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第十二章 北へ行こう! 北へ!

第294話 王に相応しくない奴ばかりだよ…

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 事後処理のために今の王族を連れて来たと聞かされていたけど。
 アルトが連れて来たのは女の人が二人だけ、それしかいないのかと思ったら。
 他にもいた王族は、一族の中の権力争いで粛清されちゃったそうで。
 ここにいる四人だけしか、生き残らなかったみたい。
 そんな殺伐とした一族って、凄くイヤ…。

「おい、貴様ら、俺の女房と娘を連れて来ていったい何のつもりだ。」

 王太子セーヒがそんな言葉で噛み付いて来たよ。

「何のつもりって、オッチャンがヒーナルを殺しちゃうから。
 予定が狂っちゃったじゃない。
 おいらは、最初に言った通り耳長族に手出しさせないために来たんだよ。
 丁度、ヒーナルがおいらを捜しているみたいだったしね。
 耳長族に手出ししないと誓うなら、ヒーナルに責任を取らせるだけで良かったんだ。
 でもね、ヒーナルの『生命の欠片』がオッチャンに盗られちゃったから。
 オッチャンに責任取ってもらわないといけなくなっちゃったの。
 そうすると、オッチャン亡き後の国王をどうするか決めいないといけないでしょう。
 だから、今の王族を集めたんだよ。」

 おいら、ウエニアール国の辺境を巡っている間に、一つだけ決めておいたことがあるの。
 国王ヒーナルだけは、何があっても赦さないって。
 別に、おいらが王様になりたい訳でも、実の両親の仇を討ちたい訳でもないよ。
 ただ、辺境で焼け跡を幾つも見たから、疫病が流行って生きた村人ごと焼き払われた村の跡をね。
 これ以上、疫病が流行ることが無いように、やらないといけないと思ったことがあるの。

「おい、何だ、それは!
 その言い分だと、これから俺が殺されるような言い方じゃねえか!
 そんなことを許すと思っているのか!」

「うん? でも、『黒死病』を抑えないといけないでしょう。
 患者が出たら、村人全員焼き殺しちゃうなんて横暴は見逃せないからね。
 あれって、ヒーナルが『魔王』を倒しちゃったから発生してるんだよ。
 知らなかった?」

 おいらが答えると、返って来た言葉を発したのはセーヒじゃなかったの。

「おい、娘、『黒死病』と『魔王』を倒したことに何の関係があるんだ。
 まさか、『魔王』の呪いなどと戯言を言って、殿下に手に掛けるつもりか。」

 案の定、『魔王』を倒すことの愚かさを知らない貴族が尋ねてきたんだ。

「違う、違う。『呪い』だなんて、そんなバカな事は言わないって。
 この国では『魔王』を倒すことはご法度になってないの?
 おいらが育ったトアール国では勅令で禁止されてるし。
 愚行の最たるものだと言われてるよ。」
 
 それから、『魔王』がいることで配下の魔物が人を含めた他種族を襲わなくなることとかを教えてあげたの。
 ヒーナルが簒奪を企てるに際して『シマリス』の魔王を倒したことで、辺境で魔物の被害が増えた訳だけど。
 『シマリス』の魔王が従えていた魔物が、もっぱら『げっ歯類』型の魔物で。
 魔王の枷が外れて辺境を襲うようになった魔物の中心が、『黒死病』を媒介する『ネズミ』の魔物だということをね。
 知らないようだからついでに教えておいたよ、ヒーナルが簒奪を行う前に辺境で起こったスタンピード。
 あれも、『魔王』の枷が外れたことで、それまで抑圧されていた闘争本能が一気に解放されて起こったことだと。
 ヒーナルはそれを予期していて。
 スタンピードで村を襲わせて、村人を捕食中の魔物を倒して配下の騎士のレベル上げをしたとね。

「何と、…。
 九年前スタンピードで幾つかの村が壊滅したことも。
 以前は全く見られなかった『黒死病』が九年前から突然流行し出したことも。
 すべて、ヒーナル陛下が『魔王』を討伐したのが原因だと言うのか。」

 やっぱり知らされてなかった様子で、おいらの説明を聞いた貴族の中からそんな声が上がってたよ。
 ここで飲んだくれていた貴族達が単に無知なのか、この国では知られてなかったのか。

「バカ野郎!
 それは騎士団の中だけの秘密にしてあったのだぞ。
 なんで、要らぬことを広めるのだ。
 そんなことをすれば、我が一族に懐疑的な者が現れるであろうが。」

「殿下がこの娘の言うことを認めなさったぞ。
 なんと、惨いことを…。」

 セーヒの言葉を聞いて、露骨に引いちゃう貴族が出て来たよ。

「ほれ見ろ! もう、俺から引く奴が出て来たじゃねえか!」

 自分から距離を取ろうとする貴族が出て来たのを目にして、セーヒが噛みついて来たよ。
 いや、それ、自業自得だから。

「マロン様が今お話になられたのは、常識がある貴族であれば皆知っている事でございますよ。
 ここにおる現王族派の貴族は、法などロクに目を通していない愚か者共ですゆえ。
 逆賊ヒーナルは、贅沢をして遊んで暮らしたいという怠け者共を上手く扇動して味方に引き入れました。
 ですから、こ奴らの無知に付け込んで、知られたら困る事実は隠していたのです。」

 この国の貴族の名誉のためなのか、おいらに失望させたくないためなのか、グラッセ爺ちゃんがおいらの側に来て呟いてたよ。

       **********

「親父が『魔王』を倒したからなんだって言うんだ。
 今更、魔王から奪った『生命の欠片』を返せなんて言われても真っ平御免だぜ。
 だいたい、返したからどうなるって言うんだ。
 『黒死病』なんて、発生した村を住民ごとを焼き払えばそれ以上広がらねえんだ。
 そんなの放っときゃ良いじゃねえか。」

 取り巻きの貴族達に白い目を向けられてたけど、セーヒは開き直ったよ。
 まさか、『魔王』を作り直せるとは思わないだろうからね。

 だから、おいらはセーヒに絶望を与えてあげたんだ。

「オッチャンから『生命の欠片』を返してもらえば、『魔王』を復活できるんだ。
 『魔王』さえ復活させちゃえば、もう『黒死病』に怯えることも無くなるよ。
 だから、大人しく『生命の欠片』を返してちょうだい。」

 既に人里まで来ちゃった『ネズミ』の魔物は駆除しないとだめかもしれないけどね。

「ふざけるな!
 それは、俺に死ねって言ってるだろう。
 何で、愚民共のために俺が命を差し出さねえといけねえんだ。
 村の一つや二つ無くなったって、愚民なんかすぐ増えるじゃねえか!」

 さすが親子だね、大切な国の民を愚民などと蔑んで、使い捨ての道具くらいにしか考えてないの。

「納得できないなら仕方ないね。
 元から、オッチャンには選択の余地は無いんだ。
 おいら、もう、オッチャンには『魔王』の糧になってもらうと決めてるから。
 アルト、このオッチャン、しまっといて。」

「お、おいっ! テメエ、何言って…。」

 おいらの言葉を耳にしてセーヒは慌ててたけど、文句をいう間もなく『積載庫』に入れられちゃった。
 セーヒが突然目の前から消えて、その場にいた人達は唖然として言葉を失っていたけど。

「おい、そこのメスガキ!
 親父を何処にやった! 
 さっきから聞いていれば、親父の『生命の欠片』を使って『魔王』を復活させるだって。
 ふざけるな、親父の『生命の欠片』は正統なる嫡子である俺が引き継ぐと決まってるんだ。
 勝手な事は許さねえぞ。」

 キーン家の『生命の欠片』が失われると気付くと、セーオンが烈火の如く抗議してきたよ。
 妹ヨーセイの膝の上に抱えられたまま起き上がる事も出来ないくせに。
 よくそんな偉そうな態度がとれるな…。

「奪ったモノを元あった場所に返すだけ。
 セーヒ一人の命で、多くの民が平穏な暮らしを取り戻せるんだもん。
 その方が良いに決まっているでしょう。」

「テメエ、馬鹿か!
 王族一人の命は、何千の、何万の愚民共の命より尊いに決まってるじゃねえか。
 テメエの一族は国は民のものだなんて戯言を言ってるから、貴族の信認を失ったんじゃねえか。
 国は王国貴族のもの、愚民共は皆奴隷と同じで唯々諾々と従わせておきゃあ良いんだよ。」

 何と言う選民意識、何と言う思い上がり、こいつも王位に就けたらダメな奴だね。
 民のために尽くすと誓える人がキーン一族にいれば、次の王にと思ったけど…。
 後は、あの妹姫一人しかいないか…。

 おいらが頭の中でセーオンに不適格の烙印を押していると…。

「なあ、メスガキよ。
 民の為などと、具にも付かねえことを言ってねえで。
 俺の嫁になって、一緒にこの国を支配しようぜ。
 この場で親父をっちまって、俺を王にすれば良いじゃねえか。
 目いっぱい贅沢して、楽しく過ごせば良いんだって。
 愚民共に良い思いさせる必要なんて無いじゃねえか。」

 この『キモブタ』、まだそんな寝惚けたことをほざくか…。
 小太り、二重アゴ、脂性のキモい男なんて、謹んでお断りするよ。

 すると。

「お兄様、そんなメス猫相手に何てことを言ってますの。
 毎夜、褥で囁いてくださるではないですか。
 私が一番だ、私を后にしてくださると。
 お兄様と私のややがお兄様の次の王だと。
 よもや、あれが嘘だとは言いませんよね。」

 セーオンを膝枕してたヨーセイが鬼のような形相で口を挟んできたよ。

 ええっと…、それ、どういう意味かな…。 
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