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第八章 ハテノ男爵領再興記

第162話 クッころ騎士団、初仕事だよ!

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 解雇した元騎士達を魔物の領域に捨ててくると言って飛び去ったアルト。

 そんなアルトを呆然と見送ったライム姉ちゃんだけど。

「アルト様ったら、あの者達を魔物の領域に捨ててくるなどと…。
 兄上の時もそうですが、情け容赦無いですね。」

 アルトの苛烈なお仕置きに恐れおののいていたよ。
 まっ、普通の人だと、魔物の領域に置き去りにされたら生きて帰っては来れないからね。

「あいつら、態度悪かったから仕方ないんじゃない。
 アルトは、基本的にはとっても優しいよ。
 でも、自分の身内に危害を加える人は絶対に赦さないの。
 あいつらを、クビにして放り出すと逆恨みして悪さをすると思ったんだよ。きっと。」

 普通に町に置いておいたら、町の人やライム姉ちゃんに嫌がらせをするかも知れないものね。
 少し話をしただけでも、質の悪さが想像できたから。
 その辺にたむろっている冒険者と同じくらいのロクでなしみたいだったもんね。

「ライム姉ちゃんは、アルトに身内認定してもらったのだから喜んで良いと思う。
 おいら、父ちゃんが行方不明になった五歳の時からずっと助けてもらったから。
 ライム姉ちゃんにも、色々と力になってくれると思うよ。」
 
 アルトは、敵に回したら怖いけど、身内にはとことん甘いからね。

「はい、それは、分かっています。
 領地の再建のために過分なお力添えをして頂きましたから。
 まだ知り合ったばかりだというのに、…。
 あの苛烈な仕打ちは、愛らしい姿からは想像もつきません。
 今後も、あの容姿を見て侮って、虎の尾を踏む者が出てくると思うと…。」

 ライム姉ちゃんは、領内でアルトの勘気に触れる愚か者が出てくる事を恐れているようだね。
 ライム姉ちゃんに類が及ぶことはないとは思うけどね。

「そうだね、そういうおバカが出て来ないように。
 アルトや耳長族にちょっかい出しちゃダメって、徹底しておいた方が良いよ。
 特に、冒険者ギルド。あいつら、人の話を聞かない連中ばっかりだから。
 そうだね、せっかくの機会だから。
 新しい騎士団の紹介方々、冒険者ギルドの立ち入り検査でもしてみたら。」

 アルトが言ってたよ。
 王様が広域指定冒険者ギルドを監査監督する義務があるのと同様に。
 領主には領内にある冒険者ギルドを監督する義務があるんだって。

 王様があのていたらくなんで、今では形骸化しちゃってるって、アルトは呆れていたけどね。

「マロン、それは良い案だと思う。
 わたくしも、マロンの町の冒険者には酷い目に遭いましたし。
 この町の冒険者ギルドもどんな無法を働いているか知れません。
 一度、立ち入り検査をしておきましょう。」

 クッころさん、冒険者ギルドの組長の指示を受けた冒険者に襲われていたもんね。
 冒険者のことを警戒しているみたいだね。

 そんな訳で、アルトの機嫌を損ねる前に冒険者ギルドに釘を刺しておくことになったんだ。

       **********

 でも、この日はその前にやらないといけないことがあったんだ。

「しまった、うっかりしていました。
 困ったわ、今日から騎士団の方三十一人分の食事を用意しないといけないのに。
 今まで出掛けていたので、食材が全然足りません。
 これからお店に行って、三十一人分の食材が欲しいと言っても急には揃わないかも。」

 ライム姉ちゃんが、思い出したように夕食の心配を始めたの。
 今までの騎士は、勝手に町に出て酒場で食事をとっていたみたい。
 その分の給金を上乗せされていたって、ライム姉ちゃんがボヤいていた。

 でも、新しい騎士団は全員貴族のお嬢さんなんだよね。
 この町には、貴族のお嬢さんが入れるような品の良い食事処はないらしいの。
 なので、これからは、ライム姉ちゃん達と一緒に食事をとることになったんだ。

 ところが、すっかり寂れちゃったこの町には大きなお店が無いからね。
 事前に注文しておかないと大量の食材は手に入らないみたいなの。 

「じゃあ、ウサギ狩りに行こうよ。
 おいら、騎士団のお姉ちゃん達の事が心配だったんだ。
 アルトのおかげでレベルは上がったけど、実際に魔物相手に剣が振るえるかって。
 晩ゴハンのおかずを確保するついでに、魔物と闘う心構えを付けて来ようよ。」

 おいらの提案に、クッころさんは頷いて。

「たしかに、わたくしは不覚にもウサギ相手に臆してしまいましたわ。
 スタンピードを経験した今となっては、多少ことでは動じませんが。
 ここにいる者は皆、まだ戦闘経験がないものばかりです。
 ウサギ狩りをして、魔物と闘う覚悟を付けさせるのは良いかも知れません。」

 クッころさん、ウサギに追いかけられて逃げ回っていたもんね。
 もっとも、あの時はレベルゼロだったから仕方が無いけど。
 熊ほどの大きさがあるウサギの魔物は、レベルゼロの人だけで狩ろうと思ったら四、五人必要だから。

 そんな訳で、急遽夕食の食材確保を兼ねてウサギ狩りに出てきたんだ。

 クッころさんを先頭に三十一人の騎士を乗せた馬が整然と通り抜けていく姿を、町の人は物珍しそうに見ていたよ。
 お嬢様方が馬に乗れたのかって?
 おいらもそれを尋ねたら、乗馬は貴族の嗜みだってクッころさんに言われたよ。
 言葉通り、誰一人隊列を乱すことなく、整然と隊列を組んで馬を操っていたので正直見直しちゃった。

 全員ではなかったけど、馬を連れて来たお嬢さんも多かったから。
 アルトが捨てに行った騎士が使っていた馬と併せて、三十一人全員が騎乗することができたの。
 おいらは、クッころさんの愛馬に二人乗りをして付いて行ったんだ。おいらの町に来た時に乗ってきた白馬だよ。

     **********

「マロン、ウサギがどの辺りにいるのか見当がつきますか?」

 町を出てしばらく辺境に向かって進むと、クッころさんが尋ねてきたの。
 もう、周りは草原になっていて、ウサギなんかは幾らでもいるんだけど。
 ウサギは獰猛な一方で、とても警戒心が強くて道沿いには滅多に出て来ないんだ。
 それといつでも逃げ込めるように、基本的には巣穴の周囲でしか行動しないの。

「この辺なら、平坦な場所なんで道が無くても馬が歩けるでしょう。
 草原の中に踏み込んで行けば、巣穴があると思うよ。
 ウサギは繁殖力が旺盛だから、けっこういっぱいいると思う。」

 おいらの言葉に従って、騎士団は道を逸れて草原の中に入って行ったの。
 ウサギの巣穴はすぐに見つかったよ。
 クッころさんもすぐにわかったみたい。
 以前、そこに用を足してウサギの怒りをかったのと同じ形状の巣穴があったから。

 馬から降りた騎士団員達、余り大人数じゃ、かえって狩りがし難いので五人ずつの小隊に分けたの。
 他の人達を馬の番に残して、一小隊を連れて巣穴に近付くクッころさん。
 巣穴の縁まで近づくと、こぶし大の石を拾って巣穴に放り込んだの。

 すると、…。

「ウキュウーーーー!」

 雄叫びにしては可愛い声を上げてウサギの魔物が巣穴から姿を現したよ。
 どことなく愛嬌のある鳴き声に聞こえるけど、目が血走っていて、牙をむき出しにして怒っていたよ。

「小隊、かかれ! 目の前の魔物を討伐するぞ!」

 スタンピードを収めたことで、自信を付けたクッころさんは平然と号令をかけたんだけど。

「キャアアーーーー!」

 小隊の五人は一目散に逃げちゃった…。
 まあ、熊のような大きさだし、牙を剥いているからね。
 誰だって、初めて見たら怖いと思うよ。

「ええい、情けない、それでも騎士を志したものか。」

 思わず、『どの口がそれを言う』ってツッコんじゃったよ。
 初めてウサギと対峙した時、クッころさんだって必死に逃げていたじゃない。

 でも、騎士達を叱咤しただけのことはあり、クッころさんは一撃でウサギを斬って捨てたんだ。

「エクレア様、さすがです!」

「エクレアお姉さま、素敵です。カッコいいです。」

 そんなクッころさんに、騎士団の面々から称賛の声が上がったよ。面目躍如だね。

「ウサギはレベルゼロの魔物だ。
 なりは大きいけど、大した戦闘力がある訳じゃない。
 皆も、落ち着いて対処すれば、どうってことないさ。
 さあ、もう一匹探してみよう。
 今度は皆が狩るんだ。」

 そう言って、クッころさんは騎士団のみんなを鼓舞したの。

 いや、もう一匹狩るのは良いけど、このウサギどうやって持って帰るの。
 熊くらいの大きさがあるんだよ…。

 結局、おいらが持って帰ることになったよ。
 アルトから『妖精の不思議空間』を授けられたとか、いい加減なウソを言ってね。
 勿論、全員に口止めしたよ。
 他に人に知られると、おいらを捕らえて荷物持ちをさせようとする不届き者が出てくるかも知れないからと言ってね。
 騎士団のみんなはアルトの怖さを知っているから、絶対に口外しないと約束してくれたよ。
 みんな、跡形もなく消し飛ぶのは遠慮したいだろうからね。

 それで、ウサギ狩りだけど。
 クッころさんに鼓舞された騎士のみんな、次の一羽は及び腰だったけど見事に狩って見せたよ。
 順番が前の小隊の狩り方に学んだようで、後の小隊になるほどスムーズに狩れるようになったの。
 ウサギ狩りを終えた時には、すっかり自信を付けたみたい。

 ただね…。
 荷物を持つ必要が無いと分かったもんだから、クッころさんが調子に乗っちゃって。
 六小隊全部がウサギを一羽ずつ狩るまで付き合わされたよ。 

 これで当面の間、騎士団の食事の心配をする必要は無くなったけどね。
  
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