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第十章 続・ハテノ男爵領再興記

第215話 今度は息子を物色し始めたよ

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「それで、ハテノ男爵はイナッカ辺境伯に対してどのような賠償をお望みで。」

 家宰の爺やがライム姉ちゃんの要求を尋ねると。
 ライム姉ちゃんは言い難そうにしていたんだけど。
 アルトにせっつかれて、渋々言ったんだ。

「第一に侵攻してきた騎士五十名は公開処刑に処します。
 もちろん、騎士五十名の『生命の欠片』はこちらで頂戴します。
 第二に侵攻を命じたイナッカ辺境伯にも死をもって償って頂きます。
 イナッカ辺境伯の『生命の欠片』は私が頂戴します。
 第三にハテノ男爵領への永久不可侵を文書で誓約して頂きます。
 私からの賠償請求はそれだけでございます。」

「なんと、領地や賠償金は請求されないと仰せですか。」

 通常、戦争に負けた側には領地の割譲や多額の賠償金が要求されるされるそうなの。
 それが無いと知り、驚きと共に安堵の表情を見せる家宰の爺や、だけど…。

「爺や、何を喜んでおるのだ。
 こ奴、儂の命を差し出せと要求しておるのだぞ。そんなの飲めるか。
 儂の『生命の欠片』が奪われるということは、辺境伯領の弱体化を意味するのだぞ。
 しかも、代々仕えてきた騎士の家に伝わった『生命の欠片』まで寄こせという。
 それでは、この領地が丸腰になるようなものではないか。」

 これが、二日前の晩にアルトから課された、ライム姉ちゃんにとっての一つ目の試練。
 心根の優しいライム姉ちゃんは、辺境伯と騎士達を殺して『生命の欠片』を奪うことを躊躇っていたんだ。
 でも、これからのハテノ男爵領にとってどうしても必要だからと、アルトから説得されたの。 

「辺境伯、自業自得だと思い諦めなされ…。
 辺境伯が欲を出して一方的にハテノ男爵領へ攻め込ませたのです。
 本来ならば、有無を言わさず首を刎ねられても文句を言える筋合いではないのですぞ。
 戦とはそう言うモノです、ですから軽々しく戦を起こしてはならないのです。」

 ちなみに、辺境伯の後ろには、剥き身の剣をぶら下げたクッころさんが立っているよ。
 おかしな挙動を見せたらすぐに首を刎ねられるように。

 家宰の爺やは、出来の悪い領主と騎士達の首で済むなら安いモノだと思っているように見えるよ。

「それで、終わりじゃないわよ。
 私からも要求があるの。
 そこの女好きの領主、耳長族が欲しいそうじゃない。
 だから、一人あげようかと思ってね。」

 アルトが唐突にそんなことを言ったんだ。

「へっ、くれるか?」

 女好きと言われる辺境伯がスケベそうににやけたけど。

「誰があんたにとあげると言ったのよ。
 あんたは棺桶に足をツッコんでいるのだから黙ってなさい。」

 アルトは無碍も無く辺境伯に言い放つと。

「このスケベ領主の息子に未婚の者はいるかしら。
 いるのであれば、連れてらっしゃい。」

「はぁ…。
 辺境伯にはご子息が三人おりますが…。
 現在のところ、三人とも未婚でございます。
 呼べと言われるのなら、お呼びしますが…。」

 家宰の爺やは、歯切れ悪い言葉を口にて気乗りしない表情をみせたけど。
 アルトには逆らえないと思ったのか、渋々三人の息子を呼ぶように部下に指示したの。

         **********

 そして、やって来たのは…。

「何だ、何だ、この連中は。
 何で、親父が剣など突き付けられてるのに黙ってみているんだ。」

「おい、アニキ、良い女ががいっぱいいるじゃんか。
 親父に剣を突き付けているの女もえらい別嬪だぜ。」

 まるで道端で堅気の人のゴロを巻いてる冒険者のようなニイチャンが入ってきたんだ。
 なるほど、家宰の爺やが呼びたくなかったはずだよ。
 女好きの辺境伯に輪をかけてしょうもない息子なんだね。

 そして、最後に入って来たのが…。

「あの、お兄様、何やら、不穏な気配ですので…。
 お言葉は慎まれた方がよろしいかと思いますが…。」

 腰が引けた様子の気弱そうなお兄ちゃんだった。
 先に入って来た二人は二十歳過ぎのようだけど。
 最後のお兄ちゃんはタロウより少し年上くらいかな、十五、六歳くらい。

 三人の息子を見たアルト、呆れた様子を見せて…。

「ねえ、家宰のお爺ちゃん、これが辺境伯の息子?
 そこらへんで悪さをしている冒険者みたいじゃない。」

「申し訳ございません、何せ、辺境伯があの調子でございましょう。
 ご子息も、甘やかし放題、我がまま放題で育ちましたもので…。
 三男さんは、側室のお子さんで上二人に虐められて育ったもので気弱になってしまい…。」

 正室の子二人は、領地経営も手伝わずに町をふらついては悪さばかりしているらしよ。
 町の人達から鼻つまみ者扱いされてるんだって。
 一番下の側室の子は、正室の子二人に奴隷のように使われているらしいよ。

「ねえ、この一族、いっそ根絶やしにしてしまった方が世間のためじゃない?」

 二人の息子を目にし、家宰の爺やの話を耳にしたアルトが呆れていると。

「まあまあ、そう言いなさんな。
 これでも、この国屈指の歴史を誇る家柄なのですから。
 例え、つまらない茶碗一つだって、歴史あるモノにはそれなりの価値があるのですから。」

 それって、骨とう品的な価値しかないと言っているのと同じだよ…。
 家宰の爺やも、領主一族にはあまり期待していないみたいだね。

「おい、爺、てめえ、何、人の悪口言ってるんだよ。
 呼ばれて来てみれば、親父は剣を突き付けられているし。
 この状況はいったい何なんだ、サッサと説明しろよ。」

 自分を悪しざまに言ってる家宰の爺やに文句を付けた正室の子の片割れ。
 状況が全く把握できていないようで、事情を説明しろと催促したんだ。

「辺境伯が、隣国のハテノ領を侵略するために、騎士団を送ったのはご存じでございますか?」

「おう、聞いているぜ。
 何でも、美人揃いで年を取らねえという耳長族を手に入れるためだろう。
 親父は、性奴隷に二、三人加えるって、張り切っていたぜ。
 俺達にもおこぼれがあるってことだから、期待していたんだ。」

「その騎士達が返り討ちに遭いまして。
 今、ハテノ男爵領の騎士により、この部屋が占拠されて状態です。
 辺境伯は捕らわれ、既に無条件降伏を致しました。
 現在、損害賠償の要求を突き付けられているところです。」

「ダッせぇ!
 何、あの騎士共、日頃威張り散らしている癖して。
 貧乏領地で名高いハテノ男爵領に負けたんか。
 で、親父の首を差し出すんで、俺に次の領主になれってのか。
 そりゃいいわ、これからは俺が酒池肉林が楽しめるって訳だ。」

 ニイチャン、ニイチャン、何早合点してんの、自分の首も差し出すことになるかもしれないのに…。
 今のセリフを聞いてアルトが、ニイチャンを領主にする訳ないじゃない。 

「ダメダメね、領主としての資質が一つもないわ。
 あんた、領主の相続権を放棄しなさい。
 そうね、山にでもこもって大人しくしていれば、命までは取らないわ。」

 アルトは早合点している長男らしきニイチャンにそう告げたの。
 妖精を目にするのは初めて見たいで、ニイチャンはアルトを物珍し気に眺めてたけど。

「うん? 何だこの羽虫は? いっちょう前にしゃべるのか。
 それにしても、生意気な口を利く羽虫だな。
 握りつぶしちまうか…。」

 やがて、アルトの言葉が気に障ったようで、本当に虫でも握りつぶすかのように手を出したんだ。

「汚い手で触るんじゃないわよ!」

 バリ!バリ!バリ!

「ウギャアアアアアァーーー!」

 ニイチャンにはお決まりのお仕置きが下されたんだ。
 死なない程度にギリギリの強さのお仕置きが…。

 髪の毛がチリチリになって、焦げた服がくすぶっているニイチャン。
 そんなニイチャンを見てアルトが言ったの。

「これは、もうダメね。
 廃人を後継ぎにする訳にはいかないでしょう。廃嫡しなさい。」

「貴様!儂の大事な倅になんてことをしてくれたんだ。
 そいつはな、町に良い女がいると、儂にためにと連れて来てくれたのだぞ。
 自分で味見もせずに、生娘のままでだ。
 儂の一番お気に入りの孝行息子だったのに。」

 アルトがニイチャンを粗大ゴミにしたら、辺境伯が烈火の如く怒ったの。
 剣を突き付けられているにも関わらずに。
 よっぽど、お気に入りの息子だったんだね、理由がしょうもないけど…。

 それで、次男の方はどうだったかと言うと…。
 言うまでも無いね、今、おいら達の目の前で煙を上げて燻ぶっている。
 やっぱり、アルトを羽虫扱いして怒りをかったよ。

     **********

「それで、あなたはどうする? この二人みたいに粗大ゴミになってみる?」

 もはや廃人と化し回復の見込みが無くなった二人を指差して、アルトが三男に問い掛けたんだ。

「ボクは別に領主になりたくはないです。
 山にこもって大人しくしていろと言われるなら仰せのままにします。
 ですから、命だけは勘弁してもらえませんか。」

「ダメよ、そんなのでは赦せないわ。」

 命乞いする三男に、アルトは冷たく言い放ったの。

「ダメですか? そこを何とか赦してもらえないでしょうか?
 兄様みたいな目に遭うのでなければ、何でもしますから。」

 三男は助けて欲しい一心で、アルトには絶対っちゃいけない言葉を口にしたんだ、『何でもしますから』。
 アルトは、待ったましたとばかり、ニッコリ笑って言ったの。

「その言葉、死ぬまで忘れるんじゃないわよ。
 それじゃあ、私の指示に従いなさい。
 あなたの父親が、間もなくこの世を去ることは承知しているわね。
 次の領主はあなたよ。
 ただし、今の領主の『生命の欠片』は賠償金代わりに頂くので。
 あなたが父親から受け継ぐレベルは無いから心しておくのよ。」

 そう話し始めたアルトは、幾つかの誓約をさせたの。
 基本は『耳長族に手出しするな、させるな』と言うこと。
 その内容は、うちの国の王様に誓約させたこととほとんど同じだった。
 加えて、ハテノ男爵領に対する不可侵も誓約させたよ。

 そして、最後に。

「あなたを初めとして、今後イナッカ辺境伯家は一夫一妻制とし。
 側室を持つこと、愛妾その他の女性と関係を持つことを禁じるわ。
 性奴隷など以ての外よ。
 そして、あなたは私が指示した娘を正室として迎えるの。
 今、私があげた条件を全て受け入れ、文書で誓約するのなら赦してあげるわ。」

「それだけでよろしいのですか?
 『耳長族に手出しするな』、『ハテノ男爵領に手出しするな』、『正室以外の女性に手を出すな』。
 要約するとこの三つだけですよね。
 そのくらいであれば、この命を担保に誓約しても必ず守って見せます。
 それに、ボクは最初から自分の望むような結婚は出来ると思っていなかったので。
 命じられた方を正室とする事にも異存はないです。」

 この三男、今まで虐げられて育って来たので、何事にも高望みはしないことにしているんだって。
 側室腹の三男なので、政略結婚の駒として有力貴族の売れ残りの娘を押し付けれるモノだと覚悟していたそうだよ。
 だから、アルトの指示する女性を正室に迎える事にも抵抗はないって。

 その返事を聞いてアルトは満足そうな笑みを浮かべたの。

「そう、じゃあ、決まりね。
 ちょっと、待っていてね、今、お嫁さん候補を連れて来るから。」

 そう告げると、その場で消えたんだ。
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