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第十二章 北へ行こう! 北へ!

第274話 おバカな王様の悪行を暴露したよ

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 アルトが転がっていた騎士達を片付けてくれたので、おいらはもう一度村の中に入ったの。
 村の中ほどにある広場に着くと、近くにいたおじさんに村に住む全ての人を集めて欲しいとお願いしたんだ。
 全員がカップを持ってくることと、村の顔役に水瓶を持って来させることも言付けしてね。

 おいらの頼みを聞いた村の人はカップや水瓶なんかどうするのかと言う顔をしてたけど。
 理不尽に村人を閉じ込めていた騎士達を退治したおいら達に恩義を感じたのか、何も言わずに従ってくれたよ。

 しばらくすると百人ほどの人が集まって村の広場がいっぱいになったよ。

「お嬢ちゃん、言われた通り、村のモンを全て集めたが…。
 一体何を始めるつもりなんだい、カップなどを持って来させて。」

 おいらが、村人を集めるようにお願いしたおじさんが尋ねてきたの。

「みんな、忙しいところを集めちゃってごめんね。
 知っているだろうけど、隣の村で怖い疫病が起こったらしいの。
 その疫病って、広がるのが早いし、罹ると半分以上の人が死んじゃうほど怖い病気なの。」

「おお、それなら聞いているぜ。
 だから、俺達は村に閉じ込められていたんだろう。
 この村のモンは、隣の村としょっちゅう行き来しているもんな。
 でも、半分以上死んじまうなんて生易しいモノじゃねえだろう。
 騎士の連中、隣村は全滅で誰一人として生き残らなかったって言ってたぜ。」

 おいらが、おじさんの問い掛けに答えようと話し始めると。
 話の途中で、そんな風に話に口を挟んで来た人がいたの。

「ああ、それは病気のせいで村が全滅したんじゃないよ。
 騎士の連中、疫病が広がるの恐れて村人を皆殺しにしちゃったみたいなんだ。
 その方が手っ取り早いし、確実に疫病が広がるのを防げるからって。
 この村でも疫病に罹る人がいれば、皆殺しにする計画だったらしいよ。」

「なっ、なんだってー!
 俺たちゃ、そんなこと聞かされていねえぜ。
 あいつら、何てひでえことをしやがる。
 俺達、農民を何だと思ってるんだ。」

 一人でも感染者が出たら村人ごと村を焼き払うという計画は聞かされていなかったみたい。
 それもそうか、そんなの聞かされたら暴動が起こっちゃうもんね。

「それでね、この村の人は隣村としょっちゅう行き来していたでしょう。
 騎士が言ってた通り、この村の人も疫病に罹っている恐れがあるんだ。
 それで、これを飲んでもらおうと思ってね。」

 おいらは、そのおじさんが手にしたカップに積載庫から『妖精の泉』の水を注いだの。

「おい、お嬢ちゃん、この水はいったい何処から出したんだ。
 それに、この水はいったい何なんだ。」

 おじさんが驚くのも無理はないね。
 見た目には何もない宙から水が湧き落ちて来たみたいに見えるもん。

「さっきの水は、おいらが妖精の森の長から授かった『妖精の不思議空間』から出したの。
 それで、その水は万病に効くという『妖精の泉』の水だよ。
 もし、疫病に罹っていたとしても治しちゃうから、疫病を恐れる必要が無くなるの。」

「『妖精の泉』の水だって?
 子供の頃にそんなお伽話を聞いた気がするが…。
 そんなものが本当にあったのか。
 にわかには信じられんが、毒じゃなければ飲んでみるさ。」

 まあ、ほとんどの人は妖精を目にしたことが無いのだから。
 万病に効く『水』だなんて言われても、信じられないのも無理は無いね。
 
 おいらに言われて水に口をつけたおじさんは、そのまま、クピクピと飲み干したの。
 すると…。

「何だコレは?
 朝からズキズキと痛んで仕方なかった虫歯の痛みが消えたぜ。
 心なしか、肩や腰も軽くなった気がするわ。」

 そんな感想を漏らしたんだ。

「何だって、それはホントかよ。
 ちょっと、俺にもくれないか。
 昨日、家の雨漏りを直してて、屋根からおっこっちたんだ。
 腰をしこたま打ち付けちまって痛くて仕方ねえんだよ。」

 別のおじさんが急かすものだから、水を注いであげると…。

「おい、万病に効くというのはまんざら嘘でもないぜ。
 あんなに痛かった腰の痛みが引いちまった。
 それに若い頃に戻ったように腰が軽いぜ。
 これなら、かかあを朝までヒイヒイ言わしてやれそうだ。」

 水を飲みほしたおじさんのこの言葉をきっかけに、村の人がおいらの前に列を作ったの。
 水を飲むと、お年寄りを中心に体の調子が良くなったともらしてたよ。
 みんな、すごく喜んでくれた。

 全員に水を配り終えると、おいらは村の人が用意してくれた大きな水瓶にも『妖精の泉』の水を満杯に注いだの。
 そして、おいらは村のみんなに伝えたよ、もし『黒死病』が発生したら水瓶の水を飲ませるようにと。

        **********

「何から、何まで、お世話になってしまい、本当に有り難うございます。
 おかげで、これからは流行り病を心配せずに暮らすことが出来ます。
 しかし、どうしてでしょうかな。
 十年も前までは、あんな怖ろしい疫病なんて生まれてこのかた聞いたことも無かったのですが。
 あの王様が王位に就いてから疫病が発生しているものだから。
 この辺の連中は、あの王様は何かに呪われているのではと噂しておりますよ。」

 水瓶を提供してくれた村長さんが、そんなことを言っていたんだ。
 村長さんは、ずっとおいらと話していたおじさんの父親だということで、もうお爺ちゃんだよ。
 そんなお年寄りがずっと聞いたことも無い病気が、急に流行り始めたので戸惑ってるみたい。

「あの疫病が流行るようになったのは、今の王様の責任だよ。
 あの病気はネズミの魔物が運んで来るんだ。
 今の王様が王位に就いた八年前までは、魔物の領域に『シマリス』の魔王がいたの。
 そのシマリスの魔王を今の王様が倒しちゃったんだ、自分のレベルを上げるためにね。
 魔王という枷を失った配下の魔物達は、本能のおもむくまま暴れ始めたの。
 魔物の領域からでて、人里を襲うようにもなったんだ。」

 おいらは、『魔王』という存在がどんなものかを村長さんに話して上げたよ。
 『魔王』がいることで配下の魔物達が統率され、他種族を襲わなくなることもね。

 ついでに、今の王様が王位の簒奪を図るために『魔王』を倒して自分のレベルを上げたこととか。
 『魔王』を失ったことで枷を外された魔物達のスタンピードが発生して、もっと辺境の村々が襲われたこととか。
 スタンピードに襲われた村の村人を餌にして、騎士達のレベル上げを行ったこととか。
 今の王様が王位を簒奪するために行った悪事の数々も暴露しちゃったよ。

「王様だ、騎士だと威張ってばかりいるが、あいつらとんだ大悪党じゃねえか。
 今の王様に代わってから、年貢は上がるわ、疫病は流行るはロクな事がねえと思ってたんだ。
 騎士にしたって、疫病から村を護ってやるんだからと…。
 金はせびりに来るわ、若い女を差し出せと言うわ、まるで冒険者みたいだと思ってたが。
 冒険者より、人間が腐ってるじゃねえか。
 よーし! 野郎ども、お嬢ちゃんから聞いた話を周りの村にも広げるぞ。
 そして、近隣の若いモンを総動員して、騎士団の駐屯所に焼き討ちを掛けるんだ!」

 さっきまで、おいらの話し相手をしてた村長の息子さんが、気勢をあげて村の若い人を煽っていたよ。
 まあ、この辺りもアルトの計画通りなんだけどね。

「おじさん、少し待ってちょうだい。
 王様が仕出かした悪行の数々を広めるのは構わないけど。
 騎士団の駐屯所に焼き討ちを掛けるのはダメだよ。
 そんな事をしたら、みんな殺されちゃうよ。
 相手は貴族だし、何より剣や槍で武装してるんだよ。
 それに、さっき言ったでしょう。
 この辺に駐屯している騎士は全部おいらが退治してあげるって。
 おいら、これから王都まで王様に御仕置をしに行くんだ。
 ついでだから、騎士達もみんな掃除しちゃうよ。」

「王様に御仕置しに行くって…。
 お嬢ちゃん、あんた一体、何者なんだ?」

 おいらがおじさんを説得すると、おじさんはおいらの素性を尋ねてきたんだ。
 だから、おいらはこう言ったんだ。

「おいら?
 おいらは、マロン。唯のマロンだよ。
 そうそう、噂を広める時には一緒に言っておいて。
 栗毛色の髪をした九歳児マロンが、王様と騎士を懲らしめる旅をしているって。」

 おいらの的を外した返答に、キツネにつままれたような顔をしたおじさんだけど。

「何かよくわからんが、どうやら訳アリのようだな。
 分かったぜ、『栗毛色の髪をした九歳児マロン』が言っていたと広めりゃいいんだな。」

 どうやら、おじさんはおいらの企みに乗ってくれたようだよ。
 騎士団の駐屯所の襲撃は思い留まる代わりに、王様の悪行を周辺の町や村に触れ回ると言ってたよ。

 そして、手を振る村の人々に見送られて、ラビに乗ったおいらとオランは村を後にしたんだ。

 この後、この地方では『白兎に乗った』の伝承がまことしやか語られようになったそうだよ。  
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