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第十章 続・ハテノ男爵領再興記
第202話 ノーム爺は名工なんだって
しおりを挟むタロウの依頼を受けてゴムの実の皮を使って玉を遠くへ飛ばす道具を作ることになったノーム爺だけど。
「それで、若僧よ、お主、金は持っておるのか?
儂に特注品を頼む以上は、最低でも銀貨二千枚は用意してもらわんとの。」
ノーム爺の言葉にタロウは目が点になっていたよ。
そりゃそうだ、銀貨二千枚あったら鉱山住宅が二件買えちゃうもんね。
でも、包丁一本に銀貨百枚とるんだから、特注品ならそのくらい要求されてもおかしくないのかも。
「おい、おい、爺さん、それはぼり過ぎだろう。
何で、玩具に毛が生えたような道具に、そんな大金を出さないといけないんだ。」
タロウがノーム爺にクレームをつけると。
「師匠は里でも名工の一人に数えられる長老やで。
人族の町へ行った時に特注品を請け負ってくるんは、それが相場やで。
もっとも、大概は剣をはじめとする武具やけどな。
そもそも玩具に毛が生えたような道具を師匠に注文するのがまちごとんねん。」
弟子の一人のカンがそんな説明をしてくれたよ。
さすが『勇者』だね、『山の民』を代表するような名工に玩具を頼みに来た訳だ。
「とは言え、こんなもんで、銀貨二千枚も要求するのは大人気ないな…。
それに、儂の腕の見せ所の鉄を鍛える部分が無いではないか。
これ、鉄でこしらえたら、重くて仕方ないだろう。
おい、おまえら、軽鉄を持ってないか?
これなら、強度は要らんし、軽鉄を使って安くできるだろう。
大して難しそうでもないし、おまえらで作ってやれ。」
ノーム爺の腕の見せ所は、注文にあった特性の鉄を見極め、用途に一番適した強度に鍛える事なんだって。
もちろん、剣だったら、切れ味とか、重心のバランスとか、諸々大事な点はあるらしいけど。
タロウの欲しいと言う道具はそんな強度を必要とするモノじゃないみたいで。
ノーム爺は、三人の弟子に作らせれば良いと思ったみたい。
「軽鉄? 何だ、それは?」
「軽鉄、これアル。
とっても軽い鉄アルヨ。
でもこれ、柔らかくて、弱いアル。
焼き入れしても、強くならないアルヨ。
安物の鍋釜にしか使えないアルネ。」
『軽鉄』という耳慣れない言葉に、タロウがどんなものかを尋ねると。
弟子のひとりのカンが、白っぽい金属の塊を持って来て言ったんだ。
『軽鉄』は軽くて便利なんで、里では強度を必要としない日用品なんかによく使うんだって。
ただ、売るとしたら大した値段で売れないから、人の町には持ってきてないんだって。
『山の民』の作る品物は高級品だと言う既存のイメージを損なう恐れがあるからって。
「何だ、これ、アルミか?
でも、アルミって電気が無いと作れねえって聞いたことがあるぞ…。
電気のないこの世界で一体どうやって作っているんだ。
いや待て、パンや砂糖が木に生る世界だし、地球とは違うのかも…。」
差し出されて金属の塊の塊を見て、タロウがブツクサ呟いていたよ。
どうやら、『にっぽん』にも似たようなモノがあるみたい。
「それで、どうするアルカ。
『軽鉄』で良ければ、注文するヨロシ。
アタシら弟子が作るなら、安くしとくアルヨ。」
「おい、爺さん、こんなこと言ってるが。
幾らぐらいで請け負ってくれるんだ。
なんか、この兄ちゃん、凄く胡散臭いんだが。」
「ああ、そいつはちょっと訛りがあるが悪い奴ではないぞ。
そうさな、弟子に給金を払わにゃいかんし、銀貨百枚と言いたいところだが…。
軽鉄を使った安物だし…。
なあモノは相談だが、この道具、他へ売っても良ければ銀貨十枚で作ってやるぞ。」
ノーム爺はタロウが持ち込んだ道具に関心があるようで。
この道具を工房で自由に作っても良ければ割安で引き受けると言ったんだ。
「うーん、ラノベのように特許料を取る事は出来ないか。
まあ、無法地帯だものな、そんなモンは期待すること出来ねえよな。
それで、銀貨十枚、日本円なら一万円くらいか…。
ネット通販でもシューティングライフルってそのくらいしたもんな。
よし、爺さん、銀貨十枚でやってくれるなら頼むわ。」
タロウはブツクサ言いながら考え込んでいたけど、結局依頼する事になったの。
**********
そして、二十日ほどして…。
ピシュ!
「おお、凄げえ!
二十メートル離れた木の的に玉が食いこんでるじゃねえか。」
完成したスリングライフルの試射の日。
前回の倍、三十歩歩いた距離に立てかけた木の板に向かって玉を撃ったタロウ。
ゴムを弾いた音と共に凄い勢いで飛んで行った玉は、マトに命中して食い込んでいたんだ。
タロウの作ったパチンコじゃ、半分の距離でも木の的に当たって弾かれていたからとっても威力が増したね。
「おぬしから渡されたゴムな、つなぎ合わせて撚りをかけて、強度と張力を増すのに苦労したぞ。
本体は弟子でも簡単に出来たが、そっちの方がよっぽど手間がかかったわい。
だが、これは面白い道具だのう。
儂も、ゴムの強度とか、張り具合を試すために何度か試射したが…。
素人でも真っ直ぐに飛んで行くからの。」
タロウが依頼した道具自体は、弟子の三人が作ったんだけど。
ゴムが思うような強度が出せずにすぐ切れちゃったり、飛距離が出せなかったりで。
ゴムの調整に凄く手間取ったんだって。
だけど、ノーム爺にはそれが面白かったようで、のめり込んじゃったそうだよ。
色々試すうちに、軸受けに遣う玉を使えば、命中精度を増すことが出来ると分かったらしいの。
軸受けが何かは分からなかったけど、見せられた鉄の玉は真ん丸だった。
スキルが無くても、玉が真球に近い形ならそれなりの命中精度になるってノーム爺は言ってたよ。
「おぬしにも、売ってやるぞ百発で銀貨一枚だ。」
ノーム爺ったら、ちゃっかし、タロウに玉を売りつけているの。
タロウは苦い顔をしつつも、追加で銀貨五枚払って玉を五百発買っていたよ。
それで、新しい道具を手にして満足げなタロウに向かってノーム爺は言ったの。
「それでな、儂ゃ、この道具を見ていて思ったのだ。
この真っ直ぐなリード部分、この先を的に向けてだな。
なるべく手振れがしないような、安定した握りが出来る形にしておけば。
引き金を引くと同時に、リードに沿って玉が的に向かって飛んで行く構造なんじゃろう。
何も、ゴムじゃなくても良いんじゃないかとな。」
ノーム爺は、ゴムじゃなくて、先端に弓を付ければ良いじゃないかって。
この構造を使えば、弓の素人でも弓を的に向かって真っすぐに飛ばせるんじゃないかと思ったらしいの。
「それで、こんなモノを作ってみたのだがな。」
「こりゃ、クロスボウか。
爺さん、良く思いついたもんだな。
流石、モノ作りが得意と言うだけのことはあるわ。」
「なんじゃ、おぬし、これを知っておったのか。
何で、これを注文せなんだ?」
「だって、俺、ゴムのパチンコを作ったから、スリングライフルを思い出したんだからな。
初めから、ゴムを使うことありきだったんだよ。
それに、スリングライフルは兄貴が持っていたんで構造が分かっていたけど。
クロスボウって実物は見たこと無かったし…。」
『にっぽん』にはノーム爺が考えたモノは既にあったみたい。
タロウが詳しい構造を知らなかっただけで。
ノーム爺は、実際に作った弓を試射して見せてくれたよ。
構造上、長い矢は邪魔になるんで、凄く短い矢にしたんだってその代わり全部が鉄製なの。
弓の弾ける音と共に飛んで行った短い矢は、さっきと同じ的に深く突き刺さっていたよ。
「げっ、これ、凶悪だな。
これ、十分な殺傷能力があるじゃんか。
こんなものを人と人の戦いで使ったら悲惨なモノになるぞ。」
タロウは、ノーム爺の作った弓の威力に引き気味だったよ。
「そうね、そんなモノを戦に使ったらロクな事にならないわね。
でも、狩りの道具に使うには良さそうね。
それ、ちょっと、まとまった数もらえるかしら?」
何時からいたのか、おいらの背後からアルトが声を掛けてきたんだ。
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