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第十三章 女の子には何かと準備も必要だよ

第327話 ナイショのお茶会

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 おいらの女王即位にあたっての式典は全て終わったけど…。
 来賓に招いた人達はまだ王都に残っているよ。

 トアール国の人達がこの国と相互不可侵協定を結ぶための打ち合わせをしているし。
 ライム姉ちゃんの下で働いている元この国の貴族のみんなが私財整理をする時間も必要だからね。

 その間、関係ない人は休暇を楽しんでいるよ。
 特にシタニアール国からきたお義父さんとお義母さんは、今まで働き詰めだったからと思い切り羽を伸ばしていたの。
 国にいると王族は何処にでも人の目があって気が抜けないんだって、例え自分の居室でも。
 その点、今回は護衛も付けていないし、おいらの居住区画で過ごしているから気が楽だって言ってたよ。

 そんな訳で、女性陣はしょっちゅうおいらの部屋でお茶をしているんだ。
 お茶会で大人気なのが、おいらの衣装担当として呼んだシフォン姉ちゃん。
 お后様二人に王女、領主に囲まれても全然物怖じしてなかったよ。

「あなたが、マロンちゃんの即位式の衣装を作ったのでしょう。
 素敵だったわよ、良く出来ていた。」

「ええ、私とカズヤ様の婚礼の時も、是非あなたにドレスを作って欲しいですわ。」

 お義母さんも、ネーブル姉ちゃんもおいらが着たドレスを大絶賛だった。
 ネーブル姉ちゃんなんか、マジで自分のウエディングドレスを頼むつもりでいるし。

「身に余るお言葉を頂けて嬉しいです。
 でも、あのドレスは私の腕というよりも。
 お爺ちゃんの素敵なデザインとアルト様が用意した『妖精絹フェアリーシルク』のおかげですよ。」

 シフォン姉ちゃんは、謙遜をして見せたけど。

「そんなことは無いわよ。
 シーリンが嫁いで来る時、持参してきたパンツ。
 あれも、あなたが作ったのでしょう。
 とっても、良い物でしたわよ。」

 お義母さんは重ねてシフォン姉ちゃんを褒めてたよ。
 シーリン姉ちゃんがシタニアール国の王家に嫁ぐとき、持参金代わりに持って行ったものね。
 王家のみんなで使えるようにって、男物、女物両方、大量のパンツを。
 お義母さんも、ネーブル姉ちゃんも気に入ってくれたようで良かったね。

「でも、あれもお爺ちゃんから頂いたデザインですし。
 私が自分で考えたのは男物のトランクスだけです。
 それも、タロウ君から聞いたモノを想像して作ったモノですし。
 お爺ちゃんやタロウ君の故郷ではありふれたモノらしいですよ。」

「ねえ、シフォンちゃん、あなたが言っているお爺ちゃんてカズト様のことかしら?
 あなたカズト様と親しくなさっているの?」

 ミントさんはにっぽん爺がおいらのドレスをデザインしたことを知っているからね。
 話の流れから、お爺ちゃんと呼ぶの人物がにっぽん爺だとわかったみたい。

「あっ、はい、お爺ちゃんのお名前はカズトでしたね。
 私、つい一年ほど前に結婚したのですが、彼がお爺ちゃんと同郷なものですから。
 色々と仲良くさせてもらってるんです。
 おじいちゃんのデザインした服を私が仕立てて、一緒に露店を出すとか…。」

「あら、そうでしたの。
 それなら、最近のカズトさんのお話とか聞かせてもらえませんこと。」

 ミントさんのそんなリクエストに応えて、シフォン姉ちゃんは最近のにっぽん爺について話し始めたの。
 にっぽん爺がハテノ男爵領の騎士のお姉ちゃんの『親衛隊』を作ったこととか。
 その親衛隊で、若い人とお揃いのハッピを着て楽しそうに騎士のお姉ちゃんの応援をしている事とか。
 『親衛隊』活動のおかげで、最近は男女問わず若い人がにっぽん爺の家に遊びに来て笑いが絶えないことかね。

 それと、娘のカズミさんが尋ねて来るようなって、一緒に町でお茶をしている姿をよく見かけるようになったとか。

「そう、そう、最近、お爺ちゃんたら、面白いことをしてるんですよ。
 ちょっと、取って来ますから待っててくださいね。」

 話の途中でそう言ったシフォン姉ちゃんは、部屋を出て行ったんの。
 何かを取ってくると言っているので、シフォン姉ちゃんが滞在している部屋に戻ったのだと思う。

        **********

 しばらくすると、シフォン姉ちゃんは露店を開くときに持ち歩いている行李を抱えて戻ってきたんだ。

 そして。

「これ、よろしかったら使ってください。お近づきの印です。」

 そう言ったシフォン姉ちゃんは、ごそっと女物のパンツをミントさんに差し出したの。
 シフォン姉ちゃんったら、隙あらば商売しようと思っているのか、何時でもそれを持ち歩いてるね。

「あら、これは珍しい、伸び縮みするのね。
 これでパンツがずり落ちて来ないようになっているのね。
 しかも、どれもデザインが素敵だわ。
 実用的かつ刺激的でとても良い品だと思う。
 有り難く頂戴しておくわね。」

 パンツ一枚手に取ったミントさんはゴムの部分を伸ばしたり、縮めたりしながら珍しそうに言ってたよ。
 王都の服屋にも結構卸していたと思うけど、庶民の間だけで止まっちゃってるのかな。
 王侯貴族にまでは評判が伝わってなかったみたい。

「ぜひ使ってみてくださいね。
 もし、お気に召すようであれば。
 王都の店にも卸していますので、ご用命くださいね。」

 シフォン姉ちゃんったら、王都にある取扱店の名前と場所を書いた紙を渡してたよ。ちゃっかりしてるね。

「でも、パンツが本題ではないのです。
 本題はこちらです。
 マロンちゃんにはまだ早いから見せないでくださいね。
 ネーブル殿下は…、まだちょっと早そうですが…。
 ご成婚されたのですから何かの役に立つかも。」

 そう言って行李の中から本らしきものを取り出すと。
 ネーブル姉ちゃんに渡すかどうか躊躇したあげく、おいらを除く全員に配ったの。
 何で、おいらには見せられないの、おいらだってオランと成婚してんだよ。

 配られた四人は、手渡された本をペラペラと捲って…。

 パサッ!

 真っ先にライム姉ちゃんが本をとり落して、無言で俯いちゃった。顔が真っ赤だったよ。

「えっ、殿方とこんなこと…。」

 そんな呟きを漏らしたネーブル姉ちゃんが言葉に詰まって口をパクパクさせてた。

「まあ、凄い、これはとっても刺激的な本ね。
 民の女性は殿方に対してこんな事をしているのですか…。
 知りませんでしたわ。」

 そんな感想を漏らしたお義母さんは食い入るように本を見詰めていたよ。

 そして…。

「ああ、懐かしい…。
 これは確か二十数年前、カズト様に教えて頂いた…。
 これは、カズト様がお描きになった本なのですね。
 幾つか心当たりのある技がありますわ。
 こんな本を作れるくらい、色々な技があるのですね。」

 ミントさんは一つのページで手を止め、懐かしい昔を思い起こすように呟いたの。

「はい、その本はお爺ちゃんの技を後世に伝えるために記されたのです。
 元々は、ギルドの『お風呂屋さん』にお勤めする泡姫さんに実地研修を始めたのですが…。
 お爺ちゃん、もうお歳なので実地研修は体力的に厳しくて。
 それならいっその事、指南本を作ろうと言うことになったのです。
 お爺ちゃん、絵がとても上手なので分かり易い本が出来るだろうって。」

 おいらからは『男女和合の極意』という表題しか見えないんだけど。
 シフォン姉ちゃんの話から推測すると、にっぽん爺の巧みな絵でその極意とやらが図解されているみたいだよ。
 微に入り細に入り絵で描かれた上に、ポイントが詳細に書き込まれているんだって。
 実地指導だと指導した人には正確に伝わる反面、その人止まりになっちゃうかもしれない。
 本ならば、細かい注意点まで正確に伝えるのが難しいって弱点もあるものの、後世に長く伝えられるという利点があるからね。
 
 その本、ペンネ姉ちゃん達、パスタ三姉妹がいたから実現できたとシフォン姉ちゃんが言ってたよ。
 パスタ三姉妹って、『騎士を夢見る乙女の会』で女騎士モノの自主製作本を作って配布していたらしいもんね。
 妹二人が、木版の制作と刷りを担当しているって言ってたね。
 ペンネ姉ちゃんとにっぽん爺はツーカーだから、その辺の事も知っていたんだね。

 にっぽん爺が原稿を書いて、パスタ三姉妹が本作りを請負ったらしいよ。
 あの三姉妹、仕事の傍らでそんな副業をしていたんだ…。

「今のところ、それを広く販売する予定はないんです。
 辺境の町の『お風呂屋さん』が秘伝の技とすることで。
 あの町に好き者を呼び込もうという魂胆もありまして。
 ですから、その本の中身は皆さん限りにしてくださいね。」

 あの町の『風呂屋』でしか受けることが出来ないご奉仕ということにして。
 それ目当てに他所からお客さんを呼び込むことで、宿屋とか駅馬車とか別の事業のお客さんにもなって欲しい。
 ギルドの連中、そんながめついことを考えているみたい。
 まあでも、今までの冒険者ギルドみたいに悪どいことをして儲けている訳じゃないから。
 そのくらいは許されるよね。

 だから、作った本は一括で全部ギルドの『風呂屋』に売っちゃったらしいよ。
 パスタ三姉妹が勝手に増刷したら拙いから、木版もにっぽん爺が押さえているみたい。
 ただ、少し多めに刷って関係者で分けたらしいんだ。
 にっぽん爺とシフォン姉ちゃんとパスタ三姉妹でね。

「だから、他の人に漏らしちゃダメですよ。
 よく読んで、自分が楽しむために使ってくださいね。」

 シフォン姉ちゃんがそう念押しすると。

「このようなふしだらなこと、恥かしくて口には出せません…。
 でも、こういうことをして差し上げれば、レモン様は喜ばれるかしら…。」

 ライム姉ちゃんが恥ずかしそうに言ってたよ。

「ライムさん、この本に書いてあること。
 是非、レモンに試してみなさい、喜ぶこと請け合いですよ。
 それに、あなた、今懐妊中でしょう。
 妻の懐妊中に殿方が浮気に走ることが多いのです。
 この本には懐妊中でも、殿方を惹き付けておける技が記されているではありませんか。
 私、不覚にも、この歳になるまでこのような技があるとは知りませんでした。」

 うん? 何で、奥さんの懐妊中に旦那さんが浮気にはしるの?
 何か意味不明だけど、とにかくお義母さんはライム姉ちゃんに推奨していたよ。

「ええ、この本は我が家の家宝にしますわ。
 この本は我が家の女のみが閲覧できるものして、その技は門外不出とします。
 こんな貴重な技を他に漏らすなんて勿体ないことはしませんわ。」

 お義母様はそう言って、シフォン姉ちゃんの口止めに同意していたよ。

 そして、ミントさんだけど…。

「ねえ、シフォンちゃん、カズト様はもう枯れちゃったのかしら?
 その実地研修ってのは、もう無理なの?」

 そんなことをシフォン姉ちゃんに尋ねたの。

「ええっと…。私もお爺ちゃんが元気なところを目にしてないのではっきりとは言えませんが。
 出来るか、出来ないかと言えば…、多分出来ると思います。
 『お風呂屋さん』の支配人とそんな話をしていましたので。
 お年を召されているから、体力的に厳しいと言うだけで、今でも現役かと…。」

 そんなシフォン姉ちゃんの答えに…。

「ライムさん、少し協力しては頂けませんか。
 私をハテノ男爵領の視察にお招きいただけませんか。
 是非とも、カズト様ともう一度お目に掛かりたいのです。」

 ライム姉ちゃんに対して、ここで懇意になったと言うことにしてハテノ男爵領へミントさんを招くように迫ったの。
 その表情はとても嫌と言えるような様子じゃなかったもんだから、ライム姉ちゃん、首を縦に振っちゃたよ。

「あら、あら、この本が余りにも刺激的なものだから。
 焼け木杭に火が付いちゃったのね。」

 お義母さんは他人事だと思って、そんな呟きを漏らして笑っていたよ。
 
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