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第六章 帰って来た辺境の町、唐突に姿を現したのは・・・

第121話 いや、どう見ても十代でしょう

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 イノシシの魔獣に襲われて瀕死になったという話をした父ちゃん。
 崖から落ちて虫の息になっていた時に女神に出会ったと言って、ミンミン姉ちゃんに視線を向けたんだ。

「あら、ヤダ、女神なんて照れちゃうじゃない。」

 ミンミン姉ちゃんはホントに照れてるようで、顔を赤らめてたよ。

「あの日、私は、森で木苺の実を摘んでいたのよ。
 そしたら、崖の上からモリィシーが降って来て驚いたわ。
 見ると、酷いケガをしているじゃない。
 ほっとけなくて、里へ連れて帰ったの。
 貴重な男をみすみす死なす訳にはいかないからね。」

 あっ、モリィシーってのは父ちゃんの名前ね。
 貴重な男って…、なんか変な言葉が混じってた気がするけど。
 とにかくそんな訳で、父ちゃんはミンミン姉ちゃんの里に連れてかれて手当てしてもらったみたい。

「危ういところをミンミンに助けられたんだが…。
 脇腹に刺さった角は内臓を傷つけちまってるし。
 千切れた左腕は化膿するしでな、しばらく死線を彷徨ってたんだ。
 目が覚めたら一月以上経っていたよ。」

 父ちゃんのケガは本当に瀕死の重傷だったみたいで。
 ずっと生死の境を彷徨っていたって、ミンミン姉ちゃんが言ってたよ。
 一月くらいしてやっと目を覚ましたんだけど、それでも動ける状態じゃなかったみたい。
 
 父ちゃんは、その後も、ずっと寝たきりで。
 その間、献身的に看病をしてくれたのがミンミン姉ちゃんなんだって。

「いやあ、若い娘さんに、食事の世話からシモの世話までさせてしまって。
 申し訳ないやら、恥かしいやら。
 自分でやろうと思っても、体が動かねえもんだから甘えるしかなかったんだけどよ。」

 そう言って父ちゃんは面目なさそうな顔をしてたよ。

「そんなの全然気にしなくて良いって言っているじゃない。
 シモの世話だって、その度にモリィシーのモノのチェックが出来たから一石二鳥よ。
 中々立派なモノを持っていて、変な病気を持っていないことも分かったもんね。」

 そう言って笑うミンミン姉ちゃん。
 父ちゃんの看病をした事は、本当に苦に思わなかったみたい。
 ただ、さっきに続いてまたもや、意味不明の言葉が…。

「それで、何とか起き上がれるようになったら、半年が過ぎちまった。
 マロン、知ってるか?
 人間てのは、半年も全く起き上がらないと、立って歩くことが出来なくなっちまうんだぞ。
 全身の筋肉が落ちちまって、立ち上がることすらままならないんだ。
 ミンミンに肩を貸して貰うか、壁に掴まるかしないと立ち上がれないんだ。
 それだけじゃない、腕も衰えちまって。
 メシの時にスプーンを持つのがやっとなんだぜ、泣けてきたよ。」

 ケガがほぼ治ったのは良いけど、寝たきりの生活で体が衰えちゃったみたい。
 父ちゃんは、歩く練習から始めないといけなかったんだって。

 自分の起き上がる動作に、おいらの赤ん坊の頃を思い出したって笑ってたよ。

     **********

 そんな訳で、歩く練習を初めて、徐々に体を動かすようにしてきたみたいなんだ。

「マロンの事が心配で一日も早くここに帰って来たかったんだけどな。
 世話になっている里からこの町までは、崖を登らないと、山をぐるっと迂回しなきゃならなくて。
 それだけの体力が回復するのに今まで時間が掛かっちまった。
 もっとも、半年ほど前には帰ろうと思ったんだがな。
 ミンミンに子供が出来ちまったもんだから、遠出をする訳にはいかなくてな。
 お腹の子が安定するまで、また遅れちまったんだ。
 すまんな、マロン。」

 そう言っておいらに頭を下げた父ちゃん。
 父ちゃんの世話になっていた里は、鉱山のあった山を挟んだ町の反対側。
 父ちゃんが落ちた崖は到底登れるような崖じゃなくて、しかも、崖の上は魔物の巣窟になっている。
 なので、山の麓をぐるっと回ることになるんだって。
 そうすると凄く遠いらしい、道も無いみたいだし。
 それで、一月以上、野宿をしながらここまで歩いてきたんだって。

 妊婦さんを連れてそんな旅をするなんて、なんて無茶な…。
 って、やっぱり、お腹の赤ちゃんって、父ちゃんの子供?

「ねえ、さっきからそうじゃないかと思ってたんだけど。
 ミンミン姉ちゃんのお腹の赤ちゃんの父親って、父ちゃんなの?
 父ちゃん、もう三十歳だよね。
 ミンミン姉ちゃん、まだ十五、六じゃない。
 世間じゃ、そういうのロリコンって言われて、後ろ指されるんだよ。」

 だいたい、父ちゃんを助けた時、ミンミン姉ちゃん、まだ十二かそこいらじゃない。
 父ちゃんが、そう言う趣味の人だと思わなかったよ。

「いやな、ミンミンが余りにも、献身的に尽くしてくれるものだから。
 つい…。
 ある日、ミンミンが体力回復に協力してくれると言ってくれてな。
 腰を鍛える運動にアレはどうかって誘って来たんだ。
 ミンミンみたいなキレイな女の子に誘われて、断れる男がいる訳ないだろうが。
 それにな、誤解があるようだから言っておくと、俺よりミンミンの方が年上だからな。」

 『体力回復』? 『腰を鍛える運動』? それが赤ちゃんとどういう関係があるんだろう?
 いや、それどころじゃない、今、聞き逃せない言葉が会ったよ。

「父ちゃん、幾ら何でも、その言い訳は苦しいよ。
 こんな若々しいミンミン姉ちゃんが三十過ぎの訳ないじゃん。
 三十過ぎっていったら、良く道端でたむろって噂話してるオバチャン達だよ。」

「あら、若々しいなんて、嬉しいわ。
 でも、モリィシーの言っていることは本当の事よ。
 私、今年で三十六歳になるもの。」

 おいらが父ちゃんの見え透いた嘘にツッコミを入れると、ミンミン姉ちゃんが驚くことを言ったの。

「えっ?」

 おいらが目を丸くしていると。

「自己紹介がまだだったわね。
 私は、耳長族のミンミン。
 山向こうにある隠れ里に住んでいるの。
 私達の種族は他の人間に比べて寿命が長くて三百年くらい普通に生きるの。
 ただ、その分成長も遅くて、私は今三十六歳よ。
 人間ならオバチャンね。」

 またまた、びっくりだよ。人間なんて、長生きしても九十年だって聞いてるんだ。
 その三倍以上も長生きする種族がいるなんて…、初めて聞いたよ。

 ミンミン姉ちゃんが隠れ里って言ってたけど。
 耳長族って、何故か女の人が生まれる割合が高くて、みんなほっそりした体形らしいよ。
 しかも、寿命が長いもんだから、普通の人から見ればいつまでも若々しく見えるんだって。
 顔は…、まあそれぞれだけど、総じて整った顔立ちの人が多いみたいだよ。

 だから、昔、悪い人間に狙われたことがあるそうなの。
 耳長族の若い女の人を捕まえて、無理やり自分の妾にするなんてのは良い方で。
 中には、『耳長族の生血を吸うと長生きする。』なんてたちの悪い迷信があったもんだから。
 大規模な耳長族狩りがしばしば行われたみたい。
 それを、主導したのがどうやら冒険者らしくて、耳長族にとって冒険者は不倶戴天の仇みたいだよ。

 まあ、それはおいといて、耳長族って、繁殖力が人間ほど強くなく子供が生まれ難いんだって。
 だから、耳長族狩りで数を減らしちゃって、絶滅の危機に瀕したらしいの。
 それで、人間の目を逃れて、隠れ里を造っているみたい。

「ふーん、冒険者が不倶戴天の仇なら良く父ちゃんを助けてくれたね。
 父ちゃんも一応冒険者だよ、少し毛色が変わっているけど。」

 おいらが、ミンミン姉ちゃんの話を聞いて素朴な疑問を投げかけると。

「うーん、モリィシーって、私の前に降って来た時ズタボロだったし。
 冒険者だなんて、分からなかったわ。
 風体だって普通だもん。
 里に伝わっている冒険者に共通する特徴ってのは…。
 クルクル巻きの短い髪で、眉が無くて、額に剃り込みを入れてるって。」

 いったいどんな昔か知らないけど、そんな昔からあの連中、そんな風体だったんだ。 
 おいらが、典型的な冒険者の悪行に呆れていると。

「それにね、今はそんなことを言っている場合じゃないのよ。
 男の人は、とっても貴重なの。」

 それから、ミンミン姉ちゃんは三度みたびビックリすることを話したんだ。
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