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第十一章 小さな王子の冒険記
第233話 トレント狩りデビューだよ!
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おいらが差し出した『生命の欠片』をその身に取り込んだオランだけど。
今更ながら、おいらが『生命の欠片』を何処から出したのか気になったらしい。
「おいらも持っているんだ、『妖精の不思議空間』。
アルトみたいに、人を乗せたりできる凄い機能は無いけど。
物は沢山しまっておけるの。」
アルトが『妖精の不思議空間』と呼んでいるんだから、そう呼んじゃっても良いよね。
嘘は言っていないよ、別にアルトから授かったとは言ってないしね。
「ほう、マロンは本当に妖精の長殿から愛されておるんじゃの。
『妖精の光珠』だけでなく、そんな凄い秘宝まで授けられるなんて。
それにしても凄いのじゃ、あんな数の『生命の欠片』をしまえるとはビックリなのじゃ。」
オランはあっさりと納得してくれたようで、それ以上は聞いて来なかったよ。
『妖精の○○』って、ホント、便利な言葉だよね。
「妖精が関与しているなら、不思議なのも仕方ないね。」って、誰もが納得しちゃうんだもの。
勝手にアルトから授かったと思ってくれるんだったら、あえて訂正する必要もないしね。
それから、おいらはオランを連れて町の広場に行ったの。
毎朝、広場の屋台で朝ごはんを食べていると、アルトが迎えに来てくれることになっているから。
「よお、マロン、おはようさん。今日から、オランも一緒なのか。」
オランと二人で屋台で買った腸詰めを挟んだパンをパクついているとタロウが合流してきたの。
タロウには、シフォン姉ちゃんが家で朝ごはんを作ってくれるからね。
「うん、オランも一緒にトレント狩りをしたいんだって。
だから、連れてきたんだ。」
「ほお、小さいのに勇ましいな。
俺なんか、最初にトレント狩りに連れてかれた時にはびびってたのに。
まあ、無理しないでダメだと思ったら退くことだな。
怪我なんてしたらつまんねえからよ。」
タロウは、オランに良いアドバイスをしてくれたよ。
情けないことを言っているようだけど、ダメだと思ったら無理をしないのが鉄則だよ。
ケガをしないことが、一番大事だからね。
『勇者』願望があったタロウも、やっとチューニ病が治ってきたみたい。
「わかったのじゃ。
無理せず、ケガをしないようにじゃな。
先輩の言うことは聞かないとじゃからの。」
オランって本当に素直、王侯貴族とは思えない謙虚さだよね。
「あら、シタニアール国の王族は良く教育されているわね。
奢らず、謙虚に周りの言うことに耳を傾けられるのは美徳よ。
その心掛けを忘れなければ、きっと良い為政者になれるわよ。」
横から、アルトの感心する声が聞こえて来たよ。
何時からそこにいたのか、おいら達の会話を聞いていたらしいね。
「妖精の長殿に、そう言ってもらえると光栄なのじゃ。」
アルトに褒められたオランは、嬉しそうに顔を綻ばせていた。
「良い子のオランにはこれをあげるわ。
腰に下げている剣の代わりに使いなさい。
その剣をトレント狩りに使って、刃毀れでもしたら勿体ないわ。」
アルトは、そう言うと一振りの剣を差し出したの。
アルトに指摘されたオランの剣は、装飾の施された立派な鞘に収まっていて。
いかにも、王侯貴族が使いますと言わんばかりの剣なんだ。
対してアルトが差し出した剣は、頑丈さだけが取り柄のような武骨な剣だった。
トレントは魔物と言っても、まんま大木だものね。
華奢な剣じゃ、刃毀れどころか折れちゃうかもしれないし。
上等な剣は使うを躊躇するよね。
「妖精の長殿、かたじけないのじゃ。」
「妖精の長殿じゃなくて、これからはアルトと呼べばいいわよ。」
「わかったのじゃ。
アルト殿、有り難うなのじゃ。」
剣を受け取ってお礼を告げるオランに、アルトは目を細めていたよ。
どうやら、アルトはオランのことがお気に召したみたい。
**********
アルトの『積載庫』に乗ってやって来たのは『メイプルトレント』の狩場。
「凄いのじゃ、こんなに沢山の人でトレント狩りをするのじゃな。」
アルトの積載庫から降りて、メンバーの数の多さにオランは目を見張っていたよ。
元々『STD四十八』の稽古として始まったトレント狩りだけど。
その後、騎士団の訓練に組み込まれ、ローテーションで騎士団の一小隊五人が加わり。
更に、『トレントの木炭』を領地の特産品にするため、おいら、タロウ、父ちゃんが加わったものね。
「そうよ、毎朝狩ったトレントを私が『木炭』に加工して領主のライムに卸しているの。
トレントの木炭はとても貴重でね。
今、このメンバーがライムの領地を支えていると言っても過言ではないわ。」
トレントって、レベル三が標準の普通のトレントでも低レベルの冒険者が安全に狩ろうと思ったら十人が掛かりだし。
倒したところでトレントって、凄い大木だから普通の冒険者じゃ持って帰ってくるのが難しいの。
だから、通常『トレントの木炭』を作る際は、炭焼き職人のギルドが冒険者を雇って荷車を出すんだ。
冒険者を十人くらい雇って、荷車数台の隊列をなしてトレント狩りに行くの。
それでも、荷車一台に積めるトレントって二、三本らしくてね。
一回のトレント狩りで手に入るトレントは精々十本が良いところなんだって。
しかも、トレントの狩場って大抵町から離れているんで、二、三日掛かりらしいよ。
なので、トレントの木炭って凄く貴重で、『黒いダイヤモンド』と言われるほどなんだって。
そんなトレントなんだけど…。
「凄いのじゃ、何なのじゃ、あの男達は。
まるで踊るようにトレントを狩っていくではないか。」
いや、実際に踊っているんだから…。
オランは、剣舞の連携の稽古として行われている『STD四十八』の狩りの様子を見て驚嘆していたよ。
四十八人もの男達が密集して剣を振るうのだからね、気を抜いたら同士討ちになりかねないもん。
それをあいつらは、八人がトレントの枝を弾いて、残りが息のあった連携で連続して攻撃を繰り出すの。
見慣れているおいらでも、毎度感心するんだからオランが感心するのも頷けるよ。
「今度は何じゃ、あんな華奢な女騎士が一人でトレントを狩るじゃと。
信じられんのじゃ、どう見ても深窓の令嬢という容姿なのに…。」
オランたら、今度は、騎士団のお姉ちゃん達が一人で一体のトレントを倒していくのを見て驚いてたよ。
「凄いでしょう。
ハテノ領の治安維持を任されているお姉ちゃん達だからね。
イナッカ辺境伯の騎士団だって、騎士団のお姉ちゃん達が撃退したんだよ。」
「凄いのじゃ、人は見かけによらないのじゃ。」
更に…。
「あの男は何なのじゃ。片手でトレントを倒したのじゃ。
あんな大きな戦斧を、片手で軽々と振り回すなんて信じられんのじゃ。」
「あ、あれがおいらの父ちゃんだよ。
トレント狩りが終ったら紹介するね。」
「なに、あれがマロンの父ちゃんなのか。
凄い猛者に育てられたのじゃのう。
マロンが強いのも納得できるのじゃ。」
いや、いや、それは誤解だから。
父ちゃんは元々、武闘派じゃないから。
スライムやシューティング・ビーンズ狩りが中心で、せいぜい『うさぎ』の魔物を罠にかけて狩るぐらいだったし。
あれが出来るようになったのは、おいらが『生命の欠片』を分けてあげてからだから。
**********
「それじゃ、おいら達もトレントを狩ろうか。
いつもはおいら一人で狩っているんだけど。
オランは初めてだし、今日は二人で協力して狩るよ。」
「わかったのじゃ、マロン、頼むのじゃ。」
父ちゃんの狩る様子を見終えてから、おいらはオランを誘ったの。
おいらの誘いに応じたオランには、臆した様子は見られなかったよ。
初めてトレント狩りをした時のタロウより、よっぽど気合いが入ってた。
ヒュン!
「それは、予想していたのじゃ。」
トレントの攻撃範囲に足を踏み込むと、すかさず鋭い枝が襲ってきたの。
でも、オランは落ち着いて枝を掃っていたよ。
受けられる枝は切り落とすように掃い、受けきれない枝は上手く躱していたんだけど…。
カキン!
「前ばかり見ていたら危ないよ。
トレントは背後からも狙ってくるからね。」
メイプルトレントの攻撃してくる枝は八本。
中には枝を湾曲させて背後から狙ってくる枝もあるんだ。
だから、絶えず背中にも気を配ってないといけないの。
「おお、マロン、有り難うなのじゃ。助かったのじゃ。
そうか、背中にも気を付けないといけないのじゃな。
中々難しいのじゃ。」
そう言いつつ、オランは襲ってくる枝をかいくぐって、一気に幹に近付いたよ。
「先に狩りをしていた者達を見ていたのじゃ。
この位置は、枝が襲ってこれない死角なのじゃ。
これで、お終いなのじゃ。」
オランはピッタリとくっつく位置にまで来ると、剣で幹をガシガシと突き始めたの。
槍のような枝の攻撃が出来ない位置まで近づいたら、剣が振り回せなかったみたいだよ。
でも、何度も、何度も、オランが執拗に突いていると、徐々に幹の奥まで剣が突き刺さって行ったんだ。
やがて、トレントは静かに倒れていったよ。
「マロン、やったのじゃ。
初めてトレントを倒したのじゃ。」
トレントを倒した瞬間、オランは満面の笑みを浮かべて喜びの声を上げたの。
「オラン、おめでとう!
ほら見て、オランの足元に柿みたいな実が転がっているでしょう。
それが、スキル『命中率アップ』の実だよ。
それから、これが『メイプルポット』。
中に甘いメイプルシロップがいっぱいに詰まっているの。」
「おお、これが『スキルの実』なのか。沢山あるのじゃ。
それに、よく見ると枝に『メイプルポット』がたわわに実っておるぞ。
トレント一体倒すと、いったいどのくらいの稼ぎになるのじゃ。」
足元に沢山ドロップしているスキルの実と、枝に生った『メイプルポット』を見て尋ねてきたんだ。
うん、冒険者がどのくらいの収入を得ることが出来るのか知るのは大切な事だよね。
「冒険者の大部分は、トレントを狩っても本体は大きすぎて持って帰れないの。
だから、収入になるのは、『スキルの実』と『メイプルポット』だね。
両方とも相場が決まってるんで、一本でどのくらいの数が取れるかなんだ。
だいたい、銀貨千枚から三千枚くらいの幅があるよ。こればっかりは運だね。」
「銀貨千枚とな。
私は、お金を使ったことが無かったので価値がわからんのじゃ。
それは、多いのか、少ないのか?」
まあ、王宮から出たことが無ければ、お金を使う機会がないだろうからね。
昨日服やら何やらを揃えたのが、生まれて初めてお金を使ったって言ってたし。
「おいらのような慎ましい生活をしていれば、銀貨百枚もあれば一月暮らせるよ。
家族持ちでも銀貨三百枚もあれば一月生活していけるって話なんだ。
だから、銀貨千枚は大金だよ。
おいらの住んでいる家は銀貨千枚で買えちゃうもん。」
「なに? この一瞬でそんな大金を稼いでしまったのか?」
「おいら達は特別だよ。
普通の冒険者は、十人掛かりで一体倒するのがやっとだもん。
それに、歩くと往復するだけでも一日掛かりだもの。」
だから、必ずしも大金が稼げるわけじゃないんだ。
十人掛かりで掛かっても、ケガをする場合はあるからね。
トレントの枝で突き刺されたら、しばらく稼げなくなっちゃうし。
刺された場所が悪ければ、命に関わったり、後遺症が残ったりするから。
あと、二日かけて狩りに行っても十人だと一体狩るのが精一杯なのもネックなの。
おいら達と違って『積載庫』を持っていないからね。
十人くらいだと、『スキルの実』と『メイプルポット』を一体分運ぶのがやっとなんだ。
だから、トレント狩りをする人はそんなに多くないの。
「そうなのか。
私は、マロンに『生命の欠片』を沢山分けてもらえたので一人で狩れる訳なのか。
マロン、感謝するのだ。
マロンのおかげで、普通では出来ないことを体験することが出来そうなのじゃ。」
普通は一人でトレントを倒すことは出来ないと知り。
オランは、改めておいらに感謝の言葉を告げたんだ。
そうだね、ここにいる間に色々な事を経験できればいいね。
きっと、王族のオランが自由に過ごせるのは今だけだから。
今更ながら、おいらが『生命の欠片』を何処から出したのか気になったらしい。
「おいらも持っているんだ、『妖精の不思議空間』。
アルトみたいに、人を乗せたりできる凄い機能は無いけど。
物は沢山しまっておけるの。」
アルトが『妖精の不思議空間』と呼んでいるんだから、そう呼んじゃっても良いよね。
嘘は言っていないよ、別にアルトから授かったとは言ってないしね。
「ほう、マロンは本当に妖精の長殿から愛されておるんじゃの。
『妖精の光珠』だけでなく、そんな凄い秘宝まで授けられるなんて。
それにしても凄いのじゃ、あんな数の『生命の欠片』をしまえるとはビックリなのじゃ。」
オランはあっさりと納得してくれたようで、それ以上は聞いて来なかったよ。
『妖精の○○』って、ホント、便利な言葉だよね。
「妖精が関与しているなら、不思議なのも仕方ないね。」って、誰もが納得しちゃうんだもの。
勝手にアルトから授かったと思ってくれるんだったら、あえて訂正する必要もないしね。
それから、おいらはオランを連れて町の広場に行ったの。
毎朝、広場の屋台で朝ごはんを食べていると、アルトが迎えに来てくれることになっているから。
「よお、マロン、おはようさん。今日から、オランも一緒なのか。」
オランと二人で屋台で買った腸詰めを挟んだパンをパクついているとタロウが合流してきたの。
タロウには、シフォン姉ちゃんが家で朝ごはんを作ってくれるからね。
「うん、オランも一緒にトレント狩りをしたいんだって。
だから、連れてきたんだ。」
「ほお、小さいのに勇ましいな。
俺なんか、最初にトレント狩りに連れてかれた時にはびびってたのに。
まあ、無理しないでダメだと思ったら退くことだな。
怪我なんてしたらつまんねえからよ。」
タロウは、オランに良いアドバイスをしてくれたよ。
情けないことを言っているようだけど、ダメだと思ったら無理をしないのが鉄則だよ。
ケガをしないことが、一番大事だからね。
『勇者』願望があったタロウも、やっとチューニ病が治ってきたみたい。
「わかったのじゃ。
無理せず、ケガをしないようにじゃな。
先輩の言うことは聞かないとじゃからの。」
オランって本当に素直、王侯貴族とは思えない謙虚さだよね。
「あら、シタニアール国の王族は良く教育されているわね。
奢らず、謙虚に周りの言うことに耳を傾けられるのは美徳よ。
その心掛けを忘れなければ、きっと良い為政者になれるわよ。」
横から、アルトの感心する声が聞こえて来たよ。
何時からそこにいたのか、おいら達の会話を聞いていたらしいね。
「妖精の長殿に、そう言ってもらえると光栄なのじゃ。」
アルトに褒められたオランは、嬉しそうに顔を綻ばせていた。
「良い子のオランにはこれをあげるわ。
腰に下げている剣の代わりに使いなさい。
その剣をトレント狩りに使って、刃毀れでもしたら勿体ないわ。」
アルトは、そう言うと一振りの剣を差し出したの。
アルトに指摘されたオランの剣は、装飾の施された立派な鞘に収まっていて。
いかにも、王侯貴族が使いますと言わんばかりの剣なんだ。
対してアルトが差し出した剣は、頑丈さだけが取り柄のような武骨な剣だった。
トレントは魔物と言っても、まんま大木だものね。
華奢な剣じゃ、刃毀れどころか折れちゃうかもしれないし。
上等な剣は使うを躊躇するよね。
「妖精の長殿、かたじけないのじゃ。」
「妖精の長殿じゃなくて、これからはアルトと呼べばいいわよ。」
「わかったのじゃ。
アルト殿、有り難うなのじゃ。」
剣を受け取ってお礼を告げるオランに、アルトは目を細めていたよ。
どうやら、アルトはオランのことがお気に召したみたい。
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アルトの『積載庫』に乗ってやって来たのは『メイプルトレント』の狩場。
「凄いのじゃ、こんなに沢山の人でトレント狩りをするのじゃな。」
アルトの積載庫から降りて、メンバーの数の多さにオランは目を見張っていたよ。
元々『STD四十八』の稽古として始まったトレント狩りだけど。
その後、騎士団の訓練に組み込まれ、ローテーションで騎士団の一小隊五人が加わり。
更に、『トレントの木炭』を領地の特産品にするため、おいら、タロウ、父ちゃんが加わったものね。
「そうよ、毎朝狩ったトレントを私が『木炭』に加工して領主のライムに卸しているの。
トレントの木炭はとても貴重でね。
今、このメンバーがライムの領地を支えていると言っても過言ではないわ。」
トレントって、レベル三が標準の普通のトレントでも低レベルの冒険者が安全に狩ろうと思ったら十人が掛かりだし。
倒したところでトレントって、凄い大木だから普通の冒険者じゃ持って帰ってくるのが難しいの。
だから、通常『トレントの木炭』を作る際は、炭焼き職人のギルドが冒険者を雇って荷車を出すんだ。
冒険者を十人くらい雇って、荷車数台の隊列をなしてトレント狩りに行くの。
それでも、荷車一台に積めるトレントって二、三本らしくてね。
一回のトレント狩りで手に入るトレントは精々十本が良いところなんだって。
しかも、トレントの狩場って大抵町から離れているんで、二、三日掛かりらしいよ。
なので、トレントの木炭って凄く貴重で、『黒いダイヤモンド』と言われるほどなんだって。
そんなトレントなんだけど…。
「凄いのじゃ、何なのじゃ、あの男達は。
まるで踊るようにトレントを狩っていくではないか。」
いや、実際に踊っているんだから…。
オランは、剣舞の連携の稽古として行われている『STD四十八』の狩りの様子を見て驚嘆していたよ。
四十八人もの男達が密集して剣を振るうのだからね、気を抜いたら同士討ちになりかねないもん。
それをあいつらは、八人がトレントの枝を弾いて、残りが息のあった連携で連続して攻撃を繰り出すの。
見慣れているおいらでも、毎度感心するんだからオランが感心するのも頷けるよ。
「今度は何じゃ、あんな華奢な女騎士が一人でトレントを狩るじゃと。
信じられんのじゃ、どう見ても深窓の令嬢という容姿なのに…。」
オランたら、今度は、騎士団のお姉ちゃん達が一人で一体のトレントを倒していくのを見て驚いてたよ。
「凄いでしょう。
ハテノ領の治安維持を任されているお姉ちゃん達だからね。
イナッカ辺境伯の騎士団だって、騎士団のお姉ちゃん達が撃退したんだよ。」
「凄いのじゃ、人は見かけによらないのじゃ。」
更に…。
「あの男は何なのじゃ。片手でトレントを倒したのじゃ。
あんな大きな戦斧を、片手で軽々と振り回すなんて信じられんのじゃ。」
「あ、あれがおいらの父ちゃんだよ。
トレント狩りが終ったら紹介するね。」
「なに、あれがマロンの父ちゃんなのか。
凄い猛者に育てられたのじゃのう。
マロンが強いのも納得できるのじゃ。」
いや、いや、それは誤解だから。
父ちゃんは元々、武闘派じゃないから。
スライムやシューティング・ビーンズ狩りが中心で、せいぜい『うさぎ』の魔物を罠にかけて狩るぐらいだったし。
あれが出来るようになったのは、おいらが『生命の欠片』を分けてあげてからだから。
**********
「それじゃ、おいら達もトレントを狩ろうか。
いつもはおいら一人で狩っているんだけど。
オランは初めてだし、今日は二人で協力して狩るよ。」
「わかったのじゃ、マロン、頼むのじゃ。」
父ちゃんの狩る様子を見終えてから、おいらはオランを誘ったの。
おいらの誘いに応じたオランには、臆した様子は見られなかったよ。
初めてトレント狩りをした時のタロウより、よっぽど気合いが入ってた。
ヒュン!
「それは、予想していたのじゃ。」
トレントの攻撃範囲に足を踏み込むと、すかさず鋭い枝が襲ってきたの。
でも、オランは落ち着いて枝を掃っていたよ。
受けられる枝は切り落とすように掃い、受けきれない枝は上手く躱していたんだけど…。
カキン!
「前ばかり見ていたら危ないよ。
トレントは背後からも狙ってくるからね。」
メイプルトレントの攻撃してくる枝は八本。
中には枝を湾曲させて背後から狙ってくる枝もあるんだ。
だから、絶えず背中にも気を配ってないといけないの。
「おお、マロン、有り難うなのじゃ。助かったのじゃ。
そうか、背中にも気を付けないといけないのじゃな。
中々難しいのじゃ。」
そう言いつつ、オランは襲ってくる枝をかいくぐって、一気に幹に近付いたよ。
「先に狩りをしていた者達を見ていたのじゃ。
この位置は、枝が襲ってこれない死角なのじゃ。
これで、お終いなのじゃ。」
オランはピッタリとくっつく位置にまで来ると、剣で幹をガシガシと突き始めたの。
槍のような枝の攻撃が出来ない位置まで近づいたら、剣が振り回せなかったみたいだよ。
でも、何度も、何度も、オランが執拗に突いていると、徐々に幹の奥まで剣が突き刺さって行ったんだ。
やがて、トレントは静かに倒れていったよ。
「マロン、やったのじゃ。
初めてトレントを倒したのじゃ。」
トレントを倒した瞬間、オランは満面の笑みを浮かべて喜びの声を上げたの。
「オラン、おめでとう!
ほら見て、オランの足元に柿みたいな実が転がっているでしょう。
それが、スキル『命中率アップ』の実だよ。
それから、これが『メイプルポット』。
中に甘いメイプルシロップがいっぱいに詰まっているの。」
「おお、これが『スキルの実』なのか。沢山あるのじゃ。
それに、よく見ると枝に『メイプルポット』がたわわに実っておるぞ。
トレント一体倒すと、いったいどのくらいの稼ぎになるのじゃ。」
足元に沢山ドロップしているスキルの実と、枝に生った『メイプルポット』を見て尋ねてきたんだ。
うん、冒険者がどのくらいの収入を得ることが出来るのか知るのは大切な事だよね。
「冒険者の大部分は、トレントを狩っても本体は大きすぎて持って帰れないの。
だから、収入になるのは、『スキルの実』と『メイプルポット』だね。
両方とも相場が決まってるんで、一本でどのくらいの数が取れるかなんだ。
だいたい、銀貨千枚から三千枚くらいの幅があるよ。こればっかりは運だね。」
「銀貨千枚とな。
私は、お金を使ったことが無かったので価値がわからんのじゃ。
それは、多いのか、少ないのか?」
まあ、王宮から出たことが無ければ、お金を使う機会がないだろうからね。
昨日服やら何やらを揃えたのが、生まれて初めてお金を使ったって言ってたし。
「おいらのような慎ましい生活をしていれば、銀貨百枚もあれば一月暮らせるよ。
家族持ちでも銀貨三百枚もあれば一月生活していけるって話なんだ。
だから、銀貨千枚は大金だよ。
おいらの住んでいる家は銀貨千枚で買えちゃうもん。」
「なに? この一瞬でそんな大金を稼いでしまったのか?」
「おいら達は特別だよ。
普通の冒険者は、十人掛かりで一体倒するのがやっとだもん。
それに、歩くと往復するだけでも一日掛かりだもの。」
だから、必ずしも大金が稼げるわけじゃないんだ。
十人掛かりで掛かっても、ケガをする場合はあるからね。
トレントの枝で突き刺されたら、しばらく稼げなくなっちゃうし。
刺された場所が悪ければ、命に関わったり、後遺症が残ったりするから。
あと、二日かけて狩りに行っても十人だと一体狩るのが精一杯なのもネックなの。
おいら達と違って『積載庫』を持っていないからね。
十人くらいだと、『スキルの実』と『メイプルポット』を一体分運ぶのがやっとなんだ。
だから、トレント狩りをする人はそんなに多くないの。
「そうなのか。
私は、マロンに『生命の欠片』を沢山分けてもらえたので一人で狩れる訳なのか。
マロン、感謝するのだ。
マロンのおかげで、普通では出来ないことを体験することが出来そうなのじゃ。」
普通は一人でトレントを倒すことは出来ないと知り。
オランは、改めておいらに感謝の言葉を告げたんだ。
そうだね、ここにいる間に色々な事を経験できればいいね。
きっと、王族のオランが自由に過ごせるのは今だけだから。
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侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
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