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アイイロモンペ

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第十三章 女の子には何かと準備も必要だよ

第312話 戻って来たよ、辺境の町へ

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 ウエニアール国の王都を出て五日目。

「儂は、何も悪いことはしとらんぞ。
 最近は、貴族や冒険者の素行を厳しく監督しているからな。
 いちゃもん付けられる覚えは何一つ無いぞ。
 おかげで、儂は忙しくてかなわん。」

 そんな情けない声が響いたのはトアール国の王宮。
 ちょっとして用事があって、ハテノ男爵領に戻る途中で寄ったんだ。
 アルトったら、窓からいきなり王様の執務室に飛び込んだんで。
 それに驚いた王様は、護衛のモカさんの背後に隠れて顔を引き攣らせてたよ。
 アルトが目の前に現れる時って、たいてい王様が酷い目に遭っているからね。

「別に、あんたをお仕置きしに寄った訳じゃないから安心しなさい。
 今日は、マロンがあんたに用があると言うから寄ったのよ。」

 アルトはそう告げると、おいらを王様の机の前に降ろしてくれたの。
 
「おや、マロン嬢が陛下に御用とは珍しい。
 どのような、ご用件ですかな。」

「王様、モカさん、こんにちは。
 今日は、これを渡しに来たんだ。
 宰相から預かって来たの。」

 用件を尋ねて来たモカさんに、おいらが二通の封筒を手渡すと。

「宰相ですか? いったい、何処の国の?」

 封筒を受け取ったモカさんは、思い当たる節が無いと首を傾げてたよ。
 取り敢えず目を通すことにしたようで、開封して中身を検めたの。
 そして。

「何々、これは招待状ですか、新王即位式の。
 へえ、ウエニアール国の国王が代替わりするのですか。
 彼の国の王はそんな歳でしたかな。
 えっ…。」

 王様に書面に記された内容を知らせながら、目を通していたのだけど。 
 途中で驚きの表情を見せ、おいらに視線を向けたんだ。

「ここに新王の御尊名が記されているのですが…。
 マロン嬢と同じ名なのは、偶然の一致ですかな?」

 おいらが宰相名で出された書簡を持っている時点で、偶然の一致でないことは分かっているはずだけど。
 「まさかそんなはずは…。」と、確信が持てない様子で尋ねて来るモカさん。
 おいら、何処から見ても平民の娘だから、信じられないのも無理は無いね。今日もいつもの服装だし。

「それ、間違いなくおいらのことだよ。
 前王のヒーナルをお仕置きに行ったんだけど。
 成り行きで王様になっちゃった。
 これから、よろしくね。」

 おいらが国王になったことを告げ、簡単に事情を説明すると。

「あやつ、欲をかいて身を滅ぼしたか。
 いい気味だわい、今まで、散々無理難題を吹っかけおって。
 それで、そなたがウエニアール国の新王と言うことは…。
 その疫病神を、ウエニアール国に引き取ってもらえると言うことか。」

 ヒーナルが討ち取られたと知り、王様は上機嫌だったよ。
 今まで王様が弱腰なのを良いことに、ヒーナルは色々と無茶な要求を突き付けてたみたいだからね。
 でも、相変わらずこの王様、迂闊だね…。

「誰が、疫病神よ!
 あいにく、私はこの国の辺境に接する『妖精の森』の長なの。
 そう簡単に、『森』を離れられる訳ないでしょう。
 これからも、ずっとあんたを監視しているから気を抜くんじゃないわよ。」

「ひっ!」

 ほら、怒られた。
 王様ったら、アルトに凄まれて情けない悲鳴を上げてたよ。
 幾らヒーナルがいなくなって嬉しいとは言え、目の前にいるアルトを疫病神扱いするなんて。
 怖い物知らずも良いところだよ。

「まあ、まあ、アルト様、そう怒らずに。
 陛下も、余り迂闊な事を口にしないでくださいね。
 ウエニアール国の前王みたいな目に遭わないよう、気を付けてくださいよ。」

 モカさんは、アルトを宥めると共に王様を嗜めると。

「ところで、マロン嬢。
 もう一通の書状には、我が国と相互不可侵の取り交わしがしたいと書かれていますが。」

「うん、おいら、周りの国とは仲良くしたいから。
 先ずは、顔見知りがいるこの国からと思って。
 おいらの即位式に招待した時に、その打ち合わせもしたいと思うの。」

 国王のヒーナル自身が、ならず者みたいなもんだったからね。
 かなり周りの国からヒンシュクをかってたようなの。
 おいらが女王になったのを機に、周りの国と友好関係を築こうと思ってね。
 宰相に、具体的な作業をお願いしたんだ。

「ほう、それは有り難い。
 知っての通り、我が国の戦力はかなり弱体化しておりまして。
 他国と相互不可侵の取り交わしが出来ると助かるのです。
 では、マロン嬢の即位式には、その件についての使節も同行させましょう。」

 おいらの話を聞いて、モカさんはとても上機嫌だったよ。
 この国の上層部は、周辺国との関係に苦労が絶えなかったみたいだもね。
 おいらの即位式には、王様と一緒に使節団を派遣してくれると約束してくれた。

      ********** 

 王宮を後にしたアルトはその日のうちにハテノ男爵領まで帰ったよ。
 領主館へ着いたおいらは、最初にライム姉ちゃんと話をさせてもらったの。
 即位式の招待状を手渡して、ウエニアール国へ行ってからのことをかいつまんで説明したよ。

 そして、グラッセ爺ちゃんと同時に採用したウエニアール国の貴族の件を相談したの。

「あら、マロンちゃん、王様になっちゃったの。
 じゃあ、もう、この辺境には戻ってこないのね、寂しいわ。
 それで、雇い入れたウエニアール国の貴族の皆さんのお話ね。
 みなさん、とても優秀な方々ですし、正直、いなくなると困りますわ。
 ダイヤモンド鉱山の操業も本格化して、人手は幾らあっても足りないくらいですから。」

「おいらも、ライム姉ちゃんには申し訳ないと思っているんだけど。
 あの人達の中に、ウエニアール国に肉親や友人が残って居れば。
 故郷へ帰りたい人が居るんじゃないかなと思って。」

「そうですね、確かに肉親と離れ離れは辛いですわね。
 では、皆さんに希望を伺ってみましょうか。」 
 
 おいらの話を聞いて、ライム姉ちゃんは採用したウエニアール国の貴族を集めてくれたんだ。

 みんなが集まると。

「おいら、ウエニアール国の王様になったの。
 それで、みんなの希望を聞きたいんだ。
 ウエニアール国へ帰りたいか、ここに残りたいか。」

 おいらは、まず最初に単刀直入にそう尋ねると、それまでの経緯を説明したの。

 すると。

「陛下、逆賊キーン一派を討ち取ってくださり、感謝致します。
 今は亡き我が倅も、妻も、草葉の陰で喜んでいる事でしょう。
 して、ウエニアール国へ連れ帰ってくださると勿体ないお言葉を頂戴しましたが。
 既に天涯孤独な身、この地で第二の人生を送ろうと決めておりました。
 この場で、陛下にウエニアール国での地位を全て返上させて頂きたいと存じます。」

 集まった貴族達の一人がそう言うと、他の人達もそれに倣ったの。
 ウエニアール国へ帰りたいと言う人は一人もいなかったよ。

 誰も帰りたいと手を上げないことに、おいらが意外に感じていると。

「陛下、先日申し上げた通りになりましたでしょう。
 ここに居る者達は、ヒーナルが起こした政変で身内を失った者ばかりです。
 辛い記憶が残るあの町に帰りたいとは思えないのでしょう。
 それに、この領地はこれからどんどん発展するので、することは幾らでもあります。
 辛いことを思い出す暇が無くて、ちょうど良いのですよ。」

 グラッセ爺ちゃんが、おいらの隣でそんなことを囁いていたよ。
 身内を人質に取られているが故に、ヒーナルに逆らえない人達と違って。
 ここに居る人達は、もう親族が居ないので、ヒーナルに遠慮なく諫言してたらしいの。
 ヒーナルが間違った政をしようとすると、面と向かって諭すもんだから。
 諫言を疎んだヒーナルは、危険な航海があるシタニアール国へ遣いに出したんだって。
 
「そう、分った。
 それが、みんなの決めたことなら、おいらは何も強制しないよ。
 これまでの忠誠に感謝するよ、今日までお疲れさまでした。
 じゃあ、みんなに、功労金を支払うことにするね。」

 実は、誰も帰国を希望しないのではと、グラッセ爺ちゃんから聞いていたから。
 予め宰相に頼んで、ここに居る人達に支払う功労金を用立ててもらったんだ。
 本人の働きに対する者だけではなく、爵位返上の対価も計算してもらったの。
 そのため、一人当たりがとんでもない額になっちゃった。
 もちろん、取り潰した貴族から没収した私財から捻出したよ。

「みなさん、この領地に残って下さり、感謝致します。
 私も、皆さんと力をあわせて領地の発展に尽くしますので。
 これからも力を貸してください。」

 全員がハテノ男爵領に残ると意思表示したことに、ライム姉ちゃんはホッとした様子で感謝の言葉を伝えていたよ。

 ただ、アルトに協力してもらい、元ウエニアール国の貴族には何組かに分かれて一時帰国してもらうことになったの。
 今まではヒーナルから逃亡している立場だったから、ウエニアール国にある私財を整理できなかったんだ。
 屋敷を処分する必要があるかも知れないし、手元に置きたい思い出の品もあるだろうからね。

     **********

 そして、やっと、住み慣れた辺境の町に帰って来たよ。
 と言っても、この町に居られるのもあとわずかだけどね。

「いやあ、憧れのこの町に住めるなんて夢のようでござるよ。
 しかも、温泉付きの大きな屋敷がすぐに手に入るなんて、助かったでござる。」

 おいらの家にほど近い屋敷の前で、セーナン兄ちゃんが上機嫌にしてたよ。
 町に着いたらすぐに、家を扱っている役場の姉ちゃんの所に連れて行ったの。

 例によって、分厚い本のような目録を持って来て、セーナン兄ちゃんに勧めていたけど。
 やっぱり、決め手は温泉だった。
 おいらやタロウが住む一角だけ、お屋敷街で温泉付きなの。
 タロウも広い家に住み換えする時に温泉が決め手になって、おいらの隣に家を買ったんだけど。
 セーナン兄ちゃんも、温泉があると聞いて即決だったよ。

 ここは辺境の田舎だけど、セーナン兄ちゃんのお母さんも、叔母さんも、のどかな町の雰囲気を気に入ってくれたみたいだったよ。
 セーヒに怯えて暮らす必要が無くなったのだから、ゆっくりと寛ぐことが出来ると良いね。

 さあ、おいら達も、ミンミン姉ちゃん達が待つ家に帰らないと。   
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