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アイイロモンペ

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第十一章 小さな王子の冒険記

第251話 父ちゃんが家を買ったよ

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 妖精の泉がある広場で、おいらが妹のシーリンと遊んでいた時のこと。

 父ちゃんがおいら達のもとにやって来て。

「マロン、やっと、まとまった金が貯まったんで町に家を買おうと思うんだ。
 これから家を物色しに行きたいんで一緒に行かないか。」

「父ちゃん、やったね!
 毎日、トレント狩りを続けた甲斐があったね。」

「ああ、全部、マロンとアルト様のおかげだよ。
 今まで、一人寂しい思いをさせてすまなかったな。
 これからは、マロンも一緒に暮らせるようになるぞ。」

 五年振りにおいらの前に帰って来た父ちゃんだけど。
 耳長族のお嫁さんを四人も貰っちゃって、今は耳長族の里に住んでいるんだ。
 ただ、耳長族は木の上に家を建てて住む習慣があってね。
 大家族が一緒に住むには向いてないの。

 そのため、今は一番最初にお嫁さんにしたミンミン姉ちゃんの家を中心にして。
 他の三人のお嫁さんの家に通っている状態なんだ。
 父ちゃんは、「家族はみんな一緒に住むものだ。」が口癖でね。
 家族全員が一緒に住める広い家を手に入れることを目指していたの。
 やっと再会できたのに、おいらと一緒に住めないことも負い目に感じてたみたい。

 当然、広い家となるとおいらが住む町に買うことになるんだ。
 どんなに頑張っても、木の上にそんな大きいな家を建てられるはずないもんね。

 そんな訳で、父ちゃんは毎日トレント狩りに参加してお金を稼いでいたの。
 隻腕というハンデをものともせずに、トレントに挑んでいく父ちゃんってカッコイイと思ったよ。
 ほぼ一年ほどそれを続けて、どうやらそれなりのお金が貯まったみたいだね。

「じゃあ、マロン、悪いがこれを持って行ってくれないか。」

 父ちゃんと一緒に、ミンミン姉ちゃんの家に行くと部屋の隅っこに木箱が沢山積み上げてあったよ。
 もちろん、家を買うための銀貨を入れてある木箱だよ。

「何やら、不用心じゃのう。
 金蔵にも入れずに無造作に金を積み上げておるとは…。
 それに、その場所だけたわんでいて、今にも床が抜けそうなのじゃ。」

 大金が無造作に置かれているのを見て、オランがそんな風に呆れてた。

「そんなに、不用心でもないよ。
 この森はアルトが許可した人しか入れないし。
 耳長族の人達は共同生活をしているようなものだから盗みなんか働かないしね。」

 それに加えて、最近は耳長族の人達も結構稼いでいるしね。
 耳長族の多くが『STD四十八』や騎士団のお姉ちゃんの興行で伴奏をしているから。

「そうじゃったのう。
 この森自体が金庫のようなものじゃった。
 冒険者のようなならず者が入ってくる心配は要らんのじゃな。
 だが、その床のたわみはあぶなっかしいのじゃ。
 マロン、早くしまってあげるのじゃ。」

 不用心とも言えないことは納得したようだけど、オランが床が抜けそうで気が気でないみたい。
 おいらは、父ちゃんの依頼通り銀貨の詰まった木箱を『積載庫』に放り込んむことにしたよ。

      **********

 家を買うために町までやって来た父ちゃんが向かったのは町の役場。
 今までは鉱山住宅の一画に在ったんだけど、『トレントの木炭』の販売所を兼ねて目抜き通りに引っ越したんだ。
 立派な建物の中に入ると。

「マロンちゃん、いらっしゃい。
 今日は、トレントの木炭の買い取りかしら?」

 ここの役場を一人で切り盛りしているお姉ちゃんがおいらに気付いて声を掛けてくれたの。
 この町は実質無法地帯なんで、役場と言っても業務はトレントの木炭とこの町の不動産の売買だけ。

 トレントの木炭の販売を始めた当初は、役場もお金が無くてね。
 おいらとアルトが販売を委託する形で木炭を預けて、売れた分だけ代金がもらえる形になってたけど。
 最近、木炭の販売が順調でお金に余裕が出来たみたいで、委託ではなく買取に変わったよ。
 今、この販売所では、おいらが持ち込んだ木炭を中心に販売してもらっているんだ。
 アルトは、その機動力を活かして領都のライム姉ちゃんの方に卸しに行ってるの。
 
 おいらは、オランの狩った分も併せてある程度量がまとまると、ここで木炭を買い取ってもらっているの。

「今日は、父ちゃんの付き添いなんだ。
 父ちゃん、この町に家が欲しいんだって。」

「あら、そうなの。
 モリィシーさん、いらっしゃいませ。
 今日はどのような物件をお求めですか?」

 役場のお姉ちゃんは、とても穏やかな笑顔で尋ねてきたよ。
 このお姉ちゃん、役人と言っても以前は臨時雇いで、給金が歩合制だったらしいの。
 そのせいで、家が欲しいと聞くと、客は絶対に逃がさないって必死の形相だったんだ。
 でも、木炭の販売を始める際に、正式に男爵家に召し抱えられることになったの。
 それからはガツガツしなくなったみたい。

「実は、妻四人と子供五人が余裕を持って暮らせる広い家が欲しいのです。
 出来れば、子供達を遊ばすことが出来る庭のある家が良いのですが。」

「あら、そんなに沢山のご家族が一緒に住むのですか。
 それでは鉱山住宅という訳には参りませんね。
 それでしたら、幾つか該当する物件がありますのでお待ち願えますか。」

 役場のお姉ちゃんはそう返答すると、見覚えのある紙の綴りを引っ張り出してきたの。
 領主が管理している土地建物台帳だね、以前、ノーム爺が工房を買った時も見せてくれたよ。

 役場のお姉ちゃんが見せてくれた家の候補は三つ。
 どれもこの町が栄えていた頃に、大商人が住んでいたお屋敷だった。
 町が廃れた際に潰れて夜逃げしちゃったらしいの。
 夜逃げした商人がそれまで滞納していた税の代わりに、男爵家が差し押さえたらしいよ。
 その頃はまだ税を取っていたんだね。

 役場のお姉ちゃんの話では、どの家も買った人がすぐに住めるように手入れはされているらしいの。
 ノーム爺が買った工房と同じで、維持費が嵩んで仕方がないので早く売りたいみたいだよ。

 父ちゃんとミンミン姉ちゃんは、三つの家の間取りや備え付けの家具なんかをチェックしてたんだけど。
 そのうちの一つに、おいらの目は引き付けられたの。

「ねえ、父ちゃん、この家が良いんじゃない。
 これだけ、温泉付きのお風呂があるよ。
 この家なら、わざわざ公衆浴場まで出かける必要もないし。
 毎日、気軽にお風呂に入れる。」

 勿論、公衆浴場もタダだから、毎日気軽に通えるけど。
 やっぱり、出掛けないといけないし。
 赤ちゃんを連れて行くのは結構大変だろうからね。  

「おお、そいつは良いな。
 マロン、良く気付いてくれた。
 この物件を一度見せてもらうことにしよう。」

 おいらが差し出した物件の内容を確認して、父ちゃんもおいらの意見に賛成してくれたんだ。
 それでさっそく、役場のお姉ちゃんに物件を案内してもらうことになったの。

「この物件は、鉱山住宅より繁華街に近くておススメですよ。
 市場も近いので、食材の買い出しにも便利です。」

 役場のお姉ちゃんが案内してくれたのは、ぐるっとフェンスに囲まれて防犯上は良さげなお屋敷だった。

 父ちゃんの希望通り広いお庭があって、妹たちが走り回るようになっても平気そうだった。
 建物は二階建で、部屋数も十分、お客さんが泊まりに来ても大丈夫そう。
 最初に説明された通り、建物は良くメンテされていてすぐにも住めそうだったの。
 食堂には大きなテーブルが備え付けてあって、家族全員が揃って食事を摂るのに十分な席があったよ。
 
 そして、期待のお風呂。

「おお、これは広い風呂だな。
 これなら、家族一緒に風呂に入れるぞ。
 マロン、久しぶりに背中を流してもらえるか。」

 父ちゃんの言葉通り、湯船は凄く大きくて十人くらいいっぺんに入れそうだったよ。
 湯船にお湯ははって無かったけど、役場のお姉ちゃんが湯船の隅っこにある栓を抜くと…。

「この通り、今でもちゃんと温泉は湧き出ているので安心してください。
 この屋敷独自の源泉を持っていますので、温泉は使い放題ですよ。」

 その言葉通り、お湯が湯気を立てながらコポコポと湧き出して来たよ。

「この建物に決めました。」

 父ちゃんったら、即断即決だった。
 そのまま、役場に戻るとすぐにお金を払って、鍵を受け取ってたよ。
 立派なお屋敷だけあって、銀貨十万枚以上したんだ。

 おいら達、手ぶらでやって来たからね、役場のお姉ちゃんも下見に来たものと思ってたみたい。
 父ちゃんから預かった木箱を『積載庫』の中から出して積み上げたら、役場のお姉ちゃんは目を丸くしてた。
 
 お父ちゃんはこうしてみんなで住める広い家を手に入れて。
 おいらも、六年振りに大好きな父ちゃんと一緒に暮らせるようになったの。

 もちろん、オランやラビも一緒だよ。
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