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第六章 帰って来た辺境の町、唐突に姿を現したのは・・・

第127話 アルトったら、強引なんだから

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「ミンミンから聞いたわよ。
 この里、とうとう『男』がいなくなっちゃったんですってね。
 今日は、そのことでちょっとした相談があって寄らせてもらったのよ。」

 里長の家に上がり込んだアルトがそんな言葉を口にしたんだけど…。
 おいら達の目の前には里の長老たちが集まっているんだ。
 その中には明らかに男だと分かる容姿の耳長族の人も混じってるんだけどなぁ。
 「いるじゃん、男の人」って、おいら、思ったよ。

「はい、もうこの里では二百年も、男の子が生まれてなくて…。
 ここにいる長老の三人が最後に残った男なのです。
 この三人も里の血を絶やさないように頑張ってくれたのですがな。
 それこそ、二百年近くにわたり、昼夜を問わずに。
 寄る年波には勝てないもんで、三十年ほど前にあがってしまったんです。」

 三人ともまだまだ元気そうでお爺ちゃんには見えないんだけど。
 年齢は全員二百歳を超えていて、もう子供は作れないらしいの。
 『なんで?』って、父ちゃんに聞いたら、『大人になったら教えてあげる』って言われた。

「それでね、本当は耳長族の男の人を紹介できれば良いのでしょうけど。
 あいにくと、私も今日ミンミンさんに会うまで耳長族が生き延びていると知らなかったの。
 だから、耳長族の男性にアテはないんだけど。
 代わりと言っては何だけど、若い人間の男ならアテがあるのよ、四十八人ほど。
 もし、良ければ、この里の娘のお相手にどうかと思って、相談に来たの。」

 単刀直入に用件を切り出したアルトに里長は微妙な顔をして。

「はぁ、人間の男でございますか…。
 同族の里が見つからない以上、人間と交わるのも致し方ないとは思っておりますが。
 正直、私らがこうして隠れ住むようにして生きているのは忌々しい人間のせいなのです。
 そんな人間の男を里に大勢入れることには抵抗がありまして。
 ミンミンの旦那の場合は、たった一人でしたし、瀕死の重傷を負っていましたので。
 受け入れることに抵抗はなかったのです。
 まあ、ミンミンの旦那は拾い物でしたな。
 おかげで来年には久方振りの出産ラッシュを迎えられます。」

 やっぱり、沢山の人間を里に入れるのには抵抗があるみたい。
 それに、父ちゃんがいっぱい赤ちゃんを仕込んだんで、里長はホッとしているみたい。
 耳長族は寿命が長いから、とりあえず二十人も赤ちゃんが生まれれば一息つけると思っているみたい。

「でも、今度生まれてくる子供が次の世代を残す時はどうするの?
 二十人の子供達はみんな血の繋がった兄弟姉妹よ。
 近親交配がダメだっていうのは、博識な耳長族では常識でしょう。
 今なら、活きの良い男が四十八人もいるのよ。
 もし、村に入れるのが嫌だと言うのなら。
 娘達を町へ連れて行って子供を産ませるのではダメかしら。
 耳長族の娘達の安全は私が保証するわよ。
 妖精族の子を何人か護衛に付けても良いわ。」

 アルトは、『STD四十八』の連中を村に入れるのではなく、耳長族の女の人をおいらの町で過ごさせればと提案したんだ。
 それで、町で子供を産んで、旦那さんの人となりに信頼が持てるようになったら里へ連れて来れば良いと。
 寿命の長い耳長族だから、十年やそこいら里を出ていても問題ないだろうとアルトは言うの。
 それと、アルトが『積載庫』に乗せて往来するので、他人にはこの里の場所は分からないから安心して良いと言ってたよ。

「まあ確かに、後々のことを考えれば、今の代で多くの血が入れば有り難いとは思いますが…。
 そんなにうまくいきますかな。
 娘達にも好みと言うものがありますので、無理やり夫婦なれという訳にも行きますまい。
 かといって、縁談がまとまるか分からない人間を、多数この里に入れるのは好ましくないですし。」

 まあ、そうだよね。
 村の存在が知られちゃって、縁談が上手くいかなかったじゃ、何処から里のことが漏れるか分からないものね。
 逆に、人間の町でお見合いをして、良からぬ輩に耳長族の存在が知られてしまうのも不安だものね。
 お見合いをしに人間の町に出て行って、囚われ者になっちゃったら大変だもん。

「だったら、私の森でお見合いをしましょう。
 私の森なら結界が張ってあって、許可のない者は入れないし。
 双方に関係ない場所で、お見合いをすれば何かと安心でしょう。
 番になりたい娘を集めなさい、この際、多少は歳がいっていても良いわ。」

 アルトは半ば強引に、里長を丸め込みにかかったんだ。
 よっぽど、『STD四十八』の連中の伴奏者が欲しいみたい。

 結局、里長はアルトに押し切られちゃった。
 里長もお見合いに立ち会う条件に集団見合いをすることになったの。

 里長は里の住民たちを集めると、人間の男と見合いをするから希望者は申し出るようにと伝えたの。

 そしたら、…。

「私、ミンミンが羨ましかったのよね。
 男前の旦那さんをもらって、イチャイチャしてて。
 私も若い男を捕まえたいわ。」

 なんて言っている、見た目に三十前後のおばさん、きっと百歳を超えているんだろうね。
 そんな、年上の人から。

「私、ミンミンの旦那さんから種をもらって子供が出来たのは良いけど…。
 一人で産んで、育てられるか不安だったのよね。
 それに、子作りも癖になっちゃって、ミンミンの旦那を摘ままないと思ってたんだけど。
 自分だけの旦那が出来るなら、そっちの方が良いわよね。」  

 里でおいらを保護してもらうために、父ちゃんが頑張って赤ちゃんを仕込んだお姉さんみたい。
 見た目にシフォン姉ちゃんくらいの、ちょっとお腹が出てきた感じのお姉さんだった。
 
 一番年下の人はやっぱりお腹の中に父ちゃんの赤ちゃんがいる、見た目十二、三歳のお姉さんだった。
 里で三十年前に最後に生まれた耳長族なんだって、あれで三十歳とはビックリだよ。

 人間と夫婦になりたい娘などあまりいないんじゃないかと言う里長の予想に反して五十人以上の女の人が集まったの。
 なんと、お腹に赤ちゃんがいるお姉さんに至っては全員手を上げちゃったよ。

 良く分かんないけど、『やみつきになっちゃった』ってもらしてるお姉さんがいっぱいいた。

     **********

 そんな、五十人以上の耳長族の女の人をアルトの『積載庫』に乗せて、アルトの森へ行くことになったんだ。
 全員を『特等席』に乗せるって言ってたけど、いったい何部屋あるんだろう。
 一部屋に入れられるのは、せいぜい四人だよね。

 そして、アルトが全力で飛んだのであっという間に『妖精の森』に着いたよ。
 人の足では山の麓をぐるっと回らないといけないんだけど。
 アルトは、山の上を一直線で飛び越したからね、その分も早かったんだ。

 妖精の森に着いて、先に積載庫から出したのは『STD四十八』の連中の方。
 何も言わずに積載庫に閉じ込めておいたからね。
 獣舎は窓も無い閉じられた空間なんで外の様子は見えないみたいだし。
 事情を説明しておかないと、お見合いにならないから。

「あんた達、最近頑張っているから、お嫁さんを用意してあげようと思うの。
 これからお見合いをするわよ。」

 連中に向かってそう言ったアルト、それじゃ、事情が理解できないよ。
 連中、ポカンとしちゃったじゃない。

「姉さん、まさか、行き遅れの年増に俺達を売りつけようってんじゃないっすよね。
 俺っち、自分のばあさんみたいな歳の女の人は勘弁して欲しいっす。」

 今まで、散々アルトに無茶を言われてきたのに懲りたんだと思う。
 連中の一人が疑るようにそんなことを言ったんだ。

「あんた達は、貴重な商品よ、誰がそんな安売りをするもんですか。
 安心しなさい、みんな、とっても若くて、見目麗しい娘ばかりだから。
 ただね、ちょっと、訳有りなのよ。
 良いこと、これから話すことは他言無用よ。
 それとお見合いが上手くいかなかった場合、娘達のことを他言するのもダメ。
 もし、口を滑らすようなら、プチっと殺っちゃうからね。」

「姉さん、脅すのは勘弁してくださいよ。
 姉さんにダメだと言われたことをするような命知らずはここにはいませんよ。」

 アルトの怖さが身に染みている連中だものね、さすがに虎の尾を踏むバカはいないよね。
 アルトは連中が頷くのを確認して、耳長族のことを説明していたよ。

「すげえ、ずっと若いままの女房が貰えるなんて夢のようだ。
 よおし、言葉遣いを気をつけて、そうそう、髪もキチンとしておかなきゃ。」

 一人がそう言って髪の毛を梳かし始めると、みんなそれに倣って身だしなみを整えていたよ。
 こいつらも、どうすれば人に好かれるかが分かって来たね。

 さあ、集団お見合いの開始だよ。

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