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第十二章 北へ行こう! 北へ!

第277話 騎士団の後始末をしたよ

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「なあ、マロン、おぬし何をゴソゴソと漁っておるのじゃ?」

 おいらが、騎士団長の部屋を物色していると、オランが怪訝な顔をして尋ねてきたの。

「うん? さっき、町の人から聞いたじゃん。
 こいつら、町の人を脅して金を巻き上げていたんだよ。
 それを返してあげないといけないと思ってね。
 この建物の中にあるお金を全部巻き上げて、街のみんなに配ろうと思って。」

「それは良いことなのじゃ。
 不当に民から強請り取ったものなのじゃ。
 民に返してあげるのは当然のことなのじゃ。」

 オランはおいらの返事に相槌を打つと、転がっている騎士達の懐から巾着袋を抜き取っていたよ。
 それから、オランと二人で部屋の中にある金品を隈なく探して、最後に金庫の中のモノを頂戴しようとしたら。

「このクソガキ共、こんな事をして赦されると思っているのか。
 俺達は王に仕える騎士、貴族なんだぞ。
 貴族の俺達にこれだけの狼藉を働いたんだ、絶対に赦さねえからな。」

 手足を砕かれて床に転がされているのに、まだそんな虚勢が晴れるんだね。
 自分の立場が分かっているのかな。

「オッチャン、死人に口なしって言葉は知らないの?
 オッチャン達は、辺境の村で消えた騎士と同じ。
 今日これから、行方不明になるんだ。
 おいら達が、この駐屯所に入ったところを見ている人はいないし。
 おいら達の仕業だなんて誰にも分らないんだよ。
 誰が、おいら達を裁くと言うのさ。」

 だから、おいらは少し脅してみたんだよ。

「ちょっと待て、おまえら、ここにいる騎士団全員を亡き者にしよと言うのか。
 何度も言うようだが、俺達は貴族なんだぞ。
 この国では、貴族を殺めることは最も重い罪なんだぞ。」

 でも、騎士団長は未だ貴族の威光が通用すると思ってるの。
 こいつ、ホント、馬鹿じゃないかな?
 九年前に自分達がしたことを思い出してみれば良いよ。
 
「でも、オッチャン達騎士団が、おいらの父ちゃんと母ちゃんを殺したんだよね。
 王族を殺めることの方が、もっと罪が重いんじゃないの?」

 おいらの言葉を聞いて、騎士団長の顔が青褪めたよ。
 九年前と立場が逆になっただけだけだと、やっと理解したみたい。

「俺達が悪かった、謝る!
 謝るから命だけは勘弁してくれ!
 俺達は一から十まで将軍様の命令に従っただけなんだ!」

 この騎士団長、血相を変えて命乞いしてきたよ。しかも、全ての責任を今の王に擦り付けてるし…。
 騎士団長はその後も見苦しく命乞いしてたけど、それを無視しておいら達は部屋の物色を続けたんだ。
 騎士団の部屋から金目の物を全て没収すると、続けて駐屯所の全ての部屋を隅から隅まで漁ったよ。

      **********

 駐屯所にあった金品と騎士団員を全てアルトの『積載庫』に載せてもらい。
 おいら達は一階の入り口に向かったの。
 そして…。

「痛てえぇー!」

 駐屯地前に投げ出された騎士達の悲鳴が、街の大通りに響き渡ったよ。
 駐屯所の入り口から表に放り出すような形で、アルトは騎士達を『積載庫」から解放したの。
 大通りを歩いている人が注目するように演出したんだって。

 悲鳴と共に、駐屯所の建物から次々と転がり出てくる騎士達。
 それを目にして、何事かと町の人達が集まって来たんだ。

 全ての騎士を駐屯地前を通る大通りに叩き出すと、最後においら達が外へ出たの。

「あら、さっきの嬢ちゃん達じゃない。
 いったい、これは何なんだい。」

 屋台でお昼ごはんを買った時に町の事情を聞かせてくれたオバチャンが問い掛けてきたゆ。
 この手のオバチャンって、噂話のネタになりそうなことは絶対に見逃さないね。

「この騎士団の連中が町のみんなにえらい迷惑を掛けてるみたいだから。
 チョチョイって、退治したんだ。
 それで、街の世話役みたいな人がいれば、連れて来て欲しいんだけど。」

「チョチョイって…。
 そんなことをして大丈夫なんかい、仕返しされるんじゃないのかい。
 それに、私ら町のモンがとばっちり食うのも困るよ。」

 おいらの言葉を聞いてオバチャンは心配そうな顔をしてたよ。
 おいらが勝手にした事で、町の人が連帯責任になるじゃないか心配しているみたい。

「こいつらは、おいらが連れて行くから、誰も王宮に訴え出る者はいないよ。
 ここの騎士団に属する騎士は、周辺の村に派遣されている騎士も含めて全部捕えちゃったからね。
 もし、騎士達が何処へ行ったのかと誰かに尋ねられたら、言っておいて。
 マロンと名乗る、栗毛色した髪の九歳児にコテンパンにのされて、尻尾を撒いて逃げ出したってね。」

「おや、まあ、嬢ちゃん、騎士団のゴミ共を一網打尽にしてくれたのかい。
 小っちゃいのに勇ましいもんだね。
 分かったよ、町内会の世話役たちを連れて来てやるよ。」

 おいらの返答を聞いて安心してくれたのか、オバチャンがおいらの頼みを請負ってくれたの。

 少しの間その場で待っていると、オバチャンは五人のお年寄りを連れて戻って来たよ。

「お嬢ちゃんかい? 儂ら、年寄り衆に用があると言うのは。」

 おいらにそう問い掛けて来たお年寄りが言うには、この五人が町の人の代表みたいな役割をしているそうなの。

「ここに転がっている騎士達が、町の人からお金を強請り取っていると聞いたんだ。
 他にも、町の人に乱暴を働いたりしているとか。
 それでね、騎士団の騎士は全員、おいらが退治したから。
 今日を限りにこの駐屯所は廃止になるんだ。
 そうすると、この駐屯所にあるお金はもういらなくなるでしょう。
 だから、お金を取り上げられた人や迷惑を掛けられた人で分けてもらおうと思って。
 不公平やちょろまかす人が出ないように、世話役の人が町の人に公平に分けて欲しいの。」

 おいらは、世話役の人に来てもらった理由を話すと、駐屯地の中に入ってもらったの。
 建物に入ってすぐに所はホールになっていて、おいらはそこにありったけの金品を積み上げたよ。

「これは凄い。
 実のところ、重税に加え、ここの騎士共の強請もあって町の者は困窮しておったのです。
 これだけのものが返って来れば、大分懐も温まり、町の者も少しは顔色が良くなるでしょう。
 聞けば、あの害虫のような騎士共はお嬢さんが全て退治してくれたのこと。
 心より感謝致しますぞ。」

 小山のように積み上げられた銀貨や宝飾品を見て、世話役のお爺ちゃんは凄く喜んでいたよ。
 扉の外から、建物の中を覗き込んでいた町の人達からも歓声が上がってた。

 世話役のお爺ちゃん達にお金を任せて建物から出ると…。

「おい、止めろ、俺達は貴族なんだぞ。
 貴族に乱暴を働くと不敬罪で手打ちにされても文句を言えんのだぞ。」

 騎士団長の情けない声が聞こえて来たの。
 どうやら、町の人達により制裁が始まっているみたいだよ。

「何が不敬罪だ! てめえら、剣で脅して散々毟り取りやがって!
 まんま、盗っ人じゃねえか。
 騎士だと威張るんだったら、少しは騎士らしい働きをしやがれ!」

 見ると、一人のおじさんがそんな文句をぶつけながら、騎士団長に蹴りを入れてた。
 相当恨みが募っていたみたいで、町の人は口々に日頃の恨みをあげつらって騎士を小突き回してたよ。

 おいらは、町の人の気が済むまで待つことにしたんだ。
 急ぐ旅ではないし、溜まったうっ憤は全て吐き出させてしまった方が良いものね。

 しばらくすると気が済んだ人から少しずつその場を立ち去っていき…。
 夕食の時間になる頃には、ズタボロになった騎士達だけが残されていたよ。

「畜生、俺は貴族なんだぞ。
 貴族の俺様が何でこんな目に遭わないとならねえんだ。
 こんなのおかしいだろが、愚民共なんて大人しく貴族に従ってれば良いんだよ…。」

 騎士団長が蚊の鳴くような声で泣き言を漏らしてたよ。
 でも、全然反省していないんだね。
 自分が悪いことをしたなんて露ほども思っていないみたい。

 こんなロクでもない貴族ばかりなら、ウエニアール国なんて滅亡した方が良いんじゃない?
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