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第六章 帰って来た辺境の町、唐突に姿を現したのは・・・
第122話 やっぱり、コレの出番です
しおりを挟む瀕死の父ちゃんを助けてくれたミンミン姉ちゃんは、『男の人は、とっても貴重』だと言ったんだ。
その後の明かされたのは、更に驚きの事実で…。
「私の里じゃ、かれこれ二百年以上男が生まれてないのよ。
そして三十年ほど前、遂に『男』がいなくなっちゃったの。
性別が男なのは何人か残っているけど…。
みんな、歳をとって『男』としての機能を失っちゃったの。
今、里で私より若い子は二人しかいないわ。
里じゃもう、三十年子供が生まれてなかったの。」
耳長族は、元々子供ができ難い体質なのに加え、何故か男の子の数が極端に少ないそうで。
とうとう、男の人がいなくなっちゃったんだって。
お父さんとお母さんがいないと、当然子供は生まれてこないので。
ミンミン姉ちゃんの里はマジで絶滅の危機に瀕していたらしい。
耳長族狩りが行われる前は、人口がそれなりに多かったので。
男の比率が低くてもそんなに問題にはならなかったみたい。
一夫多妻制で、里を維持する程度には子供が出来たということだから。
でも、耳長族狩りを逃れてきた人数だけでは、里の維持は難しかったみたい。
「昔は、万が一『男』が足りなくなった時は近隣の里から婿をとっていたみたい。
でも、耳長族狩りの際に、てんでバラバラに落ち延びたせいで。
同族の里が何処にあるのか全く分からないの。
でも、私達は冒険者のかっこうの獲物でしょう。
うかうか里の外に出られないものだから、同族の里を探しにも行けないの。
そんな時に、モリィシーが降って来たの。
二百年振りに現れた『男』だも、みすみす死なせる訳にはいかないわ。
『他種族』は嫌だなんて、贅沢を言っている場合でもないしね。」
元々、耳長族の社会は閉鎖的で、余り人間とは関わってこなかったみたい。
特に、人間と交わって子をなすことは嫌悪されていたらしよ。
でもミンミン姉ちゃんは、それってつまらないプライドだって言ってたよ。
耳長族って、繁殖力が乏しい反面、その血は凄く強いらいしいの。
おいら達、人間族と交わっても生まれてくるのは、決まって耳長族の子供なんだって。
だから、耳長族の種族を本気で維持しようとしたら、人間と交わるのを容認するしかないって。
「そんな訳で、頑張ってモリィシーを看病したの。
崖から落ちて薄汚れていた顔を拭いてみたら中々の男前だったから。
私の旦那様になってもらおうと思って。
あっちの方も立派で、何人でも子作り出来そうだったしね。
今は里長の承認を得て、私とモリィシーは正式な夫婦なの。
期待通りすぐに当ててくれたし、私、とってもラッキーよ。」
ミンミン姉ちゃんは、大きなお腹を撫でながら幸せそうに言ってたの。
父ちゃんを本当に好いてくれてるみたいで良かった。
**********
「ミンミン姉ちゃんみたいな、キレイなお嫁さんができて良かったね、父ちゃん。
もうすぐ妹ができるみたいだし、おいらも楽しみだよ。
それで、父ちゃん、これからどうするの?
ずっとここで暮らすの? それとも耳長族の里に帰るの?」
一通り、父ちゃんとミンミン姉ちゃんの話を聞いたおいらは、父ちゃんに尋ねたんだ。
「取り敢えず、ミンミンがもう産み月なんでな。
ここで子供を産んでもらって、しばらくはここにいるつもりだ。
まあ、最低でも一年はな。
それからの事は、正直分かんねえな。
俺のこの体次第だよ。
正直、臓物を色々痛めちまって、あんまり良くはねえんだ。
この命があるうちに、マロンの安否だけは確認しておきたくてな。
今回、ミンミンにも無理を言ってここまでやって来たんだ。」
初めて見た時から具合が悪そうだと思ってたけど、やっぱりケガが治りきってないんだ。
というより、相当体の状態は悪いみたい。
それまで、幸せそうな顔をしていたミンミン姉ちゃんの表情も曇っちゃったし。
「ねえ、マロンちゃん、今回私がモリィシーに付いて来たのには三つ理由があるの。
一つはモリィシーの体が長旅に耐えられるかどうか分からなかったから。
付き添いが必要だったの、もし途中で力尽きることがあれば私が看取らないとね。
二つ目は、もし、モリィシーが無事に町に辿り着いた時に隠れ里のことを他人に漏らさないかの監視。
これは、里長に命じられたの。
里長は隠れ里の事が人間に知られるのを恐れているから。
そして、三つ目はマロンちゃん、あなたの保護よ。
モリィシーにもしもの事があったら、マロンちゃんが大人になるまで里で保護するようにと。
モリィシーは里長から出された難題をこなしてまで、マロンちゃんを保護してもらうよう頼んだの。」
里長は、父ちゃんを里から出すことに難色を示したんだって。
せっかく、手に入れた『男』の人、しかも余命いくばくもない感じに見えるから。
生きている間に、なるべく多くの子供をなして欲しかったみたい。
何よりも、外に出すと隠れ里の場所が父ちゃんの口から洩れてしまうかも知れないから。
まあ、隠れ里の秘密を守ることはミンミン姉ちゃんを監視に付けることで納得したようなんだけど。
体の具合の悪い父ちゃんを外に出したら、帰ってこられないかも知れない。
それじゃ困ると言うことで、里長はある難しい条件を付けたんだって。
父ちゃんは、その条件をクリアする代償として、おいらの保護を付け加えたんだって。
「父ちゃん、そんな無茶をしてまでおいらに会いに来てくれたんだ…。」
「おう、可愛いマロンに会うためだ。
父ちゃん、頑張ったぞ。
まる二月かけて、村の若い娘二十人を見事孕ませて、試練を乗り越えたぜ。
来年には、里はマロンの妹であふれかえるぞ。」
試練って、それかい! 父ちゃんがやつれているのって、そのせいじゃないんかい!
おいらが、心の中でツッコミを入れてると。
「ホント、里長ったらロクな事を言わないんだから。
モリィシーは私だけのモノなのに、二十人もお相手させて…。
私、ずっとヤキモチ妬いてたのよ。
でも、モリィシーは本当に頑張ったわ。
子供ができ難い体質の耳長族の女二十人を相手に全員種付けしちゃうんだもの。
二ヶ月間、ほとんど寝る間が無かったのよ。」
ミンミン姉ちゃんはマジな顔をして言ってるし、耳長族の女の人に子を授けるのって本当に難しいことらしい。
父ちゃんのことを一瞬でも呆れて、申し訳なかったよ。
父ちゃん、おいらに会うために、不自由な体をおして相当頑張ったんだね。
**********
とは言え、無事にここまで辿り着いたなら、そんなに深刻になる必要はないんだ。
「父ちゃん、おいらのために頑張ってくれて有り難う。
辛い思いをして、ここまで来てくれて有り難う。
そんな父ちゃんに感謝を込めてプレゼントだよ。
これ飲んでみて、体調が良くなると思うから。」
おいらは、『積載庫』に汲み置きしてあった水をカップに注いで父ちゃんに差し出したんだ。
「うん? マロン、今、これを何処から出したんだ?」
「その辺は後でゆっくり説明するから、先ずはこれを飲んでみて。」
好奇心旺盛な父ちゃん、何処からともなく現れた水に関心を持ったよ。
でも、おいらに急かされて水に口を付けたんだ。
そのまま、コクコクと飲み干した父ちゃん。
全部飲み終わると…。
「何だこりゃ?
なんか、あちこち痛かった腹の中の痛みがすうっと引いたぞ。
それに、千切れた左腕の疼きも無くなったぜ。」
「モリィシー、顔色が凄くよくなった。
青黒く死相が出ていた感じが無くなって、健康的な紅がさしている。」
そんな、父ちゃんとミンミン姉ちゃんの声があがったの。
父ちゃんに飲ませた水は、もちろん『妖精の泉』の水、万病に効くという。
最初に父ちゃんを見た時から、飲ませようと思っていたんだ。
「やっぱり、ちゃんと効いたね、『妖精の泉』の水。
万病に効くんだって。
父ちゃんもミンミン姉ちゃんも、もう深刻な顔をする必要はないよ。
たぶん、父ちゃんの体は全部治ってる。
無くなっちゃった左腕は戻ってこないけどね。」
ホント、『妖精の泉』の水って万能薬だね。
「マロンちゃん、あなた、もしかしして妖精の加護持ちなの。
『妖精の泉』の水は妖精の加護がある者しか入手できない貴重なモノだと聞いているわ。」
ミンミン姉ちゃんは『妖精の泉』の水と聞いて目を丸くしてた。
そんな貴重なモノなのかな?
おいら、山のように『積載庫』に汲み置きしてあるし、タロウも毎日飲んでるよね。
アルトなんか、『積載庫』に汲み置きしてある水で、ばっちぃモノを丸洗いしてるよね。
「うん、その辺の事も落ち着いたらゆっくり話すよ。
でも、その前に父ちゃんにもう一つもらって欲しいものがあるの。
父ちゃんがずっと欲しがっていたモノだよ。
左腕を失って、体力も衰えている今こそ必要なモノだと思う。」
おいらは、父ちゃんの前に生命の欠片をドンと積み上げたよ。
ワイバーンを倒した時に手にいれた中から、父ちゃんのためにと思って残しておいた分十万個。
これで、一気にレベル十一まで上がるはず。
それだけ基礎能力が底上げされれば、多少のハンデや弱った体を克服できるよね。
でも、…。
「なんだ、こりゃ? これをどうしろと?」
物知りのにっぽん爺ですら、『生命の欠片』の事は知らなかったんだもね。
好奇心旺盛とは言え、図書館で蔵書漁りなんかしそうもない父ちゃんが知らなくても仕方が無いね。
「マロンちゃん、それって『生命の欠片』じゃ。
幾ら父親だからって、そんなにたくさんポイってあげちゃうなんて。」
ミンミン姉ちゃんは知っていたようで、目を丸くしてるよ。
「そっ、それが『生命の欠片』だよ、レベルアップの源泉。
父ちゃん、その山に手を当てて、自分の体に取り込むように念じてみて。
流れ込んでくる力を受け入れるだけ、ただそれだけで良いから。」
父ちゃんはおいらに言われるまま、積まれた『生命の欠片』に手を触れると集中するように目を瞑ったんだ。
そして、『生命の欠片』はすうっと父ちゃんの体に吸い込まれて。
「おおお、体から力が漲ってくる。
三年前のあの頃のように、体に力が戻っている。
いや、あの頃より、数倍力強い気がするぞ。
これで、レベルが上がったのか…、えっ、レベル十一?」
父ちゃんは、自分のレベルを確認して信じられないという顔をしてたよ。
さて、父ちゃんのケガも治って、体力も回復したようだから、今度はおいらが話をする番かな。
応援ありがとうございます!
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