上 下
297 / 819
第十二章 北へ行こう! 北へ!

第297話 この子はいきなり何を言い出すかな…

しおりを挟む
 キーン一族とは縁を切って実家に帰ると宣言した王太子セーヒのお妃様。
 生ける屍と化した王子セーオンを放置したまま、ヨーセイ王女を連れてサロンを出て行ったよ。
 ピクピクと痙攣を繰り返す兄セーオンを心配している様子のヨーセイとは対照的に。
 サロンを出て行く時のお妃様は、とっても晴れ晴れとした表情で足取りも軽かったよ。
 よっぽど、キーン一族の男達に嫌悪感を感じてたんだね。
 まっ、それも仕方がないか。
 三代揃って容姿が醜悪なだけじゃなく、女好きで乱暴者って、品性も醜悪だったからね。

「どうしよう、これじゃ、王様のなり手が無いよ。
 足元で粗大ゴミになってるこのブタをお飾りの王にでもしておく?」

「そうね、こうなっちゃえば、もう悪さも出来ないだろうし…。
 それも良いかも知れないわね。
 キーン一族は事実上断絶で、もうマロンが狙われる心配は無くなったし。
 後は、この王宮にいる連中を脅して、耳長族に手出しするなと徹底しておけばいいかしら。
 王宮の庭か、町の広場で、捕えた騎士共を見せしめに処刑しましょう。
 そうすれば、耳長族狩りをしようなどと愚かな事を企む輩も居なくなるでしょう。」

 見せしめって…、捕らえた騎士は千人以上いるよ。
 妖精族では『殺しはご法度』だったんじゃ、しかも掟を作ったのはアルト自身のはず。
 それって、良いの?

 まあ、殺されても文句言えない立場だとは思うけどね。
 この国の騎士団ったら、自分達で『黒死病』の原因を作っておいて。
 いざ疫病が発生すると、生きた村人ごと村を焼き払うなんて暴挙をしている連中だもんね。
 
「ちょっと、待ってよ。
 この廃人を玉座に就けるだなんて、我が国の権威が失墜するだけじゃねえか。
 しかも、騎士を千人も処刑するだと?
 騎士は我が国を護る要だぞ、千人も減ったら他国に侮らちまう。
 それどころか、反乱を起こした愚民共すら鎮圧できなくなっちまうぜ。
 そんなこと、俺は断じて認めねえぞ。」

 おや、この場に及んでアルトに歯向かう『勇者おろかもの』がいたよ。
 ここにいる貴族の雰囲気は皆似たり寄ったりだけど、キーン一族同様、ガラの悪いの。
 言葉遣いも、貴族というより冒険者みたいだ。

「オッチャン、オッチャン、あんな騎士が千人いても何の虚仮脅しにもならないよ。
 おいらとオランの二人だけで打ちのめしちゃったんだから。
 聞いたこと無いかな、『ウサギに乗った二人の幼女』って。」

 アルトに抗議したオッチャンに、おいらが騎士のダメさ加減を話すと。
 アルトはオランを『積載庫』から降ろして。

「そうね、辺境で騎士を倒したのって、マロンとこの子の二人よ。
 辺境にいた騎士共、そこそこレベルはあるようだけど…。
 鍛錬を怠っているものだから、こんな小さな子供達に負けちゃって情けないわ。」

 騎士が余りにも不甲斐ないと言って呆れてたよ。
 その場にいた貴族達は、千人余りの騎士が目の前の幼子おさなご二人に倒されたと知らされて絶句してた。

「それに反乱って、どう考えても重税を課して贅沢している王侯貴族の方が悪いんじゃん。
 自分達が間違ったことをしてるのに、民を弾圧する騎士なんて居ない方がましだよ。」

「マロンの言う通りだと思うわ。
 騎士って民を護るのが仕事でしょう、護るべき民に刃を向けるなんて言語道断だわ。
 民の弾圧みたいな弱い者イジメしかできないのなら、百害あって一利無しね。
 騎士が減ることで反乱が抑えきれなくなって、国が亡ぶなら自業自得でしょう。」

 おいらの言葉に相槌を打ったアルト。
 こんな国滅んだ方が良いと言わんばかりに、冷たく言い放ったよ。

「愚民共が貴族に反旗を翻すことなど赦せる訳がねえだろうが。
 そんなことを赦してしまえば、国が乱れちまう。
 如何にして愚民共を力で抑え込むかが、安泰な統治の秘訣でじゃねえか。」

 尚もアルトに口答えする『勇者おろかもの』。さすが取り巻きだけあって、考え方がキーン一族そっくりだよ。

      **********

「マロン、おぬし、この国の王になるのじゃ。
 平民育ちのマロンは、王族などという面倒な立場は遠慮したいのじゃろうが。
 こんなうつけ者ばかりの国では、民が気の毒なのじゃ」

「へっ? オラン、何を藪から棒に?」

「こやつら、自分達を何様だと思っているのじゃ。
 自分達貴族が何か特別な存在だとでも勘違いしているのではなかろうか。
 本来、王とか、貴族などいなくても、民は困らないのじゃ。
 王や貴族は、外敵から民を護るため、世の中の秩序を保つために民から統治を任されているのじゃ。
 王や貴族は民を支配するものではなく、より良い国を築くために民に雇われた公僕なのじゃ。
 税は、民を護り、民が住み易い国を造るために働く対価として、王侯貴族が受け取るモノなのじゃ。 
 なのにこやつら、何を勘違いしたか、雇い主である民を愚民などと見下しているのじゃ。
 自分達が民の血税で養ってもらっているという意識が全くないのじゃ。
 こんなゴミ共をのさばらせておいたら、民が可哀想なのじゃ。
 マロンが王となってゴミ掃除をするのじゃ。」

 突然、おいらに王になれとか、突拍子もない事を言い出したオラン。
 オランにその真意を尋ねると。
 オランはよほど腹に据えかねていたのか、早口で捲し立てられちゃった。

「何だ、この無礼なガキは。
 平民の癖に知ったような口を利きやがって。
 税を搾りとることは、愚民共を支配する王侯貴族のとって当然の権利なんだよ。
 何が、民に雇われた公僕だって、貴族を侮辱するのもいい加減にしろ!」
 
 くだんの『勇者おろかもの』は、服装からオランを平民と決めつけ、怒鳴り付けたの。
 でも、オランが怯むことは無く。

「無礼なのはどちらなのじゃ。
 私は、シタニアール国の第四王子、オランジュ・ド・トマリなのじゃ。
 我が一族の家訓は、『王族は民の代表者たれ』なのじゃ。
 我が国の歴代の王は、それを実践しているのじゃ。
 一族の家訓を、私は間違っていないと確信しているのじゃ。」

 一国の王子が勝手に他国の王宮で啖呵を切るのもどうかと思うけど…。
 王家の風格というものなのかな、オランが威圧気味に話すと貴族達は沈黙しちゃったよ。

「あら、オラン、中々良い事を言うわね。
 そうね、こんな国放っておいても良いかと思ったけど。
 こんなおバカな貴族ばかりじゃ、またぞろ耳長族にちょっかい出す輩がいるかもね。
 マロンに国王になってもらって、不良貴族を一掃した方が良いかも知れないわね。」

 何か、話が不穏な方向に向かっているよ…。
 アルトまで、その気になって来たみたいだし…。

 おいらが抗議しようとした時のこと。

「それで、オラン、あなたはどうするつもりなの?
 まさか、僅か九歳のマロン一人に、この国を押し付けようってんじゃないでしょうね。
 マロンは平民育ちで、王宮の経験なんか無いのよ。
 見知らぬ土地で、周りは味方か敵か分からない大人ばかり。
 オランは、そんな場所へマロン一人を放り出そうっての。」

 何故か、アルトはおいらの意思を尋ねるのではなく、オランにそう問い掛けたの。
 オランは、少しの間、考え込んでた様子だったけど、顔を上げると…。

「マロン、私がいつでも隣にいるのじゃ。
 私がマロンを支えると誓うのじゃ。
 だから、マロン、この国の王になるのじゃ。」

 唐突においらの手を取って、言ったんだ。

「ふぇ、えっ?」

 おいらが混乱していると。

「良く言ったわ、オラン。
 その言葉、忘れるんじゃないわよ。
 妖精の前で行った誓約に時効は無いからね。」

 オランの返事に満足気に微笑んだアルトが、そんなことを言ってたよ。

 ちょっと、二人とも…、おいらの意思を確認するつもりは無いのかい。 
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

転生幼女。神獣と王子と、最強のおじさん傭兵団の中で生きる。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,057pt お気に入り:14,341

【完結】三角関係はしんどい

恋愛 / 完結 24h.ポイント:298pt お気に入り:16

鬼子母神

歴史・時代 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:8

ねえ、番外編

BL / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:855

石橋を叩いて渡れ、冒険者人生

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:18

プラトニックな事実婚から始めませんか?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:6,109pt お気に入り:22

処理中です...