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第十一章 小さな王子の冒険記

第255話 余り見たくないモノがいたよ…

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 ダイヤモンド鉱山の様子を見に行ったら、鉱山の周りには強そうな魔物がうようよしてたの。
 でも、アルトが警戒したのは外をうろついている魔物じゃなかった。

 アルトが注目したのは、坑道の入り口の積まれた魔物の骨だったんだ。
 坑道の中に魔物を捕食している何モノかが潜んでいるんじゃないかって。

「でも、あの坑道はそれほど広く無いのじゃ。
 目の前の空き地にうろついているドラゴンなどはとうてい入れないじゃろう。
 そんな場所に表にいる魔物よりも手強い魔物がいるのじゃろうか?」

 オランの言葉通り、坑道の入り口を見るとそんなに広くは無いんだ。
『バォロン』はおろか猪の魔物ですら、入り込むことが難しそうに見えるよ。
 でもね、…。

「おいら、あんまり見たくないけど…。
 足が無くて地面を這い回る魔物とか、逆に足が無数にあって地面を這いまわる魔物とか。
 そんな形の魔物だったら、強い魔物がいてもおかしくないと思う。
 その系統はだいたい毒持ちだしね。」

 そう、蛇とか、ムカデとか…、おいらが苦手なキモイ魔物。
 想像しただけでも、背筋がゾッとするよ。

「あら、マロン、良い勘してるわね。
 そう、あれだけの広さがあれば、大蛇の類ならかなりの大物が住めるわ。
 それこそ、そこにウロチョロしている魔物を一飲み出来るくらいのヤツがね。」

 おいらの予想を聞いて、アルトも同感だと言ってたよ。

 もしかしたら、坑道に潜む魔物が出て来るかも知れない。 
 そう考えたアルトの提案で、もうしばらく坑道の様子を窺うことにしたんだ。

 坑道の入り口前にある広場を観察している間に日も暮れて、魔物は何処へともなく散っていったの。
 巨大な猪型の魔物が一匹、坑道の入り口付近の斜面に身を寄せるように丸くなったてよ。
 どうやら、その猪はここを今晩の寝床とするようだね。

 余り遅くなると父ちゃんが心配するから、アルトにそろそろ帰ろうと持ち掛けようとした時のこと。

 坑道の中から、怪しく光る丸い玉が二つ出て来たんだ。
 良く目を凝らして光る玉を見ると…、ゲッ、見るんじゃなかった。

「アルト、あれって…。」

「また、随分と大物が住み着いていたものね。
 あれ、『ワーム』だわ。
 大蛇に近い姿をしたドラゴン、毒持ちの厄介な奴よ。
 せめて、火を噴くタイプじゃ無ければ良いのだけど…。」

 見た目だけでもお近づきになりたくないのに、毒持ちの上に火を噴くなんてイヤすぎるよ。
 二つの光る玉はワームの目だった、月明りを受けて妖しく光っていたの。

 ワームのキモい姿においらがドン引きしてたら…。
 坑道から全身を現す前に、ワームは鎌首をもたげて辺りを窺ったんだ。
 口から長い舌をチョロチョロと出しながらね。

 そして、斜面に寄り添うように身を丸めている猪の方に顔を向けると。

「キ、キモいのじゃ。
 あの巨大な猪を一飲みにしてしまったのじゃ。」

 驚愕するオラン。
 その言葉通り、ワームは大きく口を開くとパクっと猪を飲み込んじゃったの。
 猪の方がワームの胴回りより大きいモノだから。
 ワームの一部が飲み込んだ猪の形に膨れてて、その部分が蠕動してキモいのなんのって。

「あいつ、レベル三十はあろうかという猪を一飲みなのね。
 積み上げられてる骨の中にはバォロンの骨もあるみたいだし。
 いったいどのくらいのレベルなのかしら。
 どのくらい生きているのかにもよるし、見当がつかないわ。」

 アルトも実際にワームを目にしたのは初めてらしいよ。
 どのくらいのレベルがあるものか、本当に見当がつかないみたい。

「ワームって、鉱山の奪還をする時に上手い具合に外に出て来てくれるかな。
 坑道の中じゃ、大弓を使えるか分からないし。
 不意打ちを食らったら、騎士の姉ちゃん達も対処できないよね。」

 おいらが思ったことを率直に尋ねると。

「そうよね、『ゴムの実』の果肉の香りに釣られてくれるかしらね。
 ワームに嗅覚があるかどうかも分からないし、坑道の中まで香りが届くかも分からないわね。
 それ以上に、つがいでいるかどうかも分からないわ。
 番がいないことには、『ゴムの実』の発情効果も意味がないものね。」

 アルトはおいらにそう返答すると、考えこんじゃったよ。
 そして…。

「まあ、そうなったら仕方ないわね。
 その時は、私の手でワームを倒すわ。
 本当は騎士団の手でダイヤモンド鉱山の奪還をさせたかったの。
 やっぱり自分達が汗をかいて取り戻した方が良いでしょう。
 もちろん、お膳立てはしてあげるけどね。
 一から十まで私がやってしまうのは間違いだと思うのよ。
 でも、エクレア達が坑道に入って、剣であれを討伐するのは流石に無理だわ。」

 実際問題、アルトがビリビリを使えばワームも難無く討伐することが出来るみたい。
 その後、アルトはおいらに向かって言ったの。

「坑道の中でワームを倒せる人間がいるとしたら…。
 それが出来るのは、マロン、あなた一人よ。
 マロンの『完全回避』と『クリティカル』のスキルがあれば討伐出来ると思うわ。
 討伐したければさせてあげるわよ、レベルアップのチャンスだし。」

 アルトは危なくなったら助けてあげると言いながら、おいらに討伐を勧めてきたの。
 おいら、謹んで辞退させてもらったよ、ヘビ型の魔物はキモいから苦手なんだ。
 以前、空飛ぶ大蛇ギーヴルを狩った時なんて、夜寝ててうなされちゃったからね。

      **********

 そんな訳で、いよいよ『ダイヤモンド鉱山』奪還作戦を決行することになったの。
 領都とおいらの住む町の警備に最小限の騎士を残して、騎士を総動員したんだ。

「あの、アルト様。
 私がこのような姿で、鉱山に行く必要があるのでしょうか?
 騎士の皆さんの邪魔になってしまうのではと思いますが。」

 出陣を前に、慣れない騎士服に身を固めたライム姉ちゃんがアルトに尋ねていたよ。
 ライム姉ちゃんは、自分が行くと足手まといになるからと、気が進まない様子なの。

「何を言っているのよ。
 領地の大事に最前線に出て陣頭指揮をするのは、領主の大切な役目よ。
 実際の指揮は騎士団長のエクレアに委ねれば良いけど。
 領主は、最前線で騎士達を鼓舞しないとダメなの。」

 アルトはもっとらしいことを言って、ライム姉ちゃんをその気にさせているけど。
 その一方で…。

「ペンネ、良い事、今日のライムの姿を良く目に焼き付けておくのよ。
 帰ったら、騎士を鼓舞するライムの姿絵を描いてもらうからね。
 ダイヤモンド鉱山を奪還したハテノ男爵家中興の祖としての絵姿をね。
 後世に残す姿絵だから、気合いを入れて描いてもらうからね。」

 アルトは今日のライム姉ちゃんの姿も、人気取りに利用しようと思っているようなんだ。
 タイヤモンド鉱山を取り戻した若くて美しい女領主ってことでね。

 坑道の入り口前の広場に着くと、アルトは魔物がいない人里側の端っこに次々と大弓を配置していったの。
 二十基の大弓を配置し終えると、ライム姉ちゃんと騎士の姉ちゃん達を『積載庫』から出したよ。

「アルト様、あんなに狂暴そうな魔物が沢山いるのですが…。
 本当に大丈夫なのですか?
 騎士の皆さんが怪我などされたら困りますよ。」

 ライム姉ちゃんが実際に魔物を目にして及び腰でアルトに尋ねてた。
 でも、騎士の本分って、領地や領民を護って戦うことだよね。
 怪我をしたら困るって…、それじゃ、戦えないじゃん。

「平気よ、そのための大弓だもの。
 本来であれば、この娘達が剣で挑んでも倒せる魔物の方が多いのよ。
 それでも念には念をいれて、飛び道具を用意したの。
 大弓で高レベルの魔物を倒せるのも確認済みよ。」

 『バォロン』も二射で仕留めることは実証済みだものね。
 『ワーム』は倒せるかどうか分からないけど。
 今のところ、バォロンよりも強そうな魔物は外に出て来ていないから、心配はないと思う。

 アルトに説得されたライム姉ちゃんは騎士のお姉ちゃん達向かって言ったの。

「騎士の皆さん、日頃は領地の治安維持に尽くしてくださり感謝します。
 今日は、領地の悲願ともいえるダイヤモンド鉱山の奪還作戦を決行いたします。
 皆さん、くれぐれもお怪我をなさらないでくださいね。
 皆さんのご武運をお祈りします。
 では、エクレア団長、後はお任せ致します。」

 騎士を鼓舞するというには余りにも力強さに欠けるライム姉ちゃんの訓示があって。

「御意!
 総員、配置につけ!」

 クッころさんの号令で騎士の姉ちゃん達が持ち場に散ったの。
 こうして、ダイヤモンド鉱山の奪還作戦が始まったのだけど…。
 
 はてさて、どうなることやら…。
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