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第十四章 まずはコレをどうにかしないと
第330話 胡散臭い作り笑いの下で企んでいたのは…
しおりを挟む構成員がみかじめ料をせびっている現場に遭遇し、現行犯で拘束したもんだから。
そいつが所属する冒険者ギルド、『タクトー会』を見せしめを兼ねて摘発しようとやって来たの。
国が違えど、冒険者ってのは最後まで話を聞かない連中なのは共通のようで。
痛めつけた恐喝の現行犯を転がしたら、ズタボロにされた仲間を目にして逆上した連中が襲って来たよ。
そいつらを制圧したところで出て来たのが、オーキと名乗る胡散臭い若頭補佐。
何が胡散臭いって、何から何までなんだけど。
特に、如何にも腹に一物ありますって感じの愛想笑いが一番胡散臭いよ。
家宅捜査をすると告げた父ちゃんに、オーキは素直に従うような口振りだったけど。
「そうかい、それじゃあ、この建物の中を検めさせてもらうぞ。」
そう言って、父ちゃんがさっそくガサ入れを始めようとしたところ。
「アイヤー、ちょっと待つネ。
お役人さん、せっかちアルヨ。
短気は損気言うアル。
先ずは、お茶の一杯でも飲んで落ち着くヨロシ。
捜査はそれからでも、遅くないアルネ。」
オーキは父ちゃんをお茶に誘って来たよ。
こいつ、その間に証拠隠滅でもしようと言う魂胆じゃ…。
他の人も皆そう思ったようで、父ちゃんやタローも胡散臭そうにオーキを見詰めていたよ。
「そんな目で見ないで欲しいアルヨ。
アタシ、証拠隠滅なんてセコイことしないアルネ。
まあ、まあ、こっち来るアルヨ。」
自分でもどう見られているか理解してるみたいで。
オーキはそんな言葉を口にすると、父ちゃんの手を引っ張って奥へ連れて行こうとしたんだ。
見回すと、周囲にいる連中は、手入れが入ってると言うのに慌てる様子もなく、ニヤニヤと嫌らしい笑いを浮かべてた。
父ちゃんはオーキの手を振り払おうとしてたけど、おいらはオーキが何を仕掛けて来るか興味が湧いたよ。
だから。
「父ちゃん、おいら、喉が渇いた。
お茶を出してくれるのなら、ご馳走になろうよ。」
おいらはオーキの誘いに乗るように言ったんだ。
「娘さんもああ言ってるアルネ。
さあ、さあ、こっちアルネ。
お嬢ちゃん、お坊ちゃんもこっち入るヨロシ。」
おいらの言葉に我が意を得たりと思ったのか。
ここぞとばかりに、オーキは父ちゃんの手を強く引っ張ったの。
ズルズルと引き摺られるように、奥へと連れて行かれる父ちゃん。
おいら達はそれに続いて、カウンターの奥にある部屋に連れて行かれたよ。
**********
何か、凄く立派な部屋に通されたおいら達。
勧められてテーブルに着席すると、オーキは部屋の隅っこにある扉を開いてゴソゴソ漁り出したんだ。
そして、大きな布袋を二つ取り出すと。
「これで、娘さんに、お茶とは言わず、美味しい物でも食べさせてあげるヨロシ。
ほれ、若いの、貴方も取っておくアル。」
お茶を出すのではなく、その布袋を父ちゃんとタロウの前に置いたんだ。
「これは、何ですかな? お茶には見えないんだが?」
父ちゃんが怪訝そうにオーキに尋ねると。
「惚けないで良いアルヨ。
お役人さん、子連れで家宅捜査に来るとは、そう言うことヨネ?
本気でガサ入れするなら、女子供に年寄りは連れて来ないアルネ。
下級役人さんは俸禄が少なくて大変アルネ。
良いアルヨ、魚御心あれば水心アル。
今日のところは、これで見逃すヨロシ。」
お義父さん、オーキに年寄りと言われてムッとしてたよ。失礼だよね、まだそんな歳じゃないのに。
それはともかく、オーキは父ちゃんの買収に掛かったよ。
目の前の布袋は、舎弟がやらかした不始末に目を瞑らせるための賄賂みたい。
どうやら、オーキは最初から父ちゃんを抱き込むつもりで、家宅捜査なんてさせる気が無かったようだね。
いや違うか、父ちゃんがおいら達を連れて来たから、ギルドにお金をせびりに来たと思っているんだ。
今までも、こうやって下級役人を買収して色々と便宜を図らせていたんだろうね。
だから、オーキは家宅捜査をすると言われても慌てなかったし、周りの連中もニヤニヤしていたんだ。
「いや、俺は家宅捜査をしに来たんだ。
こんなもんを受け取って、職務に不正な事をする気はねえぜ。」
「また、また、そんな見栄を張らなくて良いアルヨ。
下級役人さんの仕事、割に合わない、知っているアル。
子供も、奥さんもふくよかさ、無いアルネ。
贅沢させて無いの、分かるアル。
これからも、うちの不始末に目を瞑るヨロシ。
それなりの謝礼するアルヨ。
今までのお役人さんも、ずっと、そうしてきたアルヨ。」
贅沢させて無いって、余計なお世話だい。父ちゃんも、おいらも至って健康体型だよ。
目の前のオーキもそうだけど、この国の悪い奴らってブクブク太り過ぎだよ、みっともない。
「おっさん、バカだな。
そう言うセリフは人を見て言わないと。
因みに、俺も要らねえよ、金には困ってねえもん。」
オーキの言葉にそう返したタロウが目の前の布袋を、オーキに投げつけたよ。
タロウは布袋を軽々と投げていたけど、結構な重さがあったみたいで…。
鳩尾を布袋が直撃したオーキは、「ぐえっ…。」なんて声にならない悲鳴を上げてた。
重量物が鳩尾を直撃したオーキはゴホゴホと苦しそうにしてたけど…やがて。
「こら、このクソガキ、小役人の癖してタクトー会に楯突くとは良い度胸じゃねえか。
明日のお天道様を拝めなくしてやっても良いんだぜ!」
胡散臭い愛想笑いを引っ込めたオーキは、本性剥き出しでタロウを恫喝してきたよ。
「ほう、それが地か。
買収できる役人はワイロ渡して味方に付け。
言うこと聞かない役人はそうやって始末して来たってか。
ちょいと、あんたにも来てもらわんとな。
叩けば色々埃が出そうだ。」
そう言うと、父ちゃんもタロウに倣って布袋をオーキに投げつけたよ。
かなり強めに、オーキの顔を目掛けてね。
幾ら入っているか知らないけど、重量物をもろに顔面に受けたオーキ。
前歯がへし折れて飛び散ると同時に、椅子に腰かけたまま後ろへひっくり返ったよ。
すかさず、父ちゃんはテーブルを飛び越えてオーキを締め落したんだ。
**********
父ちゃんが、持参した縄でオーキを縛り上げている間に。
おいらは、オーキが布袋を取り出した扉を開けてみたの。
そこは、金庫になっていて、そこには銀貨が詰まった布袋が大量に積み上げられていたよ。
他にも、何処から奪って来たのか宝飾品なんかもあった。
「マロン、これを見るのじゃ。
ここに積み上げられている巻紙、全て借金の証文なのじゃ。
これ、全部押さえるのじゃ。」
オランの言葉通り、積み上げられていたのは殆ど借金の証文だったよ。
中を見ると、娘を担保に取るとか、十日で一割の金利だとか、記されていたよ。
さっき酒場の店主から聞いた通りだった。
「分かった、これ全部、持って行って借金帳消しにさせよう。
この中に有るのは大事なモノみたいだから、全部押さえておくね。」
おいらが金庫の中のモノを全て『積載庫』に収納していると。
「こら、ガキ共、やめるヨロシ。
それ、このギルドの飯の種アルヨ。
持っていかれると、商売成り立たないアル。」
金庫の中身を押さえられるのを目にして、オーキが狼狽していたよ。
ギルドの商売が成り立たなくなっても、もう、オーキには関係ないしょう。
良くても一生高い塀の中、罪状によっては死罪になるだろうからね。
父ちゃんが、縄を打ったオーキをズルズルと引き摺って部屋の外に出ると周囲にどよめきが起こったの。
その場にいる誰もが、おいら達がオーキに買収されると思っていたみたいで。
前歯をへし折られ、口から流血したオーキが引き摺られているのを見てみんな顔を引き攣らせていたよ。
最初に父ちゃんとタロウで、血の気の多い連中を鎧袖一触で打ちのめしているからね。
闘って勝てる相手ではないし、買収も利かないとなると、マジでヤバイと思ったみたい。
さっそく、コッソリとギルドを抜け出そうした冒険者がいたけど。
それより早く、タロウが出入口の前に立ち塞がって。
「おい、おまえら、何処へ行くつもりだ。
おまえらも、取り調べをするからホールの中に戻りな。
言うこと聞かないと、ここに転がっている奴らの仲間入りすることになるぞ。」
足をへし折られて横たわったままの冒険者の顔に蹴りを入れながら言ったの。
「痛てえよ、俺が悪かった、勘弁してくれよ。」
顔面に蹴りを入れられて鼻血を垂れ流しながら、冒険者が命乞いをしていたよ。
逃げだそうとしていた連中は、それを見て思い留まった様子で、ホールのテーブルに戻ってた。
「じゃあ、ここに居る連中が逃げ出さないように、おいら達が見張っているから。
父ちゃんと、タロウはガサ入れをお願いね。
シフォン姉ちゃんは、これを持って一緒に行ってちょうだい。
もし、拉致されている娘さんがいたら保護をよろしくね。」
おいらは、シフォン姉ちゃんにタオルと女物の衣服を手渡しながら指示を出したの。
「分かった、じゃあ、さっそく取り掛かるが。
マロンも、オラン君も、気を付けるんだぞ。
冒険者って連中は姑息だから。
マロン達を人質に取って摘発を逃れようとするかもしれんからな。」
父ちゃんは、おいらに注意喚起すると、タロウ達を連れてさっそく家捜しに行ったよ。
「あの役人バカじゃねえか。
こんな子供と年寄りを残していくなんて。
人質に取ってくれって言ってるようなもんじゃねえか。
幾ら注意したところで、子供だけじゃどうにもなんねえって。
おい、野郎ども、若頭補佐を救い出すぞ。」
父ちゃん達が見えなくなると、さっそくそんなことを口走る愚か者がいたんだ。
さっき父ちゃんが言ってたじゃない、彼我の実力差を量り損なうと長生きできないって。
子供だと思って侮る時点でダメダメだね。
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