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第十章 続・ハテノ男爵領再興記

第212話 イナッカ辺境伯騎士団、弱かったよ…

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 ペンネ姉ちゃんが、親切に忠告してあげたんだから、素直に帰れば良いのに。
 騎士団長のソボーは、ペンネ姉ちゃんの言葉を鼻で笑って退けたんだ。

 そして。

「もう良い、死にたくなければ、そこを退け。
 退かぬなら、馬で踏みつぶしてくれるわ。」

 最後通牒とばかりに、ペンネ姉ちゃんを恫喝したんだ。

「そう、それは残念…。
 大人しく引き返せば見逃してあげようと思ったのに。
 荒事は好きじゃないのですけど。
 仕方ありませんわ、かかってらっしゃい。」

 当然、ペンネ姉ちゃんは応戦すると告げる訳だけど。
 小娘が億す様子もなく、逆に挑発するような言葉を口にしたもんだから。
 ソボーはかッときたみたいで。

「小娘が言わせておけば生意気に。
 良かろう、お望み通り、踏みつぶしてくれるわ。
 全軍突撃! 生意気な小娘どもを踏みつぶしてやれ!」

 従えた騎士達に号令をかけると自らもペンネ姉ちゃんに向かって馬を走らせたの。
 ペンネ姉ちゃん、それにおいら達も、ソボー達からは馬で一瞬の距離に立っていたんだけど。

「なに!消えただと!」

 ソボーの乗った馬がペンネ姉ちゃんを踏みつぶそうとした瞬間。
 アルトがおいら達三人を『積載庫』にしまったの。

 ソボーは驚いたようだけど、もう馬を走らせちゃっているからね。
 急に止まることはできないから、そのまま並んでいる騎士団に向かって突進したんだ。

 その瞬間。

「ヒヒーン!」

 ソボーの乗った馬が悲鳴のような嘶きを上げると、狂ったように暴れ出したの。
 それに続いて先頭付近の二頭の馬もね…。

 何の前触れもなく暴れ出したものだから、不意を突かれて落馬するソボーと他二人の騎士。

 そう、騎士団のお姉ちゃん達が、ゴムで飛ばした玉が馬に当たったんだよ。
 二十四人の騎士を八人ずつ三組に分けて、順繰りに撃つことで間断なく玉を浴びせかけるようにしているの。

「おい、バカ! 俺を踏むんじゃないぞ! 一旦進軍停止だ!」

 落馬したソボーが、地面に這いつくばってそんな喚き声を上げるけど…。
 走り出した五十騎もの集団がそんな急に停まれる訳ないじゃん。

 馬を進めていた騎士達は、落馬したソボー達を踏みつけないように大混乱。
 そこへ、玉が容赦なく降り注ぐんだ。
 大きなカモを一撃で仕留める玉だもの。馬だって当たれば痛いよね。

 当然馬は暴れ出す訳で…。
 落馬した騎士を踏みつけないように神経を使っているところに、馬が暴れるモノだから落馬する騎士が続出。
 それが、ある程度の数になったら、もう玉を撃つ必要もなくなるよ。
 騎士が落馬したことにより、騎士の束縛を逃れた馬が勝手に動き回るからね。
 馬同士の接触によって、落馬する騎士が続々と出てくるの。
 それでも、騎士のお姉ちゃん達は執拗に玉を撃ち続けるよ、そう言う作戦だからね。
 騎乗している騎士が一人もいなくなるまで撃ち続けるという。

 しばらくすると、アルトが提案した作戦通り、五十騎の騎士達は全員落馬していたよ。

       **********

 馬上に騎士が一人もいなくなったことを確認すると。
 アルトはすかさず、馬たちを『積載庫』にしまったの。

 そして、

「さあ、あなた達の出番よ!
 騎士達を制圧しちゃいなさい。なるべく殺さないようにね。」

 アルトはそんな指示と共に、おいら達を積載庫から放り出したんだ。
 多くの騎士が落馬して、まだ立ち上がれずにいる前にね。

 騎士団長のソボーも、一体何が起こったのか理解できていない様子でね。
 呆然として、地面にへたり込んだままだったよ。

 おいらは予めアルトから指示を受けた通り、ソボーに駆け寄ったの。

「オッチャンは、大事な人質だから。
 殺しちゃうとマズいんで、おいらが相手をするね。」

 タロウも、ペンネ姉ちゃんも制圧に剣を使うからね。
 手加減できるほど剣に通じている訳じゃないから、抵抗されたら殺しちゃうかもしれないからね。

「人質だと? ガキがなに生意気なことをほざきやがる!」

 おいらのようなガキんちょに舐めたと思ったのか、ソボーのオッチャン、激怒したよ。
 おいらを斬り捨てるべく、腰に下げた剣に手をかけて起き上がろうとしたの。

 おいら、すかさずソボーに近寄り、蹴りを入れたね、二回。
 剣を抜くべく握っている手の甲と立ち上がろうと力を込めている膝にね。

 骨が砕ける音がして、剣を手放したソボーはそのまま前へつんのめるようにして倒れ込んだよ。
 卑怯なんて言わないでよ。
 なんで、相手が準備万端戦う体勢が整うまで待ってないといけないの。
 もう戦いは始まっているんだもん、先手必勝だよ。

 おいらは、つんのめって、うつ伏せに倒れたソボーを無力化しておくことにしたの。
 もう片方の手の甲と膝を踏みつけてね、ついでに剣も取り上げておいたよ。

 で、周りを見ると…。

「なんだ、こいつら、騎士だって偉そうにしているけど。
 トレントより、ずっと動きが遅いじゃねえか。
 ビビる必要なかったぜ。」

 その言葉通り、タロウは向かってくる騎士達をいなしながら、剣を握る手を斬り落としてたよ。
 手首を切り落とすと、血がいっぱい出るから嫌だと言ってたけど…。
 騎士のレベルがそこそこ高いみたいで。
 柄で殴って気絶させるとか、剣を握る親指だけ切り落とすなんて、手加減する余裕はないみたい。

 他方こっちは…。

「みなさん、お願い、降参してください。私、剣は苦手なんです。」

 対峙した騎士達に向かって、そう呼びかけるペンネ姉ちゃん。
 剣は苦手って、そんな風に呼びかけたら誰も降参しないって…。

「小娘がほざきおって、何が降参しろだ!
 剣が苦手なら、ちょうど良い。
 おい、こいつちょっと幼いが、いい女だし。
 抵抗できないように痛めつけて、輪姦まわしちまおうぜ。」

 ほら、ペンネ姉ちゃんの意図したことが通じていない…。

 騎士に斬り付けらたペンネ姉ちゃん、「キャ!」なんて可愛い悲鳴をあげて剣を躱すと。
 躱しざまに、握った剣を振り下ろしたんだ、相手の肩口にぐっさりと…。

「きゃあ! 大丈夫ですか?
 死なないでくださいね。
 殺しちゃうと、アルト様に叱られますから。」

 吹き出す血を見て、ペンネ姉ちゃん、慌ててたよ。
 剣の扱いが苦手なんで『手加減』出来ないんだよね…、相手には通じてなかったようだけど。

「げっ、こいつ、強えぇじゃねえか。」

 ペンネ姉ちゃんが騎士の剣を軽く躱して、反撃を加えたもんだから他の騎士がビビってるよ。

 二人とも難無く騎士を退けていて、加勢する必要もないみたいだし。
 おいらは、おいらで勝手にやらせてもらうことにしたんだ。

 まずは、落馬した時に腰とかを打って起き上がれない騎士のこぶしと、膝を砕いて行くことからね。

      **********

 ものの一時間もしないうちに全部片付いたよ。
 剣を振りかざして立ち向かって来た騎士もいたけど、みんな、一撃だった。
 『回避』と『クリティカル』のスキルがきっちり仕事をしてくれたよ。 
 おいらが相手した騎士は、全員両手のこぶしと両膝を砕いて放置したあるよ。

「もう、ペンネったら、少しは剣の扱いの練習をしなさいよ。
 あんたが相手した騎士、みんな、瀕死じゃない。
 こいつらには、まだ使い道があるんだから、生かしておかないと…。」

 アルトがお小言を言いながら、ペンネ姉ちゃんが倒した騎士の傷口に『妖精の泉』の水をかけてたよ。
 そうしないと、死んじゃいそうだったから。

 タロウもアルトに指示されて、自分が倒した騎士に泉の水をかけて傷口を塞いでたよ。
 結局、タロウは対峙した全ての騎士に対し、利き腕の手首から先を斬り落としちゃったの。
 そのまま傷口を塞いじゃったから、もう手首から先をつなげることできないね。

 倒した騎士の応急処置を終えて。
 
「それで、イナッカ辺境伯は何の目的で、あなた達にこの町の占領を命じたの。」

 縛り上げたソボーに向かい、ペンネ姉ちゃんが尋問を始めたんだ。

「誰が、しゃべるか!
 貴様ら、生意気にも俺達をこんな目に遭わせやがって。
 必ずや俺達に逆らった報いを受けさせてやるぞ!」

 両手、両膝を砕かれ、縛りあげられているのに、ソボーはまだ虚勢を張ってたの。
 立ち上がる事も出来ないのに、どうやって仕返ししようというか…。

 ソボーの言葉を聞いたペンネ姉ちゃん、無言でおいらが砕いた手の甲に剣を突き刺したよ。ぐっさりと…。

「ギャアアアアア!」

 大の大人が、信じられない大きな悲鳴を上げたよ。

「マロンちゃんに、砕かれてもう痛みを感じないかと思ったけど…。
 けっこう、痛みを感じるみたいね。
 じゃあ、次はもう片方の手のひらもぐっさりいきましょうか?」

 悲鳴を聞いたペンネ姉ちゃん、可愛い顔に不釣り合いなサディスティックな笑いを浮かべて告げたんだ。
 そして、ソボーの手の甲に突き立てた剣を抜くと、再び剣を振り上げて…。

「悪かった! 話す、話すから、これ以上は勘弁してくれ!」

 口ほどにも無いね、わずか一撃で態度をころりと変えたよ。

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