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アイイロモンペ

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第九章【間章】『ゴムの実』奇譚(若き日の追憶)

第185話 崩れていく王都の貞操観念

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 にっぽん爺の言うところのモラル崩壊だけど、『風呂屋』の泡姫のお姉さんに留まっている間はまだ良かったんだって。
 おいらには分らないけど、にっぽん爺の言葉をそのまま借りると、泡姫の仕事は『生娘』には抵抗があるモノだからって。
 『生娘』って何って聞いたら、後十年したら教えてあげるって。
 取り敢えず、おいらみたいな娘を生娘と言うらしい、ガキんちょって意味かな?

 何が問題になっていったかと言うと、…。
 ちょっとの間だけ小遣い稼ぎ感覚で働くと言う募集の仕方を、コンカツは他の事業でも使ったこと。

 例えば、『きゃんぎゃる茶屋』。
 この間、シフォン姉ちゃんが着た服みたいな制服を着たウエートレスさんが給仕をするお茶屋だって。
 ただし、上下とも下着を着けずに…。
 例えば、空いたテーブルを片付けるのに前屈みになるとお尻がチラッと見えちゃうとか…。
 例えば、お客さんのテーブルに注文の品のカップや皿を置いた拍子にチラッと胸が見えるとか…。
 にっぽん爺はチラリズムとか言ってたけど…、男のロマンをかきたてるんだって。
 他にも、注文の品を運んできたウエートレスさんのスカートの下に手鏡をかざすのはセーフらしいよ。
 安物の手鏡も入り口で売っているんだって、市価の十倍くらいで…。
 『きゃんぎゃる茶屋』では、ウエートレスさんに触れるのだけはNGなんだって。

 そんな際どい服装のウエートレスさんがお目当てのしょうもない男達が集まって来て…。 
 屋台で買えば一杯銅貨二十枚で買えるようなお茶が一杯銀貨二枚もするのに、連日お客さんが絶えなかったそうなの。

 この『きゃんぎゃる茶屋』にも、コンカツは泡姫の時みたいなチラシでウエートレスを募集したんだって。
 しかも、『風呂屋』と違って個室が要る訳ではないから、本当の自由出勤。
 働きたい時にやって来て、制服に着替えてフロアに出た時からフロアから退出する時までの給金を貰うの。
 ただし給金は一時間毎で一時間未満は切り捨てだって、最低一時間はフロアにいないと給金は無いんだって。

 時間によっては、ウエートレスの数が必要以上になっちゃうこともあるけど、それでも良いんだって。
 下着を着けていない制服姿でフロアをウロチョロしてくれるだけで、お客さんが来てくるから。

 『きゃんぎゃる茶屋』の仕事って、注文を取って、注文の品を運んで、空いたテーブルの後片付けをするだけ。
 普通の茶屋のウエートレスとする事は同じなの。
 でも、普通の茶屋だと給金は一日十時間働いて銀貨六、七枚だって。一時間だと銅貨六十から七十枚だよね。
 それに対して、『きゃんぎゃる茶屋』は時給銀貨二枚だったんだって。
 別に特別なサービスをする訳でもなく、制服が際どいだけで給金が三倍なんだもの。
 恥かしいのを少し我慢すればって、募集した時にはたくさんのお姉さんが集まったそうだよ。
 おかげで、若くて美人の娘さんだけに採用を絞ることが出来たんだって。

 下は十二歳くらいから上は年齢制限の二十五歳まで、みんな普通の家の娘さんで…。
 中には火遊び感覚で応募してきた良家のお嬢さんまでいたらしいよ。
 ここで、泡姫よりも、より身近な、より普通の女の人の間でモラルの崩壊が始まったんだって。
 若い娘さんの中に、知らない男の人に対し素肌や秘所を晒すことに抵抗感が小さい人が出始めたと言うの。

     **********

 そして、『エステ』、お姉ちゃんが男の人にマッサージをしてくれる商売らしいよ。
 小さな個室に仕切られたスペースで…。
 普通に肩や足、それに首なんかを揉みほぐしてくれるんだって。
 『きゃんぎゃる喫茶』と同じような制服を着て、当然下着も…。

 他にもおいらにはナイショのサービスがオプションであるみたいなんだけど…。
 そのオプションを含めても、泡姫みたいな一線を越えるサービスは無くて。
 しかも、触れる時はちゃんと『ゴムの実』を使うんで安全安心なんだって。

 やっぱり、例のポップなチラシを使って、誰にでもできる簡単な仕事だと煽ったらしいよ。
 好きな時間に、ちょっとだけでも働けるってね。

 コンカツも、チラシにはちゃんとサービス内容や給金なんかを正直に書いたみたい。
 にっぽん爺が助言したんだって、お姉さん達を騙すような募集をしたら良い娘が集まらなくなるって。
 そのおかげで、アッチカイ系列のお店は働き易いと若いお姉さん方に人気だったみたい。

 チラシを見て沢山のお姉さんが来たらしいけど…。
 『きゃんぎゃる茶屋』と違って接触があるんで、サービスの内容に不安を持つお姉さんが多かったみたいなの。
 でも、コンカツは一線を越えるサービスは絶対にさせないし。
 問題ある場所に触れる時は、必ず『ゴムの実』を使うから直に接触することも無いと説明して。
 仕事を始める前に、正しい『ゴムの実』の使い方を懇切丁寧に指導すると言ったらしいの。
 そしたら安心して、働く気になったお姉さんが多かったんだって。
 指導したのは、もちろん、にっぽん爺だったらしいよ。

 この『エステ』の募集、やっぱり、応募してきたのは普通の家の娘さんや若奥さんだったみたい。
 以前から水商売をしていた女の人は少なかったし、応募してきても採用しなかったんだって。
 お客さんに対しても『』なお店だとPRしたいのに、初めから病気を持っていたら困るし。
 何よりも『』のを売りにしたかったからみたい。

 ライトなサービスと『ゴムの実』を使う安心感から、多くの素人っぽいお姉さんが働いてくれたんだって。 
 これで、また一歩、王都のモラル崩壊が進んだみたい。
 若いお姉さん方の中に、知らない男の人の体を触るのに抵抗感の薄い人が出始めたらしいの。

       **********

 さて、コンカツだけど、やっぱり性根はワルで…。
 『きゃんぎゃる茶屋』に若くて美人で長く働けそうなウエートレスがいると声を掛けたんだって。
 もう少し稼げる仕事をしないかと言って、『エステ』へ移ることを勧めたそうだよ。

 『きゃんぎゃる茶屋』は時給銀貨二枚、『エステ』は歩合制だけどお客さん一人銀貨五枚なんだって。
 お客さん一人の時間は三十分と決まっていて、お客さんが延長すると延長料金の半分がお姉ちゃんの取り分だって。
 それと、オプションサービスは、『ゴムの実』の買い取り料金を除いて、全部お姉ちゃんの取り分らしいよ。
 他にも馴染みのお客さんが出来ると指名というのがあって、指名料もお姉ちゃんの取り分らしいの。
 一人でもお客さんが付けば三十分で、最低でも『きゃんぎゃる喫茶』二時間分以上の稼ぎになるし。
 オプションが乗れば、その数倍にも…。

 コンカツが声を掛けたのは、若くて美人なだけじゃなく『きゃんぎゃる茶屋』に大分馴染んだ娘さんらしいよ。
 コンカツは、見知らぬ男の人に肌を晒すことに抵抗感が薄れている娘さんを見極めていたんだ。
 そんな娘さんを決め打ちで、少しだけサービスを上乗せするだけでいっぱい稼げると勧誘するらしいの。
 大分ガードが緩んでいる娘さんは、『エステ』の報酬の良さに目が眩んで…。
 「そのくらいまでならまあ良いか。」ってなっちゃうんだって。

 その娘さんが『エステ』の仕事に慣れて、見知らぬ男の人に接触するのにも慣れてくると…。
 コンカツは、もう少し稼げる仕事をしないかと今度は『風呂屋』へ移ることを勧めたそうだよ。
 その頃には、まだ若いのに貞操観念が緩々になってて、いとも簡単に泡姫になってしまうらしいの。
 最初は昼の部の短い時間から始まって、最終的には夜の部の本業になっちゃうって…。

 コンカツはこれを常態的に繰り返し、新しい『泡姫サプライチェーン』を確立したんだって。
 『きゃんぎゃる茶屋』→『エステ』→『風呂屋(パートタイム)』→『風呂屋(本業)』というね。
 最初の『泡姫サプライチェーン』は半ば犯罪に近いモノがあったけど、…。
 今度のは完全に女の人の自由意思だものね、とっても安定した『サプライチェーン』になったみたい。
 『きゃんぎゃる茶屋』の更衣室には『ステップアップしませんか?』と書かれた貼り紙がしてあったって。
 例によって三頭身の可愛い女の子が語り掛けるようなポップな貼り紙が…。
 これには、にっぽん爺も脱帽したって言ってたよ。

      **********

 にっぽん爺のヒントでコンカツが始めたビジネスは、こんな感じで王都に住む女の人の貞操観念を緩々にしちゃったんだって。
 その頃から、王都では若い娘さんや若奥さんの失踪事件が発生し始めたらしいの。

 両親や旦那さんが血眼になって捜索をして突き止めた居場所が、アッチカイ系列の風呂屋。
 ギルドって当時からならず者の集団だったから、泣き寝入りしちゃう人もいたけど…。
 取り返すために、勇気を出して風呂屋に怒鳴り込んだ人達もいたみたい。
 やっぱり、娘さんや奥さんは大切だものね。

 ある日のこと、とある旦那さんが拉致した奥さんを返せと風呂屋に怒鳴り込むと。
 ちょうど奥さんが、風呂屋のロビーでご指名のお客さんをお迎えしていたそうなの。

「何よ、あなた、こんなところで大声出すと営業妨害よ。
 拉致なんて人聞きの悪い事言わないで欲しいわ。
 お客様が引いちゃうじゃない。
 私は自分の意思でここにいるのよ。
 あなたの粗末なモノには以前からうんざりだったの。
 しかも早いし、回数もこなせないし…。
 その点、こちらのお客様は立派なモノをお持ちだし、とってもタフなの。
 貴族の若様なんだけど、お妾にならないかと誘ってくださってるのよ…。
 今は、このお仕事がとても楽しいので、待っていただいてるわ。
 あなたとはもう離縁する、仕事の邪魔だから帰ってもらえるかしら。」

 まだ二十歳前後の若い奥さんだったそうだけど。
 お客さんにしな垂れかかった奥さんがその場で離縁を申し出たんだって。
 この国では、結婚を役所に届け出たりしないから、どっちかが離縁を言い出せばそれで決まりなんだ。
 もちろん、普通は説得したり、話し合ったりするんだけど…。
 ならず者の集団のギルドが経営する風呂屋に、言い掛かりで怒鳴り込んだあげく。
 奥さんからけんもほろろに突き放されては、旦那さんも大人しく引き下がるしかなかったそうなの。

 失踪したと思われていた娘さんも、風呂屋の夜の部で本業の泡姫として働いていたそうだよ。
 もちろん、自発的に。

 にっぽん爺の話では、『ゴムの実』の『催淫効果』に依存し過ぎて多淫症になった人が出てきたそうなんだ。
 『多淫症』…、また意味が分からない言葉が…。
 昼間、空いた時間の小遣い稼ぎで『パートタイム泡姫』なったお姉さんが、『ゴムの実』に病み付きになっちゃって。
 それなしでは生きていけないくらいにまでなっちゃう人が、稀にいたらしいの。
 それでお客さんを取ったら取っただけ『ゴムの実』を使える本業の泡姫になっちゃうらしいよ、家を捨てて。

 さっきの旦那さんを突き放した奥さんなんて売れっ娘だったこともあって。
 『ゴムの実』欲しさに、これ幸いと夜の部だけでなく、昼の部まで働いていたみたい。
 売れっ娘が体を壊したら困ると、支配人のコンカツが無理やり休ませていたらしいよ。

 にっぽん爺は、貞操観念が緩み切っていたんで、そんな極端に走る人も出たと言ってたけど。
 とにかく、そんな問題が頻発するようになったらしいの。
 まだ、この頃は問題が平民に留まっていて、大したことはなかったそうだけど…。

 身分社会のこの国のこと、貴族が絡んでくると大事になってしまう訳で。
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