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第十一章 小さな王子の冒険記

第263話 おいらのお仲間、見っけ!

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 王都からも戻ってからも、おいらはオランと二人で坑道へ潜って採掘を続けていたんだ。
 鉱山を奪還してから最初の十日で掘ったダイヤモンドを、王都へ売りに行ったけど。
 それだけじゃ、操業再開の資金には全然足りないことがわかったからね。

 おいら達が、ダイヤモンドの採掘をしている間にも、操業開始に向けての準備は進み。
 先ずは、坑道の入り口前広場に、騎士の駐屯所ができたよ。
 木造の仮設建物だけどね。

 アルトの『積載庫』から大工さんがわらわらと出て来た時にはビックリしたよ。
 アルトは、大工さんと一緒に予め加工してあった木材も沢山持ち込んでいたんだ。
 大工さん達、あっという間に建物を組み上げちゃった。

 騎士の駐屯所と一緒に広場の周りに柵が作られたよ。
 魔物や泥棒が潜り込むのを防止するためだね。
 広場の出入り口は一ヶ所だけになって、門も作られたよ。

 駐屯所の建物が出来ると、さっそく騎士のお姉ちゃんが配置されたの。
 鉱山に駐在する騎士は三小隊十五人。
 一小隊五人が鉱山警備に当たり、他の十人が周囲の巡回に当たるんだって。
 巡回の十人は、生き残りの魔物狩りの他、山賊なんかが出没しないよう取り締まるそうだよ。
 計画では、現在往来が途絶えているイナッカ辺境伯領と結ぶ街道を復活させるつもりらしいの。
 旅人が安心して行き来できるように、近辺の魔物退治や治安維持をするんだって。

 それから、先々代領主のゼンベー爺ちゃんと家宰のセバスお爺ちゃんが、おいら達の住む町に引っ越してきたよ。
 鉱山の操業再開に向けて前線指揮を執るためらしくてね。
 「まだまだ若い奴らには負けられない。」と息巻いてた。
 セバスお爺ちゃんは、かつて鉱山で技師をしていた人達に声を掛けて連れて来たんだ。
 鉱山が閉山になってからも三十人くらいの人が領都に残っていたみたいなの、みんなもうお爺ちゃんだけどね。

 領都では、レモン兄ちゃんが中心になって鉱山で働く人の募集を始めてた。
 若い人を中心に経験のない人を採用して、ゼンベー爺ちゃんのもとに送る手筈になってるの。
 そこで、三十人のお爺ちゃんが事前に色々なノウハウを伝授するそうなんだ。

 他にも領地の巡回をしている騎士のお姉ちゃんが、巡回先の告知板に鉱夫募集のチラシを貼っているみたい。

 こうして、少しずつだけど着実に操業再開に向けて準備は進んで行ったの。

       **********

 そんなある日、坑道へ潜る前においら達はトレント狩りに来ていたんだ。
 ダイヤモンドの採掘をするからと言って、日課を休んでいた訳じゃないよ。
 トレント狩りは今のおいら達にとって一番の収入源だもの。

 その日は採用したばかりの新米騎士のお姉ちゃん達の訓練と一緒だったんだ。
 今回採用した騎士のお姉ちゃんも、今までと同様の訓練パターンらしくてね。

 最初は、食材調達を兼ねてウサギ狩りをしたみたい。
 実際に生きている魔物を狩って、生命を奪う覚悟を持たせるのが目的なんだって。
 それに一番適した魔物がウサギだって。
 レベルゼロだから強くはないし、狩ったウサギは食材になるから命が無駄にならない。
 なにより、人と同じで、ウサギを斬ると血がドバーっと吹き出るからね。度胸が付くよ。

 それが、済むと次はトレントが訓練の相手になるんだ。
 トレントの素早くトリッキーな攻撃を躱しながら狩るのが、実戦感覚を養うのに丁度良いらしいの。

 そんな訳で、新米騎士達は今日始めてトレントを狩るらしいんだ。
 最初は、小隊の五人全員で一体のトレントを相手にして、連携して倒すの。
 トレントの八本の枝による攻撃を迎え撃つ人とトレント本体に攻撃する人に役割分担してね。

 騎士団のお姉ちゃん達がトレント戦うさまを見ていたら、面白いことがあったよ。

「きゃっ、こっちに来ないで!」

 情けない声を上げたのは、父親に虐待されていたというお姉ちゃん。
 気弱そうな雰囲気なんだけど、…。
 案の定、トレントから攻撃を受けてそんな悲鳴を上げると目を瞑っちゃった。

 槍のような尖った枝がお姉ちゃんを捉えると思った瞬間、それは起こったの。
 これはヤバイと思ったら、お姉ちゃんがトレントの攻撃をギリギリで躱したんだ。
 そんな事とても有り得ないって動作で、枝を掃うのに絶好な位置へ回避したよ。

 そして、…。

「もうヤダー!」

 そんな情けない声と共に手にした剣をヘロヘロと枝に振り下ろしたの。
 すると、トレントの槍のような太さの枝がスパッとまるでキュウリでも切るかのように斬れたよ。

「「「えっ!」」」
 
 お姉ちゃんの助けに入ろうとしていた他の騎士達が驚いてた。
 絶体絶命だと思っていたお姉ちゃんが、トレントの鋭い攻撃を見事に防いだんだもんね。

 このお姉ちゃん、採用の面接の時になんて言ってたっけ。
 確か、『私が、スライムやシューティングビーンズを採って細々と暮らしているんです。』って言ってたよね。
 ピンときたおいらは、訓練の後でお姉ちゃんに尋ねてみたんだ。

「挨拶してなかったよね。おいら、マロン、よろしくね、お姉ちゃん。
 ちょっと教えてもらって良いかな?」

「マロンちゃんね。私はスフレ、よろしくね。
 それで、聞きたいことってなぁに?」

 スフレお姉ちゃんは、「何で幼女がこんな物騒なところに?」なんて漏らしてたよ。

「スフレお姉ちゃんって、どんなスキルを持ってるの?」

「はい? スキル? 何それ、美味しいの?」

 初めて見たよ…、その返しを本当に使う人。
 でも、スフレお姉ちゃんはネタでそんな風に返したんじゃないみたい。
 どうやら、飲んだくれの父親はスキルのことを全く教えていなかった様子だよ。

 考えてみれば、スキルって大部分が戦闘向けだからね。
 実生活でスキルを活用するのは、騎士や衛兵、それに冒険者くらいかも。

 現に貴族のクッころさんでもスキルを持ってなかったし。
 普通に暮らしていく分には、スキルのことを知らなくても問題ないか。

「ねえ、お姉ちゃん。
 採用面接の時、シューティングビーンズを狩って稼いでたって言ってたよね。
 シューティングビーンズの側に何か美味しいモノが落ちてなかった?」

「マロンちゃん、何で、それを知っているの?
 恥ずかしいわ、外で拾ったモノを食べていたのがバレちゃってるなんて…。
 何で分かったのかしら。
 あれ、良い匂いがするもんだから、つい…。
 でも、私、稼いだお金のほとんどをお父さんに巻き上げられちゃって。
 あれを拾って食べないと、食べ物をろくに口にできなかったのよ。」

 そうだよね、お腹が空いてるとあの良い匂いには抗えないよね。
 経験者のおいらには、つい口にしちゃう気持が良く分かるよ。

 スフレお姉ちゃんはアレが『スキルの実』だと知らずに食べていたみたい。
 おいらは、スフレお姉ちゃんに『スキル』と『スキルの実』のことを簡単に説明したの。
 それで、自分のスキルを確認してもらったんだ。

「あっ、あった。こんな所にスキルなんてモノがあったんだ…。
 私、能力値なんて確認したことが無かったから知らなかった。
 ええとね、スキルが四つ並んでいて、二つ分の空きがあるみたい。
 『回避率百%』、『クリティカル発生率百%』、『クリティカルダメージ二千%アップ』ってなってる。
 あと、意味不明なのが、『積載量増加」ってところに★が八つ並んでいる。」

 思った通り、おいらと同じ『ゴミスキル』を全部持ってた。
 『回避』と『クリティカル発生率』はレベル十に到達してて、他はレベル九とレベル八だね。
 話しは聞くと、おいらみたいに未熟なスキルの実を追熟させて食べる事まではしてなかったみたい。
 他の人が放置していった中から良い匂いのする実だけを拾って食べてたんだって。
 全部を均等に食べていた訳じゃないんで、スキルによって成長具合が違うみたい。

「お姉ちゃん、『回避率百%』と『クリティカル発生率百%』はとってもお役立ちスキルだよ。
 『クリティカルダメージ二千%アップ』もね。
 その三つがあれば、たいていの魔物は怖くないし。
 騎士の仕事は天職かも知れないよ。」

 悪いけど『積載庫』の事は教えなかったよ、アルトに口止めされてるから。
 その代わり、三つのスキルに関しては詳しく教えておいた。
 『クリティカルダメージアップ』が、まだ育つこともね。

「へー、私が持ってるスキルってそんな凄いんだ…。
 どんな攻撃でも避けてくれるってのが嬉しい。
 騎士に採用されたのは良かったけど。
 私、気が弱いから、戦うのが怖くて…。
 攻撃が当たらないなら、魔物も、ならず者も怖くは無いね。」

 おいらの説明を聞いたスフレお姉ちゃんは、そんな事を口にして喜んでいたよ。

 でも、恐怖心を一朝一夕に克服するのは難しいようで…。

「キャー!こっちに来ないで!」

 なんて悲鳴を上げながら、トレントの攻撃を回避してたよ。
 そんな、スフレお姉ちゃんが真っ先にトレントの単独討伐に成功した時は、みんな驚いてた。

 だって、情けない悲鳴を上げながらトレントを倒しちゃうんだもの。

 スフレお姉ちゃんに『積載庫』のことを教えても良いか、後でアルトに相談してみよう。
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