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第七章 興行を始めるよ!・・・招かれざる客も来たけれど

第135話 いよいよ、初公演だよ!

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 おいら、尋ね人のお触れ書きのことは父ちゃんにも内緒にすることにしたよ。
 父ちゃんに、余計な心配を掛けるのは嫌だしね。
 それに、『ウエニアール国』という国が何処にあるのかは知らないけど。
 少なくても、ここから馬で一週間以上かかる王都との間には無かったから。
 もっとずっと遠い所にあるんだと思う。
 あの三人組みたいな奴らがそうそう現れるとは思えないからね。

 ということで、あのお触れ書きのことは、取り敢えずおいておくことにしたんだ。
 お触れ書きは父ちゃんに見つからないように、『積載庫』にしまっておいたよ。
 部屋の隅においた物入れの箱にしまってあった布袋と一緒にね。

      **********

 そして、数日後。

「はい、はい、寄ってらっしゃい、見てらっしゃい。
 佳麗な剣舞を見せる『STD四十八』の初舞台が始まるわよ!
 軽快な曲に合わせて流れるように舞う、四十八人イケメンたち。
 曲を奏でるのは、なんと伝説の耳長族の美女たちなの!
 今は、駆け出しだから、お代は見てのお帰りでいいわよ!
 お客さんが、それだけの価値があると思ったお代を払ってちょうだい!」

 シフォン姉ちゃんの元気な声が町の広場に響いたよ。
 いよいよ、『STD四十八』の連中のデビュー公演だよ。
 と言っても、見世物小屋も無ければ、天幕もない、露天での公演なんだ。
 広場の何処からでも眺められちゃうから、見物料も取れない。

 なので、観覧料は敢えて取らないで、公演の後、シフォン姉ちゃんとおいらで箱を持って歩くの。
 お代を払っても良いと思う人だけ、好きな金額を入れてもらうんだ。
 大道芸人と同じだね。

 そうやって、先ずは名を売ろうとアルトは言うの。
 近隣の町や村から、見物人が訪れてくれればしめたもの。
 口コミに乗って評判が広がるのを期待しているんだって。
 それで、この広場いっぱいにお客さんを集められるようになったら打って出るって。
 もちろん、王都へ。

 で、冒険者ギルドも動いてくれたよ。
 この日から毎日、町の入り口にギルドの構成員が門番として立つことになったの。
 耳長族を狙って不届き者が町に入ってくるのを防ぐために。
 ちなみ、門番が立つ横には、例の廃人と化した三人組が晒し者になっていて。
 耳長族には手出し無用という、注意喚起の高札も立っているよ。

 露天での公演と言っても、さすがに舞台は造ったよ。
 そうしないと、連中が剣舞を舞う場所まで観客が立ち入ると危ないし。
 どさくさ紛れて、不届き者が耳長族のお姉ちゃん達を襲撃してきても困るからね。

 妖精の泉のある広場で、事前に造っておいてアルトの『積載庫』の中に収納してあるんだ。
 四十八人の男が剣舞を舞えるスペースに、耳長族のお姉ちゃんが演奏するスペースを加えただだっ広い舞台を。
 アルトが巨大な舞台を突如として広場に出現させると、周囲にどよめきが生じたよ。
 何処から現れたのかを問い掛けれられて、例によって『妖精の不思議空間』から出したって答えてた。

 この舞台だけど、ほぼおいらの身長くらいの高さで、階段無しでは簡単には上がれなくなっているの。
 階段は舞台裏にあるんだけど、階段の前には妖精のノイエが陣取っているから安心だよ。

「任せておいて、アルトお姉さまのお願いですもの。
 何人たりとも、部外者はここを通さないわ。」

 アルト大好きなノイエは、アルトの頼みとあって張り切っていたよ。

 そして迎えた開演。

「キャアァーーー!ステキー!」

 連中の剣舞が始まると、さっそく、若いお姉ちゃん達の黄色い声が広場に響いてた。
 連中が広場で練習をしている時からの常連のお姉ちゃん達だね。

 一方で、広場には耳長族を一目見ようという人達もたくさん集まって来たみたい。

「おおっ、あれが話に聞く耳長族か。
 本当にいるとは思わなかったよ。
 なるほど、噂に違わず別嬪さん揃いだ。」

 なんて言葉も聞こえてきたしね。
 今日から始めることは、オバチャンネットワークを使って口コミで広めてもらったんだけど。
 やっぱり、オバチャンの口コミは侮れないね、思ったよりたくさん人が集まったよ。

 二百年以上人前から姿を消していた耳長族、しかも、若くて美人の女の人が演奏するって噂を流したから。
 『STD四十八』の連中の剣舞がメインなのに、男の観客もけっこう集まっていた。

 男の観客はもっぱら耳長族目当てで、『STD四十八』の連中の剣舞なんてどうでも良かったみたいなんだけど。
 軽やかに舞う連中の剣舞を見ているうちに…。

「なんだ、あいつら一体どうやってあんな風に剣をふるっているんだ。
 有り得ないだろうが、俺だったら絶対に隣にいる奴を斬り付けちまうぜ。」

「そうだよな、俺だったら、自分の足を斬っちまいそうだ。」

 そんな声が男の人の中から聞こえるようになってきたんだ。
 男の人は護身ため剣を振る人が多いんで、連中の剣舞をマネすることが凄く難しいと分かったみたい。

 一曲目の剣舞が終った時、…。

「「「「こりゃあ、スゲーや!」」」」

 そんな声が、広場のあちこちから上がっていた。
 何曲かの剣舞が終る頃には、男の観客の目も『STD四十八』の連中の剣舞に釘付けだったよ。

 続いて、タロウが伝授してくれた歌が披露されたんだけど。
 この辺では聞いたことのないアップテンポなメロディーラインに乗せて華麗に舞って見せる連中。
 そして、舞いながら紡がれる底抜けに明るくて、バカっぽい歌は女性客に大うけだった。

 元から連中の常連のお姉ちゃん達は勿論のこと、小さな女の子やオバチャンまで大絶賛。

「あらあ、あの子達中々良いわね。
 元気な踊りに、ぴったりの明るい歌ね。
 聞いているこっちまで、楽しくなってくるわ。
 それに、あの子達、とっても可愛い。」

 噂好きのオバチャンがそんな感想をもらしてた。
 きっと明日の井戸端会議は連中の噂でもちきりだね。

 その日の出し物が全て終わって、おいらとシフォン姉ちゃんが箱を持って歩こうとしたら。

「ちっと待って、マロンは舞台にかぶりっつきで群がっている若い女の子の集金に行って。
 シフォンは、男性客を中心に回ってくれるかしら、なるべく媚びを売るような仕種で集金するのよ。
 マロンは馴染みのオバチャン達も回ってね。」

 アルトが集金箱を持って回る場所を指示してきたの。
 おいらが箱を抱えて、お姉ちゃん達の所へ行くと。

「最高だったわ!次はいつ公演するの、絶対にまた来るわ。
 そうそう、あのセンターにいる人、何て名前かしら。」

 なんて尋ねられたんで、サブの名前を教えてあげたら。

「そうサブちゃんって言う名前なんだ。
 私、サブちゃんのファンになっちゃた。
 今度、何か差し入れ持ってこよう。
 教えてくれて有難うね、はいこれおひねり。」

 って言って、箱の中にジャラジャラと銀貨を二十枚くらい入れてくれたよ。気前が良いね。
 そんな感じて、何度も連中の名前を尋ねられてたよ。
 おいらも空気を読んで、連中が全員妻帯者だとは言わなかったよ。
 偶像アイドルは、独身だと思わせておいた方が良いものね。

 そして、シフォン姉ちゃんだけど…。

「おじさま、剣舞はいかがでしたか?
 彼ら、中々やるでしょう。
 もし、よろしければ、彼らがこれからも頑張れるように支援してもらえれば。
 わたし、とっても嬉しいのだけど、ダメかしら。
 お・ね・が・い。」

 上目遣いでそう言うと、みんな、気前よく銀貨を三十枚、四十枚と入れてくれたって。
 シフォン姉ちゃん、途中で集金箱を持ち切れなくなって何度もアルトのもとに戻って来てた。

「さすが、王都でおじさん連中を手玉に取っていただけのことはあるわね。
 シフォンにせがまれると、スケベじじいども、財布の紐が緩みっぱなしね。」

 アルトは、集金箱の中のお金を布袋に移しながらそんことを言ってたよ。
 でも、それって、『STD四十八』の連中の剣舞で儲けたお金って言えないよね…。

 そんな感じで、『STD四十八』の連中の初公演は大成功だったよ。
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