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第十三章 女の子には何かと準備も必要だよ

第314話 辺境の町は今日も賑やかだった

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 辺境の町へ戻った翌日のこと。
 おいらは、シフォン姉ちゃんを連れてやって来たアルトに誘われて、にっぽん爺の家に行ったの。

 おいらが王様になったことを、アルトがにっぽん爺に伝えると。
 にっぽん爺は、アルトが訪ねて来た目的を察したようで。

「何と、マロンが女王になったとな。
 こりゃまた、驚いた。
 まるで、お伽噺かラノベのようだ。
 それで、私にマロンの晴れ着をデザインしろと?」

「そうなのよ、話が早くて助かるわ。
 生地は私が極上の『妖精絹フェアリーシルク』を用意するから。
 女王の即位式に相応しい威厳のある服を作って欲しいの。」

 即位式に着るドレスをデザインして欲しいとの依頼を聞くやいなや。
 にっぽん爺は、手許にあった紙に鉛筆を走らせ始めたの。

 手慣れた様子で一枚の絵を描き上げたにっぽん爺。

「女王の威厳と言ってもな…。
 マロンのような幼子が背伸びをした服を着てもちぐはぐに見えるだけだぞ。
 これは、プリンセスラインと呼ばれるスタイルでな。
 日本では、子供向けのドレスにもよく用いられるシルエットなんだ。
 年相応に可愛いらしいし、優雅さも醸し出せるので良いと思うが。」

 そんなことを言いながら、それを差し出してきたの。

 そこに描かれたいてのは、にっぽん爺の言葉通り可愛らしいドレスだったよ。
 腰の辺りをキュッと絞ってピッタリした感じの上半身とは対照的に、スカートの方がふわっと膨らんでいるの。

 でも…。

「可愛い感じで、見ている分には良いけど…。
 そんな、ヒラヒラのドレスおいらが着ても似合わないんじゃ…。」

 おいらは、お淑やかに着るドレスより、動きやすい服装の方がしっくりくるよ。
 にっぽん爺の描いたドレス、おいらよりオランの方が似合いそうだ。
 服が可愛いのは認めるけど、おいらが着ると思うとイマイチ乗り気になれなかったんだ。

 でも…。

「あら、そんなこと無いわよ。
 マロンちゃん、可愛いし、とっても似合うと思う。
 これにしましょう。
 お姉ちゃん、気合い入れて作っちゃうから。」

「そうね、マロンに良く似合っていると思うわ。
 マロンが嫌でないのなら。
 それをベースに細部を詰めてもらえば良いんじゃない。
 二、三種類描いてもらって、マロンが気に入ったのを選べば良いわ。
 シフォンも良く打ち合わせしておいてね。」

 シフォン姉ちゃんはノリノリだし、にっぽん爺のデザインはアルトのお眼鏡にも適ったみたい。
 おいら、アルトにお説教されちゃった。
 普段はラフな服装でもかまわないけど、公式の場ではきちんとした服装をしないとダメだって。
 女王になる事を選んだ以上は、そのしきたりに慣れないとダメだって。
 王侯貴族って面倒くさいね…。

 結局、ウンと首を縦に振ることになったよ…。

 そんな訳で、にっぽん爺に詳細なデザインをお願いすると。
 さっそく、シフォン姉ちゃんにあちこちを採寸されたんだ。
 採寸が済むと、にっぽん爺とシフォン姉ちゃんは打ち合わせを始めちゃった。  
 
 後は二人に任せて、おいら達はにっぽん爺の家を後にしたんだ。

       **********

 次にやって来たのは街の広場。
 『STD四十八』の興行があるみたいなんで様子を見に来たの。

 アルトの留守中、ノイエに興行を取り仕切るように指示しておいたらしいよ。
 アルトが不在でも『STD四十八』に食い扶持を稼がせないといけないし。
 『STD四十八』の興行目当てにこの町を訪れるお客さんが多くて。
 駅馬車とか、宿屋とか、他所からのお客さんをあてにしている商売もあるからね。
 アルトが留守だからって、長期間興行をお休みにするとそう言う人が泣いちゃうって。

「でも、アルト。
 興行に使う舞台ってアルトが持ち歩ていたよね。
 ついこの間、ウエニアール国でおいら使った覚えがあるよ。
 おいらが、女王になったことを街の広場で宣言した時に。」

「万が一の時のために、舞台は予備があるのよ。 
 出掛けに一つ、ノイエに預けておいたの。
 私の留守中も興行を続けられるようにね。」

 ただ、ノイエの『積載庫』はレベル二だから、生き物を積み込むことは出来ないらしい。
 『STD四十八』の連中は、普段『妖精の森』の中にある耳長族の里で暮らしているんだけど。
 この町との間を歩いて往復するのは結構手間なんで、アルトの留守中はこの町の鉱山住宅で暮らしてたみたい。
 耳長族の姉ちゃんをお嫁さんにもらう前、連中に鉱山住宅を買い与えてあったものね。

 広場に着くと、ノイエが興行の準備を始めたところで、定位置に舞台が置かれていたよ。
 相変わらず、興行は盛況な様子で、広場には沢山の見物客が集まってた。

「これは、アルト殿に、マロン嬢ではござらぬか。
 おはようでござるよ。」

 特徴的な語尾の言葉で掛けられた声の方を振り向くと。
 広場の隅っこでセーナン兄ちゃんが露店を広げていたよ。

「なに、早速、商売を始めたの。
 感心ね。」

 そんな言葉を返しながら、アルトがセーナン兄ちゃんに寄っていくと。

「あっ、アルト様、お戻りになられたのですか。
 お帰りなさい。
 この方が作った人形って、凄いんですよ。
 私達騎士団全員の人形があるんですが、本人そっくりなんです。
 しかも、それぞれに騎士服バージョンと舞台衣装バージョンがあるんです。
 私なんか、『うさちゃん』に乗っている姿もあるんですよ。」

 今は、会場警備中なんじゃないかと思うけど…。
 露店を覗き込んでいたスフレ姉ちゃんが、おいら達に気付いて話し掛けてきたよ。
 スフレ姉ちゃんの言葉通り、露店には騎士団のお姉ちゃん達を模した人形がずらっと並んでたの。

「いつ見ても、見事なモノね。
 でも、これって店を構えて売るんじゃなかったの?
 昨日、自宅と一緒に目抜き通り沿いの店舗も買っていたわよね。」

 露店に並べられた人形を眺めた後で、アルトはセーナン兄ちゃんに尋ねたんだ。
 セーナン兄ちゃん母子には、没収したキーン一族の私財から十分な慰謝料を払ったからね。
 広いお屋敷の他に、お店を開く建物を買うお金も余裕であったの。

「拙者の扱う品物は、究極の嗜好品でござるよ。
 万人受けする商品でござらぬ故。
 いきなり店を構えても、すぐにお客さんに来てもらえるとは思えないでござるよ。
 その点、ここなら、同好の士が集まると思うのでござる。
 しばらくの間、ここで顔を売って、お店のお客になってくれそうな人を開拓するでござるよ。」

 『STD四十八』の興行は、騎士団のお姉ちゃんと合同で催すからね。
 訓練期間中に当たっている小隊が、舞台で歌や踊りを披露するから。
 騎士団のお姉ちゃん目当ての観客もいっぱい詰め掛けるんだ。

 そんな騎士団のお姉ちゃん目当ての観客。
 その中でも『親衛隊』と呼ばれる熱狂的な信奉者をターゲットに、人形を売り込もうという魂胆らしいの。
 この露店は、これから開くお店の宣伝も兼ねているんだって。

 スフレ姉ちゃんも騎士団のマスコット的存在として、街の人気者だから。
 こうして広場にいると結構、注目されている訳で…。

 さっきのスフレ姉ちゃんの声に釣られて、さっそくお客さんがやってきたんだ。
 並んだ人形をまじまじと吟味して、…。

「どれどれ、おっ、こりゃスゲーや。
 スフレちゃんの言う通り、みんなそっくりじゃねえか。
 俺、ペンネちゃんの人形もらってくいくぜ。
 騎士服のと、舞台衣装の両方ともくれ。」

 その完成度に感心すると、迷わず二つも買ったよ、このお客さん。
 一つ銀貨十枚という強気な値段なのに…。
 さすが、『L・O・V・E ペンネ!』と背中に入ったハッピを着ているのはダテじゃないね。

 ジャラジャラと受け取った銀貨を確かめると。
 二体の人形を厚い紙で作った箱に納めて、お客さんに手渡すセーナン兄ちゃん。

 その時。

「お買い上げ有り難うでござるよ。
 今度、この広場に面した目抜き通りにお店を構えるでござる。
 お店には、ここに並べた八分の一スケール人形の他に。
 各種スケールの人形や、二頭身バージョンの人形も並べるでござる。
 目玉商品は、等身大人形『』バージョンでござるよ。
 ぜひ見に来て欲しいでござる。」

 ちゃっかり、セーナン兄ちゃんは間もなく開店するお店の宣伝もしてたよ。

「おい、今、聞き捨てならないことを言ったな。
 等身大人形『実用』バージョンだと?
 それは、もしかして、使のか?」

 いや、使えるって、いったい何を、何に?
 おいらが頭の中に『?』を思い浮かべているのは対照的に。

「もちろんでござるよ。
 その辺は抜かりないでござる。
 見た目、質感共に実物そっくりに再現したでござるよ。
 質感が適当な素材を探すのに苦労したでござる。
 是非一度、見て欲しいでござる。
 騎士団の皆さん全員の人形を用意してあるでござるよ。
 また、特注品の製作にも応じる予定があるでござる。」

 セーナン兄ちゃんは、阿吽の呼吸で、お客さんの問い掛けに答えたよ。
 この二人の間では『実用』と言う言葉の意味が通じているみたい。

「おう、絶対に行くぜ!
 開店を楽しみにしているぞ。」

「有り難うでござるよ。
 顔を売るために、しばらくここで露店を広げるでござるよ。
 騎士団の皆さんの興行がある日にはここで露店を出しているでござる。
 開店日が近付いたら、露店で告知チラシを配布するでござるから覗いて欲しいでござる。」

「分かったぜ、仲間内にも拡散しておくわ。」

 そんな会話を交わして、そのお客さんは帰って行ったけど。
 その後も、入れ代わり立ち代わりにお客さんが集まって来たんだ。
 『親衛隊』と思われるハッピを着た人を中心に、ご贔屓のお姉ちゃんの人形を買っていったの。
 もちろん、騎士服姿と舞台衣装姿の人形を二つ一組でね。

 セーナン兄ちゃん、お人形を売るだけではなく、お客さんと楽しそうに話してた。
 同好の士と言ってたけど、この町には気の合う人が沢山いるようで良かったね。
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