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第七章 興行を始めるよ!・・・招かれざる客も来たけれど

第137話 辺境の町が賑わいを見せたよ

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 『STD四十八』の興行は回を重ねる毎に見物人が増えて、広場がごった返すようになちゃった。
 余りに広場が混雑すると他の人達に迷惑になるので、一日の公演回数を増やすことで見物人の分散を図ることにしたんだ。
 同じ演目をするのだから、何回も繰り返し見る人もいないだろうと言うことでね。

 それでも盛況で、一日一回の公演が二回になり、今じゃ三回になっちゃったよ。

「凄いわね、これなら王都へ出ても十分に見物人を集められるわね。」

 『STD四十八』の公演を見物に来た人だかりを見てアルトが感心していると。

「アルト様、興行の場を王都に移すんですか?
 そいつは殺生だ、ギルドは見物客を当て込んで宿を始めちまったんです。
 やっとこさ、これで本部に上納金を納められると安堵したのに。
 興行が無くなっちまったら、宿にするために建物を買った金が丸損ですぜ。」

 アルトと隣で見物人の様子を見ていた冒険者ギルドの副組長が嘆いていていたよ。
 他にも…。

「そうですよ、アルト様が興行を始めてくださったおかげで、空き家も大分売れたんです。
 おかげで、私の食卓もおかずを一品増やせて喜んでたところなんですよ。
 興行が無くなったら、また空き家が増えちゃうじゃないですか。
 完全歩合制の私の給金が無くなっちゃいますよ。」

 役場のお姉ちゃんも嘆いていたよ。

 連中の興行、地元の熱狂的なお姉ちゃん達は毎回見に来てくれるけど。
 普通の人は、そんなに何度も見るもんでもないよね。
 もちろん、連中も演目を増やしてリピーターを増やすように努力しているけど。
 一つ演目を増やすにも結構な稽古が必要だから、そうそう増やせるものじゃないんだ。

 じゃあ、なんで毎回とても好評なのかというと。
 近隣の町や村から、見物人が集まってくるから。

 最初は日帰りで帰れる近くの町や村からしか来なかったんだけど。
 今はもっと遠くから押し掛けるようになったんだ。

 興行を初めて何回かすると、公演の後に広場で野宿している人が目立つようなったの。
 それに目を付けたのが冒険者ギルド。
 アルトに釘を刺されてカタギに手出しできなくなったから、シノギが減って困っていたんだ。
 町にいっぱいある空いている建物を買い取って宿屋を始めたんだよ、カタギの人向けの。
 それが大当たりで、なんとかシノギが持ち直してきたところなんだって。

 それと、役場のお姉ちゃんが喜んでいる鉱山住宅の空き家が売れたって件。
 別に『STD四十八』の公演を見るために移住して来たとか、宿の代わりに家を買ったとかじゃないよ。
 流石に、そこまで熱狂的なファンはいないよ。

 じゃあ誰が空き家を買っているのかと言うと、広場に屋台を出している人。
 公演の時って広場に溢れるほど見物人が訪れるから、それ目当てに食べ物の屋台が増えてるの。
 四角い広場、その一辺に沿ってアルトが舞台を設置すると、残る三辺に沿ってぐるりと屋台が並ぶ状態なんだ。
 この辺境の町に、そんなに屋台を出す人がいる訳もなく。
 屋台の大部分が他所の町で食べ物屋を営む人たちなんだって。
 支店みたいな感じで、五日にいっぺんこの広場に屋台を出しているみたいなんだ。
 そのために、屋台の道具置き場兼宿泊場所として鉱山住宅の空き家を買っているらしいの。

 それで、儲かるのかって? おいらも、詳しいことは知らないけど、…。
 役場のお姉ちゃんの話では、この町にある鉱山住宅の空き家って、一軒銀貨千枚均一と格安で買えるし。
 何よりも、この町、半無法地帯で税金が掛からないから、儲けが良いみたいなんだ。
 宿に泊まるのと違って、家を買っちゃえばそこで屋台の仕込みも出来るからね。

 役場のお姉ちゃん、役人と言っても完全歩合制だから、空き家がいっぱい売れたってホクホク顔だったよ。
 このお姉ちゃんの給金って、毎月の空き家が何軒減ったかで決まるんだって。
 空き家が二軒売れても、三軒買い取りを要求されて出て行かれちゃうと空き家が一軒増えちゃうんで給金無しだって。
 タロウが、「ひでえ、ブラック企業だ!」っていってビックリしてたよ。

 アルトがこの町での興行を止めて、王都へ出て行っちゃうと。
 宿の宿泊客が減って、冒険者ギルドが困っちゃうし。
 屋台の経営者も広場に屋台を出す意味が無くなって、鉱山住宅を売っちゃうだろうからね。

 役場のお姉ちゃんが、給金が無くなっちゃうって嘆くのもわかるよ。

 こんな感じで、アルトが気まぐれで始めた『STD四十八』の興行は辺境の町の活性化に一役かっているんだ。

「心配しなくて良いわよ。
 私も自分の森がこの近くにあるのですもの。
 そうそう、留守には出来ないわ。
 あくまで、興行の中心はこの町よ。
 でも、『STD四十八』の連中にもやり甲斐を持たせないとね。
 年に何回か、不定期に王都に巡業を掛けようと思っているのよ。
 連中、目立ちたがりだから、やる気を出すと思うわ。」

 アルトの言葉を聞いて、ギルドの副組長も役場のお姉ちゃんも安堵していたよ。

     **********

 ギルドの副組長や役場のお姉ちゃんとそんな会話を交わしながら、アルトは連中の公演を見に詰め掛けた見物人たちを眺めていたんだ。
 アルトが設置した舞台の上では、『STD四十八』の連中と伴奏のお姉ちゃん達が公演の準備をしているところだよ。

 すると、…。

「広場に馬で入られたら困ります。
 広場には大勢の人が集まっているから、馬は危険です。」

 門番をしている冒険者ギルドの人が大きな声で注意をしているのが聞こえたの。

「うるさい! 平民の分際で俺にそんな口を利くんじゃない。
 何なら、無礼打ちでその首を刎ねてやってもいいんだぞ!」

「ええい、邪魔だ!
 民衆共よ、道を開けるんだ!」

 門番の人の声に続いて、そんな横柄な言葉が聞こえたよ。どうやら、相手は貴族みたいだね。

 少しの間をおいて、人混みが左右に割れて姿を現したのは十頭の馬に騎乗した十人の騎士だった。

「ほう、あれが耳長族の娘か。
 噂に違わず、美しい者ばかりだな。
 ここまで出張って来た甲斐があると言うモノよ。
 よし、あの娘どもを、全員ひっ捕らえよ!
 近隣の領主たちへの貢物にもするんだから傷一つ付けるんじゃないぞ。」

 先頭にいた騎士が、後続の騎士にそんな命令を出していたんだ。
 命令に従って馬を降りる、九人の騎士達。
 よく見ると騎士達の後ろには荷馬車を引き連れていたよ。準備万端だね。
 
「あんた達、いったい何者?
 こんなに人が集まっている広場に馬で入ってくるなんて非常識な。
 馬が子供でも蹴とばしたらどうするつもり。」

 アルトが騎士達の前を塞ぐように進み出て文句を付けたんだ。

「何だ、この羽虫は無礼な。
 俺達はこの町を治めるハテノ男爵の騎士団の者だ。
 平民など、俺達騎士団のすることに口答えせずに従っておけば良いのだ。
 騎士団の行く手を塞いで馬に蹴り飛ばされるのは、立ち塞がったモンが悪いに決まってるだろうが。」

 馬に乗ったままの一人がそんな言葉を吐いたんだ。
 いたよ、ここにも『勇者』が、アルトを羽虫と呼ぶなんて…。 

「ふーん、それで、ハテノ男爵の騎士がここに何の用かしら?」

「何の用かって?
 決まっておるだろう、ここにいる耳長族の娘をハテノ男爵がご所望だ。
 せっかく、領内に幻の耳長族が現れたのだ。
 放っておけるはずが無かろうが。」

「そう、わざわざここまで来たけど、とんだ骨折り損だったわね。
 あの子達は、私、妖精の森の長、アルトローゼンの保護下にあるの。
 私の保護下にある者に手を出すという事がどういうことか分かっているのかしら?」

「アルトローゼンだぁ? そんなの知らねえな。
 羽虫風情がなに生意気な口を利いているんだ。
 おい、こんな羽虫かまう必要はねえ、とっととひっ捕らえて帰るぞ。
 領主様に頼んで俺達も一人くらいおこぼれに与かろうじゃねえか。」

 アルトが偉そうにしている騎士の言葉を聞いてニヤニヤ笑っているよ。
 これでまた、王様をお仕置きする口実が出来たものね。

 冒険者ギルドですら、王様に監督責任があるんだもの。
 王様の臣下に当たるハテノ男爵の仕出かしたことは、当然王様に監督責任が及ぶよね。
 しかし、王様も脇が甘いね、国内の貴族たちにもちゃんとお触れを出しておかないと…。
 『アルトローゼンには一切迷惑を掛けるな』って。
 
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