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第七章 興行を始めるよ!・・・招かれざる客も来たけれど

第134話 町では評判の変質者だったみたい

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 アルトを締め上げて耳長族の里の所在を聞き出そうなどと命知らずのおっちゃんが現れたよ。
 タロウを越える真の『勇者』の登場だね。

「私の質問に答える気は無いと言うの。
 まあ、良いわ。
 王都でバカな冒険者をあれほどとっちめてあげたのに。
 まだ、私に逆らう身の程知らずがいるから。
 何処の田舎者かと思って聞いてあげたのだけど。
 答える気が無いのなら、サッサと終わりにしちゃいましょう。」

 アルトが酷薄な笑みを浮かべてそう告げると。

「ひっ!」

 声にならない悲鳴を上げたのは、冒険者ギルドの副組長の方だったよ。
 別に攻撃対象になっている訳じゃないのに。
 よっぽど、アルトの事が怖いんだね。

「何を羽虫風情が生意気を言ってやがる。
 やれるもんなら、やってみ…。」

 さっきからアルトに歯向かっているおっちゃんの言葉は、最後まで聞き取ることは出来なかったよ。
 だって、…。

 バリ!バリ!バリ!

「「「ギャアアーーー!」」」

 途中で悲鳴に変わったから。
 そして、アルトのビリビリだけど、いつもより念入りに、長時間続いたんだ。
 そう、二度と普通の生活に戻ることが出来ないように、念入りに…。

 しばらくすると。
 目の前に色々と垂れ流しながら、ピクピクと痙攣する生ける屍が三つ転がっていたよ。

「アルト様、こいつは酷えや、これじゃ、こいつらもう死んだも同然ですよ。」

 初めてアルトのお仕置きを目にした父ちゃんがそんな風に漏らすと。

「こういう奴らは、手加減しちゃダメよ。
 少し手加減したお仕置きをすると、口では反省したようなことを言っておきながら。
 舌の根も乾かないうちに悪さをしでかすから。
 こいつらをこの町から出したら、きっと言い触らすはずよ。
 この町で耳長族を見たとか、この近くに耳長族の里があるはずだとかね。
 そしたら、もっと厄介な連中が来るかも知れないでしょう。
 だから、今後、まともな口が利けないくらいに念入りにやったのよ。」

 アルトはそう言うと、副組長を睨み付けたの。
 副組長、戦々恐々としてたよ。
 何てったって、余所者も含めて冒険者を監督しろと命じられたなりに、アルトに逆らう輩がいたんだから。

「別に、こいつらのことであんた達を責めはしないから安心しなさい。
 この粗大ゴミ三つ、精々有効利用しなさい。
 耳長族に手出し無用とのお達しを破ったらどうなるかの見せしめよ。
 こうなりたくなければ、耳長族に絶対手出しするなと徹底するのよ。」

 王都で『スイーツ団』の首に看板をつけて晒し者にしたけど。
 あんな風に、この三人を晒し者にして真似するようなバカが出て来ないようにしろって。

「は、はい、承知しました。
 耳長族に手出しする愚か者が出ないように、冒険者たちに徹底的しておきます。」

 副組長、自分にお咎めが無くてホッとすると同時に、アルトが大マジなのを改めて認識したみたい。
 これで、耳長族はアンタッチャブルな存在になったよ、少なくともこの町じゃね。

 そんな訳で所期の目的を果たして、帰ろうとしたんだけど…。
 粗大ゴミと化した三人組が座っていたテーブルの上に一枚の紙っぺらがあったんだ。
 父ちゃんたちは、それに全く気付いた様子は無かったんだけど。
 たまたま、おいらの目には止まったの、おいら、思わず息を飲んだよ。

 素早く周りを見回して、こちらに注目している人がいないのを確認して。
 おいらは、すぐさま『積載庫』にその紙っぺらをしまったんだ。
 あとで、ゆっくり見るために。

      **********

「これでもう安心よ。
 耳長族の人達がこの町を歩いていても、襲おうとする不届き者はいないはずよ。
 少し前に、ここのギルドにはキツイお仕置きをしておいたから、逆らう者はいないはずなの。
 しょっぱなから、余所者冒険者がいたのは予定外だったけど。
 良い見せしめが出来たと思っておくわ。」

 冒険者ギルドを出たアルトは満足気に言ったんだ。
 どうやらアルトを羽虫扱いしたおっちゃんを、再起不能なまでにお仕置きして気が済んだみたい。
 そうとう怒っていたんだね。

「アルト様、容赦ないですね。
 確か、あのギルドには組長がいたはずですが、副組長が出てきたってことは。
 組長もあんな風にしちまったんですね。」

 父ちゃんもアルトを怒らすとどうなるか理解したみたい。
 ギルドの組長が今どんな状態になっているかも。
 父ちゃんの言葉には、ちょっとやり過ぎじゃないかという非難を感じたんだ。

「そっ、そういうこと。
 少し前に、ギルドの組長がマロンに迷惑を掛けたのよ。
 見過ごせなかったんで、キツイお灸を据えてあげたの。」

 それを聞いて、父ちゃん、アルトに苦情を言えなくなっちゃった。
 「マロンを助けて頂いて有り難うございました。」って言って頭を下げてたよ。 

 おいらはその場でアルトや父ちゃんと別れて、家に帰ったの。

 家の中に入り、誰もいないことを確認すると『積載庫』の中からさっきの紙っぺらを出したんだ。
 連中が囲んでいたテーブルの上に置かれていた紙っぺら。
 それは、懸賞金が掛かった尋ね人を告知したものだったの。

 尋ね人は…。

『生きていれば現在八歳の少女。
 特徴
 栗毛色の髪の毛。
 へその下の下腹部にバラの花模様の入れ墨あり。
 栗毛色の髪をした二十八歳の女と一緒にいる可能性有り。』

 ただそれだけ。

 なんて無茶なお触れ書きかと思ったよ。
 『生きていれば』なんて、無責任も良いところ。
 生死不明の尋ね人なんて探す奴はいないよ、普通は。
 もう死んじゃっていたら無駄足だもの。

 それに、栗毛色の髪の毛ってこの辺じゃ一番多いんだ、現においらもそうだし。
 この辺境の町だって、栗毛色の髪をした八歳くらいの女の子なら十人じゃきかないくらいいるもんね。
 決め手は、『バラの花模様』の入れ墨だけど、…。
 どうやって確認しろっていうのへその下の下腹部なんて。

 こんなモノに踊らされるなんて、あの三人、バカじゃないかと、お触書を見ながら思ったんだけど。
 そうも笑っていられなかったのは…。

 『懸賞金 銀貨十万枚』と書いてあって、懸賞金を掛けたのが『ウエニアール国 国王』となっていた。
 銀貨十万枚と言ったら、一生遊んで暮らせるお金だし、国王が踏み倒す訳ないもんね。
 少しでも、それらしい情報があれば飛び付く山師がいるかも知れないね。
 あの三人組みたいに。

 でも、おいら、お尋ね者?
 おいらはおへその下を撫でながら、そう思ったよ。
 『栗毛色の髪をした二十八歳の女』ってのがおいらの母ちゃんかな?

 おいら、お触書を見てそんなことを考えていたんだ。
 まあ、気にしても仕方ないか、『ウエニアール国』なんて聞いたことも無いから。
 ここは『トアール国』だったもんね、たしか。

     **********

 その翌日。

 朝ごはんを買いに町の広場の屋台に向かったら。
 さっそく、廃人になった三人組が晒し者になっていた。
 隣には、高札が掲げられたよ。
 これから耳長族がこの町に出入りするけど手出し無用、手を出したらこうなるって内容の。
 冒険者ギルド、今回は仕事が早かったね。

 その前には、例よってオバチャン達が集まって井戸端会議をしてた。

「あら、おはよう、マロンちゃん。
 この変態どもを、懲らしめてくれたのマロンちゃんの知り合いの妖精さんだろう。
 有り難うってお礼を言っておいて。
 こいつら、公衆浴場で小さな女の子の腰布を剥ぎっとって、下半身を凝視してるんだよ。
 一緒にいた親が文句を言いたくても、三人とも平気で人を殺しそうな悪党ずらしてるだろう。
 みんな、泣き寝入りしてたんだよ。
 まだ、月のモノも来ていない子供をそういう目で見るってどうなのよ。
 まったく、世の中には呆れた変態がいるもんだね。」

「そうそう、うちの近所の子なんて。
 外で遊んでいたら、人気のない路地裏に引きずり込まれてパンツ脱がされたんだって。
 それ以来、男の人を怖がっちゃって困ったって奥さん言ってたわ。」

 ああ、そうやって、『バラの花模様』の入れ墨を探していたんだ。
 それじゃあ、傍から見たらタダの変質者だよね。

 でも、お風呂は半分正解だけど、裏路地は見当違いも良いところだね。
 あの文様、十分に体が温まらないと出て来ないから。

 お風呂でも、脱衣所から浴室に入って来たばかりだと何にもないよ。
 
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