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第九章【間章】『ゴムの実』奇譚(若き日の追憶)

第181話 市場調査中に地獄を見たんだって

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 にっぽん爺の話の何処が命懸けだったのか良く分からないけど。
 ともかく、『ゴムの実』がにっぽん爺の期待以上の品質のモノだと分かったらしいの。

 それで、次ににっぽん爺がやったのは…。

「私は、販売する前に市場調査をすることにしたのだ。
 自分では画期的なモノだと思い込んでいるが。
 世間ではそれほど評価されないかも知れないからな。
 自分勝手な思い込みほど怖いモノはない。
 それと、世間でそれなりに評価されたとしてもだ。
 幾らなら、買ってくれるかという問題もある。」

 にっぽん爺は、多くの人が集まる王都の自由市場へ行ったそうだよ。
 一番狭い区画を一つ借りて、看板屋さんで作ってもらった目立つ立て看板を掲げたんだって。

 その看板に書いてあったのは。

『本日限り 無料(赤文字) 試供品配布
 夜の果実(やや大きな文字)
 『ゴムの実』(凄く大きな文字)
 これ一本で、夫婦円満! 萎えていたご主人もムクムク元気に!』

 自由市場の一画、にっぽん爺は一日限定で『ゴムの実』を無料配布したそうだよ。
 『にっぽん』では、『無料サンプル』と言って、商売で良く使われる手法らしいよ。

 にっぽん爺は、無料で一つ配って実際に使ってもらい。
 翌日、感想を聞かせに来てくれた人にもう一つ進呈するつもりでいたらしいの。
 感想と言うのは、実際に効能が感じられたかとか、また使いたいと思うかとか。
 何よりも、使って満足だったかと、幾らなら買うかということが知りたかったらしいよ。

 看板には目立つように、『無料』の所だけ赤い文字で書いてもらってらしいの。
 店(?)を開いてすぐに、人が寄って来たらしいよ。
 『無料』と言う言葉が大好物なオバチャン達が…。

「今でも覚えているよ…。
 看板に引き付けられてやって来たのは、四十前の三人組のおばさんだった。
 それは、どんなものかと尋ねられたんで。
 私は、予め版画屋に作らせたチラシを配って『ゴムの実』の説明しをしたんだ。」

 チラシには、『ゴムの実』の食べ方と食べ終わった後の『皮』の使い方とかを書いたんだって。
 後は、『ゴムの実』の効能とか、使用上の注意とかも。
 特に『皮』の装着の仕方は丁寧に挿絵を付けて説明してあったみたい。
 先っぽの突起に空気が入らないようにとか、着ける時に爪を立てたらいけないとか。
 とても大切な事は赤字で刷るようにしてもらったみたいなんだ。

 すると、オバチャン達はにっぽん爺に向かって。

「そんな都合の良い果物があるんかい。
 アタシゃ、今までそんなモンお目に掛ったことが無いよ。
 だいたい、それ、初めて見るけど、ホントに食っても平気なんだろうね。
 毒だったなんて言われたらヤダよ。」

 今まで、人に知られていなかった果物だから疑うのも仕方がないね。
 にっぽん爺はそんな反応がある事を予想していたんだって。

 予め用意した小皿に、『ゴムの実』の果肉を四等分し。
 毒でないことを示すため、自分が最初に食べて見せたんだって。
 それから、残り三つを三人のオバチャンに配ったそうだよ。

 にっぽん爺が平然と食べたんで、安心したのかオバチャン達も皿に口を付けたんだって。

「おや、これ、いけるじゃない。
 甘酸っぱくて、爽やかな後味が何と言えないね。
 それに、このチュルっとした喉ごしが何とも言えないよ。」

 果物として『ゴムの実』はオバチャンのお気に召したようなんだけど…。

「こりゃ、凄いね!
 アタイ、ジュンと来ちまったよ、垂れて来そう…。」

「アンタもかい、アタシもだよ。
 困ったね…。
 うちの亭主もう仕事に言っちまって、今日は夜まで帰ってこないよ。」

 オバチャンがほんのりと顔を上気させてそんな会話をしてたんだって。
 にっぽん爺は、『ゴムの実』の効用って女性にもあるんだって感心してたらしいけど…。

 一人のオバチャンがタロウのズボンを見て。

「おやまあ、アンタも凄いことになってるね。
 さすがに若いだけあって、凄いね、はちきれそうじゃないかい。
 そうだ、あんた、こんな絵なんかじゃ、着け方がわからないよ。
 実際に、使って見せておくれでないかい。」

 一体何がはちきれそうなんだろう…。
 とにかく、にっぽん爺にそんな事を要求したらしいの。 
 にっぽん爺は、それも想定していて木工屋で模型を作ってあったらしいんだ。
 模型を取り出して、オバチャンに使い方を説明しようとしたら…。

「あんた、そんな木の張り形じゃあ、分かんないよ。
 実物は、その張り形みたいに固くもなければ、真っ直ぐでもないんだからね。
 そこにちょうど良いモノがあるじゃないか。
 ちょいと、あんたが実際に使って見せておくれよ。」

 にっぽん爺が想定もしていなかった怪しい方向に、話が進んだんだって。
 まだ仕事中だからと断ろうとしたら、オバチャン達、いきなり立て看板や試供品を片付け始めたらしいの。
 そして、…。

「さあ、行くわよ!」

 にっぽん爺は、オバチャン三人に拉致されるように、家に連れてかれちゃったんだって。

     **********

 それからことは、詳しくは語ってくれたなかったけど…。
 にっぽん爺、オバチャン達を『けだもののようだった』って呟いてたよ。

 実際、オバチャン達が住む住宅街にオバチャンの嬌声が響き渡ったそうで。
 近所のオバチャンが、心配して続々と、にっぽん爺の連れ込まれた家を見に来たらしいの。

 その時漏れ聞こえてきたオバチャン達の会話がこんなものだったらしいよ。

「何、何、どうかしたの? まさか、押し込み強盗じゃないでしょうね。」

「大丈夫、大丈夫、そんな大事じゃないから。
 それより、見てあれ、凄いのよ。
 十歳くらい若返ったみたいに乱れちゃって…。」

「やだ、さっきの声って、あのせいなの。
 でも、どうしたの、あんな若いモン見たことないわよ。
 新しいツバメかしら?」

「違うのよ、実はね、今日広場で試供品を配ってて…。
 それの効果が凄いの、信じられないわ。
 私もあんなに乱れたの何十年振りかしら。
 今日、帰ったら、旦那にも食べさせてみようかと思ってるのよ。」

 先に使い方を試したオバチャンが、後から来たオバチャンに『ゴムの実』の説明をしてくれたらしいよ。
 一人のオバチャン相手に、実際に使い方を試しているにっぽん爺を指差して、事細かに…。

「そんなに凄いの? アタシもちょっと試させてもらおうかしら。」

 そんな感じで、『ゴムの実』を実際に使ってみたいと言うオバチャンが後を絶たなかったみたい。
 次から次へと、にっぽん爺が実際に使って見せたんだって言ってたよ。

 朝から始めて、解放された時には日が暮れかかっていたんだって。
 お日様が黄ばんで見えたらしいよ。
 にっぽん爺は、『この世の地獄を見た』って遠い目をして言ってたよ。

 実際に使い方を試した後に、肩で息をしながら一人のオバチャンが言ったそうだよ。

「これ、本当に凄いわ。
 アタシゃ、銀貨一枚までなら、毎日でも買うね。
 この歳で、もう子供は要らないからと控えてたけど…。
 これを使えば、孕む心配もないんだろう。
 こんな良いもんがあるなんて、もっと若い時期に知りたかったよ。」って。

 そんな感想をもらしたオバチャンは一人じゃなかったみたい。大好評だったって。
 旦那さんにも試してみたいとの希望が多かったんで、帰り際に全員に一つずつ試供品を渡したらしいの。
 にっぽん爺は、自分以外の男の人、特に中高年に対する効果が知りたかったそうで。
 翌日も自由市場にいるから、使ってみた結果を知らせて欲しいとお願いしたそうなんだけど。

「あんな人が多いところで秘め事の話をするなんてイヤだわ。
 あなた、明日もこの家に来なさいよ。
 ここにいる全員が集まって、旦那に使った結果を報告してあげるから。
 お茶くらいは出してあげるわよ。」

 連れ込まれた家のオバチャンから、翌日も来るように言われたらしいの。
 にっぽん爺は、凄くイヤな予感がしたらしいんだけど、仕事のためと翌日も行ったらしいんだ。
 朝行って、帰って来たのはやっぱり夕方だったって。
 その後しばらく、オバチャンという人種には関わりになりたくなかったって言ってたよ。

 でも、その甲斐あって、『ゴムの実』は中高年男性にも効果覿面だと分かったらしいよ。

 それで満を持して、にっぽん爺は、『ゴムの実』の販売に踏み切ったんだって。 

 でも、『ゴムの実』の使い方って…、にっぽん爺は朝から夕方までいったい何をしてたの?
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