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第十一章 小さな王子の冒険記

第241話 ラビをお風呂に連れてったら…

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 公衆浴場へ行こうとしたら、ついて来ようとするウサギのラビ。
 そこに現れたアルトは、ラビをお風呂で洗って来いと言ったんだ。

「いやダメでしょう。
 ウサギを公衆浴場へ連れて行ったら、周りの迷惑になるよ。」

 幾らウサギは入っちゃダメという決まりは無いからと言っても。
 元々、ウサギを連れてお風呂に入りに来る人なんて想定してないんだろうから。
 常識的に言ってそれは拙いよね。

「あら、良いんじゃない。
 魔物を飼おうってこと自体とんでもないのだから。
 どうせなら、そのウサギが無害ですよとアピールすれば良いわ。
 大人しくしているようなら、みんな安心するでしょう。」

 アルトは言うの、魔物は人から恐れらている存在なのだど。
 そんなモノを飼ってると周囲から白い目で見られて、最悪迫害されるって。
 そうならないように、ラビを周囲の人に受け入れてもらうように努めないとダメだと。
 ラビがお風呂で大人しくしているようなら周囲の人が警戒を解くだろうって。

 アルトはそんなことを言うけど…。

「ラビ、ちゃんと大人しく出来る。
 人を襲ったらダメなんだからね。」

「ウキュ! ウキュ!」

 こいつ、絶対に分かってないよね。

 まあ、ラビが暴れるくらいなら、おいら一人でも押さえ込めるだろうから。
 あまり心配する必要も無いかと思い、アルトの提案に乗ることにしたんだ。

 何処に行くのかは分かってないだろうけど。
 一緒に行けると分かり、ラビはご機嫌で後を付いて来たよ。

 ただね、途中で肉屋さんに寄ったんだけど。
 ラビの前で、ウサギ肉のローストを注文した時は少し後ろめたかった。

      **********

「おや、マロン、そのウサギを連れて風呂に入ろうってのかい。」

 脱衣所に入ると、さっき広場で会ったオバチャンと鉢合わせしたんだ。

「うん、今日から一緒に寝ようと思うんだけど。
 この子、巣穴暮らしだったろうから汚れているでしょう。
 キレイに洗ってあげようかと思って。」

「そうかなのかい?
 まあ、良く懐いてるようだから滅多なことは無いだろうけど。
 くれぐれも、暴れさせないでおくれよ。」

 オバチャン、けっこう寛容だった。
 暴れさすなとは言ったけど、ウサギをお風呂に入れるなとは言わなかったよ。

 ラビを連れて浴室に入ると…。

「おねえちゃん、そのモケモケなのはなぁに?」

 おいらより大分小さな女の子が、ラビに興味をひかれて寄って来たの。

「これ? 可愛いでしょう。
 ウサギのラビだよ。
 怖くないから撫でてみる?」

「いいの?」

「うん、優しく撫でてあげて。」

 おいらが誘うと女の子はおそるおそるラビに手を伸ばして、ゆっくりと背中を撫で始めたの。

「ウキュ! ウキュ!」

 ラビが目を細めて気持ち良さそうに鳴き声を上げると。

「うわぁ! ふさふさで柔らかい。
 それに大人しいんだね、かわいい。」

 女の子がそんな風にはしゃいでいると、おいら達の周りに人が集まって来て。
 おいらが撫でても大丈夫と告げると、ラビは集まった人達から撫で回されることになったの。

 嫌がる様子も見せずに気持ち良さそうに鳴き声を上げるラビは、一躍みんなの人気者になっちゃった。

 ひとしきり撫でまわて満足した人達が掃けると、おいらはラビを洗うことにしたんだ。
 お湯を掛けたら嫌がるかなと思ったけど、予想に反してラビは気持ちよさそうにしたの。
 なので、モフモフの体全体をお湯で濡らしたおいらは、泡々の実で洗ったんだ。
 ラビのモフモフの毛って泡立ちが良くて、すぐに全身泡だらけになったよ。

 ラビの白い毛は余り汚れてないように見えたんだけど。
 アルトが指摘した通り結構汚れていたようで、土の汚れのせいで泡が茶色くなったの。
 その泡が真っ白になるまで、オランと手分けをして念入りにラビを洗ったんだ。

 充分に汚れを落としたラビを伴なって湯船に入ると。

「ウキュ! ウキュ!」

 おいらとオランに挟まれて大人しく温泉に浸かったラビ。
 温泉がお気に召した様子で、ご機嫌な鳴き声を上げてたよ。

「あら、ホントに大人しいウサギだね。
 とても魔物だなんて信じられないよ。
 そうやって愛嬌を振り撒いていれば町の人気者になれるよ。」

 三人(?)並んでお湯に浸かっているおいら達を見て、近所のオバチャンはそんなことを言ってた。
 きっと、ラビが人畜無害だということも町中に広めてくれるね。

 アルトの指示に従ったのは大正解だったよ。
 お風呂で大人しく撫でられていたラビは、町の人達に可愛いと評判になったの。
 ラビを魔物だからと怖がる人はいなくなったよ。
  
     **********

 お風呂から上がって、念入りに水気をふき取ったラビ。
 完全に乾かしてから外に出ないとすぐに汚れちゃうからね。 

「信じられないくらい真っ白なのじゃ。
 ウサギの体毛とはこんなに美しいモノだったのじゃな。」

 オランが驚くのも無理が無いよ。
 汚れを落とす前でも白くキレイに見えたんだんけど…。
 それでも汚れてくすんでいたみたいでね。
 念入りに汚れを落としてみたら艶々と光沢を持った白さだったの。

「モフモフで大人しいし、こんなキレイなら町の人気者になれるね。」

「ウキュ! ウキュ!」

 おいら達が褒めているのを察したのか、ラビも嬉しそうな鳴き声を上げてたよ。

「あら、そのウサギ、とても綺麗な体毛をしているのね。
 艶々としていて見違えちゃったわ。
 そのくらい綺麗にしておけば家の中で飼っても問題ないわね。」

 お風呂から戻るとアルトが出迎えてくれたの。
 どうやら、ラビが大人しくしているかを心配して待っていてくれたみたい。

 アルトはラビの目の前まで飛んで来ると、静止してジッとラビを見詰めてたんだ。
 すると…。

「ウキュ…。」

 か細い鳴き声を上げたラビは縮こまっちゃったの。
 
「ラビ、急にどうしちゃったの?」

 ラビの様子の急変にビックリしたおいら。
 言葉が通じる訳ないけど、思わずそんな風に問い掛けちゃったよ。

「ふむ、やっぱりね。
 マロン、このウサギ、野生の本能で強者を嗅ぎ取っているわ。
 今、少し威圧してみたのよ。
 そしたら、私に怯えて縮こまっちゃったの。」

 どうやら、アルトはラビの本能を試したみたい。
 ラビがおいら達にに良く懐いているのも本能からじゃないかと、アルトは言うの。
 怪我を治してあげたからと言うより、おいら達が絶対に敵わない強者だと嗅ぎ取ったから。
 何者かに襲われて命の危険を感じたラビは、本能的においら達の庇護を求めたのだろうと。

「このウサギが大きくなったところで、とうていあなた達に敵わないでしょう。
 多分、それは本能的にわかると思う。
 ただし、他の人間に対してはそうじゃないわ。
 闘争本能が強くなって、人を襲うかも知れないわね。
 今のうちから、人を襲わないように躾けなさい。
 強者であるあなた達の命令であれば、素直に従うかも知れないわ。」

 おいら達の躾け方が良ければ、ラビをずっと飼い慣らすことが出来るかも知れないとアルトは言うの。
 ただし、今まで魔物を飼ったという話は聞いたことが無いので、あくまで『かも知れない』だけど。

「そうなのか。
 それなら、やってみるのじゃ。
 せっかく懐いたのじゃから、ずっと一緒にいたいのじゃ。」

 アルトの言葉に、オランは俄然やる気を見せてたよ。
 ずっと一緒にって、オラン、いつまでここにいる気なの。
 それとも、王宮に連れて帰る気なのかな?

 そんな訳でオランがやる気になっちゃったし、おいら達はラビをキチンと躾けることにしたんだ。
 
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