ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!

アイイロモンペ

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第十二章 北へ行こう! 北へ!

第290話 確かに喧嘩慣れはしているみたい…

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 耳長族に手出ししないと誓えば赦してあげるって、おいらは言っているのに。
 王太子セーヒはそれを拒否したんだ。
 耳長族を奴隷として売り飛ばして一儲けしたいんだって。
 おバカだね、おいらよりもっと怖いアルトが庇護してるのも知らないで…。

「おい、クソガキ、俺の手下の下っ端を倒したくらいでいい気になるんじゃねえぞ。
 所詮あいつらは、愚民どもを餌に魔物を倒してレベルを上げただけの付け焼き刃だからな。
 でもな、俺とここに残っている奴はそうはいかねえぞ。
 俺が生まれて最初に人を殺ったのは十四の時、相手はレベル持ちの冒険者だ。
 俺はな、その辺の貴族のボンボンみてえな甘ちゃんとは訳が違がうぜ。
 親から『生命の欠片』を分けてもらう前に、自分で人を殺ってレベルを奪ってたんだからな。
 ここにいる奴らは、その頃からつるんでいる腹心たちだぜ。
 俺と一緒に、札付き冒険者や敵対する騎士とタマの取り合いをして来たんだよ。
 久しぶりに、互いの命をベットした殺し合いができると思うと血が滾るぜ。」

 セーヒが血に飢えた狂犬みたいな目付きでそんな口上をたれると、五人の手下達がおいらとオランを取り囲んだの。

「五人か、差し詰め王太子四天王のお出ましと言ったところかな?」

「マロン、それ、おかしいのじゃ。
 四天王というのは四人だからそう呼ぶのじゃろう。
 五人いたらおかしいのじゃ。」

 おいらがちょっと軽口を叩いたら、速攻でオランがツッコミを入れて来たよ。

「うん? タロウが言ってたよ、四天王が五人いるのはお約束だって。
 でもって、最初にやられる奴が、自分は最弱だって暴露するって。
 きっと、次点とか、補欠とかいるんだよ。」

 『STD四十八』だって、『松葉崩しのジョー』が脱落したら、すぐに一人補充されて四十八人に戻ったものね。
 おそらくスペアは必要なんだよ、知らんけど。

「こら、クソガキ、俺達を前にして無駄口叩いているとは。
 随分と余裕かましてくれるじゃねえか。
 あんまり、人を虚仮にしてると楽には死なせてやらねえぞ。」

「ああ、ガキの癖に大人をおちょくりやがって。
 野郎ども、このクソガキ共を八つ裂きにするぞ!」

 取り囲む騎士の間からそんな威勢の良い声がかかると、五人が一斉に斬り掛かった来たよ。

「ふむ、沸点の低い者共なのじゃ。
 腹立ち紛れに、そんな風に剣を振り回したらダメなのじゃ。
 そんな力任せに大振りしたら、躱すのは容易いのじゃ。」

 余裕があるのか、オランはそんな注意を口にしながら斬り掛かって来た騎士を返り討ちにしてたよ。
 斬り掛かって来た剣を躱して、流れるような動作で鞘に収まったままの剣で騎士を打ち据えてたの。

「おっと、よそ見をしてて良いのか?
 テメエの相手はこっちだぜ!」

 オランの様子を見てたら、そんな言葉と共に三人の騎士が斬り掛かって来たよ。
 バカだね、何で声を掛けて来るかな。無言で斬り掛かった方が不意打ちできるのに…。

 三人共、セーヒが腹心と呼ぶだけあって、連携を意識した攻撃を仕掛けて来たよ。
 一人の剣戟を躱したところに、別の騎士が剣を構えて待ち構えているって感じでね。
 しかも、セーヒの言葉通り場数を踏んでいるようで、キッチリと殺しに来る鋭い剣だった。

 でも、おいらのスキル『完全回避』は期待を裏切らないよ。
 迫りくる剣をスルリと躱し、退避した位置に斬り付けられた剣も容易く躱し。
 待ち構えたように振るわれた三人目の剣もすんでのところで躱してくれて、三人の外側に退避させてくれたよ。

「痛え、馬鹿野郎、気を付けやがれ!」

 三人で斬り掛かってきたところをおいらが直前で躱したものだから、同士討ちが生じてたよ。
 もっとも、三人共とっさに躱した様子で、一人が腕に軽いケガを負っただけみたい。
 そんな混乱が収まるまで待ってあげるほど、おいらは甘くない。

 おいらは、すかさず三人の後ろに回り込んで、膝の裏に蹴りを入れていったの。
 もちろん、『クリティカル』関係の二種のスキルはちゃんと仕事をしてくれて、三人の膝を粉砕したよ。

     **********

「ほお、あの三人を瞬殺するか。
 中々、やるじゃねえか。
 こいつは、久しぶりに血が騒ぐぜ。
 俺は、自分のタマを賭けて斬り合っている時が最高に楽しいんだ。
 精々楽しませてくれよ。」

 手下五人が床に転がるのに狼狽することなく、セーヒはそう言ったんだ。
 その目は、強がりではなく、本当に楽しそうだった。

 こいつ、筋金入りの殺人鬼だよ…。

 剣を手にゆっくりとおいらの前に進んできたセーヒ。
 見た目に小太りで鈍重そうに見えるけど、その言葉通りなら侮れないね。
 相当に場数は踏んでいるようだから。

 片手で持った剥き身の剣をぶら下げ、もう片手はズボンのポケットに入れたまま。
 ゆっくりとおいらに迫ってくるセーヒは、気負うことなく泰然として見えたよ。

 そして、セーヒの剣の間合いに入ろうかと言う時。
 セーヒは、剣をぶら下げた手を上に上げ、ポケットから手を引き抜く動作をしたの。

 いよいよ、斬り掛かって来るかとおいらも身構えると。
 ポケットから引き抜いた手はそのまま勢い良く振り払われたの。

 そして。

「うわっ、痛い、なにこれ!
 ふぇ…、ふぇっくちゅん」

 一瞬にして視界が失われたかと思うと、強烈な痛みが両目を襲ったんだ。
 そして、くしゃみが出るし、いったい何なのこれ。

「あっ、目潰しを使うなんて卑怯なのじゃ!」

「バカ野郎、タマの取り合いに卑怯も何もあるかよ。
 正々堂々やって、殺されちまったら意味がねえだろうが。
 どうだ、俺様特性、トウガラシとコショウと砂を混ぜた目潰しのお味はよ。
 俺は何時でも戦えるように、これだけは手放さないんだよ。」

「マロン、危ないのじゃ!」

 オランに非難されても気にもせず、セーヒはおいらに斬り掛かって来たみたい。
 ホント、騎士の闘い方じゃないね、まんま、ならず者の喧嘩のようだよ。
 おいらは、目に入った砂やトウガラシやらで視界が奪われてて何も見えないけどね。

 その時は、これは死んだと思ったんだけど…。

「あっ、貴様、俺の剣が見えているのか!」

 おいらの体が勝手に動くと同時に、セーヒのそんな声が聞こえたんだ。
 どうやら、スキル『完全回避』がキッチリ仕事をしてくれたみたい。ナイスだよ。

 でも、依然として目の痛みは続いていて視界は全然利かないの。
 当たりさえすれば、『クリティカル』のスキルが何とかしてくれると思うけど…。
 セーヒの位置が掴めないから、反撃できないよ。

「このヤロウ、ちょこまかと逃げ回りやがって。
 大人しく、真っ赤な血飛沫を上げて見せろや!」

 いやいや、おいらだって九歳で死にたくはないから。
 それからしばらくは、セーヒが斬り付ける、おいらが躱すという攻防が続いたんだ。
 
 その間、おいらは『積載庫』から『妖精の泉』の水を少量ずつ両目の表面を洗うように出し続けたの。
 そして、やっと、両目に入った砂やらなんやらを洗い流すと…。
 その日、何十回目かのセーヒの剣がおいらに迫っていたよ。

 剣を振り下ろすセーヒはと言うと…。

「おい、こら、いい加減にしろや。
 観念してその命、俺に差し出しやがれ!」

 そんな言葉を吐くのにも息を切らせていたよ。
 それに、ダラダラと額に脂汗を流してた。

 さすがデブ、人殺しには慣れてるけど、持久戦には慣れてなかったみたい。
 肥満体では、長時間剣を振り続けるのには無理があるようで既に息が上がっていたよ。

 視界さえ利くようになれば、鋭さの衰えた剣を躱して反撃するのは容易いことで。
 おいらは、セーヒの一撃を躱すと同時に、積載庫から取り出した剣の腹でセーヒの両腕を殴打したよ。
 卑怯な手を使われて腹が立ったから、腕の骨が粉々になる勢いで殴っといた。

「グアァーーーー!」

 腕を粉砕されたセーヒの大絶叫と共に、剣が硬い石の床に落ちた甲高い音が響き…。
 その後は部屋の中を沈黙が支配したの。

「ふむ、こ奴、命のやり取りに興奮するなどと言っとったのじゃが。
 腕の骨を粉砕されるような重症は負ったことが無いようなのじゃ。
 余りの痛みに気を失ってしまったようなのじゃ。
 大の大人が失禁して気絶するなど情けないのじゃ…。」

 オランの言葉通り、セーヒは床に広がる水溜りの中に転がり、ピクピクと痙攣してたよ。

「マロン、良くやったわ。
 オランもマロンを助けてくれて有り難うね。
 それじゃ、後始末をする事にしましょうか。」

 おいらの目の前に降りて来たアルトは、そう言うと床に転がる騎士達を全員『積載庫』にしまってたの。
 それと、気付くと部屋の中で酔い潰れていた騎士達もいつの間にかいなくなってた。
 部屋の外に逃げた形跡も無いから、おそらくアルトが『積載庫』に片付けたんだね。 

 そして、セーヒだけど、…。

 アルトは「こんな汚いの収納したくないわ」と呟いて水を掛けて、汚物を洗い流してから片付けてたよ。 

 さて、アルトは後始末をすると言うけど、いったいどんな落としどころを考えてるんだろう。
     
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