ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!

アイイロモンペ

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第十一章 小さな王子の冒険記

第252話 引っ越しの日のできごと

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 その日、おいら達は新しい家への引っ越しをしたんだ。
 おいらの住んでいる鉱山住宅は、今のところ手放さないつもりだと父ちゃんは言ってた。
 なので、きっちり片付ける必要もなくこれから暮らすのに必要な物だけを持って行くの。
 元々、父ちゃんとおいらの二人暮らしで、食事はもっぱら出来合いのモノを買って食べたから。
 炊事道具は勿論のこと、大きな荷物なんて殆んどないから荷造りはあっという間だった。

 衣服と雑貨を詰めた行李がそれぞれ一つずつ、それと『スキルの実』を追熟させるための壺が7つ。
 それが、おいらの荷物の全てだったの。それを『積載庫』に入れれば、引っ越しの準備は完了だよ。

「本当に、荷物が少ないのじゃな。
 六年も暮らしておって、それしかないとは信じられんのじゃ。」

 オランは、おいらの荷物の少なさに驚いた様子だった。

「オランだって、一緒に暮らしてみて分ったでしょう。
 平民の生活なんて、贅沢をしなければモノは増えないよ。
 そりゃ、まともな所帯持ちなら鍋釜炊事道具は要るし。
 子供がいれば、子育てに必要な物もあるだろうけどね。
 おいらは、一人暮らしで食べて行くのがやっとだったから。
 余計なモノを買う余裕はなかったもん。」

 トレントを狩れるようになって、今でこそ小金持ちになったけど。
 それまでは、シューティング・ビーンズやスライムだけが稼ぎだったからね。
 父ちゃんが行方不明になってから、食べ物意外に買ったモノと言えば服くらいだもの。
 自分で言うのも何だけど、子供は成長が早いから一年もすると小さくて着れなくなっちゃうもんね。
 その頃のおいらの稼ぎでは、年に一回服を買うのが精一杯だったよ。

「言われてみればそうなのじゃ。
 私もこの半年で買ったのは、食べ物と服くらいなのじゃ。
 あとは精々、手桶と拭き布くらいじゃな。
 確かに、平民の暮らしというのは身軽なのじゃな。」

「そうそう、平民は王侯貴族みたいに贅沢な生活は出来ないけど。
 身軽に生きられるのが良いところだよ。
 それに、この荷物はこの家から持って行くモノのごく一部なの。」

「どういう意味なのじゃ。
 この家に残っているのは、あとはベッドとテーブルくらいしかないが。」

はね。
 でも、おいらがここから持って行く一番大きなモノは…。
 この家で暮らした思い出だよ。」

 そうなの、この家には物心ついてから今までの思い出が沢山詰まってるから。
 父ちゃんと一緒にこの町に流れ着いたのが三歳の時、当然その頃の記憶なんて曖昧だけど…。
 いつも「お前だけが俺の生き甲斐だ」と言って、父ちゃんがとても大切にしてくれたのは覚えてる。

 父ちゃんがいなくなっちゃった時は悲しかったし、お腹が空いて死にそうにもなったけど。
 アルトの助けもあって何とか生き伸びてみたら、…。
 タロウやシフォン姉ちゃん、最近ではオランがやって来て、結構楽しいことが多かったものね。

 そんな、楽しかったことも、悲しかったことも、全部まとめて新しい家に持って行くんだ。

「マロンは偉いのじゃ。
 わずか五つで、一人置き去りにされて良く生きて来れたのじゃ。
 一人で辛いこともあったろうに、それも大切な思い出と言えるところが凄いのじゃ。
 それじゃ、新し家では楽しい思い出を沢山作るのじゃな。」

 おいらの話を聞いて、オランはお世辞抜きと分かる顔つきで褒めてくれたよ。
 そして、一緒に暮す時間は短いだろうけど、自分もおいらの思い出の中に残れば良いなって言ってた。
 
 だから、おいら、言ってあげたんだ、オランと暮らしたことは絶対に忘れないって。
 大人になって子供が出来たら、子供の頃に王子様と一緒に住んでいたことを自慢のタネにするって。

      **********

 父ちゃんが買った家に行くと、既に父ちゃん達は到着してたの。

「生まれたばかりの赤子を連れて引っ越しは大変でしょう。」

 って、アルトが気を利かせて『積載庫』に乗せて来てくれたの。
 もちろん、引っ越し荷物も全部、アルトが運んでくれたよ。 

 家の中に入ると、ミンミン姉ちゃん以外の三人のお嫁さんがはしゃいでた。
 木の上にある耳長族の家とは、勝手が違うので物珍しいみたい。

 先ずは全員で家の中を確認しながら、部屋を割り振っていったの。
 寝室は二階になるんだけど、父ちゃんの部屋を中心に左右に二つずつお嫁さんの部屋にしたんだ。
 さすがに四人のお嫁さんが、父ちゃんと一緒の部屋に暮らすのは難しいからね。
 とは言え、ミンミン姉ちゃんだけを特別扱いも出来ないという訳で、全員別々の部屋になったの。
 お嫁さんが毎晩順番で父ちゃんの部屋で一緒に眠ることにしたらしいよ。

 それじゃ、里にいた時とあんまり変わんないじゃないって言ったら。
 みんな一緒にご飯を食べられるところや一緒にお風呂に入れるところが全然違うんだって。
 何よりも、父ちゃんはおいらと一緒に暮らせることが嬉しいんだって言ってたよ。

 それで、おいらの部屋なんだけど…。

「じゃあ、この部屋をおいらとオランの部屋にするね。」

 父ちゃんの部屋の三つ隣、お嫁さん部屋の隣をおいらの部屋にしようとすると…。

「ちょっと待った!
 マロン、ここをお前の部屋にするのは勿論構わないが。
 何で、そいつと一緒の部屋なのが当たり前のように言ってるんだ。
 部屋は余っているんだし、そいつは別の部屋にすれば良いだろう。」

 父ちゃんは、おいらの言葉を聞くと難色を示したんだ。
 おいらが、オランと一緒の部屋になるのは反対みたいだよ。
 そう言えば、前にオランと一緒に住むと言った時も何故か反対してたっけ。

「こんなに広い部屋なんだもん、一人じゃ持て余しちゃうよ。
 せっかくベッドも二つあるんだから、オランと二人で使っても良いでしょう。
 ベッドを二つくっつけて、ラビも一緒に寝るんだよ。」

 部屋を見て思ったんだ、これならラビも一緒に眠れるって。
 ラビが小さな時は、ラビを真ん中にして二人と一匹で一緒に寝てたのに。
 ラビが急に大きくなっちゃって、一つのベッドじゃ狭くて眠れなくなっちゃった。
 仕方ないんで、ラビにはベッドの横で丸くなってもらってたんだけど。

 部屋のベッドを二つくっつければ、二人と一匹で一緒に寝るのに十分な広さになるって。

「ダメだ、ダメだ。
 そいつ、女のような姿をしているけど、男なんだぞ。
 可愛いマロンに何か間違いでもあったらどうするんだ。」

 また父ちゃんの親バカが出たよ…。
 さっきから『そいつ』呼ばわりしてるけど、オランは一応王子様なんだけど。
 父ちゃんは、少し興奮していてその辺が頭から抜け落ちているみたい。

「父ちゃん、間違いって、何を心配しているの?
 オランがおいらに酷いことをする訳ないじゃない。
 アルトにおいらの力になると誓約したんだから。」

「いや、それはだな…。」

 おいらが何を心配しているのか問い掛けると、父ちゃんは口ごもっちゃった。

「私がマロンに危害を加えることは無いのじゃ。
 マロンが言う通り、私はアルト殿にマロンの力になると誓ったのじゃ。
 私は妖精に対する誓約を違えるほど愚かでは無いのじゃ。」

 そんな父ちゃんを安心させるように、オランも言ってたよ。

「モリィシー、心配し過ぎよ。
 この間も言ったじゃない。
 マロンちゃん達みたいな年頃の子供にそんな心配は無用だって。
 良いじゃない、一緒に寝ると言ってもラビを挟んでいるんだから。」

「いや、ミンミンよ、そうは言うがな。
 俺は心配で、心配で…。」

 ミンミン姉ちゃんも父ちゃんを説得してくれたんだ。
 それでも父ちゃんは渋ってたけど、最終的には一緒の部屋に住むのを認めてくれたよ。

「あいつがマロンに不埒なマネをしないように見張ってるんだぞ」 

 父ちゃんはラビに向かってそんなことを言ってたけど…。
 ウサギにそれを言っても、理解できないと思うよ。

       **********

 その晩は四年振りに父ちゃんと一緒にお風呂に入ったんだ。
 久しぶりに父ちゃんの背中を流していると…。

「まだまだ、小さいと思っていたけど…。
 やっぱり、大きくなったなマロン。
 最後に背中を流してもらった時は、肩の方までは手が届かなかったものな。
 力も強くなっているし…。」

 父ちゃんは言うの。
 五歳の頃のおいらは、背中を洗っているというよりも撫でているって感じだったと。

「それはそうだよ、
 おいらくらいの子供は一年で大分大きくなるんだよ。
 服なんかすぐに着れなくなっちゃうから、買うのが大変だったんだ。」

「そうだな、そんな時におまえを一人ぼっちにしてしまって悪かったな。
 ずっと思っていたよ、きっとマロンは俺のことを恨んでいるだろうなって。
 いや、例え恨まれていたとしても、無事でいてくれさえいればと思っていた。
 また、こうして背中を流してもらえるなんて夢のようだよ。」

「血の繋がらないおいらを大切に育ててくれたんだもん、恨む訳ないじゃない。
 それよりも、おいらは悲しかったの、父ちゃんが死んじゃったと思ってたから。
 おいらも、こうしてまた一緒に暮らせるなんて夢みたいだ。
 父ちゃん、帰って来てくれて有り難う。」

 おいらも一緒に暮らせるようにと、頑張ってこの家を買ったんだもんね。
 感謝する事はあっても、恨むことなんて一つも無いよ。

「マロン、血が繋がらないことなんて些細な事だよ。
 俺はマロンのことを本当の娘だと思っている。
 今日からこの家が、マロンの帰ってくるところだ。
 マロンが大人になってお嫁に行っても、いつだって帰って来て良いんだぞ。」

 父ちゃんは、おいらが実の娘でないことを気にしていると、思ったみたい。
 おいらに気遣って、そんな言葉を掛けてくれたんだ。

「うん、そうだね。
 おいら、お嫁に行くまでは、まだ十年くらいありそうだし。
 この家で楽しい思い出をいっぱい作るよ。
 父ちゃんもいるし、可愛い妹もいっぱいいる。
 これからきっと、楽しいことがいっぱいあるね。」

 背中を流し終えてから、父ちゃんと並んで温泉に浸かったの。
 今までずっと望んでいたことが叶って、体だけじゃなく心までポカポカと温かくなったよ。

 こうして、おいらは四年振りに父ちゃんと一緒に暮らせることになったんだ。 
 
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