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第十章 続・ハテノ男爵領再興記
第216話 これじゃ、無法者の所業だよ
しおりを挟むイナッカ辺境伯の後継となる三男さんのお嫁さん候補を連れてくると言って消えたアルト。
ほどなくして再び現れた時には、耳長族のお姉ちゃんを三人従えていたの。
三人とも二十代前半に見える美人さんで、その場にいたイナッカ辺境伯に仕える人達は息を飲んだよ。
この三人はアルトの『積載庫』の中に待機していたんだ。
以前、『STD四十八』とのお見合いをした時に、元冒険者は嫌だと言ってお見合いに参加しなかったお姉ちゃん達だね。
三男さんは十五、六歳に見えるけど、残念ながら同じ年頃に見えるお姉ちゃんはいないんだよね。
見た目に十代に見えるお姉ちゃんは父ちゃんが全員孕ましちゃったし、『STD四十八』のお嫁さんになっちゃったからね。
でも、あと三人いるはずだけど…。何故、三人だけ?
「この三人の中から、あなたが一番好みの娘を一人選びなさい。
あなたの一生の伴侶になるのだから、よく考えれば良いわ。
少し年上だけど、耳長族は老いるのが遅いから、すぐにあなたの方が追い付くわよ。
今は姉さん女房だけど、後十年もすれば同世代、十五年もすれば年下に見えるわよ。」
三男さんにこの中からお嫁さんを選べと告げたアルト。
この三人は、三男さんのお嫁になっても良いと言ったお姉ちゃんらしいよ。
アルトは無理強いはしないから、結婚しても良いというお姉ちゃんに手を上げさせたんだって。
だから、六人連れて来たのに三人だけ出てきたんだね。
三人が自己紹介をして、三男さんと少し会話を交わすと。
三男さんは、三人の中では一番肉付きの良いお姉ねちゃんの手を取ったの。
肉付きが良いと言ってもデブじゃないよ。
ほど良い肉付きで柔らかい印象のお姉ちゃんといったところかな。
標準的な耳長族は痩せすぎな感じで、胸なんかペッタンコだから。
「ボク、あなたのような年上のお姉さんに憧れていたんです。
是非とも、ボクのお嫁さんになってください。
絶対に浮気はしません、一生涯、あなたを愛し続けると誓います。」
アルトから強制された婚姻のはずだけど、三男さんの好みに合致した様子で熱烈なプロポーズをしてたよ
三男さんのプロポーズに、お姉ちゃんが頷くと。
「ボク、結婚に期待なんかしてなかったのです。
側室腹の三男坊では、ロクな結婚は望むべくもなかったので。
どうせ、有力貴族の行き遅れか、出戻りの娘を押し付けられるモノだと思ってました。
それが、こんなキレイで、理想的なお嫁さんがもらえるなんて嬉しいです。」
「あっ、そう…、それは良かったわね。その娘を大切にしてあげてね。」
三男さんのあまりの喜びようにアルトの方が引き気味だったよ。
**********
「しばしお待ちを。
この婚姻、すんなり認められるものか、私は心配なのですが…。
もし、婚姻が認められなくて破談になると、妖精さんはお怒りになるでしょう。」
三男さんが耳長族のお姉ちゃんと結婚にノリノリでいると、家宰の爺やが水を差したの。
「うん? この国の領主の婚姻は誰かの承諾がいるのかしら?」
「はい、この国においては貴族の婚姻は王の承認が必要との建前になっています。
有力貴族同士の婚姻により王家以上の力を持つ貴族が現れるのを防ぐために。
平和な時代が続いたものですから、今は形骸化して原則届け出をすれば承認される形になっております。
ですが…、それはあくまで人族同士の結婚であるという前提です。」
家宰の爺やの言葉によると。
かつて耳長族がいた頃の、この国における耳長族の地位の問題らしいよ。
王侯貴族にとって、耳長族は『セイドレイ』で、よくて『妾』という扱いだったと言うの。
そんな耳長族を貴族の正式なお嫁さん、ましてや正室に迎えることが認めらるかわからないと言うの。
更には、その子供に家督相続権が認められるかもわからないって。
家宰の爺やの言葉を聞いたアルトはニヤッと笑って宣言したよ。
「それじゃ、これから王様に婚姻を承諾させに行きましょう。
元々、この愚か者に対する監督責任を取らせるために王宮へ行くつもりだったの。
ちょうど良いわ。」
棺桶に足を突っ込んでいる辺境伯を指差したアルトは、王様をとっちめるからと言って。
爺やと三男さんに、一緒に王都まで来るように指示したの。
すぐに出発するから、大至急、王様と謁見してもかまわない服装を整えろってね。
辺境伯と、一旦『積載庫』から出した騎士五十名も、『積載庫』に放り込んでいた。
こいつらはハテノ男爵領に侵攻した動かぬ証拠なので、用件が済むまで生かしておくみたい。
シタニアール国の王都って国の一番南の端にあるんだって。
この大地の南の果てには海と呼ばれる大きな水溜りがあって、その港町として栄えた町なんだって。
何が言いたいかと言うと…、凄く遠かった、アルトが全力で飛んでも四日も掛かったよ。
イナッカを出て四日目の昼ごろ。
王都トマリに着いたアルトは、直接王宮を目指したんだ。
空から町を見下ろせるアルトにとって、初めて来た町でも王宮を探すなんてお手の物だよ。
アルトが王宮と当たりをつけた建物に行ってみると。
正装をした貴族の人々がぞろぞろと中に入って行くところだったの。
この建物で、これから何かの行事があるみたいだった。
アルトは貴族の人の流れを追って王宮と思しき建物の中に入って行ったんだ。
人の流れが吸い込まれたのは、いったい何百人の人が入れるのだろうという広い部屋で。
部屋の前方は一段高くなっていて、装飾の施された立派な椅子が二つ並んで置かれていたの。
その後ろには、幾つかの椅子が並んで置かれていたよ。
「ここは謁見の間ね。ここが王宮で間違いないようだわ。
これから、王の謁見が行われるみたいだから、ここで待ち受けるとしましょうか。」
部屋の真ん中、天井付近で停止したアルトはおいらの部屋にやって来てそう言ったの。
しばらく待っていると、玉座の方に向かって貴族たちが整列し、四つある扉の三つが閉じられたんだ。
そして、玉座に一番近い入り口から、身なりの良いおじいちゃんに先導された華美な一団が入って来たの。
おそらく王族だね、先頭にいる一際豪華な服をまとっているのが王様だと思う。
宝石が散りばめられた王冠を被っているし。
**********
なんか、外国からの使節があってこれから王様に謁見するんだって。
そのまま場所を移して宴に流れ込むそうで、王都にいる主だった貴族がここに集まっているそうだよ。
そんなことを説明していたのは、王様たちを先導してきたおじいちゃん。
この国の宰相さんだそうで、今は玉座に座った王様の斜め前に立って進行役をしているの。
すると、玉座から一番遠い扉が開いて。
「『ウエニアール国』からの親善使節団一行が到着しました。」
扉警備をしていたと思われる騎士が報告したのに続き、十人の使節団が騎士に先導されて入って来たんだ。
よりによって、ウエニアール国から来た使節とかち合っちゃったよ。
そして、使節が入室して来た扉が閉まった瞬間を狙って…。
バタ!バタ!バタ!
アルトが四つの扉全ての前にトレントの本体を積み上げたんだ、天上に届くくらい堆くね。
「何事だ!」
そんな声が上がり騒然とした時、アルトはおいら達を謁見の間に出したの。
例によって、ペンネ姉ちゃんが王様を玉座から引きずり下ろして、クッころさんが抜き身の剣を王様の首にあてたの。
同時に、三十人の騎士の姉ちゃんが王様の後ろに座る王族の人達を囲んだよ。
もちろん、抜き身の剣を手にしていつでも斬り捨てられる体勢でね。
そしておいらはと言うと。
「この無礼者! 国王陛下に対して何たる無礼! 断じて赦さぬぞ!」
玉座の後ろに控えていた護衛の騎士が、ペンネ姉ちゃん、クッころさんの動きに素早く反応したんだ。
全く無駄のない動作で剣を振り被って、クッころさんに斬り掛かったの。
アルトに指示されていたんだ。
王様の後ろに立っている護衛の騎士、おそらく近衛騎士団のお偉いさんで偉く腕が立つって。
クッころさんやペンネ姉ちゃんでは歯が立ちそうも無いので、おいらに排除して欲しいって。
「ゴメンね、おっちゃん。
真面目にお務めを果たそうとするのを邪魔しちゃって。
でも、させる訳にはいかないんだ。」
おいらは、クッころさんに斬り掛かる騎士の前に立ちはだかると、剣を持つ手に手刀を入れたよ。
せめて、キレイに骨折させて職務に復帰できるようにね。
「うっ!」
前腕の真ん中付近をへし折られた騎士のおっちゃんは、うめき声を上げて剣を取り落としたんだ。
おいらはすかさず、反対側の前腕にも手刀を入れて腕をへし折ったの。
王様の護衛を任されるくらいの人なら、利き腕じゃなくてもそこそこ剣を振るうだろうからね。
王様はその騎士にかなりの信頼を置いていたようで。
おいらに両手をへし折られ目の前に転がされた騎士を見て目を丸くしていたよ。
その時には謁見の間が騒然として、集まった貴族たちは逃げようとしてたけど。
扉の前には人の手に余るトレントの大木が積み上げられているからね。
逃げ場を失ってパニックになっていたの。
「うるさいわ!静まりなさい!」
バリ!バリ!バーン!
アルトは謁見の間の石の床にビリビリを放ったんだ。
白煙を上げて弾け飛ぶ床の石材、床に空いた大穴。
パニックを起こしてた貴族達はそれを見て言葉を失っていたよ。
謁見の間が静まり返った。
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