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アイイロモンペ

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第七章 興行を始めるよ!・・・招かれざる客も来たけれど

第146話 クッころさん、再び

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 王宮を辞したおいら達は、モカさんの馬車に乗ってモカさんのお屋敷に向かったんだけど。
 途中で町の広場に立ち寄ってもらったの、『積載庫』の中にいるみんなに食べ物を補充するため。

「アルト様、そんなに大量のパンや腸詰肉、それに串焼きなど何にするのですか。
 見たところ、百人分以上の量がありそうですが。」

 次々と食べ物を買いこんでいくアルトを見てモカさんが目を丸くしてたよ。

「私の不思議空間の中に、今辺境の町で評判の剣舞集団に待機してもらっているの。
 明日、王宮で自慢の剣舞を披露してあげるから楽しみにしておいて。
 人数が多いので、急にモカの所に押し掛けると迷惑でしょう。
 だから、今日はこのまま不思議空間にいてもらおうかと思って。
 今晩と明朝の分の食事を補給しているのよ。」

 確かに、百人以上で押し掛けて泊めてくれって言うのは無茶だものね。
 それに実際のところ、貴族のモカさんの家よりアルトの『特等席』の方が快適だしね。

「アルト様の不思議空間とは凄いものですな。
 百人以上の人を納めることが出来るのですか。」

 モカさん、とっても驚いてたよ。

      **********

 そして、モカさんの家に着いて、モカさんの仕事部屋に通されると。

「それで、アルト様、私めに相談とはどうのような事でしょうか?」

 モカさんはどんな難題を押し付けられるのかと戦々恐々として尋ねてきたんだ。

「そんなに、身構えないでよ。
  無茶なお願いをするつもりは無いから安心して。
 単刀直入に言うわ、エクレアをハテノ男爵領に預けてくれないかしら。」

「はい? エクレアですか?」

 モカさんは、予想もしていなかったんだと思うよ。アルトの言葉をおうむ返しにしてたよ。

「そう、エクレアよ。あの、今、何をしているの?」

「はぁ、辺境の町から戻って以来、騎士になるという願望が強くなりまして。
 花嫁修業もせずに、剣ばかり振っております。
 器量も良いし、性格も良いのですが…。
 幾つになっても子供みたいに夢見がちで困ったものです。」

 アルトの問い掛けに、苦笑いをしながら返答したモカさん。
 一方のアルトはと言うと、満足そうな笑みを浮かべて。

「期待通りだわ、あのならそうしていると思っていたのよ。
 今度、ハテノ男爵領に女性だけの騎士団を創設するつもりなの。
 エクレアにはその団長をして欲しいの。
 騎士に夢見ているあの娘なら。
 正騎士であれば、国の騎士団じゃなければ嫌だなんて言わないでしょう。
 民を守るために剣を振るえと言えば二つ返事でハイと言うと思うわ。」

 アルトったら、ライム姉ちゃんの護衛と耳長族の護衛を兼ねた騎士団を創設しようとライム姉ちゃん達に持ち掛けたんだ。
 今までいた騎士団員は三十人、元々男爵家が隆盛を誇った頃はダイヤモンド輸送の警護やなんやらで百人以上いたらしいの。
 でも、没落してから少しずつ減らしてきて、残ったのは代々仕えてきた家の三十人だったそうなの。
 ところが、今日までの領主、その騎士達を年寄りだからって全員解雇しちゃったんだって。
 そして、何処から冒険者崩れのようなならず者を騎士として連れて来たらしいよ。
 
 それまでの騎士は、畑の害獣を追い払ったり、町でお年寄りが重いものを担いでいたら持ってあげたりととても善良な人達だったらしいの。
 領民から親しまれる騎士団だったんだけど、今の領主はそれが気に入らなかったみたい。
 領主は、セベスおじいちゃんをお払い箱にして重税を課すつもりで、騎士団を使って領民から厳しく取り立てようとしたみたい。
 それで、ゴロツキみたいな強面の連中を引っ張って来たんだって。
 セバスおじいちゃんは何度も苦言を呈したけど、領主は無視していたみたい。

 なので、今回騎士十人が死罪になるついでに、残りの二十人も解雇するんだって。
 それで、新たに騎士団を創設することになったんだけど、その時アルトが言ったんだ。

「ライムが領主になると、護衛の騎士は女性の方が良いわね。
 騎士は四六時中側にいる訳だから、男性の騎士じゃあ、ライムも気が休まらないでしょう。
 いっその事、女性だけの騎士団を作って、領地の名物にしちゃいましょうよ。
 それを目当てに見物客が来るくらいの美人女騎士ばかりの騎士団を作って、…。
 歌でも歌わせましょうか、耳長族の伴奏で。」

 それで白羽の矢が立ったのがクッころさん。
 クッころさん、ちょっと残念な人だけど、見た目は凄く美人さんだから。
 ライム姉ちゃんに、クッころさんと組ませて歌を歌わせるんだって。
 美人領主と美人騎士団長のデュオって煽り文句で。
 騎士団を人寄せに使う気満々だよ。

「あっ、いや、それは…。」

 クッころさんに大人しくお嫁に行って欲しいと思ってるモカさんは言葉に詰まったよ。
 
「何よ、私は無理にとは言ってないわよ。
 エクレアが嫌だというなら諦めるから。
 早くエクレアを連れて来なさい、あの娘の意向を確認するから。」

 アルトにそう言われると、断れるはずも無く…。
 モカさん、渋々とクッころさんを呼びに行ったよ。

     **********

「アルト様、女性だけの騎士団を創設するのですって。
 是非とも、私にお手伝いさせてください。
 このエクレア、騎士道精神にのっとり民の安寧を護って見せましょう。」

 モカさんから話を聞いたようで、意気揚々とやって来たクッころさん。
 アルトの顔を見るなり、ノリノリでそんな言葉を口にしたよ。

 その後ろでは、モカさんが額に手を当てて俯いてた、ご愁傷さま。

 一方でアルトは、想定通りと言った様子で上機嫌でクッころさんに声を掛けたの。

「エクレアだったらそう言ってくれると思っていたわ。
 紹介しておくわね。
 こちらがあなたが仕えることになるハテノ男爵ライム嬢と先々代のゼンベーさん。
 先代が不始末を仕出かして明日儚いことになるから。
 代わってライム嬢が男爵位を引き継ぐことが、今日決まったの。
 今の騎士団、団員十人も先代領主と一緒に明日消えることになるんだけど。
 残りの連中もロクでもない奴らばかりなので、全員クビにするのよ。
 それで、新しい騎士団の団長をエクレアに頼もうかと思ったの。」
  
「まあ、そうでしたの。
 お初にお目に掛ります、ハテノ女男爵。
 私、エクレア・シュアラ・ド・クレームと申します。
 誠心誠意お仕えさせて頂きますのでよろしくお願い致します。」

 まっ、子供の頃から騎士になることを夢見てきたクッころさんに否はないよね。
 むしろ、ライム姉ちゃんの方が格上の子爵家の令嬢から頭を下げられて戸惑ってたよ。

「それで、エクレア、騎士団員を上限三十人で集めなさい。
 いるんでしょう『お仲間るいとも』が。
 出来る限り美人の娘を選んでちょうだいね。
 この国で唯一にして初の女性騎士団だから。
 どうせなら、見目麗しい方が良いわ。
 その方が色々と話題になるから。」

「そういうことでしたら任せてください。
 私が主宰するお茶会サークル『騎士を夢見る乙女の会』のメンバーを召集しますわ。
 どうして、騎士が見目麗しい方が良いのか存じませんが。
 アルト様がそう望むのであれば、容姿を重視して選ぶことにします。」

 やっぱりいるんだ、『お仲間るいとも』が、『騎士を夢見る乙女の会』ってまんまだね。
 昨日、アルトからプランを聞かされた時に、おいら、尋ねたんだ。

 クッころさんを騎士団長にするのは良いとして、騎士団員はどう集めるのかって。
 そしたら、アルトはこう言ったの。

「マロンは聞いたことが無いかしら?
 『類は友を呼ぶ』って言葉を。
 貴族ってのはね、すぐに集まりたがるものよ。
 お嬢様方でも集まって派閥を作るの。
 ボッチでいるのは、貴族としては失格なのよ。
 でもね、あの娘がファッションとか、恋愛沙汰とかの話題に合わせられると思う。
 はみ出しちゃうのが目に見えるようでしょう。
 あの娘のもとに集まる娘なんて、同じような妄想を抱いているに決まっているじゃない。」

 クッころさんは名門子爵家のご令嬢、ボッチでいる事などモカさんが許すはずないと言ったんだ。
 それなら、絶対に自分と話の合うお嬢様方を集めるはずだって。

 案の定、アルトが言った通りで。
 クッころさん、騎士に憧れるお嬢様方を集めて、『私が騎士だったらこんなことをする』って話題で妄想を膨らませているみたい。
 中には、騎士になった自分達を登場人物にした絵物語を書いているお嬢さんとかもいるんだって。
 自作の本を持ち寄って、頒布会なんかもしてるって言ってたよ。
 メンバーって全部で五十人くらいいるらしくて、貴族のお嬢様方の中では有力派閥なんだって。

「おい、エクレア。
 あの会ってのは、そんなヘンテコな集まりだったのか?
 私は、お前がよくあれだけの人を集められたと感心しておったのだぞ。
 うちでは騎士になるだのと戯言ばかり言っているが、外では案外まともなのかと思いきや。
 まさか、騎士になりたいなどと言う変わり者の娘を集めていたとは。」

 クッころさんの話を聞いて、モカさん、目が点になってたよ。

 そんな訳で、クッころさんが仲間に加わったよ。
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