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アイイロモンペ

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第十章 続・ハテノ男爵領再興記

第220話 臣下に浅慮と評される王様って…

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 おいらが王族の三人と一緒にアルトの『積載庫』から出されてみると。
 謁見の間は異様な感じで静まり返っていたの。

 貴族達が集まっている中で『ウエニアール国』からやって来た使節団がいた一画。
 その中でも、王様に悪態をついていたならず者のような連中がいた周辺だけすっぽり空いていて。
 そこの床だけが焦げて色が変わってた。

 あのならず者達が突然燃やされた時、周りにいた人達は慌てて飛び退いたみたいで。
 遠巻きにして、焦げた床の辺りを眺めていた。
 人が沢山集まっている中で、よくあの五人だけ選んで燃やせたもんだと感心していると。

「なんと、惨い…。」「あれが、妖精の怒りをかった者の末路か…。」

 貴族達の中からそんな声が漏れ聞こえて、中には床に蹲ってえずいてる人もいたよ。
 他の人もみんな顔を青くして、恐れおののいてた。
 大の大人がそんな状態になるんだもん、アルトが女子供には見せられないと言うのがわかる気がする。

「あ奴らは妖精の祟りの話を知らなかったのであろうか。
 アルトローゼン様の言い付けに背こうとしたあげく、暴言を吐くとは身の程知らずな…。」

 気分が悪くして青褪めた王妃様の肩を抱いた王様が、焼け焦げた床の辺りを見てそんな呟きを漏らしてた。

「お父上、一体何があったのですか?」

 謁見の間の漂うただならぬ気配。
 それを感じ取った第四王子が王様に尋ねたの。

「そなたは今の様子を見ておらなかったのか?」

「はい、ボクは姉上達と共に『妖精の不思議空間』と申す部屋でお茶をご馳走になっていました。
 妖精様に無礼な事を言った者達にお仕置きをする間、そこにいるようにと。」

「そうか、それなら、そなたは気に留めることはない。
 アルトローゼン様は、幼いそなたには知る必要が無いことと思い、そうしたのであろうから。
 アルトローゼン様、幼い息子に心の傷を残さないようにとのお心遣いに感謝します。
 願わくば、我が妻もそこにお連れいただければ有り難かったのですが。」

 第四王子の言葉から、『妖精の不思議空間』が謁見の間と遮断されていたことに気付いた様子で。
 王様は、悲惨な光景を目にして気分を悪くしている王妃様も、そこに入れて欲しかったと愚痴ったの。

「ダメよ、子供や政に関与していない女の人ならともかく。
 王妃は王と共に国を担っていく責任があるのだもの。
 誓約に背いたらどんな目に遭うかを肝に銘じてもらわないと。
 二度とあんな光景を見たくないと思うのなら。
 耳長族に手出ししないように、国中に徹底する事ね。」

 女子供には優しいけど、上に立つ人には厳しいアルト。
 王妃様は、『女子供』じゃなく、『上に立つ人』の区分に入るんだね。

「アルトローゼン様は為政者に厳しいのですな。
 この場にいる皆の者に告ぐ。
 今、目にしたのが、妖精の不興をかった者の末路だ。
 先ほど、私がアルトローゼン様にした諸々の誓約。
 これはこの国におる全ての者に課されたものなので、遵守するように。
 特に、耳長族に対する狼藉は徹底的に取り締まる故、心しておくのだぞ。」

 流石に、五人を惨殺した現場を見せられた貴族達の中に、不服を見せる者は無かったよ。
 みんな、無言で頷いてた。

 それで、おいら達と不始末を起こしたウエニアール国の使節団を除いてこの場はお開きになったの。
 アルトが、扉の前に積み上げられたトレントの丸太を一瞬にして消し去ったら、また驚嘆の声が聞こえたよ。

      **********

 貴族達が謁見の間から退出すると、おいら達は場所を移すことにしたの。
 謁見の間で王様が誓約したことを文書に落とすことや、第三王子のライム姉ちゃんへの婿入りの打ち合わせをしないといけないからね。
 
 大きなテーブルを挟んで対面で座る席に腰を落ち着けると、王様はさっそく宰相に指示を出してたの。
 謁見の間でアルトやライム姉ちゃんに誓約したことを文章に起こすようにと。

 宰相は、王宮のお役人さんを呼び付けてテーブルの隅っこで作業を始めてたよ。

 それで、ライム姉ちゃんの婿取りの話より先に片付ける問題があったんだ。

「さて、アルトローゼン様の要求を全て飲むのは良いとして…。
 問題は、アルトローゼン様が消してしまったウエニアール国の騎士達であるな。
 仮にも親善使節として参った者である故。
 謁見の間で消されてしまったとなっては、慎重に対処せんと大問題になる。」

 そんな事を口にした王様が頭を抱えたのは、アルトの不興をかって消されちゃった不良騎士五人のこと。
 ウエニアール国に対して、五人のことをどう報告すれば良いのかって。

「いえ、その件は我が王にたいして、正式に抗議を申し立てて下されば良いと思います。
 陛下に対する暴言一つとっても、極刑に処されても致し方ない無礼を働いたのですから。
 ましてや、怖い物知らずにも、妖精殿に楯突いたのです自業自得としか言えません。
 私は謁見の間で見た通りの事をありのままに我が王に報告致します。
 我が方に非があるのは明らかでございますから。」

 使節団の代表のお爺ちゃんは、王様に気遣いはいらないと告げたの。
 それよりも、王様に暴言を吐いたり、勅令に反する行いを貴族に煽ったりしたことを抗議して欲しいって。

 代表のお爺ちゃんは言ってたよ。
 王の取り巻きは騎士団上がりの粗野な者が多く、宮廷の中がまるで冒険者ギルドのようだって。
 礼儀作法を弁えない者が多いけど、まさか、他国の王に暴言を吐く愚か者までいるとは思わなかったって。

 いや、あれは、『粗野』なんてもんじゃないよ、まんま、ならず者じゃない。
 あれが、王の取り巻きだと言うのなら、王もどんな人間か透けて見えるよよ。

「そう言えば、先程…、アルトローゼン様はおっしゃられてましたね。
 ウエニアール国の王のことを簒奪者の偽王だと。
 あればどういう意味なのですか?
 恥ずかしながら、ウエニアール国とは交流がございませんで。
 実のところ、国名くらいしか聞き及んでいないのです。」

 『ウエニアール国』とここ『シタニアール国』の間には、おいらが住む『トアール国』があるし。
 トアール国との間には高くて深い山脈があるからね。
 馬車だと、おいらの住む町からでも、ここ『トマリ』まで一月以上かかっちゃう。
 『ウエニアール国』からじゃ、いったいどのくらいかかるか。交易が出来る距離じゃないよね。

 さっき消されちゃったニイチャンが言ってたもん、海を渡って船で二ヶ月かけて来たって。

「私も聞き伝えだけどね。
 ロクでもない騎士団長が、質素倹約を旨とした王族を疎んで簒奪を企てたらしいわよ。
 従来の王族は、自らが慎ましい生活をしていただけではなく、貴族にもそれを奨励したらしいの。
 その分、民の税は低く抑えていたんで、国は安定していたらしいけど。
 贅沢がしたい騎士団長はそれはそれが気に入らなかったらしいのよ。
 同じく、慎ましい生活を奨励されて鬱陶しく思っていた貴族連中が同調したみたいね。
 騎士団長は反乱を起こし、王族を弑逆して、王の座に収まったそうよ。」

 アルトが王様に『ウエニアール国』の王様のことを話して聞かせると。

「アルトローゼン様は物知りですな。
 妖精族は人の世のことなど、関心が無いかと思っていました。
 まさか、遠い我が国の事情までご存じとは驚きました。
 ご指摘の通り、我が王は我欲のため、民に慕われていた王族に反旗を翻した浅慮な者です。
 此度も、突然『シタニアール国』を訪問して友誼を結んで来いと命じられ。
 ならず者のような騎士をつけられたので、何かあるとは思っていましたが…。」

 臣下から『浅慮な者』って言われる王って…。
 今、ウエニアール国の宮廷につかえる役人は、前の王族から仕えている人ばかりらしいの。
 本当は、目の前のお爺ちゃんも、簒奪があった際に王宮を辞めたかったらしいけど。
 騎士団長だった王様をはじめとして、簒奪を企てた連中って政などやったことが無い騎士ばかりで。
 宮廷勤めの役人が辞めちゃうと国が回らなかったらしいの。
 それで、剣で脅して無理やり役人を従わせたらしいの。

 王宮に仕える役人の殆どは、今の王に仕えるのを良しとしてないそうだけど。
 逆らうと容赦なく斬って捨てられるモノだから、渋々従っているみたい。
 簒奪があった当初、従おうとしなかった役人が数人、見せしめのために斬り捨てられたらしいよ。

 うーん、言うこと聞かないと見せしめのために殺しちゃうって。
 それだけ聞くと、アルトとやっていることが変わらないような…。

 そんな訳で、目の前のお爺ちゃんも、本音が漏れているみたい。
 今回も、『シタニアール国』へ行って適当に友誼を結んで来いと突然言われたそうで。
 具体的に何をして来いという指示は無いし、尋ねても…。

「ええい、煩い。
 貴様はシタニアール国へ行って『適当』に時間を潰して来れば良いのだ。
 具体的は指示は、我の腹心にしてある。
 お前は、向こうの王族に適当なおべんちゃらでも言っておけ。
 いいか、命が惜しければ、余計な詮索はするんじゃないぞ。」

 ウエニアール国の王は目的を教えてくれるどころか、お爺ちゃんを脅して詮索無用としたらしいの。
 お爺ちゃんは、トアール国から耳長族の献上を拒否されたことを知らなかったそうで。
 まさか、シタニアール国経由で騎士を耳長族狩りに行かせるとは思いもしなかったらしいよ。

「最近、王の機嫌が悪かったのは、トアール国に耳長族の献上を拒否されたからなのですね。」

 そんな事を呟いて、納得していたよ。

 うちの王様、珍しく頑張ったね。
 まあ、アルトにした誓約を破ったら今度こそ命が無いからね。
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