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第十章 続・ハテノ男爵領再興記

第206話 唐突に魔物退治に行ったよ!…厄災級の

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 強力な催淫効果を持つ『ゴムの実』の果肉部分。
 アルトは、その危険物の有効利用を思い付いたと言ったの。
 おいら達はついて来いと誘われ、アルトの『積載庫』に入れられたんだ。
 メンバーは、おいらと父ちゃん、それにミンミン姉ちゃんだよ。

 何処まで行くつもりか知らないけど、『積載庫』の中には食べ物が用意されていたの。
 好きに食べて寛いでいなさいって、アルトは言ってたんだ。
 その言葉で遠くへ行くんだとは思ったけど、結局、半日にくらい乗せられたよ。

 で…。

「あの、アルト様、ここは…。」

 草原の真っ只中で『積載庫』から降ろされ、父ちゃんが尋ねたの。…冷や汗をかきながら。
 だって、少し先には巨大なサイの魔物がいるんだもん。それも二頭…。

「ここは、魔物の領域の結構奥まったところよ。
 あそこに見えるのは、人族がベヒーモスと呼んで恐れている魔物ね。
 滅多に人里には現れないけど…。
 現れた時には甚大な被害をもたらす魔物よ。」

 まあ、見上げるような大きさの魔物がいる時点で魔物の領域なのは予想できたけど…。
 何で、よりによってそんな厄災級の魔物の側で降ろすの。

 おいらがそんなことを思っていると。

「それじゃあ、ちょっと試してみるから、ここで待っていてね。」

 アルトはおいら達三人をその場に残して、ベヒーモスの方へ飛んで行ったんだ。
 何をするのかと見ていると…。

 おいら達とベヒーモスの中間あたりで、何か緑色のモノを大量にぶちまけたの。
 それから、すぐにおいら達の方へ戻って来て。

「あいつらの方が風下だし、…。
 なにより、人間よりはるかに嗅覚が敏感だからこれでいけると思うけど。」

 アルトが戻って来てそんな言葉を言ったすぐ後のことだよ。
 二頭のベヒーモスが狂ったような勢いでこちらに向かった来たんだ。

 アルトが付いているんで危険が無いとは分かっているけど…。
 おいら、思わず、漏らしそうになったよ。
 だって、小山ほどの大きさがあるベヒーモスが血走った目で突進してくるんだもん。

 でも、ベヒーモスが向かったいたのはおいら達のいる場所じゃなくて、…。
 アルトが何かをまいた所だったの。
 そこまで、辿り着いたベヒーモスは二頭とも地面に顔を落としたんだ。
 たぶん、アルトがまいたモノを食べている。

 しばらく、地面に顔を落としていた二頭だけど、いきなり喧嘩を始めたんだ。
 一頭が、もう一頭へ後ろから襲い掛かったの。

      **********

「アルト様、子供のマロンにあのようなモノを見せるのは如何なものかと。」

 何故か焦った様子の父ちゃんがアルトに苦情を言うと。

「私だってその辺を気遣っているわ。
 サルの時はちゃんと目を塞いだわよ。
 マロンにはあれを見ても喧嘩しているようにしか見えないわ。
 それよりも、ミンミン、これを持って付いて来て。」

 アルトは父ちゃんの言葉を軽くいなしてた。
 えっ、あれ、喧嘩してんじゃないの?

 アルトは『積載庫』から新型の弓と沢山の短い矢を取り出すと。
 ミンミン姉ちゃんに手渡して、ついて来いと指示したんだ。
 
「これ以上近付くと、あなた達にも影響があるわね。
 でも、ここからならミンミンでも外さないでしょう。」

 おおよそカモ狩りをする時の距離まで近づくと、アルトはそこからベヒーモスを狙えと言ったんだ。

「アルト様、そんな事をすればベヒーモスは怒ってこちらを攻撃して来るのでは?
 そんな危険な事をミンミンにさせることは出来ません。
 ここには、マロンもいるのですよ。」

「多分平気よ、それを確認するために来たのだから。
 もし、こちらに向かってくるようなら。
 すぐに『積載庫』に非難させるから安心して。」
 
 父ちゃんが不満を口にすると、アルトは平気だと言って取り合わなかったの。
 アルトには何か確信があるみたいで、それを確認したいようだった。

 そんな訳で、ミンミン姉ちゃんはベヒーモスに向かって矢を放ったんだ。
 巨大なベヒーモスだからね、ミンミン姉ちゃんの放った矢はちゃんと当たったよ。
 それがベヒーモスに打撃を与えているかは別としてね。

「うーん、やっぱり、あの巨体にそんな小さな矢じゃ、大したダメージは与えられないか…。
 ミンミン、取り敢えずどんどん撃ってみて、矢は幾らでもあるから。
 出来れば、のしかかっている方の後ろ脚の方を狙えれば助かるわ。」

 やっぱり、ほとんどダメージは無いみたいで、矢を打ち続けるようにアルトは指示したんだ。

「ありゃ、何ですか?
 あれだけ矢を食らっているのに…。
 全然気にもしないで、ヤリ続けてますが?」

 ベヒーモスの様子を見て、父ちゃんが首を傾げてたよ。
 一頭のベヒーモスの後ろ足付近に集中された矢は、ハリネズミのようになっていて。
 流石にあの巨体でも痛いと思うはずなのに、二頭は構わずに喧嘩をしているんだ。

「『ゴムの実』の果肉って、本当に凄い発情作用を引き起こすのね。
 あれだけ矢が刺さっているのに、気にせずにサカり続けるなんて…。
 しかも、サルや人族だけじゃなくて、つがいになるモノなら魔物でも有効なのが確認できたわ。」

 アルトがあの辺にぶちまけたのは、やっぱり『ゴムの実』の果肉だったんだ。
 ここへ連れて来られた時の話からそうじゃないかとは思っていたけど。
 アルトは、『ゴムの実』の果肉は魔物にも効くかを試したかったんだね。

 ミンミン姉ちゃんが矢を打ち続けると、…。
 やがてのしかかっている方のベヒーモスは、矢のダメージで後ろ足に力が入らなくなった様子で。
 下になったベヒーモスを押し倒すように倒れたの、…繋がったままで。

「凄い…、あの状態になってもまだヤッている…。」

 ミンミン姉ちゃんも驚愕の表情で二頭を見詰めていたよ。
 
「それじゃ、トドメを刺すわよ。
 上に乗っかっている方は、モリィシーが止めを刺してちょうだい。
 絶好の攻撃位置に連れて行くから、攻撃し続けなさいよ。」

 いつの間に持って来たのか、父ちゃんに愛用の戦斧を手渡して指示を出したアルト。
 そのまま、父ちゃんを『積載庫』の中にしまったの。

 そして、レベル二『積載庫』の機能、任意の場所に中の物を出せる機能を使って…。
 のしかかってる方のベヒーモスの首の上に父ちゃんを出したんだ。

「あんたの足元が、ベヒーモスの首よ!」

 最初、父ちゃんは突然立ち位置が変わって驚いてたみたいだけど。
 アルトの言葉を聞いて、すかさず足元に戦斧を振り下ろしたの。

 流石に厄災級と言われるだけあって、レベル十一の父ちゃんの攻撃では一撃で倒すという訳にはいかなくて。
 父ちゃんは、何度も、何度も、ベヒーモスの首に戦斧を振り下ろしていたよ。
 攻撃を繰り返すうちにやっと急所に達したようで、凄い勢いで血が噴き出すとベヒーモスはこと切れたの。

 アルトはすかさず、ベヒーモスと父ちゃんを『積載庫』の中に回収していたよ。

       **********

「あのベヒーモスのレベルが幾つか知らないけど。
 『生命の欠片』は、あなた達夫婦のものだから、二人で仲良く分けなさい。」

 アルトはそう告げると、ミンミン姉ちゃんも『積載庫』の中に入れたたよ。
 あの場所だと、父ちゃんも『ゴムの実』の果肉の影響を受けているだろうからって。
 鎮めてやれって、ミンミン姉ちゃんに指示していたよ。 鎮めるって何を?

「さあ、マロン、もう一頭はマロンの獲物よ。
 モリィシーと同じようにベヒーモスの上に送るから。
 ちゃっちゃと倒してしまいなさい。」

 アルトはさも簡単そうに言うと、おいらをもう一頭のベヒーモスの上に降ろしたの。
 ここは、この前買った業物の剣の出番だね。
 どう考えても、錆びた包丁じゃ、急所まで届きそうもないもんね。

 おいらが、自分の背丈ほどある剣を振り下ろすと…。
 まるでバターを切るかのように、剣はベヒーモスの首に吸い込まれて。
 きっちり、『クリティカル』のスキル二つが仕事をしてくれたよ。

 本当に一撃で、ベヒーモスを沈めちゃった。

 おいらが、ベヒーモスの本体やドロップした『生命の欠片』を『積載庫』にしまっていると。

「マロン、お疲れさま。
 それで、体に変なところはない?
 火照ってきたとか、ムラムラするとか?」

 ムラムラってどんなのかわからないけど、取り敢えず何処も変なところはないかな。

「うん、全くおかしなところは無いよ。
 ベヒーモスにも全然抵抗されずに一撃で倒しちゃったし。
 ケガも全くしてない。」

「やっぱり、予想した通りだわ。
 『ゴムの実』の果肉って、生殖可能な状態まで成長しないと影響がないのね。」

 アルトはおいらも実験材料に使ったみたい。
 予想はしていたらしいけど、『ゴムの実』の催淫効果は子供には無いんじゃないかと確認したかったみたい。
 今も、おいらの周りには『ゴムの実』の果肉がいっぱい散らばっているけど、なんの影響もないもんね。

 わざわざ、魔物の領域まで出かけて来た甲斐があったって、アルトは満足そうだったよ。
 色々と確認したいことが全部わかったんだって。

 おいらに全く影響しないことが確認できて、アルトは凄く嬉しそうだった。
 最大戦力を有効に使えるって…。
 アルトったら、今度は何をするつもりなの。

 
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