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アイイロモンペ

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第十二章 北へ行こう! 北へ!

第309話 おいらが下した裁きは…

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 近衛騎士を始め千人以上の死刑囚が燃え尽きて、真っ白な灰となったとき。 
 その凄惨な光景を目にして、呆然としていた残りの騎士達だけど。

「何と惨い…。」

 そんな言葉があちこちから漏れ聞こえてきたよ。
 こいつら、目の前で起こった出来事が他人事じゃないことが分かっているのかな。

 おいらのすぐ側でやはり呆然としてたトシゾー団長に向かい。

「トシゾー団長、手筈通り騎士達を二つに分けてくれるかな。」

 おいらが指示すると。
 ハッと我に返った様子のトシゾー団長は、部下の騎士達と共に足早に動いてくれたよ。

 予め白いリボンを配って目印を付けてあったみたいで、素早く騎士は二つのグループに分けられたの。

「さて、じゃあ、残りの騎士達の処分を言い渡すね。
 本当は全員死罪にしちゃっても良いと思っているんだけど。
 それよりも生きて罪を償ってもらった方が良いからね。」

 おいらが、騎士達の向かってそう告げると、騎士達からは安堵の声が漏れてたよ。
 でも、安心するのはまだ早いんだけどね。

「まずは、白いリボンを着けてない者。
 全員、お家取り潰し、私財没収の上、西南部辺境の開拓を命じるよ。
 次に、白いリボンを着けている者。
 騎士の身分は安堵、但し西南部辺境地域の魔物退治、街道の治安維持を命じるよ。
 皆に選ばしてあげる、命令を承諾するか、さっきの者と同じく死罪になるか。
 選択肢は二つに一つだよ。」

 ヒーナルが行った幾つもの愚行のせいで、この国の西南部辺境では多くの農村が滅びちゃったの。
 そのため、農業の担い手が減って、食糧生産が落ち込んじゃっているそうなの。
 食糧が不足気味になると、当然値段が上がる訳で…。
 ただでさえ重税を課されて余裕を失っていたところに、それが加わったものだから。
 民の生活は、相当切迫しているらしいの。

 なので、騎士達には潰した辺境の村を復興してもらい、食糧を増産してもらおうと思ったんだ。
 白いリボンを着けてない騎士は、ヒーナルの簒奪に加担した騎士達だよ。
 近衛騎士同様に民衆を虐殺しているだろうから、本来は死罪にするのが妥当なんだけど。
 死罪にしてしまうより、生きて罪を償ってもらった方がずっとお得だものね。

 他方の白いリボンを腕に巻いているグループは、ヒーナルが王位に就いて以降騎士になった若い人ね。
 キーン一族に迎合して、ロクに訓練もせず街でゴロ巻いていたみたいではあるけど。
 『魔王』討伐や村人の大量殺戮に加担してないのに、騎士の身分剥奪や私財没収はやり過ぎだと思ってね。
 貴族や騎士の身分、それに俸禄はそのままで、辺境の警備をしてもらうことにしたの。

 『魔王』を生み出しても、人里近くに入り込んじゃた魔物はすぐにはいなくならないし。
 騎士団がずっとサボっていたせいで、辺境の街道は盗賊が出没するなど治安が悪化してるらしいの。
 何より、今、辺境の開拓を命じた元騎士達が開拓を放棄して逃げ出さないように監視してもらわないとね。

       **********

 おいらが、裁きを下して、その趣旨を説明すると。

「貴様、伝統ある貴族の家を取り潰そうと言うのか。
 しかも、高貴な血を持つ俺達に農民の真似事をしろだって。
 ふざけるのも大概にしろよ。
 ぽっと出の女王の癖して調子に乗りやがって。」

 おや、あの処刑を見てもそんな事を言う『勇者おろかもの』がいるとは…。
 おいら、呆れたよ。
 これでも温情溢れる処分なのに、それが理解できないとは。

「アルト、やっちゃって。」

「任せといて。」

 阿吽の呼吸でアルトは『勇者おろかもの』にビリビリを落としてくれたよ。
 隣に立っていた騎士が、「ひっ!」っという悲鳴と共に慌てて飛び退いていた。

 千人以上をいっぺんに屠れるんだもの、一人くらいは瞬殺だよね。
 青白い炎に包まれた『勇者おろかもの』は、文字通り一瞬にして燃え尽きたんだ。

「さっき言ったでしょう、選択肢は二つだと。
 本当は全員死罪でもおかしくないのに、温情で開拓を命ずるの。
 おいらの裁きに従うか、逆らって死罪になるか。
 どちらかを選ぶんだよ。」

 おいらが重ねて騎士達に告げると。

「分かった、陛下の命に従う。
 貴族の身分も要らねえ、開拓も真面目にする。
 だから、命だけは勘弁しくれ。」

 やっと立場が理解できた様子で、白いリボンの無い騎士が土下座して命乞いしてきたよ。
 流石に身分よりも命の方が大事なようで、他の騎士達もそれに倣ったよ。

 白いリボンを着けた若い騎士達は、みんな素直においらの下した処分に従ったよ。
 辺境の田舎に行くことにはなるものの、今の地位が保証されることを歓迎したみたい。
 貴族とか、騎士とかって、お家の存続や地位に拘るみたいだからね。

        **********

 騎士の決着がついたので、おいらが『将軍様を讃える会』の貴族の方へ向かうと。

「ひっ!」

 という声にならない悲鳴を上げてみんな一歩退いたよ。
 どんな処分が下されるか、戦々恐々としているみたい。

「オッチャン達は、直接民衆を殺めていないみたいだし、死罪はないから安心して。
 選択肢を二つ上げるから、何方かを選んでね。
 言っとくけど、他に選択肢は無いよ。
 どうしてもいやだと言うなら、こうなってもらうからね。」

 さっきみたいに駄々を捏ねられると面倒なんで予め釘を刺したよ。
 おいらの言葉に合わせて、アルトが廃人になったセーオンを出してくれた。

「分かった、陛下の御裁きに従う。
 だから、そんな物騒なモノはしまってくれ。」

 もはや生ける屍と化しているセーオンを、何度も見せ付けられるのは堪えるようで。
 貴族連中は、あっさりと折れたよ。

「真面目に働くと誓うのなら、貴族の身分は安堵するよ。
 但し、最下級の官吏に格下げで、それに合わせて俸禄も最低水準にする。
 真面目に働くと誓えないのなら、貴族の身分は剥奪、私財没収だよ。
 罪状は、怠業と公金横領だね。」

 ヒーナルが王になってから、大増税をしたらしいけど。
 その大部分がキーン一族と取り巻きの貴族・騎士の私腹を肥やすのに使われていたらしいの。
 そればかりか、仕事をサボって昼間からサロンで宴を開いていたけど。
 お酒も、料理も全て宮廷のお金を使っていたんだって。
 八年以上毎日、公費を横領して飲み食いしていたんだもの、重罪だよね。

 おいらにそれを指摘されて、貴族達は青い顔をしてたけど。

 やがて。

「分かった、真面目に働く、下っ端でも良い。
 だから、お家取り潰しだけは勘弁してくれ。
 そんなことになったら、女房や隠居した親父に殺されちまう。」

 やはり貴族はお家が大事なのか。
 一人が降格を受け入れ貴族に留まる事を望むと、他の連中もそれも倣ったの。
 先日から終始アルトに逆らっていた『勇者おろかもの』も素直に従ってたよ。
 廃人となったセーオンの姿を見せ付けられたら、文句も言えなかったみたい。
 そりゃそうか、ついさっきも、逆らって一人消されたばかりだものね。
 アルトに逆らったらどんなに目に遭うか、わからないはずは無いか。

「そう、妖精の前で口にした誓約に時効は無いと肝に命じなさい。
 ちゃんと真面目にお務めをしているか、抜き打ちで見に行くからね。」

 貴族達全員が真面目に働くと誓約すると、アルトがそんな脅しをしてたよ。

 貴族達はみんな青い顔をしてた。
 こいつ等のことだから調子の良い事を言っておいて、こっそりサボるつもりだったんだろうね。

      **********  

 キーン一族に与した騎士と『将軍様を讃える会』の貴族の処分が決まったんで、おいら達は王宮に戻って来たよ。
 ちなみに、辺境の開拓を命じた元騎士達はアルトの『積載庫』に監禁している。
 辺境行が嫌で、私財を持って逃亡するかも知れないからね。
 処分の対象となる全ての騎士の私財没収が終るまで、監禁しておくんだ。

 王宮に戻ると、クロケット宰相とグラッセ爺ちゃんが迎えてくれたよ。

「陛下、お疲れさまでございました。
 して、キーン一族に与した貴族、騎士の処分は恙無くお済でございますか。」

「うん、一人追加で死罪にした他は、打ち合わせ通りに進んだよ。
 トシゾー団長から取り潰す騎士家のリストは受け取っていると思うけど。
 私財の没収を大至急お願いね。」

 クロケット宰相の言葉に答えて、概ね予定通りに処分が済んだことを報告すると。

「それはようございました。
 では、後は私だけでございますな。
 陛下、私は不本意とは言え逆賊ヒーナルの治世に協力して来た者でございます。
 悪政の責任をとって職を辞したいと存じます。
 陛下がそれで不足と申されるのであれば、如何様な処分でも受ける所存でございます。」

 いきなり、クロケット宰相が宰相を辞めると言い出したよ。
 ヒーナルの下で宰相をしてきたことが後ろめたい様子なんだ。

「クロケット宰相だって、家族を人質に取られて無理やり働かされてたんでしょう。
 宰相に何の非も無いとおもうよ、おいらは。
 それに、宰相が辞めちゃったら、誰に官吏の取りまとめをお願いすれば良いの。」

「慈悲深いお言葉を賜り感謝申し上げます。
 しかし、前宰相の腹心で、陛下の血縁でもあるグラッセ子爵が戻られたのです。
 ここは、グラッセ子爵に宰相の地位に就いていただくのが妥当かと存じます。」

 簒奪騒動の時に殺害された宰相、グラッセ侯爵の弟にあたるグラッセ爺ちゃんを適任だと推すクロケット宰相。
 でも、グラッセ爺ちゃんは。

「私は宰相なんてやらんぞ。
 と言うより、私はマロン陛下をご案内するために、一時的にここへ戻っただけだからな。
 私はこの機会に正式に子爵位を返上し、私財を整理するつもりでいたのだ。
 私は、トアール国のハテノ男爵領に骨を埋めるつもりなのでな。」

 まだ、二十歳になったばかり若い領主夫妻が領地の立て直しに奔走しているハテノ男爵領。
 前領主のゼンベー爺ちゃんや家宰のセバス爺ちゃんが、老体に鞭打って頑張っているのだから。
 自分も若いライム姉ちゃん達の力になりたいと発憤したそうだよ。
 ダイヤモンド鉱山も再開して、ハテノ男爵領の発展が楽しみだって。

 でも、そうすると、パターツさんはどうするんだろう。
 この町においらより一つ年上の娘さんがいたはずだよね。 
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