ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!

アイイロモンペ

文字の大きさ
上 下
162 / 848
第八章 ハテノ男爵領再興記

第162話 クッころ騎士団、初仕事だよ!

しおりを挟む
 解雇した元騎士達を魔物の領域に捨ててくると言って飛び去ったアルト。

 そんなアルトを呆然と見送ったライム姉ちゃんだけど。

「アルト様ったら、あの者達を魔物の領域に捨ててくるなどと…。
 兄上の時もそうですが、情け容赦無いですね。」

 アルトの苛烈なお仕置きに恐れおののいていたよ。
 まっ、普通の人だと、魔物の領域に置き去りにされたら生きて帰っては来れないからね。

「あいつら、態度悪かったから仕方ないんじゃない。
 アルトは、基本的にはとっても優しいよ。
 でも、自分の身内に危害を加える人は絶対に赦さないの。
 あいつらを、クビにして放り出すと逆恨みして悪さをすると思ったんだよ。きっと。」

 普通に町に置いておいたら、町の人やライム姉ちゃんに嫌がらせをするかも知れないものね。
 少し話をしただけでも、質の悪さが想像できたから。
 その辺にたむろっている冒険者と同じくらいのロクでなしみたいだったもんね。

「ライム姉ちゃんは、アルトに身内認定してもらったのだから喜んで良いと思う。
 おいら、父ちゃんが行方不明になった五歳の時からずっと助けてもらったから。
 ライム姉ちゃんにも、色々と力になってくれると思うよ。」
 
 アルトは、敵に回したら怖いけど、身内にはとことん甘いからね。

「はい、それは、分かっています。
 領地の再建のために過分なお力添えをして頂きましたから。
 まだ知り合ったばかりだというのに、…。
 あの苛烈な仕打ちは、愛らしい姿からは想像もつきません。
 今後も、あの容姿を見て侮って、虎の尾を踏む者が出てくると思うと…。」

 ライム姉ちゃんは、領内でアルトの勘気に触れる愚か者が出てくる事を恐れているようだね。
 ライム姉ちゃんに類が及ぶことはないとは思うけどね。

「そうだね、そういうおバカが出て来ないように。
 アルトや耳長族にちょっかい出しちゃダメって、徹底しておいた方が良いよ。
 特に、冒険者ギルド。あいつら、人の話を聞かない連中ばっかりだから。
 そうだね、せっかくの機会だから。
 新しい騎士団の紹介方々、冒険者ギルドの立ち入り検査でもしてみたら。」

 アルトが言ってたよ。
 王様が広域指定冒険者ギルドを監査監督する義務があるのと同様に。
 領主には領内にある冒険者ギルドを監督する義務があるんだって。

 王様があのていたらくなんで、今では形骸化しちゃってるって、アルトは呆れていたけどね。

「マロン、それは良い案だと思う。
 わたくしも、マロンの町の冒険者には酷い目に遭いましたし。
 この町の冒険者ギルドもどんな無法を働いているか知れません。
 一度、立ち入り検査をしておきましょう。」

 クッころさん、冒険者ギルドの組長の指示を受けた冒険者に襲われていたもんね。
 冒険者のことを警戒しているみたいだね。

 そんな訳で、アルトの機嫌を損ねる前に冒険者ギルドに釘を刺しておくことになったんだ。

       **********

 でも、この日はその前にやらないといけないことがあったんだ。

「しまった、うっかりしていました。
 困ったわ、今日から騎士団の方三十一人分の食事を用意しないといけないのに。
 今まで出掛けていたので、食材が全然足りません。
 これからお店に行って、三十一人分の食材が欲しいと言っても急には揃わないかも。」

 ライム姉ちゃんが、思い出したように夕食の心配を始めたの。
 今までの騎士は、勝手に町に出て酒場で食事をとっていたみたい。
 その分の給金を上乗せされていたって、ライム姉ちゃんがボヤいていた。

 でも、新しい騎士団は全員貴族のお嬢さんなんだよね。
 この町には、貴族のお嬢さんが入れるような品の良い食事処はないらしいの。
 なので、これからは、ライム姉ちゃん達と一緒に食事をとることになったんだ。

 ところが、すっかり寂れちゃったこの町には大きなお店が無いからね。
 事前に注文しておかないと大量の食材は手に入らないみたいなの。 

「じゃあ、ウサギ狩りに行こうよ。
 おいら、騎士団のお姉ちゃん達の事が心配だったんだ。
 アルトのおかげでレベルは上がったけど、実際に魔物相手に剣が振るえるかって。
 晩ゴハンのおかずを確保するついでに、魔物と闘う心構えを付けて来ようよ。」

 おいらの提案に、クッころさんは頷いて。

「たしかに、わたくしは不覚にもウサギ相手に臆してしまいましたわ。
 スタンピードを経験した今となっては、多少ことでは動じませんが。
 ここにいる者は皆、まだ戦闘経験がないものばかりです。
 ウサギ狩りをして、魔物と闘う覚悟を付けさせるのは良いかも知れません。」

 クッころさん、ウサギに追いかけられて逃げ回っていたもんね。
 もっとも、あの時はレベルゼロだったから仕方が無いけど。
 熊ほどの大きさがあるウサギの魔物は、レベルゼロの人だけで狩ろうと思ったら四、五人必要だから。

 そんな訳で、急遽夕食の食材確保を兼ねてウサギ狩りに出てきたんだ。

 クッころさんを先頭に三十一人の騎士を乗せた馬が整然と通り抜けていく姿を、町の人は物珍しそうに見ていたよ。
 お嬢様方が馬に乗れたのかって?
 おいらもそれを尋ねたら、乗馬は貴族の嗜みだってクッころさんに言われたよ。
 言葉通り、誰一人隊列を乱すことなく、整然と隊列を組んで馬を操っていたので正直見直しちゃった。

 全員ではなかったけど、馬を連れて来たお嬢さんも多かったから。
 アルトが捨てに行った騎士が使っていた馬と併せて、三十一人全員が騎乗することができたの。
 おいらは、クッころさんの愛馬に二人乗りをして付いて行ったんだ。おいらの町に来た時に乗ってきた白馬だよ。

     **********

「マロン、ウサギがどの辺りにいるのか見当がつきますか?」

 町を出てしばらく辺境に向かって進むと、クッころさんが尋ねてきたの。
 もう、周りは草原になっていて、ウサギなんかは幾らでもいるんだけど。
 ウサギは獰猛な一方で、とても警戒心が強くて道沿いには滅多に出て来ないんだ。
 それといつでも逃げ込めるように、基本的には巣穴の周囲でしか行動しないの。

「この辺なら、平坦な場所なんで道が無くても馬が歩けるでしょう。
 草原の中に踏み込んで行けば、巣穴があると思うよ。
 ウサギは繁殖力が旺盛だから、けっこういっぱいいると思う。」

 おいらの言葉に従って、騎士団は道を逸れて草原の中に入って行ったの。
 ウサギの巣穴はすぐに見つかったよ。
 クッころさんもすぐにわかったみたい。
 以前、そこに用を足してウサギの怒りをかったのと同じ形状の巣穴があったから。

 馬から降りた騎士団員達、余り大人数じゃ、かえって狩りがし難いので五人ずつの小隊に分けたの。
 他の人達を馬の番に残して、一小隊を連れて巣穴に近付くクッころさん。
 巣穴の縁まで近づくと、こぶし大の石を拾って巣穴に放り込んだの。

 すると、…。

「ウキュウーーーー!」

 雄叫びにしては可愛い声を上げてウサギの魔物が巣穴から姿を現したよ。
 どことなく愛嬌のある鳴き声に聞こえるけど、目が血走っていて、牙をむき出しにして怒っていたよ。

「小隊、かかれ! 目の前の魔物を討伐するぞ!」

 スタンピードを収めたことで、自信を付けたクッころさんは平然と号令をかけたんだけど。

「キャアアーーーー!」

 小隊の五人は一目散に逃げちゃった…。
 まあ、熊のような大きさだし、牙を剥いているからね。
 誰だって、初めて見たら怖いと思うよ。

「ええい、情けない、それでも騎士を志したものか。」

 思わず、『どの口がそれを言う』ってツッコんじゃったよ。
 初めてウサギと対峙した時、クッころさんだって必死に逃げていたじゃない。

 でも、騎士達を叱咤しただけのことはあり、クッころさんは一撃でウサギを斬って捨てたんだ。

「エクレア様、さすがです!」

「エクレアお姉さま、素敵です。カッコいいです。」

 そんなクッころさんに、騎士団の面々から称賛の声が上がったよ。面目躍如だね。

「ウサギはレベルゼロの魔物だ。
 なりは大きいけど、大した戦闘力がある訳じゃない。
 皆も、落ち着いて対処すれば、どうってことないさ。
 さあ、もう一匹探してみよう。
 今度は皆が狩るんだ。」

 そう言って、クッころさんは騎士団のみんなを鼓舞したの。

 いや、もう一匹狩るのは良いけど、このウサギどうやって持って帰るの。
 熊くらいの大きさがあるんだよ…。

 結局、おいらが持って帰ることになったよ。
 アルトから『妖精の不思議空間』を授けられたとか、いい加減なウソを言ってね。
 勿論、全員に口止めしたよ。
 他に人に知られると、おいらを捕らえて荷物持ちをさせようとする不届き者が出てくるかも知れないからと言ってね。
 騎士団のみんなはアルトの怖さを知っているから、絶対に口外しないと約束してくれたよ。
 みんな、跡形もなく消し飛ぶのは遠慮したいだろうからね。

 それで、ウサギ狩りだけど。
 クッころさんに鼓舞された騎士のみんな、次の一羽は及び腰だったけど見事に狩って見せたよ。
 順番が前の小隊の狩り方に学んだようで、後の小隊になるほどスムーズに狩れるようになったの。
 ウサギ狩りを終えた時には、すっかり自信を付けたみたい。

 ただね…。
 荷物を持つ必要が無いと分かったもんだから、クッころさんが調子に乗っちゃって。
 六小隊全部がウサギを一羽ずつ狩るまで付き合わされたよ。 

 これで当面の間、騎士団の食事の心配をする必要は無くなったけどね。
  
しおりを挟む
感想 128

あなたにおすすめの小説

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

孤児院の愛娘に会いに来る国王陛下

akechi
ファンタジー
ルル8歳 赤子の時にはもう孤児院にいた。 孤児院の院長はじめ皆がいい人ばかりなので寂しくなかった。それにいつも孤児院にやってくる男性がいる。何故か私を溺愛していて少々うざい。 それに貴方…国王陛下ですよね? *コメディ寄りです。 不定期更新です!

悪役令嬢、資産運用で学園を掌握する 〜王太子?興味ない、私は経済で無双する〜

言諮 アイ
ファンタジー
異世界貴族社会の名門・ローデリア学園。そこに通う公爵令嬢リリアーナは、婚約者である王太子エドワルドから一方的に婚約破棄を宣言される。理由は「平民の聖女をいじめた悪役だから」?——はっ、笑わせないで。 しかし、リリアーナには王太子も知らない"切り札"があった。 それは、前世の知識を活かした「資産運用」。株式、事業投資、不動産売買……全てを駆使し、わずか数日で貴族社会の経済を掌握する。 「王太子?聖女?その程度の茶番に構っている暇はないわ。私は"資産"でこの学園を支配するのだから。」 破滅フラグ?なら経済で粉砕するだけ。 気づけば、学園も貴族もすべてが彼女の手中に——。 「お前は……一体何者だ?」と動揺する王太子に、リリアーナは微笑む。 「私はただの投資家よ。負けたくないなら……資本主義のルールを学びなさい。」 学園を舞台に繰り広げられる異世界経済バトルロマンス! "悪役令嬢"、ここに爆誕!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

処理中です...