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第九章【間章】『ゴムの実』奇譚(若き日の追憶)
第179話 タロウは新しい武器が欲しいらしいよ
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その日、おいらが日課のシューティング・ビーンズ狩りを終えて町へ帰ろうとしていると。
「おう、マロン、これから帰るのか。
ちょどいい、一緒に帰ろうぜ。」
『妖精の森』からスライムを入れた袋を担いだタロウが出て来たの。
「タロウも今帰り? そうだね、うんじゃ、一緒に帰ろうか。」
断る理由もないし、おいらはタロウと一緒に帰ることにしたの。
町へ向かう道すがら。
「タロウは偉いね。
毎朝のトレント狩りだけで稼ぎは十分なんでしょう。
それなのに、地道にスライム捕りも続けているんだから。
最初は、スライム捕りなんて嫌だって、あれだけゴネていたのに。」
おいらとタロウは毎朝、アルトに連れられてトレント狩りに行っているんだ。
普通は、十人掛かりで倒しているトレントをタロウは一人で倒せるからね。
凄い稼ぎになっているんだ、タロウくらいの歳では有り得ないくらいの。
「アルト姐さんに、色々やらされて、嫌と言うくらい思い知らされたよ。
俺みたいなチキンには、闘いは向かないって。
『俺TUEEEEE!』したいなんて、寝ぼけたこと言っていた過去の自分に説教してやりたいぜ。
レベルが幾つになってもヤーさんみてえなのは怖えし…。
毎朝、トレントを狩っていても生きた心地がしねえよ。
それに、俺が捕っていく『マロンスライム』で町のみんなが喜んでくれるんだ。
安全で、良い稼ぎになって、町のみんなから喜ばれるなんていい仕事じゃねえか。」
タロウが捕っている通称『マロンスライム』は『妖精の泉』でしか捕れないんだ。
他のスライムに比べて汚物処理能力が高くて、寿命が長い『マロンスライム』は人気商品なんだけど。
『妖精の泉』のある森に入るには、アルトの許可がいるの。
今町に住んでいる人間で許可をもらっているは、おいらとタロウ、それにシフォン姉ちゃんの三人だけ。
父ちゃんと『STD四十八』の連中は、基本耳長族と一緒に森の中に住んでいるからね。
だから、『マロンスライム』の捕獲はタロウが独占している状態なんだ。
チューニ病という心の病を持っているタロウは、町の人から可哀想な子扱いされてたけど。
『マロンスライム』の供給者だと知れると、町の人から感謝されるようになったんだ。
それが嬉しいみたいで、最近はスライム捕りに熱心に励むようになったよ。
そんな会話を交わしながら歩いているとタロウがこんなことを尋ねてきたの。
「なあ、マロン。
おまえ、ゴムって知っているか?」
「ゴム? 何それ?」
ゴムと言う言葉に聞き覚えが無かったので、問い返したら。
タロウは、ゴムとその使い道を教えてくれたの。
「ああ、ゴム。
びょ~んって伸び縮みする物体。
俺、昨日、レベル十まで上がったんだよ、『命中率アップ』。
そしたら、アルト姐さんが言ってた通り、『必中』に化けたんだ。
せっかくだから、パチンコでも作って鳥でも狩ろうかと思ってな。」
おいらもそうだけど、タロウは王都で露店を開いた時からずっとトレント狩りに付き合わされてるの。
アルトから、自分の狩った分は自分のモノにして良いと言われてるんだ。
それで、タロウは、トレントの『スキルの実』を朝昼晩と食後のデザートに食べていたんだって。
シュガートレントがドロップする『スキルの実』は『命中率アップ』の実。
小振りの柿みたいな実で、とても甘くて美味しいの。
シフォン姉ちゃんもお気に入りで、二人でついつい食べ過ぎちゃったって。
レベル十まで上げるのに二万個近く食べないとダメなのに、タロウ達、毎日幾つ食べたの…。
あれから、まだ、半年も経っていないよ。
『命中率アップ』のスキルは、弓を得物に使う人にはとても人気のあるスキルで。
猟人や弓兵、それに近接戦を得意としない冒険者がよく取得しているんだ。
ただ、レベルの低いうちは、『命中率二十%アップ』とかだから。
元々の弓の腕前がヘボいとあまり意味がないんだ。
それこそ、弓の素人が取得したら『ゴミスキル』同然だよね。
でも、これ、レベル十まで上げると『必中』というスキルに変化するの。
その名の通り、腕がヘボくても必ず命中するというとってもお便利なスキル。
ただし、目標物まで届かないのは論外だよ、スキルは射程距離までは伸ばしてくれないから。
そこで、タロウは故郷にあるパチンコという武器を作れないかと思ったらしいの。
材料さえあれば簡単に作れて、弓ほど扱いが難しくないんだって。
パチンコを作るのに欠かせないのが『ゴム』らしいよ。
「おいらは、やっぱり、心当たりが無いよ。
そんなに伸び縮みするモノなんて見たことない。」
「う~ん、マロンが知らないとなると…。
ここはやっぱり、物知りの爺さんに聞いてみるしかないか。」
タロウはにっぽん爺に、この国にゴムが無いかを聞きに行くことにしたんだ。
おいらも、タロウの言うパチンコという道具に興味があったんで付いて行くことにしたよ。
**********
「何、パチンコに使いたいんでゴムが欲しいと?」
「ああ、そうなんだ。
便利なスキルが手に入ったから、鳥でも狩ろうかと思って。
もしかしたら、今の身体能力ならウサギくらいパチンコで狩れるかも知れないしな。」
タロウがゴムの使用目的を告げると、にっぽん爺は思案顔となって。
「それは、日本にあるような弾性の強い合成ゴムでないと拙いのかな?」
「いや、俺もそこんところは良く分からないぜ。
ただ、科学の発展が遅れているこの世界じゃ、合成ゴムは無理だろう。
良くラノベであるじゃんか、天然ゴムの樹脂をとって、硫黄を加えるって。
取り敢えず、そんなもんでもあれば、試してみようかなって。」
「まあ、君の言う通り合成ゴムは無理だろうな。
あいにくだが、私もこっちに来てから五十年、天然ゴムも見たことないな。
だいたい、君が履いているパンツだって紐で縛る形だろう。
ゴムがあるなら、下着から使われると思わないか。」
「やっぱりないか…。
仕方ない、これから時間を見つけて、のんびり弓の練習でもするかな。」
にっぽん爺もタロウの希望するゴムには心当たりが無いようで…。
タロウは諦めて弓の使い方でも覚えようかって言ったの。
せっかく『必中』のスキルを手に入れたんで、有効に活用したいようだね。
すると、にっぽん爺は思い出したように言ったの。
「もしかしたら、『ゴムの実』が使えるかも知れんな。
そんな用途には使ったことが無いので上手くいくかは分らんが…。」
「うん? 爺さん、さっき、ゴムの木は無いって言わなかったか?」
「ゴムの『木』ではないぞ、ゴムの『実』だよ。
その木からは、天然ゴムの樹液が採れる訳ではないんだ。
こんな感じのゴムのような弾力性のある『実』が生るんだよ。
私が冒険者をしている時に発見した『実』でね。
『ゴムの実』と名付けたのはこの私なのだ。
一頃は、これで大分儲けさせてもらったよ。」
にっぽん爺は隻眼隻腕だから、戦闘には不向きなんで採集専門の冒険者をしていたんだって。
保有スキルは、『食物採集能力アップ』、『鉱物採集能力アップ』、『野外採集能力アップ』、『野外移動速度アップ』。
低レベル冒険者の典型的なスキル構成だね、もっぱら採集クエストをこなして生計を立てるの。
にっぽん爺の凄いところは、頑張って四種類全部レベル十まで上げたこと。
レベル十まで上げるのには、約二万個のスキルの実を食べないといけないの。
一番安い『食物採集能力アップ』、『鉱物採集能力アップ』の実で銀貨一枚。
『野外採集能力アップ』、『野外移動速度アップ』だと、銀貨三枚もするんだ。
どれもトレントの仲間がドロップするスキルの実だから。
おいらやタロウみたいに自分でトレントを狩れればどうにでもなるけど。
採集専門の冒険者は、全部買わないといけないから予算の制約でレベル十まで上げるのは大変なの。
多分、にっぽん爺は凄く節約しながら、スキルレベルを上げたんだと思う。
その頃のにっぽん爺は『鉱物採集能力アップ』のスキルを活かして宝石採集で生計を立てていたそうだよ。
ある日のこと、宝石の原石を探しに山に分け入ったんだって。
その時、偶然『食物採集能力アップ』のスキルが知らせてくれたらしいの。
『ゴムの実』の存在を。
とっても美味しい果物らしいよ。
そんな説明をしながらにっぽん爺は、腸詰のような絵を描いて見せてくれたんだ。
ほぼ実物大の大きさの絵らしいけど、極太の腸詰の先っぽにおいらの小指の第一関節くらいの突起が付いてるの。
絵を描き終えると、にっぽん爺は一言付け加えたんだ。
「君、中学二年生だと保健体育の授業で習ったのではないか、『ゴム』。」
**********
おいらには、何の事か意味が分からなかったけど、タロウには理解できたようで。
「『ゴム』ってそっちかよ!
『食物採集能力アップ』のスキルが反応したってことは食いモンなんだろう。
形が似ているからシャレで『ゴム』って言ってるなら意味ないじゃんか。」
タロウは、笑いながらにっぽん爺にツッコミを入れたの。
すると、にっぽん爺はごく真面目な顔をして言ったんだ。
「いや、それ、形が似ているだけではないぞ。
現にその用途で使えるのだ。
最初に言ったであろう、ゴムのような弾力性があると。
その実はな、中がキウイフルーツのようなキレイな緑色の果肉なんだが。
良く熟するとゼリー状になるのだ。
だから、表面に弾力がないと何かの拍子に皮が破れて果肉が零れてしまうだろう。
果肉に包まれた種子が十分に成熟するまで、表皮が破れないようにゴム状になっているのだ。」
にっぽん爺が観察したところによると、『ゴムの実』は完全に熟するとそのまま木から落ちるんだって。
木から落下しても実の表面は弾力性があるので、潰れたり、破れたりはしないようだよ。
地面落ちると衝撃でヘタが取れて、そこからゼリー状の果肉が流れ出るんだって。
その果肉の中に種子が詰まっていて一緒に地面に流れ落ちるみたい。
その果肉を肥料として、種子は発芽して生育するらしいよ。
「ヘタを取って、そこからすするように食べたら、とても美味かったよ。
ゼリー状の果肉が爽やかな酸味があって、甘みも強くてな。
それで、初めて食べた時に、手に残った表皮を引っ張ってみたら良く伸びるのに気付いてね。
試しに水を入れてみたら、全然漏れないし…。
これは使えるんじゃないかと思ったんだよ。」
それで、にっぽん爺は宝石の探索を取り止めて、背負ったカバンいっぱいに『ゴムの実』を詰めて王都へ帰ったんだって。
にっぽん爺は、食べ終わった後の果物の皮をいったい何に使おうと思ったんだろう?
「おう、マロン、これから帰るのか。
ちょどいい、一緒に帰ろうぜ。」
『妖精の森』からスライムを入れた袋を担いだタロウが出て来たの。
「タロウも今帰り? そうだね、うんじゃ、一緒に帰ろうか。」
断る理由もないし、おいらはタロウと一緒に帰ることにしたの。
町へ向かう道すがら。
「タロウは偉いね。
毎朝のトレント狩りだけで稼ぎは十分なんでしょう。
それなのに、地道にスライム捕りも続けているんだから。
最初は、スライム捕りなんて嫌だって、あれだけゴネていたのに。」
おいらとタロウは毎朝、アルトに連れられてトレント狩りに行っているんだ。
普通は、十人掛かりで倒しているトレントをタロウは一人で倒せるからね。
凄い稼ぎになっているんだ、タロウくらいの歳では有り得ないくらいの。
「アルト姐さんに、色々やらされて、嫌と言うくらい思い知らされたよ。
俺みたいなチキンには、闘いは向かないって。
『俺TUEEEEE!』したいなんて、寝ぼけたこと言っていた過去の自分に説教してやりたいぜ。
レベルが幾つになってもヤーさんみてえなのは怖えし…。
毎朝、トレントを狩っていても生きた心地がしねえよ。
それに、俺が捕っていく『マロンスライム』で町のみんなが喜んでくれるんだ。
安全で、良い稼ぎになって、町のみんなから喜ばれるなんていい仕事じゃねえか。」
タロウが捕っている通称『マロンスライム』は『妖精の泉』でしか捕れないんだ。
他のスライムに比べて汚物処理能力が高くて、寿命が長い『マロンスライム』は人気商品なんだけど。
『妖精の泉』のある森に入るには、アルトの許可がいるの。
今町に住んでいる人間で許可をもらっているは、おいらとタロウ、それにシフォン姉ちゃんの三人だけ。
父ちゃんと『STD四十八』の連中は、基本耳長族と一緒に森の中に住んでいるからね。
だから、『マロンスライム』の捕獲はタロウが独占している状態なんだ。
チューニ病という心の病を持っているタロウは、町の人から可哀想な子扱いされてたけど。
『マロンスライム』の供給者だと知れると、町の人から感謝されるようになったんだ。
それが嬉しいみたいで、最近はスライム捕りに熱心に励むようになったよ。
そんな会話を交わしながら歩いているとタロウがこんなことを尋ねてきたの。
「なあ、マロン。
おまえ、ゴムって知っているか?」
「ゴム? 何それ?」
ゴムと言う言葉に聞き覚えが無かったので、問い返したら。
タロウは、ゴムとその使い道を教えてくれたの。
「ああ、ゴム。
びょ~んって伸び縮みする物体。
俺、昨日、レベル十まで上がったんだよ、『命中率アップ』。
そしたら、アルト姐さんが言ってた通り、『必中』に化けたんだ。
せっかくだから、パチンコでも作って鳥でも狩ろうかと思ってな。」
おいらもそうだけど、タロウは王都で露店を開いた時からずっとトレント狩りに付き合わされてるの。
アルトから、自分の狩った分は自分のモノにして良いと言われてるんだ。
それで、タロウは、トレントの『スキルの実』を朝昼晩と食後のデザートに食べていたんだって。
シュガートレントがドロップする『スキルの実』は『命中率アップ』の実。
小振りの柿みたいな実で、とても甘くて美味しいの。
シフォン姉ちゃんもお気に入りで、二人でついつい食べ過ぎちゃったって。
レベル十まで上げるのに二万個近く食べないとダメなのに、タロウ達、毎日幾つ食べたの…。
あれから、まだ、半年も経っていないよ。
『命中率アップ』のスキルは、弓を得物に使う人にはとても人気のあるスキルで。
猟人や弓兵、それに近接戦を得意としない冒険者がよく取得しているんだ。
ただ、レベルの低いうちは、『命中率二十%アップ』とかだから。
元々の弓の腕前がヘボいとあまり意味がないんだ。
それこそ、弓の素人が取得したら『ゴミスキル』同然だよね。
でも、これ、レベル十まで上げると『必中』というスキルに変化するの。
その名の通り、腕がヘボくても必ず命中するというとってもお便利なスキル。
ただし、目標物まで届かないのは論外だよ、スキルは射程距離までは伸ばしてくれないから。
そこで、タロウは故郷にあるパチンコという武器を作れないかと思ったらしいの。
材料さえあれば簡単に作れて、弓ほど扱いが難しくないんだって。
パチンコを作るのに欠かせないのが『ゴム』らしいよ。
「おいらは、やっぱり、心当たりが無いよ。
そんなに伸び縮みするモノなんて見たことない。」
「う~ん、マロンが知らないとなると…。
ここはやっぱり、物知りの爺さんに聞いてみるしかないか。」
タロウはにっぽん爺に、この国にゴムが無いかを聞きに行くことにしたんだ。
おいらも、タロウの言うパチンコという道具に興味があったんで付いて行くことにしたよ。
**********
「何、パチンコに使いたいんでゴムが欲しいと?」
「ああ、そうなんだ。
便利なスキルが手に入ったから、鳥でも狩ろうかと思って。
もしかしたら、今の身体能力ならウサギくらいパチンコで狩れるかも知れないしな。」
タロウがゴムの使用目的を告げると、にっぽん爺は思案顔となって。
「それは、日本にあるような弾性の強い合成ゴムでないと拙いのかな?」
「いや、俺もそこんところは良く分からないぜ。
ただ、科学の発展が遅れているこの世界じゃ、合成ゴムは無理だろう。
良くラノベであるじゃんか、天然ゴムの樹脂をとって、硫黄を加えるって。
取り敢えず、そんなもんでもあれば、試してみようかなって。」
「まあ、君の言う通り合成ゴムは無理だろうな。
あいにくだが、私もこっちに来てから五十年、天然ゴムも見たことないな。
だいたい、君が履いているパンツだって紐で縛る形だろう。
ゴムがあるなら、下着から使われると思わないか。」
「やっぱりないか…。
仕方ない、これから時間を見つけて、のんびり弓の練習でもするかな。」
にっぽん爺もタロウの希望するゴムには心当たりが無いようで…。
タロウは諦めて弓の使い方でも覚えようかって言ったの。
せっかく『必中』のスキルを手に入れたんで、有効に活用したいようだね。
すると、にっぽん爺は思い出したように言ったの。
「もしかしたら、『ゴムの実』が使えるかも知れんな。
そんな用途には使ったことが無いので上手くいくかは分らんが…。」
「うん? 爺さん、さっき、ゴムの木は無いって言わなかったか?」
「ゴムの『木』ではないぞ、ゴムの『実』だよ。
その木からは、天然ゴムの樹液が採れる訳ではないんだ。
こんな感じのゴムのような弾力性のある『実』が生るんだよ。
私が冒険者をしている時に発見した『実』でね。
『ゴムの実』と名付けたのはこの私なのだ。
一頃は、これで大分儲けさせてもらったよ。」
にっぽん爺は隻眼隻腕だから、戦闘には不向きなんで採集専門の冒険者をしていたんだって。
保有スキルは、『食物採集能力アップ』、『鉱物採集能力アップ』、『野外採集能力アップ』、『野外移動速度アップ』。
低レベル冒険者の典型的なスキル構成だね、もっぱら採集クエストをこなして生計を立てるの。
にっぽん爺の凄いところは、頑張って四種類全部レベル十まで上げたこと。
レベル十まで上げるのには、約二万個のスキルの実を食べないといけないの。
一番安い『食物採集能力アップ』、『鉱物採集能力アップ』の実で銀貨一枚。
『野外採集能力アップ』、『野外移動速度アップ』だと、銀貨三枚もするんだ。
どれもトレントの仲間がドロップするスキルの実だから。
おいらやタロウみたいに自分でトレントを狩れればどうにでもなるけど。
採集専門の冒険者は、全部買わないといけないから予算の制約でレベル十まで上げるのは大変なの。
多分、にっぽん爺は凄く節約しながら、スキルレベルを上げたんだと思う。
その頃のにっぽん爺は『鉱物採集能力アップ』のスキルを活かして宝石採集で生計を立てていたそうだよ。
ある日のこと、宝石の原石を探しに山に分け入ったんだって。
その時、偶然『食物採集能力アップ』のスキルが知らせてくれたらしいの。
『ゴムの実』の存在を。
とっても美味しい果物らしいよ。
そんな説明をしながらにっぽん爺は、腸詰のような絵を描いて見せてくれたんだ。
ほぼ実物大の大きさの絵らしいけど、極太の腸詰の先っぽにおいらの小指の第一関節くらいの突起が付いてるの。
絵を描き終えると、にっぽん爺は一言付け加えたんだ。
「君、中学二年生だと保健体育の授業で習ったのではないか、『ゴム』。」
**********
おいらには、何の事か意味が分からなかったけど、タロウには理解できたようで。
「『ゴム』ってそっちかよ!
『食物採集能力アップ』のスキルが反応したってことは食いモンなんだろう。
形が似ているからシャレで『ゴム』って言ってるなら意味ないじゃんか。」
タロウは、笑いながらにっぽん爺にツッコミを入れたの。
すると、にっぽん爺はごく真面目な顔をして言ったんだ。
「いや、それ、形が似ているだけではないぞ。
現にその用途で使えるのだ。
最初に言ったであろう、ゴムのような弾力性があると。
その実はな、中がキウイフルーツのようなキレイな緑色の果肉なんだが。
良く熟するとゼリー状になるのだ。
だから、表面に弾力がないと何かの拍子に皮が破れて果肉が零れてしまうだろう。
果肉に包まれた種子が十分に成熟するまで、表皮が破れないようにゴム状になっているのだ。」
にっぽん爺が観察したところによると、『ゴムの実』は完全に熟するとそのまま木から落ちるんだって。
木から落下しても実の表面は弾力性があるので、潰れたり、破れたりはしないようだよ。
地面落ちると衝撃でヘタが取れて、そこからゼリー状の果肉が流れ出るんだって。
その果肉の中に種子が詰まっていて一緒に地面に流れ落ちるみたい。
その果肉を肥料として、種子は発芽して生育するらしいよ。
「ヘタを取って、そこからすするように食べたら、とても美味かったよ。
ゼリー状の果肉が爽やかな酸味があって、甘みも強くてな。
それで、初めて食べた時に、手に残った表皮を引っ張ってみたら良く伸びるのに気付いてね。
試しに水を入れてみたら、全然漏れないし…。
これは使えるんじゃないかと思ったんだよ。」
それで、にっぽん爺は宝石の探索を取り止めて、背負ったカバンいっぱいに『ゴムの実』を詰めて王都へ帰ったんだって。
にっぽん爺は、食べ終わった後の果物の皮をいったい何に使おうと思ったんだろう?
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