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アイイロモンペ

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第十章 続・ハテノ男爵領再興記

第214話 初手でイナッカ辺境伯を捕らえたよ

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 アルトは、ライム姉ちゃんとクッころさん、それに騎士団のお姉ちゃん達に支度をさせるとイナッカ辺境伯領に向かったんだ。
 そうそう、途中、おいらの町と耳長族の里によって、シフォン姉ちゃんと耳長族のお姉ちゃんを何人か拾っていたよ。
 タロウ一人じゃ寂しいだろうからって、シフォン姉ちゃんを拾うのは分かるけど。
 耳長族のお姉ちゃんはどうするつもりなんだろう。

 大分、遠いんでアルトでも二日くらいかかるそうだよ。
 捕虜としてとらえた騎士達、さすがに四日間も飲まず食わずじゃ死んじゃうかもしれないから。
 アルトは、僅かばかりの食料と水を『積載庫』にある『獣舎』の中に放り込んでいたよ。
 やっぱり、色々垂れ流しても良いように『獣舎』の中に捕らえてあるんだね。

 もちろん、おいら達は全員、『特別席』でベッド、ソファー付きだよ。
 タロウは、「俺も出世したな。」なんてしみじみと言ってた。
 最初の頃は『二等席』に放り込まれていたからね。

 その晩、おいらは、ライム姉ちゃんと同じ部屋で寝ることになっていたんだけど。
 アルトがやって来て、ライム姉ちゃんにこれから起こす一連の騒動を説明すると、覚悟を決めるように迫ったんだ。

「あまり、気乗りしませんが。
 それが、領地のため、領民のため、そして耳長族のためであるなら仕方がないですね。
 領主の責務だと思い、アルト様の言葉に従うことにいたします。」

 アルトが話した内容の柱は三つあったんだけど、そのうち二つはライム姉ちゃんに苦渋の決断を迫るモノだったの。
 話しを耳にした時、ライム姉ちゃんは気が乗らない表情だったけど、よく考えた上でアルトの指示に従うことにしたよ。

       **********

 そして、二日後の昼前、おいら達はイナッカ辺境伯領の領都イナッカに着いたの。
 イナッカは、トアール国とシタニアール国を隔てる山脈にほど近い場所にある町で。
 元々は、国境を守るために造られた町らしく、堅固な城壁に囲まれていたよ。
 とは言え、アルトの話では、実際に城として機能したことはないみたいだよ。
 この周辺の国では、もう何百年も戦争なんか起こってないから。
 今回の、イナッカ辺境伯の侵攻は、何百年かぶりの暴挙だったんだね。

 町に着くと、アルトは一気にイナッカ辺境伯の館を目指したんだ。
 空き部屋の窓を割って館の中に侵入すると、…。
 立派な扉を手当たり次第に壊して部屋の中を検めていったの、イナッカ辺境伯を探すためにね。 

 館の中は、幾つもの扉が突然に弾け飛んで大パニックだよ。
 廊下の天井付近を飛ぶアルトが、いきなりビリビリを放って扉を粉砕するもんだからね。
 普通は天井の方から攻撃して来るなんて思ってないでしょう。
 天井の高さを飛ぶアルトに気付かないので、勝手に扉が弾け飛んだように見えるみたい。

 そして、粉砕した扉の数が二桁になろうかという時…。

「いったい、何事だ! これは何者の仕業なのだ!」

「今確認します故、辺境伯はこの場でお待ちを。」

 扉を粉砕した部屋の中から、そんな声が聞こえ。
 騎士の服装をしたおっちゃんが廊下に顔をのぞかせたんだ。

 その瞬間を見計らったように、アルトは騎士に向かってビリビリを放ったの。

「うがっ!」

 そんな短い悲鳴を上げて倒れ込む騎士、その上を飛んでアルトは部屋へ侵入したんだ。

 部屋に入ると仕事中だった様子で、派手な服を着た四十男と側近らしい初老の男が席に着いていたよ。
 そして四十男の後ろには護衛らしき騎士が一人立っていた。

「あんたが、辺境伯で良いのかしら?」

 部屋に入ると四十男の視線の高さまで降りてきたアルトが尋ねたの。

「何と、羽虫の分際でしゃべるとは面妖な。
 しかも、この儂に向かって無礼な事を口の利き方をしおって。」
 
 四十男はアルトの問い掛けに答えようともしないで、そんな呟きを漏らしたの。

「辺境伯、その方の機嫌を損ねたら、拙いです!
 最悪、この領地が滅びますぞ!」

 すると、側近らしいおじいちゃんが慌てて四十男に注意をしたんだ。
 この四十男が辺境伯で間違いないみたいだね。

「うん? 爺やはこの羽虫のことを知っておるのか?」

「いえ、私もお目にかかったのは初めてですが…。
 言い伝えにある妖精の姿そのものなのです。
 隣国トアール国では、二百年程前に時の王が妖精の機嫌を損ねて国が滅びかけたと聞きます。
 ここは、丁重に対応しておいた方が良かろうかと存じます。」

「爺や、そなた、今幾つになった。
 その歳になって妖精などと、幼子のような事を申しおって。
 よもや、もうボケたというのではあるまいな。」

 爺やと呼ばれたおじいちゃんは、アルトを妖精と気付いて丁重に対応するように進言したのだけど。
 辺境伯は爺やの進言に全く取り合おうとしなかったんよ。それどころか、爺やの頭を疑ってた。

「もう良いわ、そいつが辺境伯だと分かれば十分よ。
 エクレア、ペンネ、打ち合わせ通りにやっちゃって。」

 辺境伯と爺やの会話を聞いていたアルトは、そう言うと辺境伯の後ろに立つ騎士の隣に二人を出したの。
 すかさず、ペンネ姉ちゃんが騎士の鳩尾に剣の柄で一撃を加えると。
 間髪入れず、クッころさんが鞘に納めたままの剣で騎士の後頭部を打ち抜いたよ。

 瞬時に騎士を無力化すると、クッころさんとペンネ姉ちゃんは辺境伯を椅子から引きずり下ろしたんだ。
 そして、床に跪かせると、クッころさんが鞘から剣を抜いて辺境伯の首にあてたんだ。
 いつでも、首を斬り落せるという脅しだね。

「この無礼者めが!
 辺境伯である儂にこのような無礼を働いてタダで済むと思っているのか!」

「あら、おかしなことを言うのね。
 あんたが侵攻を命じた騎士団長のソボーは、はっきりと宣戦布告したわよ。
 今、あんたを取り押さえている騎士が所属するハテノ男爵領とイナッカ辺境伯領は交戦状態。
 敵の総大将の首をとるのに、なんで無礼な事があるのよ。」

「貴様、何を言っている!
 この二人がハテノ男爵領の騎士だと?」

 辺境伯が信じられないと表情で問うと、アルトは放り出したんだ。
 騎士団長のソボーを、辺境伯の目の前にね。

「おい、ソボー、これはどういうことだ。」

「辺境伯、申し訳ございません。
 作戦は失敗、出征した騎士五十人、全員が虜囚の辱めを受けることとなりました。」

 まさか負けるとは露ほどにも思ってなかった辺境伯、ソボーの言葉を耳にしてやっと事態が呑み込めたみたい。
 呆然としていたよ。

      **********

「さてと、事情は呑み込めてもらえたわね。それじゃ、お話をしましょうか。」

 まだ、呆然としている辺境伯にそう告げたアルト。
 ライム姉ちゃんと騎士を二十人ほど『積載庫』から出したの。

 騎士のお姉ちゃん達、一部は出入り口の警戒に当たり、残りは辺境伯と爺やを取り囲むように立ったんだ。

 そして…。

「初めまして、私はライム・ド・ハテノ。ハテノ男爵領の領主です。
 この度のイナッカ辺境伯領騎士団による我が領地へ侵攻を甚だ遺憾に思います。
 その件ついて、無条件降伏の勧告と賠償の請求にやって参りました。」

 ライム姉ちゃんは辺境伯を見下ろしてそう告げたの。
 互いの立場を明確にするため、辺境伯は跪かせたままだよ、首に剣を当てたままだし。

「無条件降伏だと、ふざけるな!
 たかだか第一陣を退けたくらいで、小娘が調子に乗るなよ!」

 辺境伯は虚勢を張るけど、跪いたままでは格好がつかないよ…。
 だいたい、辺境伯がこの場で首を刎ねられたら、もう第二陣は出せないでしょうに。

「辺境伯、虚勢を張るのはやめましょう。
 ここまで攻め込まれた段階で我々の負けです。
 ハテノ男爵の一言で辺境伯の首が飛ぶのですぞ。」

 爺やの方は至って冷静で、虚勢を張る辺境伯を諫めたんだ。
 爺やの言葉に辺境伯は項垂れちゃった。

「で、どうするの、無条件降伏を飲むの、飲まないの?」

 アルトが問い掛けると、辺境伯は悔しそうに頷いていたよ。

「それで、妖精さんは、どのようなお立場でこちらにいらっしゃるので。
 妖精さんは、人の間の諍いなどには口を挟まないのではございませんか。
 ハテノ男爵に加担している様子ですが、私達が何か気に障るような事を致しましたか。」

 交渉のテーブルに着いた爺やが、最初に尋ねてきたのはアルトの立場についてだったの。
 爺やは辺境伯家の家宰を務めていて、辺境伯領における実務責任者なんだって。 
 厄災のような存在と言われる妖精が、傍にいることが気が気でないみたい。

「捕虜にしたソボーから、侵攻の目的の一つが耳長族にあると聞いてね。
 今、存在が確認されている耳長族は、すべて私の庇護下にあるの。
 私の庇護下にある者に手を出されて赦しておく訳にはいかないからね。」

 アルトの身内と言っても良い耳長族に、今後手を出さないよう釘を刺しに来たと告げたんだ。
 ライム姉ちゃんのことも、耳長族に便宜を図ってもらう見返りに支援しているとを話してた。
 ついでにトアール国では、耳長族に危害を加えることが勅令で禁止されている事も教えてたよ。

「何と、耳長族は妖精さんの庇護のもとにあったのですか…。
 どうやら、私達は虎の尾を踏んでしまったようですな。
 辺境伯、これは一族郎党根絶やしにされても文句を言えそうにないですよ。
 だから侵攻など止めておけと、何度も、進言したでしょうに。」
 
 家宰の爺やは侵攻に反対したらしよ。
 辺境伯は収入源の一つである『山の民』の品が奪われたと腹を立てていたらしいけど。
 『山の民』はこの領地の領民ではないからね。
 何処に行こうが、何処で商売しようが、口出しできないと最初から思っていたみたい。
 それに、『山の民』から得られる富は、辺境伯が独り占めしていたから。
 それが無くなったところで、領民の暮らしに大した影響はないんだって。

 しかも、『山の民』から得た富は、漁色でほとんど使っちゃうんで。
 辺境伯が漁色を慎めば済むことだと諫めていたみたいだよ。
 ところで、『漁色』ってなぁに?
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