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アイイロモンペ

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第十一章 小さな王子の冒険記

第250話 妖精達も紹介してたよ

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 シトラス兄ちゃんとシーリン姉ちゃんの婚姻お披露目が済んだ後。
 舞台上の王様は、手のひらを上に向けて、まっすぐ前に腕を突き出したの。

 そして、…。

「もう一つ。
 今日からこの国に住むことになった可愛い住民を紹介しよう。
 ブランシュ殿、みんなも出て来てくれまいか。」

 王様が宙に向かって呼びかけると。
 広場の四方に散っていたブランシュ達十体の妖精が、王様の周りに集まって来たよ。

「ママ、アレなぁに?」

 小さな女の子が、飛来した妖精を指差してお母さんに尋ねてたの。
 『妖精絹フェアリーシルク』のドレスが陽の光を浴びてキラキラと煌めいていたからね。
 小さな子供でも、妖精の飛来に気付いたみたい。

「さあ、何かしらね。
 ママも初めて見るわ。
 お伽話に出てくる妖精があんな姿をしていると言うけど…。」

 このお母さんも妖精はお伽話の中だけの存在だと思っていた様子で。
 首を傾げながら、女の子に返答していたよ。
 そうこうするうちに、王様の手のひらにブランシュが降り立ち。
 残りの妖精達は、王様の両脇に並んでた。

「どうだ、可愛いであろう。
 妖精のブランシュ殿とその仲間の妖精達だ。
 今日から王宮の裏に広がる森に住むことになった。
 今後街で見かけることがあるやも知れぬが。
 皆、仲良くするように。
 冒険者共よ、くれぐれも妖精の機嫌を損ねるのではないぞ。
 とうていお前らの手に負える存在ではないからな。」

 王様は、ブランシュ達を紹介すると共に、広場にいる冒険者達へ釘を刺していたよ。
 妖精達は人の法に縛られる存在でもないし、敢えて『手出し無用』のお触れは出さないそうだよ。

 王様は、妖精達が人間に後れを取るとは思わないとした上で…。
 欲を出した愚か者が、二、三人妖精に手を出して再起不能にされた方が良いだろうって。
 それにより、伝承通り妖精が厄災のような存在だと、人々が再認識するだろうと王様は言っているの。

 可愛い妖精を捕らえて一儲けしようなんて考えるのは、冒険者くらいだろうだからね。
 王様ったら、ならず者みたいな冒険者を見せしめにするつもりだね。

 広場に集まったほとんどの人が妖精を初めて目にした様子で、王様の紹介を聞いてざわついてたよ。
 一番多く聞かれたのは、お伽話の存在だと思っていた妖精が実在したことに驚く声だった。

 それはここでも。

「ママ、あれ、妖精さんだって。可愛いねー!」

「ホント、可愛いわね。妖精さんって実際にいたのね。
 妖精の伝承が本当だとすると…。
 妖精さんはあんなに可愛いけど、怒らせるととても怖いのよ。」

「うん、知ってる。祟りがあるんでしょう。
 お婆ちゃんが、妖精さんのお伽話で聞かせてくれた。」

 さっきの母娘の会話が聞こえて来たけど。
 やっぱり、この国でも妖精についての伝承は子供に教えているんだね。
 妖精を怒らすと祟りがあることもちゃんとね。

 大人になると信じない人が増えてくるのかな? 何でだろう?
 
        **********

 シーリン姉ちゃんやブランシュ達妖精のお披露目も無事に終了し…。

 おいら達は辺境の町に帰ることにしたんだ。

「オランジュよ、そなた、まだ王宮へは戻らぬつもりか?」

 そろそろ帰ってこないかとのニュアンスで、王様がオランに尋ねたの。

「まだ王宮を離れて半年しか経っていないのじゃ。
 まだまだ知りたいことは沢山あるし。
 市井の民の暮らしぶりについても、まだ知らないことが多いのじゃ。
 私は、もうしばらく市井で暮らしたいのじゃ。」

「ふむ、ならば、気の済むまで好きにするが良い。
 こんな機会は、またと無いであろう。
 市井の民の暮らしを良く見ておくのだぞ。
 民の暮らしぶりや他国のことを知るのは貴重な経験であるからな。」
 
 王様は、オランに帰って来て欲しいと思っていたようだけど。
 オランが真剣な表情でまだ戻らないと訴えると、優しい表情でそれを受け入れてた。

 その言葉の後、王様はオランのことが羨ましいって言ってたよ。
 王族が遠く離れた異国の地で暮らすこと、ましてや平民に紛れて市井で暮らす機会など普通はないって。
 自分もそんな暮らしを体験してみたかったって。

「ところで、ネーブルよ。
 そなた、何で、そんな格好をしておるのだ。」

 王様はオランに対し引き続き姿勢で暮らすことを許可すると、今度はネーブル姫に問い掛けたの。
 何故かと言うと、…。
 ネーブル姫が大きな荷物を足元に置き、ラビにペタッて張り付いてるから。

「私も、オランちゃんが住む町に行ってみたいです。
 お肌がスベスベになるという温泉なるモノに入ってみたいですし。
 このモフモフのラビちゃんとも離れ難いです。」

 そうなの、おいら達が帰ると知ると、ネーブル姫もついて来ると主張したの。
 最初からそのつもりのようで、その時には既に荷物がまとめられていたよ。
 ネーブル姫の申し出には、流石のアルトも難色を示したんだ。
 年頃の女の子を連れて行って、何か問題が起こったらいけないってね。

 でもネーブル姫は、ラビにしがみ付いてテコでも動かないって雰囲気だったの。
 これはもう王様に止めてもらうしか手がないと、アルトが言ってたんだ。

「ネーブルよ、そなたは王女であるぞ。
 護衛も無しで、王宮の外に出るなど認められる訳がなかろう。
 そもそも、オランの話ではその温泉なるモノ。
 男女一緒に入浴すると言うではないか。
 未婚の王女が、男の前で露わな姿を晒すなど認める訳には参らんぞ。」

 期待通りに王様は、ネーブル姫を制止してくれたよ。
 貞淑を旨とすべき王族の娘が、男の人に肌を晒すことは断じて許さんって。

 公衆浴場では、一応浴衣を身に着ける事にはなっているけど。
 実際のところ、お湯に濡れると透け透けだからね、マジマジと見れば全部見えちゃう。

 公衆浴場のマナーで、浴衣の女性をジッと見つめたらダメとなっているけど…。
 そんな他人の善意に期待するような事は、王様には認められないみたいだよ。

「ええー、そんなー!
 私も温泉に入りたいです!」

 ネーブル姫はそう言って駄々をこねていたけど。
 王様が指示すると、女官たちにラビから引きはがされちゃった。
 ネーブル姫は、そのままズルズルと女官たちに引き摺られて部屋から出て行ったよ。

「あっ、ちょっと、ちょっと待ってー!」

 廊下の方からネーブル姫の懇願する声が聞こえた来たけど。
 その声はむなしくもどんどん遠ざかっていったの。

 可哀そうだけど仕方がないね。
 大分治安が良くなったけど、王女様が不用心にフラフラ出歩ける街にはほど遠いものね。

    **********

「シトラス、あんた、シーリンを大切にしないと赦さないからね。」

 帰り掛けに再度、アルトがシトラス兄ちゃんに念押ししていたよ。

「はい、肝に銘じておりますよ。
 必ずシーリンを幸せにして見せますから安心してください。
 沢山子供を作って、賑やかな家庭を築きますからぜひ見に来てください。」

 シトラス兄ちゃんは、シーリン姉ちゃんの肩を抱き寄せて、軽い口調で答えてた。
 シーリン姉ちゃんの方は恥ずかしそうに頬を赤らめていたよ。

「そう、じゃあ、一年もしたらまた見に来るわ。
 ブランシュ、この二人のこと、よろしく頼むわね。」

「はい、アルト様。
 シーリンが王宮で無碍に扱われないよう、シトラスが不貞を働かないよう。
 きっちり、目を光らせておきます。
 ウエニアール国のような愚か者が現れた時の対処もお任せください。」

 最期にブランシュからの返事を聞くと、アルトは満足そうに頷いていた。

 こうして、シーリン姉ちゃんの嫁入りは滞りなく済み、おいら達は帰途についたんだ。
 
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