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第十章 続・ハテノ男爵領再興記
第199話 たまにはご褒美をあげるんだって
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トレントの木炭を買い付けにきた『山の民』のノーム爺。
買い付けの代金に充てようと、売り物として『山の民』の製品を持って来たんだけど。
それが高価過ぎて全然売れないんでションボリしてたの。
そんなノーム爺にアルトが何とかしてあげると声を掛けたんだ。
「この町で『山の民』の品物が滞りなく売れるようにしてあげて。
トレントの木炭が幾らでも手に入るとすると。
スケベ爺は、これから継続してこの町に買い付けに来てくれるかしら。
約束してくれるなら、『山の民』の品物を全部売れるようにしてあげるわ。」
アルトはノーム爺に協力してあげる条件として、これから継続的に木炭の買い付けに来ることを要求したんだ。
もちろん、『山の民』が作った武具や鍋釜を売り物として持ってくること事もね。
全部、山の民の言い値で買い取るようにしてあげるとも言ってたよ。
「おお、それは願っても無いことだ。
儂らにとって、火力が強くて火持ちの良いトレントの木炭は幾らでも欲しいモノ。
しかも、儂が持ってくる品を言い値で全部買い取ってもらえるのは有り難い。
正直、儂らの作るモノは値が張るでな、売り先を探すのも一苦労なのだ。」
『山の民』の作る品物は、品質には自信があるけどその分値段が高くて買い手が少ないんだって。
そりゃそうだ、ノーム爺が持って来た鍋なんか銀貨四十枚もするんだもん。
この町の金物屋にいけば、銀貨二、三枚で適当な鍋が買えるのに。
だけど、物資買い付けの代金に充てないといけないので、毎回あちこちを動き回って売り先を探すんだって。
買い付けより里から持って来たモノを売る方が、手間取っていたって。
「そう、それじゃあ、ついて来て。
この町に継続的に買い付けに来ると言う約束、忘れないでね。
妖精族との約束を破るとどうなるかは知っているわよね。」
「分かっておりますじゃ。
妖精族との約束を違えると死ぬほど痛い目を見ることは。
逆に、誠実に向き合えば、絶対に損はしないことも。」
アルトは、脅迫とも言える念押しをした後、ノーム爺を何処かへ誘ったんだ。
年の功か、ノーム爺は妖精族との約束のヤバさを十分承知しているみたいだったよ。
**********
それで、やって来たのは冒険者ギルドの建物だったの。
「ちょっと、ちょっと、妖精殿。
こんな所に入って大丈夫なんですかい。
スジ者しかいないように見えるのだが…。」
ギルドのホールに入るとガラの悪い冒険者の視線が集まって、ノーム爺もビビってたよ。
ノーム爺の方がはるかにレベルが高いはずだけど、やっぱり冒険者の凶悪な顔つきには引いちゃうんだ。
タロウがいつも冒険者を怖がっているのと同じだね。
そんなノーム爺の臆した様子を無視して、ズンズン中に進むアルト。
カウンターで副組長に会わせろと言うと、受付のニイチャン、慌てて部屋に通してくれたよ。
「これは、これは、アルトローゼン様、ようこそお越しになりました。」
にこやかに迎えてくれた副組長だけど…。
その実、こめかみが引きつっていて、額に冷や汗をかいてるの。
アルトが乗り込んで来る時って、たいていロクなことが無いから警戒しているみたい。
ちなみに、副組長がこのギルドのトップだよ。
組長は、本部に指を詰めて差し出すだけのお飾りだから。
毎月指一本差し出すことで、本部に対する上納金を免除してもらっているの。
「そんなに警戒しないで良いわよ。
別に、文句を言いに来た訳では無いから。
どう、最近、儲かっているかしら?」
アルトも副組長の顔つきを見て警戒されているのに気付いたみたい。
「いえ、いえ、警戒など滅相もない。
アルトローゼン様が、助言と共に甘味三品を大量に持ち込んで下さったおかげで繁盛しております。
駅馬車や宿屋もアルトローゼン様の興行のおかげで大繁盛です。」
アルトが難癖を付けに来たのではないと聞き、ホッとした様子で副組長は最近の様子を話したよ。
アルトの助言というは、駅馬車で周辺の町や村を回るついでに甘味料を売ったらどうかって。
辺境は腕利きの冒険者が少ないので、トレントを狩るのも一苦労なんだ。
だから、砂糖、ハチミツ、メイプルシロップは何時でも品薄状態なの。
アルトは、毎朝『STD四十八』に稽古の一環としてトレントを狩らしているからね。
ある程度まとまったら、王都へ行ってジロチョー親分のところに卸しているんだけど。
それでも、日々溜まっていくものだから、ここのギルドにも卸しているんだ。
『STD四十八』の見物人を迎えに行く駅馬車に甘味三品を積んで、行った先で売れば儲かると言う助言を付けて。
行きの馬車を空で動かすのは勿体ないし、周辺の町や村では砂糖なんかが足りていないはずだからって。
最近、良く言うことを聞くギルドに対するご褒美だと言ってたけど、儲かっているようで良かったね。
「そう、それは何よりだわ。
それじゃ、そこそこ、小金が貯まっているでしょう。
新しい儲け話を持って来たわ。
このお爺ちゃんが持って来た品、言い値で全部買ってあげなさい。」
そう言って、アルトはノーム爺に里から持って来た売り物を出させたんだ。
儲け話と聞いて、一瞬副組長は目を輝かせたんだけど…。
ノーム爺が並べた品に付けられた値札を見て顔を曇らせちゃったよ。
「あのぉ…、アルトローゼン様。
これを全部言い値で買い取れと?
鍋一つに銀貨四十枚なんて、一体誰が買うんで?」
副組長、アルトを恐れつつも、そこは商売なんでハッキリ難色を示したの。
「スケベ爺はちょっとここで待っていて。
私この男と少し相談があるの。
マロンは一緒に来て、さっき買った剣を持ってね。」
そう言って、アルトは副組長を部屋の隅っこに連れて行ったんだ。
ノーム爺に会話を聞かれないように。
そして、…。
「何よ、最近良い子にしているから、ご褒美にと思って儲け話を持って来てあげたのに。
良いこと、あのお爺ちゃんが持って来た品はどれも一級品よ。
『山の民』は人の世間相場を理解していないからあんな値札付けているけど。
実際は、あの二倍、三倍の値段でも売れると思うわ。
言い値で買い取っても、あんた達はボロ儲けできるわよ。
ギルドは、この町に『山の民』の作品専門の金物屋を作るの。
『山の民』の作品は好事家には垂涎の品だからね、他所の町から人が呼べるわよ。
そうなったら宿屋だって、駅馬車だってますます繁盛するわよ。」
アルトは二、三倍の値段で売れると言うのをノーム爺に知られたくないんだね。
アルトは言い値で買い取ってあげれば、ノーム爺は満足するし。
買値の二、三倍の値段なら、好事家が喜んで買って行くって。
それで、ギルドがボロ儲けできるなら誰も文句ないだろうってアルトは言うんだ。
「はあ? そんなに上手く行くのですか?」
アルトの楽観的な言葉に、副組長はまだ懐疑的だったの。
「マロン、さっき買った剣をこいつに見せてあげて。」
おいらはアルトの指示通り鞘から抜いて剣を副組長に見せたんだ。
「うおっ! こいつは凄げえや!
マロン嬢ちゃん、随分と業物の剣を持っているじゃありませんか。」
腐ってもギルドの束ねているだけのことはあるね。
おいらの買った剣を見て、副組長は感嘆していたよ。
「これ、あんたなら、幾らの値をつける?」
「俺は、生まれてこの方、こんな凄げえ剣は見たこと無いですからね。
どのくらいと言われても、見当がつきません。
若い頃に銀貨五千枚で買った剣より、遥かに良いもんだから…。
最低でも、銀貨一万枚くらいはするんじゃないですかい。」
副組長も若い頃は冒険者をしていたみたいで、剣を振るっていたみたいなの。
まあ、ロクでもない冒険者だったのは想像に難くないけど、それなりに剣の事は分かるみたい。
「これ、銀貨千枚だったよ。」
「はぁ?」
おいらが、買値を教えると副組長は狐につままれたような顔をしてたよ。
「悪いけど、今回の目玉商品、マロンが買わせてもらったわ。
あそこにあるのは、ここまで極端なモノは無いけど。
それでも、言い値より安いモノは一つもないわ。
私の見立てでは、二、三倍どころか五倍以上の値が付きそうなものもあるわよ。
あんたがどうしても乗らないと言うなら。
仕方ないから、私が王都にでも持って行って売ってくるわ。」
「いやいや、ちょっとお待ちを。
確かに、剣や武具の類なら、好事家が聞き付けて買いに来るかも知れませんが。
幾ら良いモノでも鍋釜なんて日用品をこんな片田舎まで買いに来る人がいやすかね。」
アルトが自分で王都に売りに行くと言うと、さすがに惜しいと思ったのか。
副組長はアルトを引き留めたんだけど、一つ銀貨四十枚もする鍋釜のことが気がかりみたい。
けっこうな数があるから、売れ残ったら大損だものね。
「あんた、その頭は何のために付いてるのよ。
まさか、帽子を乗っけるためにあると言うんじゃないでしょうね。
私が何であんたに話を持って来たと思っているの。
ただ、ご褒美にと言う訳じゃないのよ。
ギルドはこの国全体にネットワークがあるんでしょう。
ギルドのネットワークを使って売り捌けば良いじゃない。」
アルトは言ったんだ、腐るほど金を持っている好事家は、探せば幾らでもいると。
特に王都にはたくさんいるから、本部に委託して売らせれば良いって。
「アルトローゼン様、そいつは気が付きませんでした。
確かに、王都なら売り捌けそうですわ。
うちは多少の口銭をもらって、本部に稼がせるのも有りかもしれやせん。
このところ、上納金も滞納してますし、少しは点数稼ぎになるかも。」
副組長はアルトの説明を聞いて、ようやく乗り気になってくれたよ。
**********
「五万三千八百四十枚、確かに、受け取った。
いやあ、持ち込んだ品全部買い取ってもらえるとは思わなんだ。
値切られることをも無くて助かったわい。
これだけ資金があれば、木炭も十分に買えるし…。
心置きなく、風呂屋を堪能することもできるわい。」
結局、副組長はアルトの提案通り、ノーム爺の持ち込んだモノを全て言い値で引き取ったんだ。
アルトったら、ちゃっかり、その場でトレントの木炭をノーム爺に売り払って。
ノーム爺が手にした銀貨のほとんどを巻き上げちゃった。
ノーム爺はションボリするかなと思ったら、逆に上機嫌だったよ。
予想以上に沢山のトレントの木炭が手に入ったって。
それに…、
「いやあ、木炭の買い付けを先に済ませてしまった方が安心して遊べますからのう。
手持ちの金が沢山あると、つい、豪遊してしまいますからのう。
それが自分の金じゃないとわかっていても。
その点、今回手持ちに残った金は全部儂のもんだし。
これで帰りの路銀を残せば、心置きなく風呂屋で使えると言うもんですわ。」
なんて言って、何日この町に滞在するのか知らないけど風呂屋に入り浸る気満々だったよ。
「もういい歳なんだから、少しは枯れたらどうよ。」って言って、アルトは呆れていたよ。
それはともかく、ノーム爺は定期的にこの町にトレントの木炭を買い付けに来ることになったの。
アルトはライム姉ちゃんに言って、ノーム爺が次にくるまでに木炭の販売所をこの町に作らせるって。
ギルドの副組長も、『山の民』の品を専門に扱う店を次回までに用意しておくって言ってたよ。
買い付けの代金に充てようと、売り物として『山の民』の製品を持って来たんだけど。
それが高価過ぎて全然売れないんでションボリしてたの。
そんなノーム爺にアルトが何とかしてあげると声を掛けたんだ。
「この町で『山の民』の品物が滞りなく売れるようにしてあげて。
トレントの木炭が幾らでも手に入るとすると。
スケベ爺は、これから継続してこの町に買い付けに来てくれるかしら。
約束してくれるなら、『山の民』の品物を全部売れるようにしてあげるわ。」
アルトはノーム爺に協力してあげる条件として、これから継続的に木炭の買い付けに来ることを要求したんだ。
もちろん、『山の民』が作った武具や鍋釜を売り物として持ってくること事もね。
全部、山の民の言い値で買い取るようにしてあげるとも言ってたよ。
「おお、それは願っても無いことだ。
儂らにとって、火力が強くて火持ちの良いトレントの木炭は幾らでも欲しいモノ。
しかも、儂が持ってくる品を言い値で全部買い取ってもらえるのは有り難い。
正直、儂らの作るモノは値が張るでな、売り先を探すのも一苦労なのだ。」
『山の民』の作る品物は、品質には自信があるけどその分値段が高くて買い手が少ないんだって。
そりゃそうだ、ノーム爺が持って来た鍋なんか銀貨四十枚もするんだもん。
この町の金物屋にいけば、銀貨二、三枚で適当な鍋が買えるのに。
だけど、物資買い付けの代金に充てないといけないので、毎回あちこちを動き回って売り先を探すんだって。
買い付けより里から持って来たモノを売る方が、手間取っていたって。
「そう、それじゃあ、ついて来て。
この町に継続的に買い付けに来ると言う約束、忘れないでね。
妖精族との約束を破るとどうなるかは知っているわよね。」
「分かっておりますじゃ。
妖精族との約束を違えると死ぬほど痛い目を見ることは。
逆に、誠実に向き合えば、絶対に損はしないことも。」
アルトは、脅迫とも言える念押しをした後、ノーム爺を何処かへ誘ったんだ。
年の功か、ノーム爺は妖精族との約束のヤバさを十分承知しているみたいだったよ。
**********
それで、やって来たのは冒険者ギルドの建物だったの。
「ちょっと、ちょっと、妖精殿。
こんな所に入って大丈夫なんですかい。
スジ者しかいないように見えるのだが…。」
ギルドのホールに入るとガラの悪い冒険者の視線が集まって、ノーム爺もビビってたよ。
ノーム爺の方がはるかにレベルが高いはずだけど、やっぱり冒険者の凶悪な顔つきには引いちゃうんだ。
タロウがいつも冒険者を怖がっているのと同じだね。
そんなノーム爺の臆した様子を無視して、ズンズン中に進むアルト。
カウンターで副組長に会わせろと言うと、受付のニイチャン、慌てて部屋に通してくれたよ。
「これは、これは、アルトローゼン様、ようこそお越しになりました。」
にこやかに迎えてくれた副組長だけど…。
その実、こめかみが引きつっていて、額に冷や汗をかいてるの。
アルトが乗り込んで来る時って、たいていロクなことが無いから警戒しているみたい。
ちなみに、副組長がこのギルドのトップだよ。
組長は、本部に指を詰めて差し出すだけのお飾りだから。
毎月指一本差し出すことで、本部に対する上納金を免除してもらっているの。
「そんなに警戒しないで良いわよ。
別に、文句を言いに来た訳では無いから。
どう、最近、儲かっているかしら?」
アルトも副組長の顔つきを見て警戒されているのに気付いたみたい。
「いえ、いえ、警戒など滅相もない。
アルトローゼン様が、助言と共に甘味三品を大量に持ち込んで下さったおかげで繁盛しております。
駅馬車や宿屋もアルトローゼン様の興行のおかげで大繁盛です。」
アルトが難癖を付けに来たのではないと聞き、ホッとした様子で副組長は最近の様子を話したよ。
アルトの助言というは、駅馬車で周辺の町や村を回るついでに甘味料を売ったらどうかって。
辺境は腕利きの冒険者が少ないので、トレントを狩るのも一苦労なんだ。
だから、砂糖、ハチミツ、メイプルシロップは何時でも品薄状態なの。
アルトは、毎朝『STD四十八』に稽古の一環としてトレントを狩らしているからね。
ある程度まとまったら、王都へ行ってジロチョー親分のところに卸しているんだけど。
それでも、日々溜まっていくものだから、ここのギルドにも卸しているんだ。
『STD四十八』の見物人を迎えに行く駅馬車に甘味三品を積んで、行った先で売れば儲かると言う助言を付けて。
行きの馬車を空で動かすのは勿体ないし、周辺の町や村では砂糖なんかが足りていないはずだからって。
最近、良く言うことを聞くギルドに対するご褒美だと言ってたけど、儲かっているようで良かったね。
「そう、それは何よりだわ。
それじゃ、そこそこ、小金が貯まっているでしょう。
新しい儲け話を持って来たわ。
このお爺ちゃんが持って来た品、言い値で全部買ってあげなさい。」
そう言って、アルトはノーム爺に里から持って来た売り物を出させたんだ。
儲け話と聞いて、一瞬副組長は目を輝かせたんだけど…。
ノーム爺が並べた品に付けられた値札を見て顔を曇らせちゃったよ。
「あのぉ…、アルトローゼン様。
これを全部言い値で買い取れと?
鍋一つに銀貨四十枚なんて、一体誰が買うんで?」
副組長、アルトを恐れつつも、そこは商売なんでハッキリ難色を示したの。
「スケベ爺はちょっとここで待っていて。
私この男と少し相談があるの。
マロンは一緒に来て、さっき買った剣を持ってね。」
そう言って、アルトは副組長を部屋の隅っこに連れて行ったんだ。
ノーム爺に会話を聞かれないように。
そして、…。
「何よ、最近良い子にしているから、ご褒美にと思って儲け話を持って来てあげたのに。
良いこと、あのお爺ちゃんが持って来た品はどれも一級品よ。
『山の民』は人の世間相場を理解していないからあんな値札付けているけど。
実際は、あの二倍、三倍の値段でも売れると思うわ。
言い値で買い取っても、あんた達はボロ儲けできるわよ。
ギルドは、この町に『山の民』の作品専門の金物屋を作るの。
『山の民』の作品は好事家には垂涎の品だからね、他所の町から人が呼べるわよ。
そうなったら宿屋だって、駅馬車だってますます繁盛するわよ。」
アルトは二、三倍の値段で売れると言うのをノーム爺に知られたくないんだね。
アルトは言い値で買い取ってあげれば、ノーム爺は満足するし。
買値の二、三倍の値段なら、好事家が喜んで買って行くって。
それで、ギルドがボロ儲けできるなら誰も文句ないだろうってアルトは言うんだ。
「はあ? そんなに上手く行くのですか?」
アルトの楽観的な言葉に、副組長はまだ懐疑的だったの。
「マロン、さっき買った剣をこいつに見せてあげて。」
おいらはアルトの指示通り鞘から抜いて剣を副組長に見せたんだ。
「うおっ! こいつは凄げえや!
マロン嬢ちゃん、随分と業物の剣を持っているじゃありませんか。」
腐ってもギルドの束ねているだけのことはあるね。
おいらの買った剣を見て、副組長は感嘆していたよ。
「これ、あんたなら、幾らの値をつける?」
「俺は、生まれてこの方、こんな凄げえ剣は見たこと無いですからね。
どのくらいと言われても、見当がつきません。
若い頃に銀貨五千枚で買った剣より、遥かに良いもんだから…。
最低でも、銀貨一万枚くらいはするんじゃないですかい。」
副組長も若い頃は冒険者をしていたみたいで、剣を振るっていたみたいなの。
まあ、ロクでもない冒険者だったのは想像に難くないけど、それなりに剣の事は分かるみたい。
「これ、銀貨千枚だったよ。」
「はぁ?」
おいらが、買値を教えると副組長は狐につままれたような顔をしてたよ。
「悪いけど、今回の目玉商品、マロンが買わせてもらったわ。
あそこにあるのは、ここまで極端なモノは無いけど。
それでも、言い値より安いモノは一つもないわ。
私の見立てでは、二、三倍どころか五倍以上の値が付きそうなものもあるわよ。
あんたがどうしても乗らないと言うなら。
仕方ないから、私が王都にでも持って行って売ってくるわ。」
「いやいや、ちょっとお待ちを。
確かに、剣や武具の類なら、好事家が聞き付けて買いに来るかも知れませんが。
幾ら良いモノでも鍋釜なんて日用品をこんな片田舎まで買いに来る人がいやすかね。」
アルトが自分で王都に売りに行くと言うと、さすがに惜しいと思ったのか。
副組長はアルトを引き留めたんだけど、一つ銀貨四十枚もする鍋釜のことが気がかりみたい。
けっこうな数があるから、売れ残ったら大損だものね。
「あんた、その頭は何のために付いてるのよ。
まさか、帽子を乗っけるためにあると言うんじゃないでしょうね。
私が何であんたに話を持って来たと思っているの。
ただ、ご褒美にと言う訳じゃないのよ。
ギルドはこの国全体にネットワークがあるんでしょう。
ギルドのネットワークを使って売り捌けば良いじゃない。」
アルトは言ったんだ、腐るほど金を持っている好事家は、探せば幾らでもいると。
特に王都にはたくさんいるから、本部に委託して売らせれば良いって。
「アルトローゼン様、そいつは気が付きませんでした。
確かに、王都なら売り捌けそうですわ。
うちは多少の口銭をもらって、本部に稼がせるのも有りかもしれやせん。
このところ、上納金も滞納してますし、少しは点数稼ぎになるかも。」
副組長はアルトの説明を聞いて、ようやく乗り気になってくれたよ。
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「五万三千八百四十枚、確かに、受け取った。
いやあ、持ち込んだ品全部買い取ってもらえるとは思わなんだ。
値切られることをも無くて助かったわい。
これだけ資金があれば、木炭も十分に買えるし…。
心置きなく、風呂屋を堪能することもできるわい。」
結局、副組長はアルトの提案通り、ノーム爺の持ち込んだモノを全て言い値で引き取ったんだ。
アルトったら、ちゃっかり、その場でトレントの木炭をノーム爺に売り払って。
ノーム爺が手にした銀貨のほとんどを巻き上げちゃった。
ノーム爺はションボリするかなと思ったら、逆に上機嫌だったよ。
予想以上に沢山のトレントの木炭が手に入ったって。
それに…、
「いやあ、木炭の買い付けを先に済ませてしまった方が安心して遊べますからのう。
手持ちの金が沢山あると、つい、豪遊してしまいますからのう。
それが自分の金じゃないとわかっていても。
その点、今回手持ちに残った金は全部儂のもんだし。
これで帰りの路銀を残せば、心置きなく風呂屋で使えると言うもんですわ。」
なんて言って、何日この町に滞在するのか知らないけど風呂屋に入り浸る気満々だったよ。
「もういい歳なんだから、少しは枯れたらどうよ。」って言って、アルトは呆れていたよ。
それはともかく、ノーム爺は定期的にこの町にトレントの木炭を買い付けに来ることになったの。
アルトはライム姉ちゃんに言って、ノーム爺が次にくるまでに木炭の販売所をこの町に作らせるって。
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