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第十章 続・ハテノ男爵領再興記

第221話 今度はチャラいお兄ちゃんが出て来た…

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 アルトに消されちゃった五人については、代表のお爺ちゃんが『ウエニアール国』の王にありのままに説明することで決まり。
 『シタニアール国』側からは、王に対して暴言を吐いたことに対する厳重抗議と耳長族狩りには一切加担しないことを文書で伝えることになったの。この段階では…。

「しかし、困ったものです。
 あの愚か者ども、妖精殿に無礼を働いて殺されてしまうのは自業自得ですが…。
 耳長族を手に入れられなかったとなると、我が王は怒りの矛先を我々に向けられるでしょうな。
 いよいよ、私も今は亡き妻のところへ行く時が来たようです。
 その前に、せめて、娘の顔を一目でも見たかった。」

 代表のお爺ちゃんがそんなことをボヤいてたの。
 耳長族狩りのことなど、全く聞かされていないうえ、詮索無用としたんだよね。
 なのに、お爺ちゃんに責任取らせるの?

 おいらが、酷い理不尽だと思ってたら、王様もそんな感想を漏らしてたよ。

 そしたら、お爺ちゃんは。

「我が王は、そんな方なのです。
 何か気に入らないことがあるとすぐに人に当たる、それが筋違いでも。
 このところ機嫌が悪いと思っていたら、…。
 先ほどの話では、耳長族が手に入らないことが気に入らなかった様子。
 さぞ首を長くして、耳長族を捕らえて来るのを待っている事でしょう。
 今回耳長族の入手に失敗し、『シタニアール国』からの協力も拒絶されたとなれば。
 我が王が怒り狂うのが目に見えるようです。
 任務を負ったあの五人が帰らなければ、戻った我々に怒りをぶつけるのは必定ですな。」

 八つ当たりも良いところだよ。
 なに、その『すぐに人に当たる』って、まるで癇癪を起した子供のようじゃない…。

「そんなひどい目に遭うことが分かってるなら、帰らなければいいんじゃない。
 帰りを待っている家族がいるから、帰んないとダメなの?」

 つい、おいらは口を挟んじゃったんだ。
 すると。

「おお、見ず知らずの爺の心配をしてくれるとは優しい娘じゃ。
 いいや、私は先般妻に先立たれて、今は孤独の身じゃよ。
 ここにいる他の者も似たようなものだ。」

 息子さんは王宮勤めで、王が簒奪をした時に抵抗して殺されちゃったそうなの。
 娘さんも王宮に出仕していそうだけど、密命を帯びて落ち延びたようで行方不明なんだって。
 王のせいで家が無茶苦茶になったからね、今の王に仕えるのを拒絶したそうだよ。

 でも、要職にあったお爺ちゃんが辞めちゃうと、王宮が回らなかったらしいの。
 それで無理やり働かされていたんだって。
 奥さんを人質に取られる形で。

 そんな訳で、このお爺ちゃん、王の事は快く思っていないから。
 王が何か間違った政をしようとすると、一々戒めたらしいの。
 王は暴力で王宮を支配しているので、お爺ちゃんみたいに面と向かって戒める人は少ないみたい。
 なので、お爺ちゃんは王様から疎まれていたそうだよ。
 でも、人材不足でクビには出来なかったようなの。

 騎士以外の使節団の面子は、みな似たような人達で王から疎まれていたそうだよ。
 有能なのでクビには出来ないけど、煩いので側には置きたくないみたいな…。
 煩いモノだから、しばらく王宮から遠ざける意味合いもあって送られてきたみたい。

 でも、密命を帯びて落ち延びた行方不明の娘さんって…。

「それじゃ、帰らなければ良いじゃない。
 ウエニアール国から、ここまで二ヶ月もかかったんでしょう。
 途中で事故が起こっても不思議じゃないよ。
 この国に使節団は着いていないってことにしてもらえば良いじゃない。」

 おいらが勧めると…。

「ふむ、それもそうだな。
 どうせ帰っても、ロクな事にはならんだろうし。
 国を捨てて余生を過ごすのも良いかも知れん。」

 お爺ちゃんはそんな言葉を漏らしたんだ。

 すると…。

「おお、グラッセ子爵、国を捨てる覚悟を致しましたか。
 ならば、我々もお供させて頂きます。
 もう、あんな王の下に仕えるのはこりごりでございます。」

 残りの人達も口々に同調してウエニアール国には帰らないと言い出したんだ。
 それより、このお爺ちゃん、やっぱり…。

「それじゃ、ライム姉ちゃん、この人達を雇ったらどうかな。
 このまま、順調に領地が復興していけば、人手が足りなくなるでしょう。」

「でも、うちはそんなに高い俸禄で召し抱えることは出来ないわよ。
 アルト様のおかげで、やっと持ち直してきたところなんだから。」

 おいらの提案に対して、ライム姉ちゃんは渋っているけど…。
 この間、アルトから知らされた計画が上手く行けば、相当な人手が必要になるはずなんだ。

「領主殿、我ら召し抱えて頂けるのであれば、高い俸禄は望みません。
 我ら、前王の下で質素倹約を旨として来ましたので。
 俸禄が少ないなら少ないなりの生活の術は心得ています。」

「ライム、ここは召し抱えておいた方が良いわ。
 この人達、まともそうですもの。
 あと半年もすれば、人手は幾らでも必要になるから。
 お金が足りなければ、ライムの公演を増やせば良いだけよ。
 何なら、王都で王立劇場を借りて公演を打ちましょうか。
 一気に、大金が舞い込むわよ。」

 使節団の人が安い俸禄でも良いと告げると、アルトもそれを後押しするようなことを言ったの。
 王都で公演とか言われて、ライム姉ちゃんは嫌な顔をしていたけど…。

「アルト様がそう言うのであれば…。
 ですが、王立劇場で公演なんて絶対に嫌ですからね。」

 結局アルトに説得されて、ウエニアール国の使節団の人を雇入れることにしたんだ。
 
        **********

「そういう訳だから、この人達は私が連れて帰るね。
 シタニアール国から何か言って来たら、『使節団なんて来ていない』と言っておいて。」

 アルトが王様にそんな注文を付けると。

「いやいや、ちょっと待ってくれ。
 口裏をあわせることに協力するのはやぶさかではないが。
 その者達が帰らんと第二、第三の使節団がやってくるではないか。
 正直、あんなゴロツキみたいな連中を相手するのはかなわんぞ。
 単ならゴロツキなら捕縛すれば良いが、一応使節としてくるのだから質が悪い。
 アルトローゼン様のように問答無用で消し去ったら、国と国の問題になってしまう。」

 王様はシタニアール国への対応を渋ったよ。 
 たしかに、あんな冒険者のような連中を相手にするのは気が重いよね。
 しかも、向こうの王は執念深そうだから、ちょっとやそっとで耳長族を諦めるとは思えないものね。
 何度でも、使節の名目で耳長族狩りの不良騎士を送って来そうだよ。

 王様のもっともな言い分に、その場にいるみんなが黙り込んだの。
 みんな、どうしたもんかと考え込んでいるみたい。

 そこへ…。

「ねえ、ねえ、妖精族の長さま。
 俺もまだ独身なんだ。
 そっちのキレイな男爵様の婿になれるなんて、弟が羨ましすぎる。
 俺にもキレイな嫁さん紹介してくれよ。
 浮気はしないし、正妻一人を大切にするって誓うから。ねっ。」

 空気を読まないことを言うお兄ちゃんがいたんだ。
 言葉遣いは良くないけど、ガラが悪い訳じゃないよ。

 このお兄ちゃんの雰囲気を何と表現したら良いんだろう、少し軽薄な感じの…。
 チャラい?
 誰あろう、この国の第二王子。

「こら、シトラス、アルトローゼン様に向かって失礼であろう。
 お前に嫁の来手が無いのは、下半身が節操ないからであろう。
 室を迎えたければ、先ずは行いを正すことだ。」

「嫌だな、お父上は、妖精の長さまに誤解を与えるような事を言って。
 俺は、貴族の娘には指一本触れたことはないし。
 王族の立場をかさに着て平民の娘を手籠めにした事も一度もないぜ。
 俺、素人童貞だもん、問題なんか起こしたことなど無いだろう。」

「何を言っておるのだ、シトラス。
 そなた、十五の時から王宮を抜け出しては風呂屋通いを続けおって。
 そなたの風呂屋好きは、王都中で評判で平民でも知らぬ者が無いくらいだ。
 貴族の当主達も、大事な娘が変な病気にでもなったらと心配しているから。
 そなたへは嫁に出そうとはしないのではないか。」

「それは、違うって。
 今まで、貴族に好みの娘がいなかったから、風呂屋で処理してたんじゃないか。
 貴族の娘なんて、衝動に負けて迂闊に手を出したらそれで決まりだろう。
 好みの娘が現れたら、その娘一人を一生大切にするって。」

 シトラスと言う名の第二王子、一所懸命に王様に抗弁するけど…。
 見た目や話し方がチャラいせいか、いまいち信用できないよ。

「それに、マジな話、俺が耳長族の娘を正妻に迎えたとしたら。
 ウエニアール国の不良騎士共が、耳長族狩りを持ち出せると思うか?
 この国では耳長族が王家の正室に迎えられる立場だと、肝に命じさせられるだろう。
 それに、きっと、妖精の長さまが何とかしてくれるよね。」

 シトラス王子は、アルトを見詰めてニヤニヤと笑ったんだ。
 こいつ、見た目に反して策士だよ。
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