ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!

アイイロモンペ

文字の大きさ
上 下
303 / 848
第十二章 北へ行こう! 北へ!

第303話 おいら、王になるよ

しおりを挟む
 騎士団に対する取り敢えずの対処も終わり、おいら達は王宮に戻ることにしたの。
 アルトが事前に聞いていた謁見の間に向かって廊下を飛んでいると。

「アルト様、お帰りなさいませ。
 王宮内にいる貴族に招集をかけ、大分集まって参りました。
 マロン姫様のお支度を急ぐ必要があるので、こちらにお入りください。」

 謁見の間近くの廊下で待っていたパターツさんが、アルトを見つけて声を掛けて来たの。
 どうやら、冒険者のような格好は拙いようで、相応に身なりを整えるつもりらしいよ。

 部屋で待ち構えていたのは、王族の証を確認した五人のおばさんと使用人らしき若いお姉さんが十人ほど。

「アルト様、ここでマロン姫様とオラン殿下を降ろしてくださいませんか。」

 パターツさんにそう促されて、おいらとオランが部屋に出されたの。
 すると、五人の貴族婦人の中心人物と思わしきおばさんが。

「皆さん、手筈通りにお二人の身支度をお願いしますわよ。
 時間が無いので急いでください。」

 その指示を飛ばすと同時に使用人のお姉さんが寄って来て、有無を言わさず身包みを剥がれたよ。

「あら、可愛い。
 姫様の婚約者が女の子とは、おかしいと思ってましたが。
 ちゃんと、男の子だったのですね。」

 そんな声に釣られて振り向くと。
 少し離れたところで、オランがおいらと同じくスッポンポンにされてた。

 お姉さん達は手際よくお湯で浸した布でおいらの体を隈なく拭き清めると。
 流れるような作業で、おいらの服装を整えていったの。
 それと同時進行で、一人がおいらの髪をブラシで梳いていき。

 気付くとおいらの前に置かれた鏡台には見知らぬお姫が映し出されていたよ。

 思わず、「誰?」と呟くと。

 「マロン、そんなお約束のボケは言わんで良いのじゃ。」

 こちらも、いかにも王子様でございという格好のオランにツッコまれたよ。

 ボケはともかくとして。
 真っ白なヒラヒラのドレスを纏い、髪にチョコンとティアラを乗せた姿は正真正銘のお姫様だったよ。
 でも、ドレスを着たのなんて、ネーブル姫に着せられた時だけで…、
 普段はズボンのせいか、オマタの辺りがスースーしてなんか落ち着かないよ。

「まあ、マロン姫様、良くお似合いですわ。
 王宮のクローゼットの中に、サイズの合うドレスがあって幸いでした。」

 おいらが謁見の間で王位に就くことを宣言すると知り。
 パターツさん達が大急ぎでドレスを捜してくれたそうなの。
 みんなで手分けして、王宮の衣裳部屋を漁ったそうだよ。

「今日は、それで良いけど。
 マロンが正式に即位する時には、新しいドレスを仕立てないとね。
 シフォン、またお願いするわよ。」

「任せてください。
 マロンちゃんの為とあらば、飛び切りのドレスを仕立ててみせます。
 お爺ちゃんにお願いして、マロンちゃんに相応しいドレスをデザインしてもらいますね。」

 アルトとシフォン姉ちゃんがそんな会話を交わしてたよ。
 どうやら、にっぽん爺のデザインで『妖精絹フェアリーシルク』のドレスを仕立ててくれるつもりらしいね。
 
     **********

 身支度が整うと。
 パターツさん達に付き添われて、おいらとオランは謁見の間に向かったんだ。 

 貴族が集まってきている最中なのか、謁見の間の扉は開かれたままだったよ。

「グラッセ子爵、久方振りに姿を現したかと思えば。
 王宮内にいる貴族を全て、謁見の間に集めろとは何事ですかな。
 私はまだ執務中で、あの簒奪王の戯言に付き合っている暇は無いのですがな。」

 事情を詳しく説明してない様子で、集合を掛けたのがヒーナルだと思っているみたい。
 ヒーナルが謁見の間に貴族を集める時は、たいていロクでもないことだったようで。
 ヒーナルに文句を言う訳にはいかないので、直接召集を掛けたグラッセ爺ちゃんに不満をぶつけてるみたい。

「これから、正式に説明いたしますが。
 簒奪騒動から逃れていたマロン殿下が帰朝されまして。
 逆賊ヒーナル以下、キーン一族を成敗しました。
 これからマロン殿下が王位に就かれることを宣言されます。」

 グラッセ爺ちゃんが、苦情を言った貴族に答えると。

「なに、マロン殿下とは、故第三王子のご息女か。
 グラッセ家のキャロット姫がお産みになられた。」

「はい、間違いございません。
 王家の証も確認済みでございます。」

「おお、今日は何とめでたい日なのだ。
 それで、マロン殿下は今何処におられるのだ。
 早く、御尊顔を拝したいものだ。」

 グラッセ爺ちゃんと貴族の一人がそんな会話を交わしているとこへ。
 割って入るように、パターツさんが声を掛けたの。

「お父様、マロン殿下の御支度が整いました。」と。

 その言葉を受けてグラッセ爺ちゃんはおいらを玉座に方に導いてくれたよ。
 それと同時にグラッセ爺ちゃんと会話していた貴族は、召集された貴族達を整列させてくれたの。

 おいらが案内されたのは一段高くなった場所に置かれた玉座の横。
 絢爛豪華な玉座の横には、少し小さめの立派な椅子が二つ並べて置かれたよ。

 玉座に近い席においらが、おいらの隣にオランが腰を据えると。

「皆の者、今日は素晴らしい報告がある。
 先王が第三王子のご息女マロン殿下が帰朝あそばされた。
 逆賊ヒーナルは既に亡く、セーヒ、セーオンも捕縛した。
 既にヒーナルの妃も、娘ヨーセイもキーン一族から離縁して実家へ戻っておる。
 逆賊キーン一族は今日を持って断絶したのだ。
 これから、マロン殿下の御言葉を賜る。」

 グラッセ爺ちゃんが居並ぶ貴族達に向かって告げたんだ。

 すると、貴族達の中から。

「不敬を承知でお尋ねします。
 マロン殿下は、生後間もなく政変に巻き込まれ失踪しております。
 そちらにいらっしゃるお嬢様が本当にマロン殿下だという証拠はございますか。」

 おいらが本物かとの疑問が投げかけられたよ。

「マロン殿下の乳母をしていたパターツです。
 こちらにおられる方は、九年前私と共に落ち延びたマロン殿下に間違いございません。
 既に、王家の証も確認しております。」

「ええ、私達旧王族派の貴族夫人五人で確認させて頂きました。
 マロン殿下で間違いございません。
 疑義があれば、一緒に確認したキーン一族派の夫人達にも証言させますが。」

 それに答えたのは、パターツさんと王族派の貴族夫人の一人。
 更に、アルトが『積載庫』からキーン一族派のご婦人五人を出して証言するように命じたの。
 もちろん、アルトのヤバさを知ってるから正直に証言したよ。

「不敬な事を口にして申し訳ございませんでした。
 マロン殿下が間違いなく、ご本人であることは納得致しました。」

 おいらに王族の証があると敵対派閥の夫人が証言したこと、それが決め手になったみたい。
 おいらが偽物じゃないかとの、貴族達の疑念は晴れたみたい。

 なので、次はおいらが話をする事になったよ。
 グラッセ爺ちゃんに促されて玉座の前に立ち。

「初めましてだね。
 おいらが、マロンだよ。
 キーン一族を排除しちゃったし。
 それで後のことは知らないじゃ無責任だから。
 おいらが王位に就くことにしたよ。
 キーン一族が無茶苦茶やって混乱したこの国を立て直したいから。
 みんな協力してね。」

 おいらは貴族達に向かって王位に就くと宣言したんだ。
 威厳もへったくれもない宣言だって?
 当たり前じゃない、おいら、平民として育って来たんだもの。
 王族としての話し方なんて出来ないし、これがおいらの個性だから。

「あの…。先程からキーン一族を排除したと仰せですが。
 殿下は何処から兵を率いていらしたのでしょうか。
 そもそも、私は朝からこの王宮で執務をしていましたが。
 逆賊キーン一族を討ち取るような騒動に覚えが無いのですが。
 何時の間にそのような事を…。」

 ヒーナルは騎士団という暴力集団を率いて、貴族達を従わせていたんだもの。
 そんなキーン一族を討ち取るなんて、相当な数の手勢が必要だと思うのも仕方ないね。
 しかも、それをしようとすると大騒動になると考えるのも無理ないか。

「兵なんて率いていないよ。
 キーン一族の排除は二人だけでやったんだ。
 おいらとここに居るオランの二人で。
 キーン一族排除が、信じられなければ証拠を見せてあげるね。」

 おいらが答えると、アルトがヒーナル達を貴族達の目の前に出してくれたよ。

「ヒーナルが死んでる…。
 セーヒは腕が砕かれてるし。
 セーオンに至っては廃人だぜ。」

 床に転がるキーン一族を取り囲んだ貴族達から、そんな声が聞こえて来たよ。

「おい、誰かそこにいる謀反者のガキを捕えるんだ。
 俺をこんな目に遭わせたんだ、八つ裂きにしてくれる。」

 腕を砕かれただけで、唯一正気を保っているセーヒは、周りの貴族においらを捕えるように命じるけど。

「黙れ、この逆賊め!」

 周囲の貴族は皆旧王族派のようで、その言葉が反発をかって周りの貴族達から蹴り回されてたよ。

「マロン殿下、良くぞお帰りになられました。
 我等ウエニアール国の貴族一同、殿下の御帰りを心からお慶び申し上げます。」

 ひとしきりセーヒを蹴り回した後、貴族の一人がそんな言葉と共に跪いたの。
 すると、それに倣うように謁見の間に居並ぶ貴族達が跪き、おいらの帰りを歓迎してくれたよ。

 逆らう者を容赦なく粛清すると言う恐怖政治を布いて来たキーン一族だから。
 その変わり果てた姿を確認するまで、おいらを支持することは出来なかったみたい。
 迂闊においらを支持して、キーン一族に目を付けられたら堪らないから。

 キーン一族が事実上根絶されたのをその目で確かめて、やっと安心できたみたい。
しおりを挟む
感想 128

あなたにおすすめの小説

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

孤児院の愛娘に会いに来る国王陛下

akechi
ファンタジー
ルル8歳 赤子の時にはもう孤児院にいた。 孤児院の院長はじめ皆がいい人ばかりなので寂しくなかった。それにいつも孤児院にやってくる男性がいる。何故か私を溺愛していて少々うざい。 それに貴方…国王陛下ですよね? *コメディ寄りです。 不定期更新です!

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

処理中です...