
すると、ほどなくして…。
「ウキューーーー!」
目を血走らせたウサギが怒声と共に巣穴から飛び出してきたんだ。
鋭い前歯を露わにして、闘争本能剥き出しでね。
「「「「「キャアーーー!」」」」
『うさちゃん』のような可愛さは微塵もなく、殺気を帯びたウサギにお姉ちゃん達から悲鳴が上がってたよ。
「ゴメンなさいね、石があたって痛かったよね。
少し大人しくしてちょうだいね。」
スフレ姉ちゃんも、毎日トレント狩りをしてたら場慣れしたみたい。
獰猛なウサギに襲い掛かられても、呑気に構えていたよ。
襲い掛かって来たウサギを冷静に躱すと。
「ウキュ!」
ウサギの頭に手をかけると、力任せに地面に押さえつけたの。
ウサギは地面に押さえ付けられて、悲鳴を上げていたよ。
何とか拘束を逃れようともがくウサギだけど。
圧倒的なレベル差があるスフレ姉ちゃんから逃れることは出来ず…。
「ウキュ、ウキュ、ウキュ…。」
終には、命乞いするような情けない鳴き声を発するようになったの。
「はーい、皆さん、ここで油断しちゃダメですよ。
可愛い姿をしていても、相手は獰猛な魔物です。
手を放すとすぐに襲い掛かって来ますからね。」
そう説明しながら、ウサギから手を放したスフレ姉ちゃん。
すると。
「ウキューーーー!」
スフレ姉ちゃんの言葉通り、ウサギは再度襲い掛かって来たよ。
「はい、はい、大人しくしましょうね。
良い子にしていれば人参をあげますからね。」
そう言って再びウサギを地面に押さえ付けるスフレ姉ちゃん。
「ウキュ、ウキュ、ウキュ…。」
再び、無様に命乞いをするウサギ。
それを何度か繰り返すと、やがて…。
「ウキュ、ウキュ、ウキュ…。」
地面に拘束されたウサギは、抵抗を止め、ゴロンとお腹を見せたんだ。
「急所のお腹を上にして見せる仕草は、降参の意思表示です。
ここまで来れば絶対服従で、もう襲ってくる心配はありません。
こうやって、優しく撫でてあげましょう。」
スフレ姉ちゃんがお腹を撫でてあげると。
「ウキュ! ウキュ!」
今度は気持ちよさそうな鳴き声を上げ始めたよ。
やがて、スフレ姉ちゃんがお腹を撫でるのを止めて立ち上がると。
ウサギも起き上がって、頭をスフレ姉ちゃんにこすりつけて媚びを売ってたよ。
もう、殺気なんか微塵も感じられなかったよ。
「うわっ、凄い、本当に懐いちゃった。
あんな小さなスフレさんに出来るなら、私も出来るかも。」
おいらの思惑通りになった。
まだ幼さの残るスフレ姉ちゃんがお手本を見せたので、自分でも出来るかも思ってくれたよ。
**********
で、一人目。
スフレ姉ちゃんが探してきた巣穴に小石を投げ込むと、ウサギが飛び出して来て。
最初にチャレンジしたお姉さんに襲い掛かったの。
「キャアー、やっぱり怖い!
なにその、凶悪な前歯。」
自分の体よりはるかに巨大なウサギに迫られて、悲鳴を上げてたよ。
まあ、最初は仕方ないね、熊よりも大きな魔物が血走った目で襲ってくるんだから。
「目を瞑っちゃダメ! とにかく避けて!
噛み付かれたら、首を食いちぎられるよ!」
スフレ姉ちゃんの『首を食いちぎられる』という言葉に反応して、必死にウサギを躱したお姉さん。
中々、ウサギに立ち向かう勇気が出なかった様子だけど。
二度、三度とウサギの突進を躱すうちに、冷静になったみたい。
落ち着けばウサギの突進を躱すのは難しくないと気付いた様子で、何度目かの突進を避けると。
「こら、大人しくしなさい!」
躾けをするような声を掛けながら、ウサギの頭に手を掛けると一気に地面に叩きつけたの。
「ウキュ!」
ちょっと、スフレ姉ちゃんより手荒になったみたいで、苦悶の鳴き声を上げるとバタバタ暴れたんだ。
ウサギは体を左右に振って、お姉さんの拘束を逃れようとするけど。
「私って、こんなに力が強かったかしら。
ウサギさんがこんなにのたうち回っているのに、簡単に押さえ付けらるわ。
あっ、もしかして、これがレベルが上がったって言うことなのかしら。」
このお姉さん、やっと自分がレベルが上がったことを認識できたみたい。
実際のところ、凄い速度で突進してくるウサギを何度も躱すなんて、普通じゃ出来ないことなんだけどね。
レベルアップの恩恵はそこからあったのだけど。
ジタバタもがくウサギは、拘束を解くことは出来ず。
「ウキュ、ウキュ、ウキュ…。」
やがて、スフレ姉ちゃんがお手本を見せた時のウサギ同様に命乞いを始めたよ。
その後も、スフレ姉ちゃんの時と同じ。
拘束を解くとウサギは懲りずに襲い掛かって来て、お姉さんが再び拘束する。
それを何度か繰り返すと、最期はゴロンとお腹を見せて服従のポーズをとったの。
「やったー! ウサギさんゲット!」
お姉さんは、歓喜の声を上げながらウサギのお腹を撫で回していたよ。
一人目がウサギの捕獲に成功すると、みんなこぞってウサギの捕獲に挑戦したよ。
きっと、嬉しそうにウサギを撫でる一人目のお姉さんが羨ましかったんだろうね。
「信じられません。
私のような、気の小さい者でもあんな獰猛なウサギを飼い慣らせるなんて。
これが、レベルが上がると言うことなのですか。
驚きました、昨日までの自分ではないようです。
陛下のおっしゃられる通り、ウサギに比べれば冒険者など怖くないです。」
そんな言葉を口にしたのは、最期にウサギを手懐けた一番気弱そうなお姉さん。
昨日から冒険者をあしらう自信が無いと言っていたお姉さんだった。
どうやら、おいらが冒険者なんか怖くないと言った意味を理解してくれたみたい。
一噛みで首を食いちぎるような獰猛なウサギと対峙した今なら、適当に剣を振り回すだけの冒険者なんて目じゃないよね。
「女王様、流石だな。
ウサギみたいな可愛いペットを餌に、みんなに戦う度胸を付けさせるなんてよ。
わたしも、こんなでっかいウサギを素手で制圧できるなんて、自分の力に驚いたぜ。」
自分で捕えたウサギを従えて、ルッコラ姉ちゃんがそんなことを言ってたよ。
全員がウサギを捕えると、一匹ずつアルトがビリビリを掛けて害虫駆除をしてくれたよ。
野生のウサギは、ノミ、シラミ、ダニって嫌な害虫がいっぱいで、病気持ちもいるみたいだからね。
全部のウサギに『妖精の泉』の水も飲ませてた。
**********
全員がウサギを捕え害虫駆除が済むと、各自ウサギに騎乗してもらったの。
絶対服従のポーズを見せただけあって、どのウサギも素直にお姉さんを乗せたくれたよ。
おいらは、最初にスフレ姉ちゃんが捕らえたウサギに跨ると。
「全員乗ったかな?
じゃあ、ウサギの試乗を兼ねて、次の訓練場所に行くよ。
冒険者ってのは、敵わないと見ると数に任せて襲撃してくる奴もいるからね。
次は、一人で多数のならず者を相手にする訓練をするよ。」
お姉さん達にそう号令を掛けたの。
次の目的地は、『うさちゃん』に乗ってスフレ姉ちゃんが案内してくれることになってるの。
毎日、朝昼晩と三度も訓練に訪れている森にね。
もちろん、アレを狩りに行くよ。
1
お気に入りに追加
298
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

私のお父様とパパ様
棗
ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。
婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。
大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。
※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。
追記(2021/10/7)
お茶会の後を追加します。
更に追記(2022/3/9)
連載として再開します。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

1人生活なので自由な生き方を謳歌する
さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。
出来損ないと家族から追い出された。
唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。
これからはひとりで生きていかなくては。
そんな少女も実は、、、
1人の方が気楽に出来るしラッキー
これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。



どうぞお好きに
音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。
王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる