ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!

アイイロモンペ

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第十二章 北へ行こう! 北へ!

第272話 ウエニアール国へ向かって出発!

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「あっ、アルト、もう戻って来たの?」

 声を掛けられて振り返ると、森へ帰ったはずのアルトが宙に浮いていたよ。

「ええ、ノイエに留守中の森を託して来ただけだからね。
 しばらく森を留守にする事になるでしょうから。」

 ウエニアール国の王都は馬車で行くと一月くらい掛かるそうだからね。
 アルトが空を飛んでも十日以上かかりそうだと言うんだ。
 その距離を往復するんだから、今回は長旅になりそうだもんね。
 何も言わずにそんな長い期間留守にしようものなら。
 アルトを大好きなノイエなんか、心配して大騒ぎしそうだよ。

 それから、留守中のこの家とタロウの家の警備をしてくれる妖精を連れて来たそうだよ。
 タロウとおいらの父ちゃんを、おいらの護衛として連れて行くんだって。
 そうすると、おいら達の留守中、耳長族のお姉ちゃんだけになるからね。
 それだと不用心なので、アルトが気を遣って、妖精が留守を護るように手配してくれたみたいだよ。

「マロン、一つお願いがあるの。
 今回はあの国のバカな王を意地悪するのに、マロンにも手を貸して欲しいの。
 それによって、マロンが王家の生き残りだと周囲に知られてしまうかも。
 でもね、オランが言う通り、マロンは大人の事情なんて気にせず自由にすれば良いわ。
 マロンが自分で選択した道を歩けるように、私も助けてあげるから安心しなさい。」

 アルトはそんな風に切り出すと、今回の悪だくみを教えてくれたんだ。

「それ、面白そう。おいら、やるよ。」

「ふむ、アルト殿も人が悪い。
 話しに聞くあの国の王なら、そんことをされるのが一番嫌がるであろうな。」

 アルトの説明を聞いたおいら達は、その計画に乗ることにしたんだ。

       **********

 そして、翌日。
 おいら達を『積載庫』に乗せたアルトは、最初にライム姉ちゃんの屋敷へ向かったの。
 アルトに同行するメンバーは、おいらとオラン、それに護衛役の父ちゃんとタロウの予定だったけど。

「あっ、ずるい、タロウ君ばっかり、お旅行だなんて。
 ねえ、ねえ、アルト様、お姉ちゃんも連れてって欲しいな。」

 いつものノリでシフォン姉ちゃんがアルトにせがんだの。
 アルトって、何気にシフォン姉ちゃんには甘くて、ダメとは言わなかったよ。

 おいら達五人を連れてライム姉ちゃんの屋敷についたアルトは。

「ダイヤモンド鉱山の件で忙しいところ悪いのだけど。
 グラッセのお爺ちゃんを一月ほど借りられないかしら。」

 ライム姉ちゃんの部屋に入るなり、挨拶も早々にそんなお願いをしたんだ。

「アルト様のお願いに嫌とは申しませんが、…。
 グラッセ子爵をどうされるので?」

「ああ、ちょっと野暮用でウエニアール国へ行くのでね。
 ちょっと道案内でも頼もうかと思って。
 そうそう、パターツも連れて行くからね」

「ちょっとの野暮用で、遥々ウエニアール国まで行くのですか?
 とても、遠い国ですよね。」

 そんな感想を漏らしつつも。
 ライム姉ちゃんは、部屋の隅にいた護衛の騎士に、グラッセ爺ちゃんを呼びに行かせたよ。

 グラッセ爺ちゃんが来るまでの間、アルトは前日にあったおいら達の誘拐事件の説明をしてたよ。
 その落とし前を付けに、ウエニアール国へ行くってこともね。

「ウエニアール国の騎士が我が国に入り込んで、誘拐事件を引き起こしたですって。
 しかも、あの国の国王の命令で?
 それって、大問題ではないですか。」

 ライム姉ちゃんの後ろに立ってたクッころさんが、アルトの説明を聞いて憤慨してたけど。

「この件がこの国の王宮の耳に入ったら大騒ぎするでしょうね。
 だから、あなた達は王宮へ報告しないで良いわ。
 騒がれたら、面倒なだけだもの。
 私達がチャチャって片付けて来るから、今聞いたことは忘れてちょうだい。」

 事を荒立てたくないから黙ってろと、アルトは言ったんだ。
 荒立たないのはこの国だけで、ウエニアール国はどちらにしても大事になるんだけどね。
 
 しばらくして、グラッセ爺ちゃんがパターツさんを伴なって部屋に入って来たの。

「仕事中、急に呼出して悪かったわね。
 もう一つ急で悪いけど、あなた達二人にはこれから一緒に来てもらうわ。
 行く先はウエニアール国よ。
 あなた達の肉親の仇である愚王を懲らしめに行くわ。」

 余りにも唐突なアルトの言葉に、二人ともポカンとした顔をしてたよ。
 そんな二人を加えて、アルトはライム姉ちゃん達に計画の詳細を説明していたんだ。
 そして、グラッセ爺ちゃん達にウエニアール国内の道案内や王宮に忍び込む手引きを頼んだの。

「憎っき偽王に一矢報いることが出来るのであれば、喜んで協力させて頂きます。」

「姉妹のように育ったキャロット姫様の仇討ちとあらば、是非私もご一緒させてください。」

 アルトの計画を耳にして、グラッセ爺ちゃんも、パターツさんも凄い乗り気だったよ。
 ライム姉ちゃんもそんな二人を見てはダメとは言えず、グラッセ爺ちゃんを連れてくことを許可してくれたんだ。
 
     **********

 そして数日後。

 やっと辿り着いたウエニアール国の南の辺境。
 ここはまだ国境を越えておいら達の国を出たばかりのところだよ。
 ウエニアール国の王都は、ずっと北の方らしいからまだまだ遠いね。

 アルトの『積載庫』から降りたおいらとオランはラビに乗って街道を走っているの。
 街道と言っても、ウエニアール国の西の方に点在する町や村を結ぶ街道なんだ。
 普通商人が交易に使う街道は、もっと東の方を通ってて街道沿いには大きな町が幾つもあるの。
 この辺は、おいらが住む辺境とどっこいどっこいの田舎で、道行く人の姿も疎らだよ。
   
 しばらくラビを走らせると、小さな村が見えて来たんだけど…。
 昼間だというのに、村の入り口にある木の門は固く閉ざされ。

 その周囲には、ガラの悪い騎士が槍を手にしたまま、やる気なさそうにしゃがみ込んでたよ。

「オッチャン、オッチャン、こんな所でしゃがみ込んで何してるの?」

 おいらは、騎士達のすぐ傍でラビを停めて尋ねたんだ。
 本当は、騎士達が何をしているのかは知っているけどね。

「ああ、何だこのガキは?
 魔物に乗っているガキなんか初めて見たぜ。」

 ラビに跨った姿が余程珍しかったみたいだね。
 騎士はおいらの問い掛けに答えずに、そんな言葉を漏らしてたよ。

「おい、それより、おまえら一体何処からやって来たんだ。
 この西にある村は全て焼き払って、村民を皆殺しにしたはずだぞ。」

 一人の騎士が焦った様子を見せて立ち上がるとおいらから距離を取って槍を構えたの。
 そう、アルトの『積載庫』の窓から眺めてたら街道沿いに焼き払われた村の跡が点々としてたよ。
 あれはきっと、『黒死病』が発生した村だね。
 おいら達から距離を取った騎士は、おいらが焼き払った村の生き残りだと思って警戒したんだ。
 おいら達が『黒死病』を患っていると拙いから。

「うん? おいら達はこの街道を南から来たんだよ。
 トアール国から国境を越えて来たの。
 西の方角から来た訳じゃないよ。」

 今いる場所から街道を少し南へ戻った地点で、街道は西から来る細い道と合流してたんだ。
 おいらの言葉を聞いた騎士は、ホッとした表情で槍を降ろすと。

「何だい、脅かすなよ。
 おい、ぼうず、悪いことは言わねえから、さっさと立ち去りな。
 この辺りは質の悪い疫病が流行っててな。
 ここより西にある村は全滅しているだ。」

 いや、『全滅してるんだ』じゃなくて、オッチャン達騎士が『全滅させた』んでしょう。
 生きてる村人を村に閉じ込めたまま村に火を放って、全滅させたくせに。
 さも病気で全滅したみたいに、よくもしゃあしゃあと言えたもんだね。

「ねえ、なんでオッチャン達はこんな所にいるの?
 そんな怖い病気が流行ってるなら、オッチャン達も逃げれば良いのに。」

 分かり切ったことだけど、敢えておいらが尋ねると。

「ああ、俺達は騎士様は正義の味方だからよ。
 悪い疫病が広がらないように、こうして見張っているんだ。
 この村としょっちゅう行き来のある隣村で疫病が出たからよ。
 今度はこの村で出るかもしれねえだろ。
 だから、こうして、この村の連中を村から出さねえように見張っているんだ。
 偉大なる将軍様がお命じになられたからな。
 もし、一人でも疫病に罹る奴がいたら、村人全員を村毎焼き払えってよ。」

 こいつら、自分達が正義の味方だなんて、全く悪びれずに言ったよ。
 何の罪もない村人を焼き払って良心が痛まないんだね。

 これは、真っ直ぐ王都を目指さずに、アルトの計画に従っておいて正解だったね。

 でも、なんでこいつら、あの愚王を偉大なる将軍様って呼ぶんだろう。
 一々、『偉大なる』って付ける必要無いと思うんだけど。…変なの。
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