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第十一章 小さな王子の冒険記
第242話 ウサギを飼うのが流行ったよ
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アルトに害虫駆除をしてもらって、お風呂で奇麗に汚れを落としたラビはこの日から一緒に寝ることになったんだ。
二人でラビに寄り添って寝てるのだけど、そのモフモフの体は温かくて、柔らかくて心地良い眠気を誘うんだ。
おかげで、ラビが来てから寝付きが良くなったよ。
ラビは一人取り残されるのが心細いようで、何処へ行くのにも付いて来るの。
おいらとオランが歩く横をピョンピョンと跳ねながら付いて来る様は、可愛いと評判なんだ。
「あっ、ラビだっ! わーい!」
ゴハンを買いに広場に行くと、小さな子供がラビに向かって一目散に駆けて来た。
町を歩いてると、こんな風に子供が寄って来て飛びつくことなどしょっちゅうだよ。
臆病なラビは、最初のうち子供に飛びつかれてビクついていたけど。
今じゃすっかり慣れちゃって、子供がモフモフの毛に頬ずりするとラビも気持ち良さそうしてるの。
「あらまあ、すっかり人気者になったもんだね。
魔物がそんな風に懐くなんて、たまげたもんだよ。」
子供にじゃれつかれて、されるがままになっているラビを見ながらオバチャンも感心してたよ。
何処にでも付いて来るということは、当然狩りにもついて来る訳で…。
その頃になるとオランも一人でトレントを退治することが出来るようになっててね。
おいらやオランが容易くトレントを狩るものだから、ラビでも狩れると勘違いしたようなんだ。
おいらが目を離した隙に、不用意にトレントに近付いたみたいでね。
「ウキュキュ!」
変な鳴き声を耳にして振り返ると…。
ラビは、向かってくる槍のような枝を躱そうと必死になって跳ねてたよ。
でも、中々安全な場所まで退避することが出来なくて助けを求めてたんだ。
まあ、戦闘経験もないレベルゼロのラビが、レベル四のシュガートレントに勝てる訳もなく。
と言うより、前歯で噛み付くくらいしか攻撃手段のないウサギが、トレントの大木を倒せる訳が無いんだけど。
「ラビ、大丈夫?」
おいらはすぐに、ラビを攻撃しているトレントを倒してあげたんだ。
トレントの攻撃が余程怖かったんだろうね。
「ウキュ! ウキュ!」
怯えたような鳴き声を上げながら、おいらにしがみ付いてブルブルと体を震わせてたよ。
「こんなに憶病なら、成長しても人を襲うことは無いかしら。
いえ、まだ安心するのは早いわね。
成長するにしたがって、獰猛になるかもしれないしね。」
アルトは怯えているラビを眺めてそんな呟きを漏らしていたの。
いつ、野生が牙を剥くか分からないから油断しちゃダメだって。
**********
そんな感じで、すっかり町の人気者になったラビだけど。
ラビがやって来てしばらくすると町に変化が現れたんだ。
それは子供がいる家を中心にウサギを飼う人が出てきたこと。
勿論魔物のウサギじゃなくて、小動物のウサギね。
ラビの人気に目を付けた冒険者ギルドがウサギの捕獲に動いたの。
ヘタレな冒険者でも小動物のウサギくらいなら捕獲できるだろうってね。
おいら、小動物のウサギなんて見たこと無かったんだけど。
冒険者ギルドのオッチャンが言うには、近くの農村には普通に生息しているらしいよ。
ただ、おいらが狩場にしている西の草原は魔物が闊歩する弱肉強食の世界だからね。
小動物のウサギなんか格好の餌食になっちゃうんで棲んでないらしいの。
もしかしたら、昔はいたけど絶滅しちゃったのかもしれないって。
それはともかく、今まで冒険者は小動物のウサギなんか目もくれなかったらしいの。
ウサギはあくまで食材で、ペットとして飼うなんて誰も考えてなかったから。
食材としてなら、町の近くの草原にウサギの魔物が幾らでもいるからね。
ウサギ一匹からとれるお肉の量が、動物と魔物では桁違いだもの。
食材としてのウサギ(動物)は、小さ過ぎて二束三文でしか売れないそうなんだ。
だから、冒険者たちは誰も狩ろうとしなかったみたい。
小動物のウサギをチマチマ狩るより、ウサギの魔物を何人かで一匹狩った方が稼ぎ良いって。
小動物のウサギを狩るくらいなら、町の人にゴロ巻いて金を巻き上げていた方がましだったって。
ギルドのオッチャンは、そんなしょうもない事を言ってたよ。
でも、ラビがやって来て町の人気者になると話が違って来たの。
可愛いモフモフのウサギを子供が欲しがるようになったんだ。
ラビのようなウサギの魔物なんか、普通は獰猛で飼えないからね。
勢い小動物のウサギが注目されるようになったんだ。
ウサギを欲しがるのはもっぱら子供だからね。
大きさ的に言っても小動物の方がちょうど良かったみたい。
傷つけないように捕まえたウサギを、良く洗ってノミやダニを駆除すると高く売れるんだって。
冒険者ギルドではちょっとした稼ぎになったみたいだよ。
町の広場で子供がウサギとじゃれているのを見てたら。
「ああやってウサギを飼うことが出来るのも、この町が豊かになった証拠よね。」
おいらの肩に座っていたアルトがそんなことを言ったんだ。
「豊かになった証拠?」
「そうよ、今までのこの町じゃ、食べて行くのが精一杯だったでしょうからね。
ウサギなんて、食材としてしか扱われなかったと思うわ。
とても愛玩用にウサギを飼うなんて考えられなかったと思う。」
この町は、ダイヤモンド鉱山が閉山になってから寂れちゃったからね。
大した仕事もなくて食べて行くのがやっとだから、みんな、慎ましい生活をしていたんだ。
ウサギだって、飼うからには餌だって必要なんだから。
お金の面でも、心の面でもそんなゆとりは無かっただろうって。
ここ最近、『STD四十八』の興行を始めとして色々な変化があって、他所から人が集まるようになったでしょう。
おかげで、宿屋が復活したり、酒場が増えたりで町が活気を取り戻してきたんだ。
それに伴って、町に住む人達も稼ぐ機会が増えて少しずつ懐が温かくなってきたみたい。
ウサギをペットとして飼えるのは、そのくらいのゆとりが出て来たということで。
取りも直さず、町の人達が豊かになってる証拠だって。
そう言えば、一年前のこの広場は人通りも疎らで閑散としてたっけ。
その時は広場がこんなに賑わうなんて思いもしなかったよ。
この先、もっと、もっと、町が賑わうようになればいいね。
二人でラビに寄り添って寝てるのだけど、そのモフモフの体は温かくて、柔らかくて心地良い眠気を誘うんだ。
おかげで、ラビが来てから寝付きが良くなったよ。
ラビは一人取り残されるのが心細いようで、何処へ行くのにも付いて来るの。
おいらとオランが歩く横をピョンピョンと跳ねながら付いて来る様は、可愛いと評判なんだ。
「あっ、ラビだっ! わーい!」
ゴハンを買いに広場に行くと、小さな子供がラビに向かって一目散に駆けて来た。
町を歩いてると、こんな風に子供が寄って来て飛びつくことなどしょっちゅうだよ。
臆病なラビは、最初のうち子供に飛びつかれてビクついていたけど。
今じゃすっかり慣れちゃって、子供がモフモフの毛に頬ずりするとラビも気持ち良さそうしてるの。
「あらまあ、すっかり人気者になったもんだね。
魔物がそんな風に懐くなんて、たまげたもんだよ。」
子供にじゃれつかれて、されるがままになっているラビを見ながらオバチャンも感心してたよ。
何処にでも付いて来るということは、当然狩りにもついて来る訳で…。
その頃になるとオランも一人でトレントを退治することが出来るようになっててね。
おいらやオランが容易くトレントを狩るものだから、ラビでも狩れると勘違いしたようなんだ。
おいらが目を離した隙に、不用意にトレントに近付いたみたいでね。
「ウキュキュ!」
変な鳴き声を耳にして振り返ると…。
ラビは、向かってくる槍のような枝を躱そうと必死になって跳ねてたよ。
でも、中々安全な場所まで退避することが出来なくて助けを求めてたんだ。
まあ、戦闘経験もないレベルゼロのラビが、レベル四のシュガートレントに勝てる訳もなく。
と言うより、前歯で噛み付くくらいしか攻撃手段のないウサギが、トレントの大木を倒せる訳が無いんだけど。
「ラビ、大丈夫?」
おいらはすぐに、ラビを攻撃しているトレントを倒してあげたんだ。
トレントの攻撃が余程怖かったんだろうね。
「ウキュ! ウキュ!」
怯えたような鳴き声を上げながら、おいらにしがみ付いてブルブルと体を震わせてたよ。
「こんなに憶病なら、成長しても人を襲うことは無いかしら。
いえ、まだ安心するのは早いわね。
成長するにしたがって、獰猛になるかもしれないしね。」
アルトは怯えているラビを眺めてそんな呟きを漏らしていたの。
いつ、野生が牙を剥くか分からないから油断しちゃダメだって。
**********
そんな感じで、すっかり町の人気者になったラビだけど。
ラビがやって来てしばらくすると町に変化が現れたんだ。
それは子供がいる家を中心にウサギを飼う人が出てきたこと。
勿論魔物のウサギじゃなくて、小動物のウサギね。
ラビの人気に目を付けた冒険者ギルドがウサギの捕獲に動いたの。
ヘタレな冒険者でも小動物のウサギくらいなら捕獲できるだろうってね。
おいら、小動物のウサギなんて見たこと無かったんだけど。
冒険者ギルドのオッチャンが言うには、近くの農村には普通に生息しているらしいよ。
ただ、おいらが狩場にしている西の草原は魔物が闊歩する弱肉強食の世界だからね。
小動物のウサギなんか格好の餌食になっちゃうんで棲んでないらしいの。
もしかしたら、昔はいたけど絶滅しちゃったのかもしれないって。
それはともかく、今まで冒険者は小動物のウサギなんか目もくれなかったらしいの。
ウサギはあくまで食材で、ペットとして飼うなんて誰も考えてなかったから。
食材としてなら、町の近くの草原にウサギの魔物が幾らでもいるからね。
ウサギ一匹からとれるお肉の量が、動物と魔物では桁違いだもの。
食材としてのウサギ(動物)は、小さ過ぎて二束三文でしか売れないそうなんだ。
だから、冒険者たちは誰も狩ろうとしなかったみたい。
小動物のウサギをチマチマ狩るより、ウサギの魔物を何人かで一匹狩った方が稼ぎ良いって。
小動物のウサギを狩るくらいなら、町の人にゴロ巻いて金を巻き上げていた方がましだったって。
ギルドのオッチャンは、そんなしょうもない事を言ってたよ。
でも、ラビがやって来て町の人気者になると話が違って来たの。
可愛いモフモフのウサギを子供が欲しがるようになったんだ。
ラビのようなウサギの魔物なんか、普通は獰猛で飼えないからね。
勢い小動物のウサギが注目されるようになったんだ。
ウサギを欲しがるのはもっぱら子供だからね。
大きさ的に言っても小動物の方がちょうど良かったみたい。
傷つけないように捕まえたウサギを、良く洗ってノミやダニを駆除すると高く売れるんだって。
冒険者ギルドではちょっとした稼ぎになったみたいだよ。
町の広場で子供がウサギとじゃれているのを見てたら。
「ああやってウサギを飼うことが出来るのも、この町が豊かになった証拠よね。」
おいらの肩に座っていたアルトがそんなことを言ったんだ。
「豊かになった証拠?」
「そうよ、今までのこの町じゃ、食べて行くのが精一杯だったでしょうからね。
ウサギなんて、食材としてしか扱われなかったと思うわ。
とても愛玩用にウサギを飼うなんて考えられなかったと思う。」
この町は、ダイヤモンド鉱山が閉山になってから寂れちゃったからね。
大した仕事もなくて食べて行くのがやっとだから、みんな、慎ましい生活をしていたんだ。
ウサギだって、飼うからには餌だって必要なんだから。
お金の面でも、心の面でもそんなゆとりは無かっただろうって。
ここ最近、『STD四十八』の興行を始めとして色々な変化があって、他所から人が集まるようになったでしょう。
おかげで、宿屋が復活したり、酒場が増えたりで町が活気を取り戻してきたんだ。
それに伴って、町に住む人達も稼ぐ機会が増えて少しずつ懐が温かくなってきたみたい。
ウサギをペットとして飼えるのは、そのくらいのゆとりが出て来たということで。
取りも直さず、町の人達が豊かになってる証拠だって。
そう言えば、一年前のこの広場は人通りも疎らで閑散としてたっけ。
その時は広場がこんなに賑わうなんて思いもしなかったよ。
この先、もっと、もっと、町が賑わうようになればいいね。
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