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第十二章 北へ行こう! 北へ!

第305話 魔王誕生!…でも、冬眠する魔物はダメだって

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 即位の宣言をしただけなので、イマイチ実感が湧かないけど。
 それで、おいらはウエニアール国の女王になったらしいよ。

「じゃあ、女王として最初の仕事をするね。
 この国では、犯罪を犯した貴族や騎士に対する罰則は法で定められているのかな?」

 目の前のセーヒを裁くべく、貴族達に問い掛けると。

「民が犯した罪については、法による定めがございますが。
 貴族や騎士に関しましては、裁く権限を持つのが陛下だけとの事情から法の定めはありません。
 陛下の行動は何人にも縛られないとの建前になっておりますので。
 ですから、御心のままに処分を下されて結構でございます。」

 そんな答えが返って来たよ。
 以前、にっぽん爺が王侯貴族が法そのものだと言ってたけど、まんまだね。
 それもどうかと思うけど、今回はその方が都合が良いの。

 おいらの下す選択肢が、法に用意されてる訳が無いもんね。
 『魔王』を復活させるためのイケニエの刑なんて。
 
「それじゃ、セーヒは『魔王』を倒した罪及び民を虐殺した罪で死罪ね。
 死罪の方法は、新たな『魔王』を生み出すために魔物の餌にする。
 近衛騎士団も同罪で死罪。それと、お家取り潰しで私財没収ね。
 近衛騎士団は、民に報復を受けてもらったうえで、アルトに処分してもらう。
 キーン一族派の貴族と他の騎士の処分は、時間が無いから後回しにするよ。」

 おいらは即位する前に口にしていた処分を正式に下したの。
 とにかく、『魔王』の復活は一刻も早くしないといけないからね、これから直ぐに行くことにしたんだ。
 おいらが『魔王』を生み出しに行っている間、近衛騎士の私財没収を進めておくようにと貴族達に指示したよ。

「陛下、本当に『魔王』を人の手で生み出すことが出来るのですか?」

 おいらの下した沙汰を聞いて、一人の貴族が尋ねてきたの。

「おいら一人じゃ無理だけど、アルトが手伝ってくれたら出来るよ。
 アルトは以前も『魔王』を生み出しているから。
 『魔王』を生み出した時、おいらも一緒に居て見てたもん。」

「先ほども仰ってましたが、アルト様とは何方様なのでしょうか?」

 そう言えば、ここではアルトを紹介してなかったね。

「アルトは、おいらが住む町の近くにある妖精の森の長なんだ。
 もう何年も、とってもお世話になってるんだ。
 今回もアルトにここまで連れて来てもらったんだよ。
 空を飛んで。」

 おいらがアルトを紹介すると。

「ええ、任せておきなさい。
 キッチリと『魔王』を仕立て上げて、魔物の統制を取らせるわ。
 元通りにげっ歯類系の魔王を生み出して。
 ネズミの魔物を人里から遠ざけるように命じておくから安心して。」

 アルトは、自信満々で宣言してたよ。
 その場にいた貴族は、初めて目にする妖精に目を丸くしてたけど。
 グラッセ爺ちゃんが、アルトの凄さを皆に説明してくれたよ。
 シタニアール国の王宮で目にした、生きてる五人の騎士を一瞬にして消し去るさまをね。

 その話を聞いて、皆、引いてたけど、アルトの凄さは理解したみたい。
 誰一人として、『魔王』を生み出すことに疑義を差し挟む人は居なくなったよ。

      **********

 そんな訳で、おいら達は早速『魔王』を生み出しに行くことにしたの。
 数日王都を離れると告げ、グラッセ爺ちゃんとパターツさんには王宮に残ってもらったよ。
 おいらとオランを受け入れる準備をして貰うためにね。

 目指すは、南西の辺境の更に西にある『魔物の領域』。
 そこで、げっ歯類の魔物を捜して『魔王』に仕立てるの。

 今回は急ぎだから、アルトは全力で飛んでくれると言ってた。
 とは言え、魔物の領域までは遠いし、魔物の領域そのものも無茶苦茶広大なんで一日では着かないみたい。

 アルトの『特別席』の中で、過行く景色を眺めていると。

「マロン、さっきは勝手な事を言って悪かったのじゃ。
 マロンが王位など欲してないと分かっていたのに。
 キーン一族や腰巾着の貴族共が余りに愚かなことをほざく故。
 つい、カッとなってしまったのじゃ。」

 そんな謝罪の言葉を口にしたオランは、心底申し訳ないって顔をしてたよ。

「気にしなくて良いよ。
 おいらも、あんな奴らの中から王が立つのは嫌だと思ってたから。
 それに、オランからおいらを支えてくれると言って貰えて嬉しかった。
 ただね、おいら、父ちゃんの帰りをずっと待ってたんだ。
 やっと、父ちゃんと一緒に暮らせると喜んでたのに…。」

 父ちゃんと一緒に暮らせなくなることが、寂しいだけだよ。
 流石に、何の血縁もない父ちゃんを王宮に住まわせるのは不味いことくらいおいらにもわかるもん。

「それなのじゃが、マロンの義父殿にはやって欲しいことがあるのじゃ。
 マロンから頼んでみてもらえないじゃろうか。
 義父殿だって、マロンに頼られたら嬉しいじゃろうし。
 上手くいけば、ずっと近くに居られるのじゃ。」

 オランはそう言うと、とあるプランをおいらに提案してきたの。

「うん、それ良いと思う。
 そんなことが出来れば、街が住み易くなるし。 
 父ちゃんにピッタリな仕事だと思う。」

 オランは、おいら達が住む辺境の町を見ていて気付いたと言うけど。
 それは、あの辺境の町以外では、何処の町でも頭を抱えている問題だったの。
 オランの計画が上手くいけばその問題を解決できるし、父ちゃんに近くにいて貰えるよ。

 『魔王』の再生が上手くいったら、さっそく父ちゃんにお願いしてみることにしたよ。

 そんな話をしている間にも、外の景色は凄い速さで過ぎて行き。
 ウエニアール国の辺境を過ぎて『魔物の領域』へ入って来たの。
 例によって、外では翅の生えた蛇ギーヴルが飛び交うようになったよ。 

「『魔王』か。げっ歯類系の魔物って、やっぱり『シマリス』を捜すのかな。
 ネズミの魔物じゃ、『黒死病』を持っていそうで魔王にしたくないよね。」

 アルトが何処に向かっているのかは知らないけど、きっと何かアテがあるんだと思う。

「しかし、『シマリス』だと、不心得者がまた冬眠中に狙うかも知れんのじゃ。
 アルト殿が、そんな弱点のある『魔王』を生み出すとは思えんのじゃ。」

 そうだよね。
 そもそも『シマリス』なんて小動物系の魔物が、どうして魔王になったんだろう?
 自然発生したとは思えないんだけど…。
 アルトみたいな存在が、悪ふざけで生み出したとしか思えないよ。

    **********

 まあ、おいら達が心配するまでも無く、アルトは『魔王』候補を探し当てたんだ。
 途中、魔物の領域で一泊して、二日目のこと。

「うわぁ…。
 あれなに? あれもげっ歯類系の魔物なの?」

 『積載庫』から降ろされると、目の前にはとんでもない数の魔物が群れを成していたんだ。
 百匹近くいるかも知れない、しかも、それぞれがドラゴンかと思うくらい巨大なの。

「これ、『カピパラ』の魔物よ。
 げっ歯類系の魔物の中で一番大きいの。」

 アルトが言うには、この『カピパラ』の魔物、魔物の癖に余り狂暴ではないんだって。
 群れを成して生活し、群れの中では絶対に争わないらしいよ。
 ただ、群れに外敵が侵入すると、魔物らしい凶暴さを見せて撃退行動をとるそうなの。

「『カピパラ』の魔物は大人しいから、躾けるのが楽だと思うわ。
 何よりも、『シマリス』と違って冬眠しないから。
 眠っているところを討ち取られるなんて、マヌケな事にはならないと思う。」

 アルトは、『シマリス』の魔王の復活も考えたそうなんだけど。
 『魔王』のレベルを盗み取ろうとする愚か者が再び現れた場合、『冬眠』は致命的だと思って考え直したそうだよ。

「じゃあ、さっさと『魔王』を生み出して帰りましょうか。
 ほら、出番よ、さっさと逝って来なさい!」

 アルトはそう言うと、『積載庫』からセーヒを放り出したの。 
 目の前に群がっている『カピパラ』の魔物を目にして狼狽するセーヒ。

「お、おい、本当に俺をあいつに食わせようってのか。
 ふざけるな、俺は王太子なんだぞ、名門キーン一族の跡取りなんだぞ。
 その俺が、何で魔物の餌にならんといかんのだ。」

 この期に及んで、まだそんな上から目線でモノを言うか…。
 両腕をへし折られて、もう何の抵抗も出来ないくせして。

「ええい、煩い! さっさと逝けば良いの!」

 そんな抗議は無視で、アルトはカピパラに群れに向かってセーヒを放り投げたの。

「おい、止めろ。悪かった、俺が悪かったから赦してくれ。」

 『カピパラ』の魔物を間近に見てセーヒは泣き言を言い始めたよ。
 すると、群れの中から一際大きな『カピパラ』がセーヒに近付いてきたの。
 どうやら、群れのボスで、セーヒを外敵とみて排除に動いたみたい。

 そして、その『カピパラ』は鋭い前歯でセーヒの首筋に噛みついたんだ。

「ギャーーーーーー!」

 ほんの一噛みだったよ…。
 断末魔の悲鳴が聞こえ、首を噛まれた状態でカピパラの口にぶら下がるセーヒが見えた。
 急所を噛み切られたようで、セーヒは力なく垂れ下がり、その足元には『生命の欠片』の山が出来てたよ。

 『カピパラ』の魔物が『生命の欠片』を吸収するのを確認すると、アルトは近付いて行ったんだ。
 そして尋ねたの。

「あなた、私の言葉が分かるかしら?」
 
「俺、言葉わかる。
 お前、敵か?
 俺、争い望まぬ。縄張りから去るなら見逃す。」

 アルトに問い掛けに、ちゃんと返事をしたの。
 しかも、争いを望まないなんて、自分の意思を表明したのには驚いた。

「凄いのじゃ。
 アルト殿の言葉通り、魔物なのに本当に温厚なのじゃ。」

 オランも驚いていたよ。

「私は敵じゃないわ。用が済んだらすぐに立ち去るわ。
 あなた、自分が『魔王』になったのは理解している?」

「『魔王』? 俺、それ分からない。
 ただ、今までより、力が湧き出して来るのわかる。
 力だけじゃない、今までなかった知恵が湧き出して来る。
 これが『魔王』と言うモノか?」

「そうよ、あなたは同族の中で一番強く、一番賢い。
 全ての同族を統べる王なの。
 これから、多くの同族があなたの庇護を求めてやって来るわ。
 あなたは、その力で同族を護りなさい。
 そして、同族に命じるの、他種族を襲うなと。
 今、ネズミの魔物が人の村を襲って困っているのよ。
 止めさせてもらえないかしら。」

 アルトは随分と長い言葉を話して、お願いしてたけど。
 やっと片言で話せる状態なのに、あんな複雑な言葉を果たして理解できるのかな。
 おいらがそんなことを考えていると。

「分かった、戦い、お互いのため、ならない。
 人、強い、ネズミ、やられるだけ。
 ネズミ、来たら命じる。人里、近付くなと。」
    
 なんと、今知恵を付けたばかりなのに、話が通じちゃったよ。
 『カピパラ』の魔物って実は賢いのかな。

 すると、アルトはそこから離れておいら達のもとへ戻って来たの。

「無事、『魔王』は誕生したわ。
 やっぱり、『ハエ』に比べれば格段に賢いわね。
 調教する手間が省けて良かったわ。」

 そんな言葉を口にしたアルトはご機嫌だったよ。
 余計な手間を掛けずに済んだって。
 うん、おいらも、アルトがカピパラを何度も殴りつけて躾けるものだと思ってた。

 アルトは言ってたよ。
 大きな群れを従えるボスなので、それなりの経験値はあったんだろうって。

 拍子抜けするほど呆気なかったけど、無事『カピパラ』の魔王が誕生したよ。
 
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