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第十三章 女の子には何かと準備も必要だよ

第321話 ハテノ男爵領、待望の…

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 王様達に町を案内して広場へ戻ってくると、ちょうど『STD四十八』の興行が始まったところだったの。

「何やら、広場が賑やかなようであるな。
 辺境の町とは思えんほど人が集まっているが、今日は祭りでもあるか。」

 熱気をはらんだ広場の様子を目にして、王様がそんな呟きを漏らした時。

「みんなー! 私の歌を聞いてねー!」

 そんな元気の良い声を合図に、ノリの良い歌が聞こえて来たんだ。
 この町の興行のことを知らない王族の三人は、歌声が聞こえた方角に視線を向けて…。

「何なのだ、年頃の娘があんなはしたない格好をして。
 ヘソやパンツが丸出しではないか。
 まるで、路地裏で客を引いている街娼のようだぞ。」

 舞台の上でノリノリに歌っているペンネ姉ちゃんに目を留めて、王様が呆れていたの。
 王様の言葉通り、ペンネ姉ちゃんは例によって際どいステージ衣装を身に着けていたんだ。
 非難する割には、王様ったら、ペンネ姉ちゃんに目が釘付けなんだけど…。

「あら、あなた、良く街娼の装いなどご存知でしたのね。
 何時、お世話になったのかしら?
 今もすっかり目を奪われているようですし。
 あのような服装がお好みでしたら、私がして差し上げましょうか。」

 王様の目がペンネ姉ちゃんに釘付けになっていることに、王妃様も気付いた様子でそんな嫌味を言ってたよ。
 さすがに、四十過ぎの王妃様があんな格好したらイタいって…。

「素敵、あの服装、とっても可愛いですわ。
 私もあのような装いをしてみたいものです。」

 一方で、可愛いモノが大好きなネーブル姉ちゃんは、ステージ衣装に興味をそそられたみたいだよ。

「ダメに決まっているであろう。
 王侯貴族の子女は慎み深くあらねばならないのだ。
 あのような淫らな服装が許される訳ないだろう。」

 遠目に眺めているせいか、王様はステージ上の歌姫がペンネ姉ちゃんだと気付いていないみたい。
 まさか、下半身に視線が釘付けで気付かなかったという訳では無いよね…。

「父上は何を言っておるのじゃ。
 ステージ上で歌っておるのはこの領地の騎士なのじゃ。
 あの騎士は正真正銘の貴族令嬢なのじゃぞ。」

 オランは王様に歌姫の素性を明かし、これも領地再興策の一つだと教えたんだ。
 他所から人を呼び込んで、宿屋や酒場、それに土産物屋などで領地にお金を落してもらうのだと。
 平民からしたら高嶺の花の貴族令嬢、しかも、この領地の騎士は美人揃いだからね。
 なんて言っても、騎士採用の際に一番重視しているのは容姿だもん。
 美人貴族令嬢が際どい服装をして歌を披露するって評判が広まったことで。
 この興行目当てに他所から沢山の人が集まって来るようになったって。

「王様、気付いてないのかな。
 舞台の上の姉ちゃん、前に王様を玉座から引き摺り降ろして、首に剣を当てた騎士だよ。
 騎士団の中で一番の人気者なんだ、ペンネ姉ちゃん。」

 おいらの言葉を耳にして、視線を下半身から上半身に移した王様は、あんぐりと口を開いてたよ。
 でも、驚くのはまだ早いと思うな…。

      **********

 その数日後、おいら達はアルトに頼んでライム姉ちゃんの屋敷に送ってもらったの。
 王様や王妃様が婿入りしたレモン兄ちゃんに会いたいと希望してたから。
 ついでに王様は、冒険者を堅気にするための参考として使節団を送る事の許可をもらうつもりみたい。

 領都のライム姉ちゃんの屋敷に着いて、『積載庫』から降ろしてもらったおいら達。

「これは、また随分と壮麗な屋敷であるな。
 男爵家と聞いていたが、まるで王宮のようではないか。」

 広大な敷地に建つ巨大な館を前にして、王様がビックリ仰天していたよ。
 ライム姉ちゃんの館は、一年前までは今にも朽ち果てそうだったけど。
 アルトがライム姉ちゃんの領主就任祝いに修繕費を出してあげたし。
 その後、懐が温まってきたんで、手が回らなかった所も少しずつ直していったそうなの。
 今じゃ、放置されていた庭や離れもすっかりキレイになったよ。

「おや、アルト様、いらっしゃいませ。
 そちらの御仁はどなたですかな、高貴な身分の方とお見受けしますが。」

 庭の手入れをしていた前々領主ゼンベー爺ちゃんが、アルトに気付いて声を掛けてきたの。
 ゼンベー爺ちゃん、最近はダイヤモンド鉱山の事務仕事で忙しいはずだけど、息抜きしてたのかな。

「ああ、ゼンベーお爺ちゃんは会ったことが無かったわね。
 シタニアール国の国王夫妻と第一王女のネーブル姫よ。
 レモンの顔を見に来たのよ、元気にやっているかってね。」

「ややっ、これは遠い所、お運びいただきまして恐悦至極でございます。
 私、領主ライムの父、ゼンベーと申します。
 レモン殿のおかげでこの領地の復興も捗っている次第で。
 娘がご無理を言ったようですが、婿に来て頂き感謝しております。」

 来客がシタニアール国の王族と知ると。
 ゼンベー爺ちゃんは恭しく挨拶をして、ライム姉ちゃん達のもとへ案内してくれたの。

 部屋に入ると、ライム姉ちゃんとレモン兄ちゃんが黙々と仕事をしてたよ。

「レモン殿、ライム、お客さまだぞ。
 レモン殿のご両親と妹御がお見えだ。」

 ゼンベー爺ちゃんが二人に声を掛けると慌てて王様達を出迎えたライム姉ちゃんとレモン兄ちゃん。

「父上、ご無沙汰しております。ようこそお越しになられました。」

 レモン兄ちゃんが王様を迎え入れると。

「レモン、息災そうで何よりだ。
 ライム殿とも仲睦まじいようでなによ…。」

 レモン兄ちゃんの元気そうな姿に安心した様子の王様だけど。
 それからライム姉ちゃんの方に視線を移して言葉に詰まったの。

「あら、あら、とっても仲がよろしいようで何よりですわ。
 昼間から、そのような装いをしているなんて。
 これは、早々に孫の顔を見ることが出来そうですわね。」

 言葉を途切れさせた王様に代わって、王妃様が満面の笑みを浮かべて言ったんだ。
 王妃様の言葉を聞いて、ライム姉ちゃん、恥かしそうに胸の辺りを手で隠していたよ。
 今、ライム姉ちゃんが身に纏っているのは、何故かステージ衣装だったの。
 にっぽん爺がデザインした、胸の上で服を留めているノースリーブのワンピースドレス。
 スカート部分に腰の高さまでスリットが入っている色々と危ないドレスだよ。

「申し訳ございません。
 このようなはしたない格好をお見せしまして。
 今日は、これからステージで歌わないといけなくて…。」

 どうやら、今日はこの館のホールで興行を催す日だったみたい。
 ライム姉ちゃんは、興行の最初と、最後に一曲ずつ歌うことになっていて。
 最初の一曲を歌った後、次の出番までステージ衣装のまま仕事をしていたらしいの。

 ダイヤモンド鉱山の操業再開以来、とても忙しくなって寸暇を惜しんで仕事しているみたい。

「昨日、騎士があられもない姿で歌を披露しておったが…。
 領主のそなたまで、そんな格好で歌を披露するのであるか。」

 王様、ステージ上の歌姫がペンネ姉ちゃんだと知った時よりビックリしてたよ。
 やっぱり、胸の辺りとか、スリットの入った腰の辺りとかに目が釘付けだったけど…。

「お恥ずかしい限りですが…。
 つい先だってまで、この領地の財政が傾いておりまして…。
 アルト様の勧めで、少しでも領地のためになればと始めたのです。」

 ライム姉ちゃんは顔を赤らめて、恥かしそうに言ったの。
 ダイヤモンド鉱山の操業再開で大分持ち直してきたんで、本音では止めたいそうなんだ。
 でも、買付けなどで領地を訪れた商人達の中に、ライム姉ちゃんの達の公演を楽しみにしている人達がいて。
 領地を訪れる度に、毎回欠かさずに見に来てくれるお客さんもいるみたい。
 ハテノ男爵領は辺境にあって、この領都も殆ど娯楽が無いからね。
 楽しみにしている人が居ると思うと、心優しいライム姉ちゃんは止めると言い出せないんだって。

「父上、ライムは領地のために良かれと思い、羞恥心を押し殺して公演しているのです。
 それに、領地の収入としても馬鹿にならないのですよ。
 一回の公演で、毎回銀貨二万枚の収入を稼いでいますので。
 もっとも、ライムは今回の公演で舞台を降りることになりますが。」

 月四回定期的に催されるこの館での公演会のチケットは、一枚銀貨五十枚という強気な値段なのに。
 きわどい舞台衣装を纏った美人領主、美人騎士の歌声が聴けるとあって、毎回四百席分完売しているそうなの。
 まあ、きわどい舞台衣装でスケベ親父を惹き付けているだけという訳でもなく。
 耳長族による流麗な伴奏や、荘厳な領主の館で催されることなんかも手伝ってのことらしいけどね。

「あら、ライムさん、今日でお辞めになるの。
 本業の領主の仕事が忙しくて、歌を披露している場合ではなくなったとか?」

 レモン兄ちゃんの説明を耳にした王妃様が尋ねてきたの。

 すると、ライム姉ちゃんは赤らめていた顔をいっそう赤らめると。

「実は、レモンさんの赤ちゃんを授かりまして…。
 しばらくは、安静にしないとならないもので。」

 恥ずかしそうに声を潜めて、赤ちゃんが出来たと打ち明けたの。

「あら、あら、おめでとう。
 やっぱり、その衣装だと燃えるのかしら…。」

 ライム姉ちゃんの懐妊を知って、祝福の言葉を掛けた王妃様だけど。
 あの服何処で手に入るのかしらと呟いていたよ。
 あの服があれば王様もその気になって、王妃様ももう一人くらいできるかもだって。

 その後、ライム姉ちゃんの最後の公演を見ようとの事になって。
 舞台の袖からみんなで公演の様子を覗いていたんだけど。

 その日歌った五人の騎士と、ライム姉ちゃん、クッころさんの姿を目にして王様は鼻息を荒くしてたよ。

 王様の興奮ぶりを見た王妃様が言ってた。

「あら、あら、うちの旦那、火が付いちゃったみたいね。
 これは、久しぶりにいけるかも…。」

 いけるって、何処へ? 
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