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第十二章 北へ行こう! 北へ!

第278話 王都でオタクという生き物に遭遇したよ

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「ねえ、アルト、何時まで、西の辺境にいるつもり?
 もう、おいらの町を出て、けっこう時間が経っちゃったし。
 これ以上、北に進むことは出来ないよ。」

 一匹丸のまま木串に刺して炭火で焼いた魚の塩焼きを頬張りながら、おいらはアルトに尋ねたの。

 ウエニアール国で最初の村を訪れてからもう二ヶ月になるんだけど。
 おいら達は未だに西部の辺境地域を巡っていたんだ。
 ウエニアール国の王都は東西で国のほぼ中央、南北で一番北の端にある港町らしい。
 なのに、おいら達は魔物の領域に近い西の辺境地帯をずっと北上して来たんだ。

 この間、騎士によって閉鎖されている村を見つけては解放しながら移動したの。
 もちろん、魔物の被害を受けている地域なんで『黒死病』を防ぐために『妖精の泉』の水を配り歩いたよ。
 退治した騎士は、アルトの『積載庫』に収納し、金品と武具は迷惑料として村の人達に残してきた。

 更に、農村に騎士団を派遣するための拠点となっている町が幾つもあったよ。
 おいら達は、それらの町にある駐屯所も全部潰して回ってたんだ。
 騎士はお仕置きした後、全員アルトの『積載庫』に収納したんで凄い人数になっていると思う。

「そうね、もうそろそろ、王の耳にマロンの噂が届く頃ね。
 私の『積載庫』の中に押し込んでいる騎士も千人を超えちゃったし。
 飢え死にしない程度にしか与えてないとはいえ、餌代も馬鹿にならないわね。
 じゃあ、西部辺境での騎士団狩りはこの辺にしておいて、王都へ行きましょうか。」

 アルトは目の前に広がる大海原を眺めながら王都に向かうことを宣言したの。
 そう、騎士団の消失やおいら達の噂が王の耳に届くまで、おいら達はわざとゆっくり進んでいたの。
 わざわざ村や町のかなり手前でアルトの『積載庫』から降りて、ラビに乗って人前に姿を現していたのもそのためなの。
 なるべく、おいらが目立つ行動をすることによって、沢山の人の噂になるようにって。

 悪い騎士を退治しながら、ウサギの魔物に乗って西の辺境のあちこちに出没する幼女二人。
 さぞかし、面白可笑しく人の噂になっているだろうね。
 王都に噂が広がる頃にはどんな尾ひれがついている事やら。

      **********

 それから、二日後、おいら達はトアール国の王都ポルトゥスの繁華街を歩いていたよ。
 馬車なら西の辺境からゆうに十日は掛かる道程を、アルトはたった二日で飛んで来ちゃった。

 今、おいらとオランは、父ちゃん、タロウ、シフォン姉ちゃんと一緒に堂々と王都に繁華街をブラついているんだ。
 流石に、王都でいきなり騒動を起こす訳にはいかないから、ラビは『積載庫』から出さなかったし。
 幼女二人の印象を与えないように、父ちゃん達も一緒に外を歩くようにしたの。

「はあ、やっぱり、外を出歩けるって良いわね!
 せっかく遠くまで来たのに、この二月で外を出歩いたのって数日だったんだもの。
 いくら、居心地の良い部屋でも息が詰まっちゃったわ。」

 王都を歩きながら、シフォン姉ちゃんが背伸びをしてそんなことをボヤいてた。
 騎士団を潰して歩いているのは、おいらとオランの二人だけだと印象付けるため。
 騎士を退治した村や町では、おいらとオラン、それにラビ以外は姿を現さなかったの。

 今も、面が割れているグラッセのお爺ちゃんやパターツさんは『積載庫』の中に留まってもらってる。
 とは言え、住む町を出て二月になるからね、ずっと『積載庫』の中じゃ息が詰まっちゃう。

 なので、人気のない草原で全員外に出て軽く体を動かしたり。
 騎士団の駐屯地の無い町に寄って、自由に散策したりしてリフレッシュを図っていたの。
 そんな町では五人とか、パターツさん父娘も含めて七人とかで行動してたんだ。
 おいら達のことを騎士団を締めて回ってる二人組だとは、誰も思わなかっただろうね。

「シフォン、あんた、またそんな格好で外へ出て来て…。
 そうやって、背伸びなんかするとおへそ丸出しじゃないの。
 そんな格好でほっつき歩いていると変な男に絡まれるわよ。」

「大丈夫ですって、アルト様。
 私にはタロウ君という頼もしい旦那様が付いているんですから。
 お爺ちゃんが、言ってたんですよ。
 大きな町に行くのなら、この服を売り込んで来れば良いって。
 他にも時間があれば、露店を出そうかと思ってパンツも持って来たんですよ。」

 アルトの注意も何のその、シフォン姉ちゃんはタロウの腕に抱き付いてそんなことを言ったたよ。
 全然反省している様子は見えないけど、シフォン姉ちゃんが今着ているのは何故か『きゃんぎゃる』の服。
 おへそは見えているし、パンツもチラッて見えそうで、色々アブナイ服なんだ。
 しかも、ちゃっかり、この王都で商売をしようと思ってやんの…。

 そんな会話を交わしていると。

「ややっ、それは『きゃんぎゃる』の服ではありませんか?
 な、なんと、着ているのはペンネちゃんの公演会の司会殿では。」

 信じられないことに、シフォン姉ちゃんに声を掛けて来た人がいたの。
 だって、普通の人だと、ここからおいらの住む町まで馬車で二ヶ月は掛かるんだよ。
 まさか、この町からペンネ姉ちゃんの公演を見に来る人がいるなんて思わなかったよ。

 そう思いつつ、声がした方を振り向くと…。

「驚かせて済まないでござる。
 拙者、セーナンと申すでござる。
 拙者はハテノ男爵領騎士団の大ファンで。
 その中でも推しはペンネちゃんでござるよ。」

 タロウと同じくらいの年頃の兄ちゃんが、いきなりそうまくし立てたよ。
 セーナンと名乗った兄ちゃんは、一言で表せばムサイ兄ちゃんだった。
 小太りの小柄な体つきで、ボサボサの髪の毛をバンダナで留め、剃り残しのヒゲが妙に目立ってるの。
 布製の肩掛けカバンをタスキに掛けて、手にした手提げ袋からは紙を巻いた筒が二本飛び出していたよ。

 おいらの隣でタロウが、「この世界でステレオタイプのオタクを目にしようとは…。」なんて呟いていた。
 タロウの住んでいた『にっぽん』という国では、セーナン兄ちゃんみたいな人をオタクと呼ぶみたい。

「セーナン君は、この町に住んでいるの?
 わざわざ、トアール国の南の辺境まで公演を見に行くなんて凄いのね。
 でも、遠いところ、騎士団の女の子達を応援に来てくれて有り難う。
 セーナン君のことを聞けばみんなも喜ぶと思う。
 それに、私の顔まで覚えていてくれるなんて光栄だわ。」

「なに、なに、ペンネちゃんの姿を見るためなら。
 二ヶ月の旅くらい全然苦にならないでござるよ。
 それにトアール国には、この国にはない癒しがあるでござる。
 『風呂屋』に行って、旅の垢を流せば疲れなんて吹き飛ぶでござる。」

 いや、いや、苦になるとか、ならないとかの問題じゃないから。
 二ヶ月も旅をするとなると凄いお金がかかるよ。
 安宿に泊まっても最低で一泊銀貨五枚は掛かるし、食費だって掛かるんだ。
 しかも、一回行けば最低でも銀貨三十枚掛かる『風呂屋』にも行くみたいだし。

 普通、商人以外の人に長旅なんて無縁だよ。
 セーナン兄ちゃん、野暮ったい格好をしているけど、実は凄いお金持ちじゃないの。

 セーナン兄ちゃんとシフォン姉ちゃんがそんな会話を交わしていたら…。

「汚らわしい不義の息子、死にさらせ!」

 ガラの悪い冒険社風の男が二人、いきなり剣を構えて襲って来たよ。
 おいらなら、簡単に排除できるんだけど、ここじゃあんまり目立ちたくないなと考えていると。

「街中、しかも、女子供のいるところでそんな物騒なモノを振り回すんじゃねえよ。
 巻き添えを食ったらどうするつもりだ。」

 そう言ってタロウが、賊二人の前に立ちはだかると。

「そこを退け! 退かねえなら、てめえからたたっ斬ってやるぞ!」

 賊は恫喝するように声を張り上げると、タロウに向かって剣を振り下ろして来たよ。

「やれ、やれ、何で、この世界の人間は人を簡単に殺ることが出来るんだろう。」

 気の弱いタロウも場数を踏んで、大分肝が据わってきたようで。
 平然と賊に向かって踏み込むと、鞘に収まったままの剣を鳩尾に向かって正確に叩き込んだの。
 鞘に収まったままとは言え、鳩尾に強烈な突きを食らった賊はそのまま倒れ込んで苦しんでたよ。

 地べたに転げたまま、鳩尾を押さえて苦しむ二人を眺めながら。

「こいつら一体何もんなんだ?
 有無を言わさず、あんたに斬り掛かってきたぞ。
 なんか、恨みをかうことでもやったんか?」

 タロウはセーナン兄ちゃんに尋ねたの。

「ああ、こいつらは腹違いの弟が雇った殺し屋でござる。
 オタク、拙者と同じ年頃なのに強いでござるな。
 おかげで命拾いしたでござる。
 そうだ、オタク等、トアール国から来たでござろう。
 命を救ってくれたお礼にもてなすでござるから。
 拙者の家に泊っていくでござる。」

 弟に命を狙われるって…、どんな修羅の一族なの、それ。
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