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第六章 帰って来た辺境の町、唐突に姿を現したのは・・・

第132話 アルトが意外な事を言ったよ

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 『妖精の泉』のある広場、目の前ではお見合いで成立したカップルが楽しそうに談笑している。
 その様子を眺めならがアルトは。

「ほーら、ちゃんとカップルが出来たじゃない。
 年頃の男と女を集めれば、そうなるのが自然の摂理よ。
 耳長族と人間族は交雑可能なのだもの、利用しない手はないわ。
 これで、当面の間、里はベビーブームに沸くわよ。」

 人間とのお見合いに懸念を示していた里長に向かって得意気に言ったんだ。

「はぁ、まあ、娘達も男衆を気に入っているようですし。
 男達も、皆、キチンとしているように見受けられるので夫婦めおとになるのはかまいませんが…。
 耳長族は色々な意味で人間から狙われているのです。
 夫婦になった耳長族の娘が人間の町に出て行けば、耳長族の生き残りの存在が明かされてしまいます。
 昔のように、耳長族を捕らえようとする不心得者が出てくるのではと不安で仕方がありません。」

 何時までも若々しくて見目麗しい女性の耳長族だけじゃなくて、男女を問わず年配の人まで襲われたらしいからね。
 『耳長族の生血を飲むと長生きする』と言う根も葉もない噂のせいで。
 里長は、隠れ住んでいた耳長族の存在が人間に知られてしまうと、また過去のような惨劇が起こるのではないかと心配しているの。
 今回のお見合いで誕生したカップルが人間の町で生活するようになれば、どうしても耳長族だと知れちゃうものね。

「それなんだけどね、最初に言ったわよね。
 私、あの男の子達を芸人として売り出そうとしているの。
 さっき見せた剣舞、綺麗だったでしょう。
 あれに合わせる楽曲が欲しいのよ。
 あなた達、耳長族は楽器が得意でしょう。
 笛とか、竪琴とか。
 出来れば、夫婦になった娘に伴奏をしてもらえればと思うの。
 美しい耳長族が奏でる演奏も評判になるわよ。」

「とんでもございません。
 そんなことをしたら、この上なく目立ってしまいます。
 美しい娘の姿を衆目にさらそうものなら。
 欲深い冒険者どもが血眼になって耳長族の里を探すに違いありません。
 冒険者どもの嗅覚を決して侮る訳には参りませんぞ。」

 『STD四十八』の連中と一緒に興行などしようものなら、綺麗な耳長族のお姉ちゃんが目立っちゃうもんね。
 里長の心配はもっともだよ、興行に出たお姉ちゃんを捕らえて里の場所を吐かそうとする不届き者がいるかも知れないしね。
 と言うより、冒険者のクズ共なら、絶対にそんな奴が出て来るよね。

「その心配はもっとだと思うわ。
 それで、物は相談なのだけど、あなた達、耳長族の里をここに引っ越してこない。
 この『妖精の泉』の広場の周囲の木に家を造って住めば良いわ。
 この森は結界が張ってあって、私が許可した者以外は立ち入ることが出来ないわ。
 今、常時立ち入ることが出来る人間は、そこにいるマロンとタロウの二人だけよ。
 それに、この妖精の泉の水は万能薬。
 難産でも心配ないし、大切な子供を病気で失う心配もないわ。」

 アルトが言う通り、この森はアルトの許可が無いと何人たりとも足を踏み入れることが出来ないから一番安全ではあるね。
 それに、おいらが住む辺境の町は目と鼻の先だから、森と町のどっちに住んでもすぐに行き来できて便利だよ。

「アルト様、そう簡単におっしゃりますが。
 隠れ住んでいるとはいえ、里には二百人もの者が住んでおるのです。
 里の者の家を建てるのだって簡単な事ではありませんぞ。
 ここが昔からのアルト様の森だとすると、里からここまで旅して来るのも大変です。」

 アルトが里を引っ越してこいなんて、さも容易たやすいことのように言うから。
 里長には無責任な言葉に聞こえたみたい、後ろ向きな答えを返したんだ。

「あら、あなた、ここまでどうやって来たのかを忘れちゃったの?」

「ま、まさか、…。
 里の民全員と里の家をアルト様の『妖精の秘術』で運んでしまわれると?」

「そっ、家も人も、私が一気に運んであげるわ。
 引っ越しなんて、一日もあれば完了よ。
 あなた達の家って木の枝に乗っけて固定してあるだけよね。
 固定に使っているロープを解けばスッポリ外せるのでしょう。
 家の百軒や二百軒、人の千人や二千人運ぶなんて容易いものよ。」

 アルトが自慢げに胸を張って言ってたよ。
 アルトの『積載庫』って、いったいどんだけのモノが入るんだろう。
 もっとも、おいらの『積載庫』もどんだけ詰める込めるのか分かんないけど…。

「はあ、確かにアルト様の結界が張られているのであれば安心ですし。
 その妖精の泉の水というのも有り難いですが。
 よろしいのでしょうか?
 妖精様はその領域に人が足を踏み入れるのを好まないと伝えられているのですが。」

 おいらも、アルトの提案を意外に思ったんだ。
 アルト、基本的にこの森に人を入れたがらないのに、里一つ丸々受け入れるなんて言うとは思わなかったよ。

「私、二百年前、あなたの里を助けられなかったのを悔やんでいたのよ。
 耳長族は、その楽曲で私達の耳も楽しませてくれたわ。
 耳長族のお祭りの日には、良くお邪魔して笛や竪琴の音を楽しんだものよ。
 まさか、人間があんな愚かなマネをするとは思わなかったので油断していたわ。
 あの時助けてあげられなかった償いと言う訳じゃないけど。
 あなた達もあんな険しい山の中に隠れ住んでいるのは不便でしょう。
 この森なら、平坦地だし、森の幸も豊富だから、今よりは住みやすいと思うわよ。
 何より、ここはかつてのあなた達の里のすぐ隣だもの。
 帰ってらっしゃいな。」

 そう言えば、冒険者の襲撃に気付いて助けに行った時には手遅れだった言ってたもんね。
 それなりに懇意にしていた訳だ、助けに行くくらいには。
 耳長族の演奏を気に入っていたんで、『STD四十八』の伴奏を頼もうと思ったんだね。

「分かりました。
 そう言って頂けるのであれば、お言葉に甘えます。
 私と同世代の長老たちは、故郷に帰れることを喜ぶことでしょう。」

 里長は、アルトの思いを知って、引っ越してくる決心をしたんだ。
 こうして、無事お見合いは終わり、耳長族の里もアルトの森に引っ越してくることになったの。

      **********

 そして、一月ほど経って…。

「はい、今日はここまでしましょう。
 大分、剣舞と演奏が揃うようになってきたわね。
 見ていて楽しいわ。
 もう少し上達したら、マロンの住む町で興行してみましょう。
 そこで、評判が良かったら、王都に乗り込むわよ。」

 『STD四十八』の剣舞の練習を見ていてそんな感想をもらしたアルト。

 アルトの言葉通り、耳長族の引っ越しはあっけなく終わったの。
 木の枝の上から固定を外した耳長族の家がスッポリ『積載庫』に収まっちゃうんだもん。
 おいらもそうだったけど、みんなビックリだったよ。
 あんぐりと口を開けちゃって、文字通り開いた口が塞がらないって感じだった。

 全ての家を『積載庫』にしまって、アルトの森に着いたら出すだけ。
 かかった時間は、枝から固定を解く時間と新たな枝に固定する時間だけ。
 むしろ、事前に枝ぶりのちょうど良い木を探す方がずっと時間がかかったよ。

 『STD四十八』の連中のお嫁さんになることが決まったお姉ちゃん達なんだけど。
 アルトが連中の伴奏を頼むと、みんな、快く引き受けてくれたよ。
 お姉ちゃん達も、旦那さんの役に立ちたいって。

 連中の剣舞だけど、耳長族の伝統的な楽曲に合わせて舞うことになったんだ。
 新たに曲を考えるのが大変だからと言う理由で。
 けっこうテンポの良い曲があったので、良い感じだったみたい。

 そして、アルトが言っていた剣舞だけだと飽きられちゃうから歌を歌わせたいって案だけど。
 思わぬところで、タロウが役に立ったんだ。

「俺がいた日本でも、男のアイドルグループってのがあってよ。
 歌そのものよりも、踊りながら歌うことをウリにしている連中なんだ。
 だいたい、ノリが良くって、歌詞にあんまり意味がないバカっぽい歌を歌ってるんだ。」

 なんてことを言いながら、何曲か知っている歌を歌ってくれたんだ。
 それを聞いたアルト。

「何よ、あんた、音痴ね。音程、外しっぱなしじゃない。
 でも、だいたいイメージは分かったわ。
 テンポの良い曲に乗せて踊りながら歌うのね。」

「うるせいやい、日本じゃ、アイドルってのは見た目が大事なんだよ。
 中には歌が下手な事をウリにしているグループだってあるんだからな。
 歌唱力よりも、それに合わせて派手に踊れる方が大事なんだよ。」

 アルトに貶されてタロウはブーたれていたけど、タロウの提案そのものは採用されたんだ。
 タロウが歌った音程の外れた歌を、楽曲が得意なお姉ちゃんがきちんとメロディーラインを整えてくれたの。
 歌詞は、バカっぽいと言うのが、アルトのツボにはまったようでそのまま採用されちゃった。

「まあ、この世界じゃ、日本の著作権は関係ないし、良いんじゃねえ。」

 タロウはまた訳の分かんないことを言ってたよ。
 『著作権』? なにそれ、美味しいの?

 てな訳で、アルトプロデュースの『STD四十八』の初興行はもうすぐだよ。
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