ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!

アイイロモンペ

文字の大きさ
上 下
284 / 848
第十二章 北へ行こう! 北へ!

第284話 オランが無茶苦茶怒ってた

しおりを挟む
 王宮の会議室の様子を窺っている限り、誰一人としておいらの正確な情報は掴んでいないみたいだった。
 ちゃんと名前と年齢を言い残してきたんだけど、『ウサギに乗った幼女二人』のうち一人の名前がマロンと言うことしか伝わっていないみたい。
 辺境まで調査に行った人も、荒唐無稽な話だと思って真面目に取り合わなかったのかな。
 年齢とか、栗毛色の髪だとか、より詳細な情報は王宮に伝わっていなかったようなんだ。
 『栗毛色の髪をしたマロンと言う名の九歳児』と正確に伝わっていれば、噂の幼女が王族の生き残りだとの真実味が増すんだろうけどね。

 その辺の情報が欠落してるものだから、国王ヒーナルと王太子セーヒとでは捉え方が違うようなの。
 ヒーナルはマロンと言う名を耳にし、王族の生き残りではないかと神経を尖らせていたみたい。
 草の根を分けてでも探し出せと命じていたみたいだものね。
 一方のセーヒは、幼女が騎士団を倒して回っているなどとする噂は荒唐無稽で信じるに値しないと考えているみたいだよ。
 そんな噂に振り回されるなんて馬鹿馬鹿しいみたいな事を言ってた。

「セーヒよ、火のない所に煙は立たぬと申すだろうが。
 事実として、マロンと言う忌々しい名前が流れておるのだ。
 王族の生き残りなのか、偶々同じ名前なのかはわからんが。
 捕縛して素性を洗うのが、後顧の憂いを断つために必要なのだ。
 第一、『ウサギに乗った幼女二人』と言うのが欺瞞情報で…。
 真実は、『マロン』と名乗らせた小娘を御輿に担いで反乱分子が大規模な謀反を企てているのかも知れんだろう。
 『マロン』と言う娘は、真っ赤な偽物かもしれんがな。」

 ヒーナルは用心深い性格の様子で、自分に仇なす恐れのあるものを見過ごしておけないみたい。

「親父、それこそ、心配のし過ぎだって。
 謀反人共が騎士団を潰して歩いているとすれば、相当な人数がいると思うぞ。
 そんなのが移動しているのなら、目撃者は幾らでもいるだろうが。
 連絡が途絶えた騎士団の探索に何人も人を送ったのだろう。
 目撃情報が無いのはおかしいし。
 第一、そんな集団があれば誰か一人くらいは出くわすだろうが。」

 ヒーナルの言葉を聞いて、セーヒはそんな風に笑い飛ばしたんだ。
 常識的に考えれば、セーヒの方がもっともらしいことを言っているよね。
 村を閉鎖していた騎士は最低でも十人。
 しかも全員武装しているし、訓練はサボっていてもそこそこレベルが高い騎士が多いから。
 武術の心得の無い人達が騎士団を襲撃しようとしたら、相当な人手がいるはずだもの。

「ええい、煩いわ。儂は、儂の思う通りにやらせてもらうぞ。
 いいか、何があっても、そのマロンと名乗る娘を探し出すのだ。
 よもや、失敗しようものなら、貴様ら全員、矯正施設送りにしてやるからな。」

 これ以上の口出しは無用とばかりにセーヒとの話を打ち切ったヒーナルは、改めておいらの捕縛を命じたの。

     **********

 すると、ノックも無しに会議室の扉が開き、一人の男が入ってきたんだ。
 その男、いかにも鈍重そうな雰囲気の小太りの醜男で、見た目で歳が判断できないの。
 脂汗をかきながらしんどそうに歩いてるから、大分老けているように見えるけど。
 もしかしたら、意外と若いのかもしれない…。

「これ、セーオン、今は大事な会議中だぞ。勝手に入ってくるな。
 第一、部屋に入る時は必ずノックをするように言っておるだろうが。」

 どうやら、今入って来た男がセーナン兄ちゃんの腹違いの弟セーオンらしい。
 同じデブでも、何となく愛嬌のあるセーナン兄ちゃんと違い、『キモブタ』という言葉のピッタリなの。
 何よりも、最近成人したそうだからタロウと同じ十五歳だよね。
 おいらの目にはどう見ても三十路男に見えるんだけど…、とてもタロウと同い年には見えないよ。

「そんな細かいことはどうでも良いだろう。
 会議なんかより、俺の用件の方が重要なんだよ。
 おい、爺、耳長族の娘はまだ手に入らねえのか。
 俺の成人の祝いに、耳長族の綺麗処を二、三人くれると言ったじゃねえか。
 成人した暁には王嗣としてお披露目してくれるという約束も反故にしやがったし。
 俺は、まだ何にも成人の祝いをもらってねえぞ。」

 うん、確かに、セーナン兄ちゃんが話していた通りの『俺様』だね。
 世の中が自分中心に回っていると思い上がっているタイプで、他人の都合なんてまったく気にしてないの。

 しかし、幾ら自分が実の孫だとは言え、国王を爺呼ばわりってどんな躾をされたんだろう。

「これ、セーオン、国王陛下に向かってその口の利き方はなんだ。
 ここは、王宮の執務室なのだぞ、公私の区別はつけないと駄目だろうが。」

 セーヒだってさっき国王ヒーナルを親父と呼んでいたのに、さすがに爺は看過できないか。

「まあ、まあ、そのくらいのことは良いではないか。
 子供のうちは少しヤンチャなくらいが可愛いと言うモノよ。
 セーオンよ、待たして済まぬな。
 トアール国王めが耳長族の娘を献上せいと申しつけても頑としていうことを聞かんのだ。
 あやつは臆病者で我が国の騎士団を恐れており、普段なら素直に従うのだが。
 何故か、この件については頑なでな埒が明かんのだよ。
 仕方なく、海路シタニアール国から回り込ませようと思ったが…。
 やはり、荒波の航海は難しいようでな、既に三回信頼できる騎士を使わせたが全て失敗に終わってる。
 別の方法で耳長族を捕えに行かせた者がそろそろ戻ってくる頃だ。
 若い耳長族の娘を出来るだけ多く捕えてくるように命じておる。
 戻ってきたら、いの一番にセーオンから好みの娘を選ばせてやるゆえ。
 もう少しの間、楽しみにして待っておることだ。」

 あの傍若無人な振る舞いが、『少し』のヤンチャなの?
 国王ヒーナルは、孫のセーオンにベタ甘みたいだよ。
 孫は可愛いというけど、あんな『キモブタ』で躾のなっていない孫でも可愛いのかな。

「ちぇ、ダッセーの。
 トアール国ってのは、騎士団が弱いんだろう。
 ちんたらやってねえで、国ごと頂いちまえば良いじゃねえか。
 そうすれば、好きなだけ耳長族を手に入れられるぜ。」

 さすが『俺様』、何でも自分の思い通りに行くと思ってやんの。こいつ、頭、大丈夫か?

「そう言うでない。
 幾らトアール国が弱国とはいえ、侵略するためにはこの国の騎士団を総動員せねばならぬ。
 そのためには、多くの軍資金と物資が必要なのだ。
 今は、農村で魔物の被害が増えている事や疫病が流行っているため、わが国は食料に余裕が無いのだ。
 この状況で大規模な侵攻を行おうものなら、この国に食糧不足が起こってしまうのだよ。
 だから、ことを荒立てぬよう、コッソリと耳長族を拉致するよう命じたのだ。」

 考えなしのセーオンに、国王ヒーナルは噛んで含めるように説明したの。
 でも、『俺様』思考のセーオンの考えは違っていて…。

「ああ、食糧が足りなきゃ、農民を飢えさせておけばいいだろうが。
 農民なんてモノは、放っておけば幾らでも増えるもんだろう。
 それこそ、畑から湧いて出るように。
 何千人、飢え死にしたところで痛くも痒くもないだろうが。
 農民共も本望だろうよ、俺様のご機嫌を取るために死ねるのだからな。
 それによ、別にうちの国の農民から取り上げんでも。
 侵攻の道すがら、トアール国の愚民共から取り上げてきゃ良いだろう。
 食いモンでも、軍資金でもな。
 それなら国内を進軍するだけの食い物を農民から挑発するだけでいいだろう。
 それで、飢え死にする農民も幾らか減るだろうよ。
 俺って、冴えてるよな。」

 そんなとんでもないことを自慢気に言って、セーオンは悦に入ってたの。
 凄い傲慢なセリフを吐くセーオンに、おいら、呆れ果てて言葉も出なかったよ。
 
 すると、おいらの隣で。

「アルト殿、私をここで出して欲しのじゃ。
 農民たちは国の宝、国の礎なのじゃ。
 あのような心得違いをしている王族を見過ごすことは出来ないのじゃ。
 私はあのうつけに一言言ってやりたいのじゃ。」

 オランが無茶苦茶に怒って、セーオンの説教をすると言い出したよ。

「そうね、そろそろ幕引きにしましょうか。
 私もあんな下衆な言葉を聞いていると気分が悪くなるわ。
 マロン、やっちゃいなさい。」

 アルトは、おいらにあの三人を退治するように言ったの。

 もちろん、おいらは引き受けたよ。
 別に、実の両親の仇討ちをしたいとは思わないけど、…。
 世の中の害悪になっている一族を放置しておくのも気が引けるから。
しおりを挟む
感想 128

あなたにおすすめの小説

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

孤児院の愛娘に会いに来る国王陛下

akechi
ファンタジー
ルル8歳 赤子の時にはもう孤児院にいた。 孤児院の院長はじめ皆がいい人ばかりなので寂しくなかった。それにいつも孤児院にやってくる男性がいる。何故か私を溺愛していて少々うざい。 それに貴方…国王陛下ですよね? *コメディ寄りです。 不定期更新です!

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

処理中です...