ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!

アイイロモンペ

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第十章 続・ハテノ男爵領再興記

第210話 他国の風紀まで乱すつもりなの?

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 パンツを見せながら歌うペンネ姉ちゃんに魅了されちゃった若旦那だけど。
 その後、『STD四十八』の剣舞もちゃんと見物していたんだ。
 ペンネ姉ちゃんの時みたいに食い入るほどにじゃなかったけど、それなりに感心して見ていたの。
 やがて、それに気付いたみたいで…。

「なあ、お嬢ちゃん。
 私の見間違いじゃなければ…。
 さっきから、楽器の演奏をしているのって。
 幻の民族と言われている耳長族じゃないのか?」

 さっきまではペンネ姉ちゃんのパンツに目が釘付けだったけど。
 『STD四十八』の剣舞に代わって、やっと舞台全体を見渡す余裕が出て来たみたい。

「そうだよ、みんな、剣舞を踊っている兄ちゃんのお嫁さん。
 今、この国で耳長族のお姉ちゃんを見ることが出来るのはこの町と領都だけなんだ。
 だから、最近は耳長族のお姉ちゃんを見るために町を訪れる人も増えているの。
 でも、気を付けてね。
 この国の法では、耳長族に危害を加えたら、有無を言わさず死罪だから。
 それ以前に、騎士や冒険者に袋叩きにされちゃうけど。」

「有無を言わさず死罪って…。
 随分と厳しいんだね。
 耳長族と言えば、見目麗しく、いつまでも老いないのだろう。
 権力者が欲しがるようなもんだけど、よくそんな法を作れたな。」

 法を作る立場の王侯貴族が、率先して耳長族の姉ちゃん欲しがるだろうから。
 それを取り締まる法なんてできる訳が無いと、若旦那は思ったらしいの。
 イナッカの領主なら率先して耳長族狩りをしそうだなんて、若旦那は漏らしていたよ。

「うん?
 この領地の前の領主が耳長族のお姉ちゃんを捕らえようとしてね。
 この国で、一番怒らしたらいけない存在を怒らしちゃったんだ。
 王様、慌てて耳長族に手出し無用の勅令を出していたよ。
 前の領主は、消されちゃった。」

「なんだい、その消されちゃったってのは。…怖い。
 しかし、お嬢ちゃん、おかしなことを言うね。
 それじゃ、まるで、この国には王様より偉い人がいるみたいじゃないか。」

 根は悪そうじゃないけど、この若旦那も商人だからね。
 耳長族のお姉ちゃんを捕らえて一儲けできるならと思っているのかな。
 いやスケベそうだから、一人くらい自分で囲いたいと思っているのかも。
 耳長族に関する情報は色々と知りたいみたいだよ。

「この国で一番偉い人はもちろん王様だよ。
 でも、王様にも逆らえない存在がいるんだ。
 普段は人の世の中に口出ししないんだけど、怒りをかったら酷い目に遭うの。
 耳長族は、その存在の保護下にあるから、手を出したら本当にヤバいよ。」

「何だい、その存在ってのは? まるで、人じゃないみたいだが…。」

「何か呼んだかしら?
 さっきから、泡姫だの、パンツだの、子供の教育に悪い話をしているようだけど。
 私の可愛いマロンにロクでもないことを吹き込んだら、お仕置きするわよ。」

 あ、やっぱり、ずっと聞いていたんだね…。ここまでの話はセーフだったんだ。
 いきなり、目の前に飛んできたアルトに若旦那は目をパチクリさせてたよ。

「ええっと、あなた様は?」

「私はこの近くにある『妖精の森』の長、アルトローゼン。
 この娘、マロンの保護者なの。
 耳長族の里は私の森の中にあるわ。
 『妖精の森』は私の結界に護られていて許可がない者は立ち入れないの。
 だから耳長族の里を探そうとしても無駄よ。」

 アルトは若旦那の先手を打って、余計な手出しをしないように釘を刺していたよ。

「耳長族は妖精さんの加護の下にあるのですか…。
 それはヤバい、妙な欲を出すと身を滅ぼしますな。
 永遠の若さを持つ美女、心惹かれますがここは素直に諦めましょう。」

 若旦那は、うちの王様と違って妖精のヤバさを知らされているみたいだね。

「そう、理解の早い人で助かるわ。
 私も余り人殺しはしたくないから。
 本来、妖精族の掟じゃ殺しはご法度なのに…。
 このところ、何度も破っちゃっているからね。
 自分で作った掟を、長自ら破っていたら示しがつかないわ。」

 若旦那の言葉を聞いて、笑いながらそんなことを言ったアルト。
 若旦那は顔を引きつらせてたよ。

      **********

 『STD四十八』の公演が終ると。
 シフォン姉ちゃんは、約束通り若旦那をにっぽん爺の所に案内したんだ。
 もちろん、おいらも一緒に行ったよ、面白そうだもん。
 子供のためにならないダメな大人が揃っているって言って、アルトも付いて来たよ。

「なに? 私のデザインした『きゃんぎゃる』服が欲しいとな?
 基本注文生産になるが、ここにあるモノなら少量、在庫があるぞ。
 但し、模倣品を作って商売に使おうと言うのであれば売ることは出来んがな。
 あくまで、自分でお楽しみに使う用途限定だな。」

 若旦那の話を聞いたにっぽん爺は、そう告げると何枚かのデザイン画を手渡したの。
 それは、今現在、にっぽん爺に手許に在庫があるモノらしいよ。
 風呂屋の制服とかを注文で作った際に、不良品を考慮して余分に作っておいた分だって。
 ただし、風呂屋とかの制服として実際に使われて服なんで、模倣品を作られると困るんだって。
 その制服でお客さんを引き付けているお店もあるから。

 他にも、注文生産で良ければと言って結構な枚数のデザイン画も追加で渡してたよ。
 一枚一枚、丹念にデザイン画を見ていた若旦那、手許の絵から顔を上げると…。

「あなた、天才じゃないですか!
 どれもこれも、男心を、いえ、男の本能をグッと鷲掴みにするようなデザインだ。
 あなたの服を身に着けた女性は皆、輝いて見える事でしょう。
 是非とも、あなたを服を私に扱わせて頂けませんか。」

 若旦那は鼻息を荒くして、にっぽん爺に迫ったの。
 にっぽん爺のデザインした服を『シタニアール国』で売らせて欲しいって。
 具体的は、国に戻って自分の所で作りたいからデザイン画を売って欲しいんだって。

 とは言え、若旦那は『トレントの木炭』と『山の民』の作品買付けでお金を使い果たしているからね。
 にっぽん爺が申し出に承諾すると、一度国へ帰ってお金を取って戻ってくると伝え。
 若旦那が気に入った何種類かのデザインを、他に売らないでくれってお願いしていたよ。

 ついでに、自分が楽しむためにって、在庫にある『きゃんぎゃる』の服を何枚か買ってた。

 そして、…。

「これが、トランクスですか。
 ホントだ、何で出来ているか知らないが…。
 従来紐で結んでいた部分が伸び縮みして、ずり落ちて来るのを防ぐのか。
 こんな伸び縮みする素材は初めて見たよ。
 これは、本当に脱ぎ着するのに便利だ。
 これも売り出せば、ヒット商品になりそうだな。」

 念願のトランクスを手にした若旦那は、ゴムで伸び縮みする部分を見てそんな呟きを漏らしてた。
 それで若旦那は、ゴムが欲しいと言い出したの。
 トランクス以外にも色々使い道が有りそうだし、ゴムさえあればトランクスは簡単に作れそうだからってね。

 でも、ゴムって、ご禁制の『ゴムの実』の皮の部分だからね。
 おいそれと表に出すことは出来ないんだ。

「ダメよ、それは『妖精の森』で採れる特別な素材なの。
 私が、耳長族の支援になればと思い、特別にこの町に提供しているのよ。
 それを使った商品が欲しいなら、この町まで買い付けに来なさい。」
 
 アルトは、トランクスにしても、他にゴムを使った衣服にしても製造の一部を耳長族が担っていると説明して。
 耳長族の貴重な収入源なので、他には出せないときっぱり断ったんだ。

 機嫌を損ねると祟るといわれる妖精、その長であるアルトに言われて若旦那は渋々引き下がっていたよ。
 その代わりと言ったら何だけど。
 トランクスのついでに、シフォン姉ちゃんが女物のパンツも見せたんだ。

「これも凄い、この町にはなんて素晴らしいモノがあふれているんだ。
 こんな男心を、いや、男の本能をグッと鷲掴みにするパンツは今まで見たこと無い。
 これ売ってください。
 もう宿代と風呂代と帰りの路銀だけ残れば良いです。
 有り金全部、このパンツに注ぎ込みますから。」

 何か、『きゃんぎゃる』の服を見た時と同じような感想を口にした若旦那。
 大きな木箱に入った銀貨を宿から取って来て、買えるだけパンツを買ってたよ。
 女物のパンツだけじゃなくて、トランクスもいっぱいね。
 その木箱が最後の一箱だったらしいよ、何か掘り出し物があった時のために取っといたんだって。

       **********

 そして、数日後、おいらがシューティング・ビーンズを狩りに行こうと歩いていると。

「お嬢ちゃん、今回は世話になったね。
 お嬢ちゃんのおかげで、良い買付けができたよ。
 この町は宝の山だったよ。
 『トレントの木炭』や『山の民』の作品だけじゃない。
 トランクスや、男心をくすぐる衣装、商いのタネに溢れたよ。」

 後ろからやって来た幌馬車から、すれ違いざまにそんな声が掛かったの。
 若旦那、これからシタニアール国へ帰るみたい。

 パンツを買い込み過ぎて、帰りの路銀がカツカツだって言ってた。
 そんなにカツカツなら、風呂屋なんか行かなきゃいいのに…。
 結局毎日通ったらしいよ。

「いやあ、ペンネちゃんの姿を思い出すと、ついムラムラしちゃってね。
 風呂屋の泡姫さんにリビドーをぶつけちゃったよ。
 しかも、この町の泡姫さん、他にはないサービスを色々としてくれるんだ。
 まさにこの町は、男のパラダイスだね。
 私は決めたよ。
 しばらくの間、この町への買い付けは私がしようと。」

 若旦那はそんな言葉を残して帰って行ったの。
 そう言えば、『きゃんぎゃる』の服をギルドの風呂屋に売った時に、…。
 にっぽん爺が風呂屋の支配人に何か言ってよ。
 『にっぽん』の『ソープ』のサービスがどうだとか。

 若旦那は、その言葉通り、一月後にはやって来てにっぽん爺からデザイン画を買い取ってた。
 片道半月掛かるそうだから、本当にとんぼ返りしてきたんだね。

 若旦那はその後も頻繁に買い付けに現れるようになり…。
 同時にイナッカ辺境伯領でこの町の噂を広めてくれたみたいで。
 これ以降、シタニアール国からの買付けに訪れる商人も増えたんだ。
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